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第13話
「シロくん。すごく激しかったね…そんなに俺に抱かれたかったの?」
うつ伏せて寝るオレの髪を分けて目を覗く。
この人に兄ちゃんを感じる…。決して乱暴にする訳じゃないのに言うことを聞かないと何かされるのではないかと恐怖を感じる、圧迫感…。
それがストレスで窮屈で嫌だったのに…この人に感じる圧迫感をまるで切望していたかの様に求めてしまう。
オレは朦朧とした意識の中、目に映るこの男と兄ちゃんの違いを探した。
まぶたを落として兄ちゃんの目を思い出す。
ああなる前の兄ちゃんは…優しくて強くて一緒にいる時はいつもオレの側にいてくれた。海に遊びに行った時、オレが沖の方まで行こうとしたら腕を掴まれて止められ驚いた事があった。ずっと見てるんだ…と安心感と窮屈さを初めて感じた。
この人は…ホテルで会ったあの日からオレの周りで起こる事の全てを知ってるみたいなタイミングでいつも現れる。智の家にまで…。ねぇ、智のお別れに来たの?それともオレに会いに来たの…?
飄々とオレの気持ちを弄んで乱していくこの人は、兄ちゃんの様にオレに心酔しているのだろうか…離れて行く事が辛くて耐えられない位…
そっと向井さんに手を伸ばし指先で体に触れる。
ん?と顔をこちらに向けたのがぼんやり視界に入る。体を寄せる様に近づいて抱きつき、額をつけて顔を彼の体に埋める様にして目を閉じた。
向井さんは固まった様にしばらく動かなくなり、驚いてる様子が伝わってきた。そっとオレの肩に触れるあの人の手は優しくて暖かく感じた。オレの方に体勢を変えてギュッと抱きしめ頭をしきりに撫でてキスする。
「向井さんオレのこと好き?」
オレは顔を埋めたまま聞いた。
「ん…すごく」
「じゃ、キスして…」
顔を上げて口を開け誘う。
ふふと含み笑いすると口端をあげて笑う。
顔を近づけ舌を入れてキスする。
むせ返る様な熱くて熱のある…依冬みたいなキス…。
そうだよ…大好きなオレに溺れろよ…
どうせこいつも兄ちゃんみたいに突然居なくなるんだろう…
散々甘やかして突然居なくなるんだろう…
お前も兄ちゃんみたいに殺してやる。
絶対許さない。
14:00 歌舞伎町の自分アパートで目を覚ます。
あの後すぐ東京行きの新幹線に乗って帰ってきた。そして車で家まで送ってもらい今までずっと眠っていた。
体の疲労感が少し軽くなった気がする。
今日は仕事に行けそうだ。
兄ちゃんに会いたいな…
すっかり兄ちゃんの幻影に囚われて四六時中思い出す。…もう居ないのに
携帯を取り出して電話する。
「シロ、どうしたの?」
「ちょっとだけ会いたい。うちに来て」
呼び出して電話を切る。
しばらくテレビを付けて待っているとドアがノックされ、開けると寒そうに震える大きな男がいる。
オレは依冬に抱きつくとコートの下に手を入れてあいつの腰に腕を回した。
「シロ、寒いから…」
オレの半袖半ズボンのパジャマを見て依冬は急いで部屋に入る。
「寒くない、お前はあったかいじゃん…」
そう言って依冬のスーツのボタンを外してまたその中に手を入れて腰に腕を巻いた。
「ね?智くんのこと聞いたよ。シロ大丈夫だった?」
優しい声…優しくないのに、優しい声。
「大丈夫じゃない…全然大丈夫じゃない…」
そう言って依冬の胸板に顔を埋める。
オレはあいつがコートを脱ぐ間も部屋を歩く間もずっとそのままでいた。
「シロ?どうしたの?」
床に座ってもくっついて離れないオレに依冬が声をかける。
「…どうしたんだろうな、離れたくないんだよ」
オレは床をぼんやりと見ながらそう答える。
「あったかくて気持ちいんだ…」
そう言ってあいつの胸板に頬擦りした。
こいつの体…すごく大きくてあったかい…気持ち良くなってうとうとして目を閉じる。
「シロが良いなら…」
依冬はそう言ってオレの髪を撫でる。その手が心地良くて、まどろんでしまう。
「なぁ、オレかわいそうなんだ…聞いてくれる?小4の時さ大好きだった兄ちゃんがオレにフェラしてきてさ…すごく悲しかった…」
なんで今?自分でもよくわからないが口からどんどん言葉が出てくる。
「ずっと好きだったんだ…優しくて…なんでも知ってて…いつもオレだけ特別扱いしてくれて…」
頬につたる涙を感じて自分が泣いてることに気づく。拭うわけでもなくそのまま流させた。
「オレ、まだ子供なのに…挿れるなんて…」
オレは依冬の腰に回した手を背中に移して体全体を抱きしめた。
「高校生になってからさ、兄ちゃんに言ったんだ…大嫌いだって、2度と触るなって…そしたら凄く…悲しそうな…ん…っく、顔してさ…んっ…そのあとから、本当に何も…しなくなっ…て、さわらなくなって…死んじゃった…」
声がしゃくり上がり泣き声が混じる。
オレは依冬の顔を見上げて聞いた。
「ねぇ…兄ちゃんはオレのことダッチワイフと思ってたのかなぁ?それとも…」
涙でグジャグジャになったオレの顔を両手で包むと依冬は言った。
「すごく愛していた」
うっと激情がこみ上がりオレは依冬にまた抱きついて号泣する。
「オレも好きだった…なにされても好きだった」
むしろ悪戯されて更に自分が特別に愛されてるって優越感を持ったんじゃないか…
「にいちゃんにあいたい…あやまりたい…まただかれたいよ…依冬…」
オレを包む手にグッと力が入った。
オレは依冬に抱擁されながら自分の気持ちを懺悔する様に吐露した…。
もう会えないなんて…辛い
抱きしめられてると安心するのか次第に気持ちが落ち着いてきた。オレは依冬の胸板に頬を寄せたまま目を閉じて聞いた。
「お前は湊に会いたくなる?」
聞いた瞬間体がビクッと動いたのが分かった。
押し黙る依冬。
「言いたくないなら良いよ…」
オレは依冬の背中を撫でてさすった。
「…シロが聞いたら俺のこときっと嫌いになるよ…」
少し投げやりな声に聞こえて依冬を仰ぎ見て質問を変えた。
「湊を愛してた?」
オレを見る依冬の目が揺れた。
お父さんにそっくりだな…お前は…
「すごく…愛してた」
そうか…と呟いて彼の胸に頬を当てて目を瞑る。
「あったかい…」
オレはそうしながら依冬と適当に付けたテレビを見た。仕事中なのにこんなのに付き合わされてかわいそうだ…と思いつつオレは依冬を解放する気はなかった。
「シロ?寝てる?」
「ん…起きてる」
「キスしていい?」
オレは顔を見上げて依冬を見た。
軽いキスの後に押し寄せる熱いキス。頬に添えられる手がまたあったかい。
このままやりたいな…
室内に響くいやらしいキスの音。
オレは依冬のスーツの中に回していた手を上に上げてジャケットを脱がした。
そして依冬のワイシャツのボタンを上から外す。露わになった胸板に指を這わせて愛部するみたいに撫でる。
「シロ、したくなっちゃうから…」
「していいよ…」
あいつの上に跨って両手で顔を包みキスする。依冬の手がオレのパジャマの下に滑り込んできて腰から脇の下まで撫であげる。
「ふふっ!こしょぐったい…」
笑いながらキスを外して彼を見るとショックを受けた様な表情をして止まっている。
「どうしたの?」
オレの問いに我に帰った彼はどんどん顔を歪めて涙を流し、肩を震わせた。
「こうやって愛せたら良かったのに…!」
オレはさっき依冬がそうしてくれた様にあいつの頭を撫でて抱きしめた。
なんだよ…みんなボロボロなんだな…
「依冬ごめんね、ありがとう」
すっかり時間を使わせて自分が仕事に行く時間までダラダラと過ごさせてしまった。
こちらを見て手を振る依冬は人混みの中に消えてった。
あの後オレ達はセックスしなかった。
少し残念だけど、あの言葉の意味を何となく察してそれ以上出来なかった。
湊にはそう出来なかったんだろう…
いつもの三叉路にやってきた。
エントランスの支配人に挨拶する。
「お見送りありがとう。…もう大丈夫?」
言葉少なに聞いてくる。
「大丈夫!」
そう言って階段を降りた。
控え室のドアを開ける。
智が鏡の前に座っていそうで視線をあてるけど誰もいなかった。
オレは鏡の前に座り化粧をする。
今日の衣装は…所々に掛けたままの智の衣装を見て探す手が止まる。
智…
ガチャ
扉の開く音に我に帰って振り返ると知らない顔の人がいた。支配人が後ろから新しいダンサーだと教えてくれた。
「シロです。よろしく」
「楓です。」
聞くと楓くんはオレよりも年上らしい…。
美しい顔立ちの長身の美青年だ。
これは…おちおちしていると人気を取られそうだ。と少し心配になった。
この仕事もいつまでも続けるわけにいかないし…何か別の仕事でも探そうかな…と本気で思う様になった。
19:00 店に出ると向井さんがカウンター席に着いていた。オレは軽く手を上げて挨拶するとDJに曲をわたした。
「新しく入った楓君めちゃ美形なのに天然すぎて接客無理らしいよ。」
「天は二物を与えないんだな…」
意外だ…オレと話した時は普通に感じたけど、どんな天然なのか気になるところではある。
DJと会話が弾んでいると常連のお姉さんがオレに声をかけてきた。
「ねぇ、シロ、バックダンサーやらない?」
「誰の?」
「アイドル」
オレはその常連さんに腕を掴まれ席まで連れて行かれた。話を聞くと、コンサート用のバックダンサーが足りなくて手当たり次第声をかけているらしい。
「オレダンス習ったことないよ?」
こういうのって選りすぐりの人がやるものでしょ?恐れ多い気がする…ストリッパーだし…
「オーディション受けるだけでも良いじゃん」
悩むオレに容赦なく現実を突きつける常連の客。
「シロ、今年で幾つになったの?華は一瞬だよ?その後の食い扶持考えてるの?」
オレはオーディションを受けることにした。
基本的なステップや動きはスタジオに通うとして、まずいやらしさを消す方法を考えないとね!と言われ笑った。
「オレいやらしい?」
「すっごく…」
そう言ってオレの腕を触ってくる。
「特にお尻がめちゃセクシー」
うっとりする様に言うとオレのお尻をサワサワ触った。
なんなんだ…
「お姉さんビアンだよね?男相手にセクシーとか感じんだね…意外だ。」
オレはそう言って席を立つと常連のお姉さんはオーディションのチラシといくつかのダンススタジオリストを渡してくれた。
「ビアンとか関係なくお姉さんとしてあなたの将来を憂いているの。だから、従いなさい?」
と言った。
「わぁ…お姉さん。わざわざありがとう!」
ハグしてお礼を伝えた。
オーディションなんて受けたことないけど、やってみよう。ここまでしてくれるなんて、良い人っているんだな…
「シロ、そろそろ」
オレは支配人に言われ奥の控え室へ向かった。
「わぁん…分かんないよ!」
控え室では衣装をまだ選び終えていない楓が右往左往している。
「どうしたの?」
オレを見つけると飛びついて来た。
「シロ、僕に合う衣装がない‼︎」
どれどれ…と探してみるけど、確かに180㎝超えの長身だとどれも小さい気がする。
「今日のステージ、楓のは3回目だから、それまで時間もあるから他のお店に行って探して来てやるよ」
オレは慌てて泣く楓にそう言うとカーテンの裏にスタンバイした。
「シロありがとう!」
大音量がなる。
カーテンを開けてオレはステージに向かった。
180㎝超えなんて中々いないよな…かっこいいな。
久しぶりのオレのステージに観客が沸いて沢山チップを貰った。智のことを聞いて来るお客さんが何人かいたので、もう辞めちゃった。とだけ伝えた。
カウンターの席にいる向井さんの所に行く。
「シロくん。今日もかわいいよ。」
オレは向井さんの腰に触れながら後ろを通ると隣の席に座った。
「オレ、ビール。良い?」
そう聞くと良いよ、と言ってオレの頬を触った。
「外出ないといけないからちょっと話したら行くね。」
オレがそう言うと驚いた顔をして聞いてくる。
「どこに行くの?」
「新しく入った子が身長高くて、衣装が無くってさ。仲の良い店に借りに行くんだよ」
ふぅん…と言うと向井さんはオレの頬に当てた手の親指でオレの唇を押し開く。オレはその指をペロリと舐めて笑い返した。
「シロ、キスしたい…」
オレは椅子から降りて向井さんの傍に行き体を添わせると手を胸元に付けて顔を上げた。
「舌出して…」
オレの耳元に手を添えて反対の耳に低く囁く。
オレは言われたままに舌を出した。
舐める様に舌を絡み付け深くキスする。舌が痺れそうなくらいキツく吸われる。
向井さんの手がオレの衣装の中に入る。
「それはやめて。」
オレは手で押しのけて身を引くと拒否した。
向井さんは、ふふと笑って席から立つと送ってあげると言った。
支配人はオレから聞いて180㎝超えの衣装があるお店を探してくれていた様で、話はついてるから気をつけてな~と送ってくれた。
ロングダウンを着ても外は寒い…こんな格好だと余計に寒いよ…
「あ、向井さん路駐してるね。」
向井さんは先を歩いて堂々と路駐している車に案内した。後部座席を開けてどうぞと言う。
オレは言われるままに後部座席に乗ると奥に行って、と言われ奥に移動した。
「誰が運転すんの?」
後部座席に向井さんまで乗って来た。
オレの方を向き直してダウンの下の衣装を触る。
「シロ、一回で良いから…ね?」
オレはダウンと靴を脱いで椅子の上に乗ると向井さんに顔を寄せてキスをした。向井さんはオレの顔を包む様に両手で持ってキスを続ける。
「挿れたいの?抜きたいの?」
キスを外して荒い息使いでそう聞くと頬擦りしながら熱く吐息を吹きかけ言った。
「シロを抜きたい」
オレは向井さんの方を向きながら椅子に腰掛けて衣装のズボンを下げる。半立ちのモノが出て来て向井さんはそれをしゃぶった。
「ん…んっ、はぁ…はぁ、ね?もう…ダメだよ?オレがまたおかしくなったら、仕事…できなくなっちゃう…んっ、あぁん…、んっ…」
気持ち良くなって後部座席の端に寄り掛かったままズルズルと落ちていく。オレのズボンを片足だけ脱がせて足を広げさせると顔を沈めて熱心に咥えて扱く。…きもちい、挿れて欲しくなる…
「…はぁ、はぁ…んっ、きもちい…挿れて…ねぇ、向井さん…んぁっ!あぁ…挿れてよ…ねぇ」
挿れて欲しくてあいつの髪を掴む。あいつは口で扱きながらオレの穴に指を入れて刺激する。
「あっ、あぁん…んっ、んん…はぁ…ん…」
オレは顔を仰け反らせて下半身の快感でおかしくならない様に耐える。…イキそう…まだ挿れてないのに…
「シロ、イキたい?」
「ん、や、やだぁ…挿れてよ…んんっ…」
随分と嬉しそうな声だね…オレが乱れるの好きなんだね…
「…あっ、ぁあ…向井さんの…お、ちんちん挿れてぇ…」
オレは腰をくねらせておねだりした。
「…シロ、かわい」
そう言うと自分のズボンから反り立ったモノを出しオレの中に挿れていく。
「ぁあっ!んっ…きもちい!あぁっ…あぁん!」
快感で体がのけ反り頭の上に上げた両手で車のシートを掴む。向井さんが腰を動かす度にオレの体が跳ねる。イキたい…このままイカせて
「シロ?イキたい?」
オレに覆いかぶさる様にして腰を動かしながら聞いてくる。オレはコクコク頷いて潤んだ目であいつを見る。
「イキたい!」
「ふふ、かわいい…イッていいよ。」
「んんんっ!ぁああっ…ん!はぁ…はぁ…ん…」
オレは派手にイッた。お腹に自分の精液がかかるのが分かる。あったかい…
向井さんはそれを啜る様に舐めるとオレのモノを綺麗に舐めて仕舞った。
精液が主食の妖怪みたいだ…
「着くまでのびてて良いよ。」
そう言ってオレにキスするとズボンを直して運転席に座った。
…あ、この人イッてない
「向井さん…イッてないよ?」
エンジンがかかり動き出した車の中、オレは車の天井を見ながら小さく呟いた。
「シロのイキ顔見たからいいの」
オレは小さくそうなんだ…と呟いた。
「シロ、着いたよ?」
そう言われて体を起こし車の外に出る。
ボサボサになった髪を手櫛で整えて歩く。
新大久保はコリアンタウンなんて呼ばれるくらい韓国の人や物で溢れてる。
オレは韓国料理が好きなのでたまに来てはキムチを買ったりご飯を食べたりしてる。
「シロ、聞いてるよ~入ってって?」
店の前にはゲイの男の子がわらわら立ちんぼしてる。向井さんに声をかける少年…そいつは危険だからやめた方がいいよ。
売春OKなんてここは無法地帯なの?
促され店内に入るとうちの店とは違って相変わらず派手な印象だ。
「奥の控え室にあるから持って行きな~」
店の支配人がそう言って指差した方を見る。ありがとう、と言ってそちらに向かう。
向井さんは後ろについて来てるけど、車で待っててもよかったのに…
ガチャ
扉を開けて中に入る。
「シロ…何しに来たの?」
不満そうにこちらを見るハニ。
彼はここの花形スターだ。
「ん?180㎝超えの衣装借りに来た。」
「フン!僕と勝負して勝ったら貸してあげるよ?」
お出相撲とか何かの勝負?
「話ついてんだよ、グズグズ言うな。」
オレは丁寧に畳まれて置かれた180㎝超えの衣装の束を抱えて持つと部屋の外に出た。
ステージでは丁度ショーが始まる様だ。照明が変わりステージにスポットがあたる。
ここのステージ広いな…
「さぁ、今夜は特別ゲストを迎えてハニのSMスペシャルをお送りします!ゲストはこちら!」
衣装を持つオレにスポットがあたる。
「え…いやだ…SMとか」
オレを知ってる客が何人かいてシロコールが起こる。
もうやるしか無いじゃん…
オレは衣装を向井さんに渡してステージに向かう。途中お客に話しかけられる。
「かわいい、どこの子?」
「新宿だよ、今度来て」
オレは満面の笑みでそう答えて名刺を渡す。面倒な事しやがって…ハニの店の客、奪ってやる…!!
大音量の音楽の中、ステージにハニが現れて手には鞭が持たれている。
ラップバトルみたくお互い踊って歓声の多い方の勝ちみたいだ。使用アイテムとして鞭を必ず振らなくちゃいけないルールだと。
オレと鞭…かなり相性良いの知らないだろう…?
初めはハニが踊る。鞭もまぁまぁ触れてる。でもね、本当の鞭の音はそんなぬるい音じゃ無いんだよ。甘かったな!
しかし、花形だけあって歓声は凄かった。
さぁ、次はオレの番だ!
…売られた喧嘩買ってやるよ!
下から手を振る向井さんにウインクする。
あれ?あんたってそんな顔するんだな…
オレはステージの中央に立って観客を煽り見ると無駄口を黙らせるように初めに1発鞭をしならせた。
バチィィンッ!!
これだよ…この音が鞭の音だよ、ハニ様?
どや?とハニ様を一瞥してしなやかに踊る。緩急って知ってる?細部の指先まで神経使って動かして、大きく派手な動きをするんだよ。合間に鞭を忘れずに入れよう。そうすると、全体に流れが生まれて体も勝手に踊るんだ。観客も魅入る、ほらもうここはオレのステージだ。
最後は膝立ちから反動をつけて一回転して立ち上がって鞭を入れる。
キマッた…!
シンと静まった後、ワー!!と観客が沸いた。
明らかにオレの勝ちだ…ハハン
オレは客からチップをたんまり貰い受付で換金してハニにあっかんべするとルンルン気分で車に戻った。
「シロが1番だな」
向井さんはそう言って助手席のドアを開けた。
オレはまあね、と言って乗り込んだ。
「楓、お待たせ!衣装借りて来たよ」
「わぁ!シロありがとう!」
随分時間がかかってしまい2回目のショーをやり損ねた。支配人は客から回って来たオレのSMバトルの動画を見たらしく、よくやった…!と褒めてくれた。
オレがなんで鞭の扱いが上手いかというと、昔子供の頃、インディジョーンズに憧れたオレは公園や広場で鞭に見立てた紐で缶を落とす練習をしていたんだ。こんな事が思わぬ特技を生んだなんて誰にも言えない、恥ずかしくて。
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