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第14話

「お父さん、もうその子死んでますよ?」 俺の前で泣き崩れる親父。 腕の中にはシロに似た子。 首から沢山の血が出てもう死んでた。 「人って脆いね、あんなに可愛がっても一瞬で死ぬね、喉を掻き切っただけなのにさ」 嘲笑って親父と腕の中の子を見る。 鋭い頭痛がして頭を抱えると次の瞬間、 親父が依冬になって…腕の中の子はシロになった。 「シロ!」 ベッドから飛び起きて夢だったと気づく。 着ていたものが湿るくらいの汗をかいて、俺はなんの夢を見てんだ…。 俺は依冬の父親の第一子とでもいうか、1番初めに孕ませた女の子供だ。小さい頃から母は1人だった。たまにかかってくる親父からの電話だけを生きがいに死人のような顔で俺を育てた。 「あんたを産まなかったらまだあの人に愛されてたかもしれないのに…」 顔を合わせるたびにそんな呪いの言葉を浴びせて来た。同年代の子供とは話も合わず、そんな子供がまともに育つはずもなく、俺はいつも孤独だった。 中学に入り悪い奴らとつるんで女遊びを覚え、妊娠させては捨てた。 そんな俺が母親の死を知ったのは女とセックスしてる最中だったっていうのが皮肉だよな。 病院に行き母の遺体を見る。 薬を大量に服用した自殺だった。 哀れと思う以外の感情がわかなかった…。 すぐに焼いてもらい、近所の川に流して捨てた。 金目のものがないか母親の鏡台を漁った時見つけた。親父の名刺。 俺は悪い仲間からありとあらゆる人脈を駆使してあいつに近づいた。 「はじめまして、私はあなたが子供を孕ませて捨てた女の子供です」 俺を見た親父は顔色一つ変えず俺に住む場所と自分の直属の部下という仕事を与えた。 2番目に孕まされた女は俺の母と違いこの男と結婚することに成功したらしい。 しかし妾との間に子供を作り妾が病死した後も子供を本妻と息子と同じ屋根の下に住まわせてるという。 …俺よりも鬼畜だな 死んだ妾への愛情を息子に向け、幼い頃から性的に虐待を繰り返す親父。 どんな顔の子なのか興味があったが、あの男は俺を家には近づけなかった。 そんなある日、本妻が首を吊って自殺した。 俺は葬式の準備で家に一度だけ入ることを許された。 高校生くらいの息子2人。 1人は体格よく日に焼けた褐色の肌で白く爽やかな笑顔の男の子。もう1人は柔らかそうな白い肌で切れ長の目の印象的な男の子。 …この子だ ひと目見てわかった。 なんとか2人きりになろうと試みるも彼の側には必ず親父が依冬がいた。 監視するみたいに彼の一挙手一投足を見張って誰といつ話したか把握するように目を光らせる。 依冬の目つきからただならぬ関係は容易に想像できた。こんな歳から男を弄ぶなんて…血は争えないんだな…。 母親が死んでも涙の一つも流さない。 この冷血漢は親父の血なのか。 火葬場で煙突から出る煙を1人眺めて涙する彼を見つけた。 この家で唯一まともなのはこの子だ。 俺は彼に近づき言った。 「こんな生活終わりにしたくないか?」 俺を見上げたあの子の顔が… …あの時のシロに被る。 俺は彼に電話番号を渡した。 「死にたくなったら電話しろ。俺が殺してやる」 その子は渡した紙をポケットにしまうと何も言わず足早に立ち去った。 シロ…初めて会った時感じたんだよ、お前はあの子とは違うって。 見た目は似てるかもしれないけど、もっと美しくて儚くて脆い。 俺はすっかりお前の物だ。 智のことで俺を恨んでいるんだろう…知ってるよ。 なりふり構わず俺を求めて、俺の心を惑わして、兄貴のように殺すんだろ…? 分かってる。 分かってるけど、初めてなんだ。 今お前が俺を見て笑う顔がたとえ嘘でも 俺はその笑顔と声に幸せを感じてしまうんだ。 どうしたというのか… 抗えない感情がお前に生まれてしまった。 お前が望むようになります様に。 新宿にあるダンスレッスンのスタジオ オレは生まれて初めて誰かにレッスンを受ける。 常連のお姉さんから頂いたスタジオリストの1番上にあった所に予約した。 子供みたいにドキドキする… 入り口の階段を上がり扉を開ける。受付のお姉さんがこちらを見てにっこり笑う。 「あの、今日11:00からレッスンをお願いした者です。よろしくお願いします…」 オレは案内があるまで受付で待たされた。 「こんにちは陽介です。よろしくお願いします!」 R&B系の服装をした厳つめの男の人だが、顔はベビーフェイスだった。 一緒にスタジオまで移動する。 「今日はここでやるね。」 案内されたスタジオは明るい照明にピカピカと映える床。こんな所来た事ない…! 「うわぁ、広いんだ…。」 オレは辺りを見回して感嘆した。 「シロくん何歳?」 「19でもうすぐ20になります」 「若いね、俺25だよ」 大して変わらないじゃん… オレはこの陽介先生に基本的なステップやオーディションで踊る踊りの監修をしてもらう。 「よろしくお願いします。」 挨拶をしてレッスンが始まった。 「ねぇ、シロくんめっちゃ体柔らかいね。アイソレーションも出来るし学校とかでダンスしてた?」 準備体操が終わると陽介先生がそう言った。 「あぁ、多分仕事でストリップしてるから体幹とかは自然とつくんですよ。」 オレがそう言うと、えっ!と目を輝かせて小走りで近づいてきた。 「どこのお店?」 「新宿の…」 「知ってる!凄いダンサーのいるって有名なとこじゃん!オレも1回見てみたかったんだよね!今度行ってもいい?」 オレが名刺を渡すとすげー!すげー!と喜んだ。 オレはあんたの方が何倍も凄いと思うよ。 「ねぇ、何の曲で踊る?」 一通り基本を教えてもらうと陽介先生が聞いてきた。アイドルのバックダンサーのオーディション…で踊る曲ってどんなのがいいんだろう…? 「どんな雰囲気の曲が良いのか検討付かなくて…全く未知の領域なので、教えてもらえますか?」 オレがそう言うと、しばらく考え込みK-POPの曲で派手なのをやろう!と言うことになった。 K-POPのダンスクオリティーは高く見栄えも良いため重宝されているらしい。 「いくつか曲渡しておくから、次来た時どれにするか教えて!別のでも良いし、YouTubeとかに上がってるから見てみて?」 オレは軽く返事をして陽介先生からCDを受け取った。 「君は背も高くてスラっとしていてかわいいから踊ったら爆イケだよ!」 そう言って今日のレッスンは終わった。 帰り道、人の多い昼間の道。 適度に運動して体がポカポカする。 こう言う生活も良いな…とボンヤリと思った。 家に帰り先生から渡されたCDを聞いてみる。 「うお、韓国語だ…新大久保で聞くやつだ!」 重低音の効いた音楽。嫌いじゃ無かった。 一通り聴き終えて今度はYouTubeで検索してみた。 言われた通り沢山動画があって何の気無しに見た動画が印象的だった。 俺に似た男の子が1人立って踊り始める。 手足が長くてダラダラしがちな欠点を感じさせないキレキレのダンス。 「うあ、上手だな…」 オレはその子のダンスを真似て踊ってみる。 細かい動きまで意識してるのが伝わって、この子がどれだけ練習したのか見なくても分かった。 「凄いな、カッコいいな…」 オレはすっかり夢中になってYouTubeを見まくった。次陽介先生のところに行くまである程度方向性を決めよう。そして沢山練習しよう… この子みたいに。 18:00 三叉路の店に来た。 レッスンで体を動かしたお陰か、体が軽く感じて今日はいつもより調子がよさそうだ。 エントランスの支配人に挨拶する。 階段を降りて控室へ行く。 メイクをして衣装に着替える。 ふと、昼間YouTubeで見た動画を思い出す。 あの子たちはあんなに頑張ってるのに、オレがするのはここで脱いで腰ふりか… でも、オレはちゃんと構成も考えて練習もしてる!普通のストリップより多分頑張ってる方だ!むしろ、よりストリップの芸術性を高め… ガチャ 「シロおはよ、何してるの?」 士気を高める様にガッツポーズを掲げていたのを楓に目撃された… 「良い衣装が見つかってガッツポーズしてた」 「うそだ~」 楓が笑って言った。 19:00 店に出てカウンターに座る。 今日見ていたYouTubeをまた見返していると、隣から声をかけられた。 「それにするの?」 わっ!と驚いて椅子から落ちそうになった。陽介先生だ。まさか、こんなすぐまた会うとは思わなかった… 「ビックリした…!今日来るとは思わなかったですよ。いきなり声かけないで…」 昼間と違うオレの服装に陽介先生は喜んで隣でブローブロー言ってる。ちょっと恥ずかしい… 「シロくんいつ踊るの?」 「オレは…楓の次だから10:00かな?まだまだ時間ありますよ?大丈夫ですか?だから事前に言ってくれたら良かったのに…」 気にしない!と快活に言う陽介先生はオレの周りのドロドロした男と違って普通だった。 先生とYouTubeの動画を見て色々教えてもらった。ダンスのことに関してはとても頼りになる先生だと思った。 「シロくん。楽しそうだね?」 横から声をかけられ振り向くとこちらを見る向井さんがいた。 「あ、向井さん。」 向井さんはオレに挨拶するとカウンターの端の席に座った。 気を使ってくれてるの…?うわぁ… 「シロくん、こことかどう?」 先生に呼ばれて画面に目を移す。 「わぁ…!カッコいい…これ踊りたい」 だよね~?と陽介先生がハイタッチ待ちする。オレはハイタッチして席を降りた。 「陽介先生、オレ向こうに行くね。」 そう言って向井さんの方をチラッと見ると目が合ったからオレはニコッと笑って通り過ぎた。 控え室に戻ると楓がストレッチしている。 「今日は何踊るの?」 「凄い技考えちゃった…」 見てて!と言うのでオレはワクワクしながら店内に戻りステージの淵に座った。 「シロこの前のSM対決の動画見たよ…決まってたね!今度やってよ~!」 お客から声がかかる。 オレは笑っていいね!と言い鞭を打つ真似をして笑った。 店内の照明が落ちてステージにスポットが当たる。オレは常連のお姉さん達からチップを咥えさせられる。まだ早くない? カーテンが開くと中から楓が出てくる。 美しい!とにかく容姿が美しい…! やっぱり身長高いとカッコいい。ここのポールは楓には短くて余り大技は出来なさそうだ。 オレはチップを咥えて仰向けに寝る。お姉さん達が体に纏わりついて柔らかい何かが当たるけど、頭を真っ白にして考えないし感じない。 オレに気付いた楓が寄ってきてチップを取りに四つん這いになってくる。 でも、様子がおかしい… まるで虎みたいにギャオギャオ言いながらこっちに来るから、おかしくて笑っちゃった。口からチップが飛んでいく…その後もオレを捕食するみたいに飛びかかってきて、あぁこれは一通り構成を考えてあげないとダメだなと思った。 お客もオレも大笑いしたけど、支配人は怒った顔で見ていた。あぁ… 「斬新で良かったけど…」 オレがポツリと言うと客が笑って楓ちゃんは面白いね!と言った。 そうなんだよ、智にも会わせたかった… 「うちはお笑いパブじゃねんだからさ…」 しゅんと落ち込む楓に支配人が説教してる。 オレはDJのところに行き今日の曲を違うのに変えたいと伝えた。 控え室に行って違うメイクをして別の衣装に着替えると楓にチップを取りに行く時のレクチャーを長々とした。 「シロ、頼むよ!」 あっという間に時間が過ぎて 支配人から声がかかる。 カーテンの前に立って深呼吸する。 今日の衣装は黒い大きめのワイシャツとネクタイと大きなトランクス。 オレがザ・ストリップと名付けたこのレパートリーはオーソドックスなストリップの振りとアレンジした振りが入ってる。 イメージとしては飲んだくれたサラリーマンが街を歩いて家に帰る感じ?だとオレは思ってるけど、アクロバット要素が多いので見栄えとインパクトは良い。その代わり結構体力を使うんだ。 楓の踊りを見てこれが無性に踊りたくなった! カーテンが開いてステージに走って行くと思い切りポールを掴んで回る。 体を仰け反らせて降りて丁度良い高さになったらゆっくりバク転しながら離れる。開脚して寝転がるとうつ伏せになって可愛く足をバタバタさせる。そのまま仰向けになって腹筋で起き上がる。結構タフだろ? ポールを持って足を後ろに引いて思い切り前に蹴飛ばす力で上の方に飛びつく、ゆっくり降りて途中で止まると体を斜めにして着ていた衣装のワイシャツのボタンを外して脱いでいく。 その後首に残ったネクタイを蝶結びにして、ポールに持たれながら愛想を振りまきトランクスを脱いでいく。 仰向けになってチップを咥える客に耳かきの様に膝枕したり、顔のマッサージしたりしてあげた。 あ、陽介先生もチップくれるの?オレは先生が手で渡すチップを四つん這いで取りに行き口を開けて目で入れろ、とした。先生は顔を赤くしてオレの口にチップを挟んだ。あぁ…この人はのんけだ。 最後に派手にポールに登ってお終いだ。 「あー楽しかった!」 支配人がシロまでふざけて…とやや怒った。あれは結構しんどい事と、ちゃんとエロ要素はあった事を伝え納得して帰ってもらった。 オレは黒のTシャツとダメージジーンズを履いて店内に戻った。 「シロくん!凄かった…エロカッコよかった…! ねぇ、レパートリーいくつ持ってるの?俺全部見たいんだけど…!!」 食い気味に陽介先生が聞いてくる。 「だいたい25個位は持ってる。飽きたら新しいの考えたりしてあまり把握してないんだ」 オレはカウンターに座る向井さんにボディタッチして離れた所に先生と座った。 「あのバーに乗るやつ、どうやってるの?腕みして?細いよね?なんで出来るの?」 余りに食いつくからおかしくて笑っちゃった。じゃあついて来てって言ってステージに先生をあげる。 「ここ持ってこうして足を後ろにして、前に蹴り上げるときに重心も移動させるんだよ」 やってみて?って言うと先生は力任せにやって派手にこけた。 ポールの簡単な登り方や途中で止まるやり方も教えてみたけどなかなかいつも使う筋肉とは違うから出来なかった。 「先生なら10回くらい練習したら出来るよ」 おれは先生の肩をポンポン叩いて励ました。 「シロくん明日も来るよ。」 「明日は8:00と12:00にやるから好きな方に来て見てって下さい。」 オレはそう言って先生をお送りした。 「あのさ、カウンターにいた人って誰?」 「あぁ、オレのいい人だよ。」 「そっか、じゃあまた明日!」 陽介先生最高かよ…オレは外まで見送った。 店内に戻るとカウンターの向井さんに会いにいく。オレを見てニッコリ笑うね。オレは首に手をかけて軽くキスをした。 「あの人誰?」 向井さんに寄りかかるオレを後ろから抱きしめて聞いてくる。 「ダンスの先生だよ。オレ、アイドルのバックダンサーのオーディション受けるんだ。でも基本が分からないから教えてもらってんの。」 ふぅん…と言うとオレの顎を持ち上げて軽くキスして言う。 「シロがアイドルなんじゃないの?」 変なこと言うからおかしくて声を出して笑った。 「ねぇ向井さんもポール登ってみる?」 オレがふざけて言うと歯を見せて笑った。 「シロの個人レッスンだったら受けたいな。」 声を出して楽しそうに笑うなんて初めて見たよ。 かわいい顔するんだね、向井さん。

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