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第16話
シャワーから出ると依冬は申し訳なさそうにオレの方を見てシュンとしていた。
「痛いの嫌だ、もうしないで」
そう言ってベッドに寝転がった。
ごめんねと言ってオレのそばに座る。
お前の背中大きいな…すぐ触りたくなってそっと手でなぞる。
起き上がって背中に抱きついて目を瞑る。
「シロ…ごめんね。嫌いになった?」
「ならない」
そう即答して背中に響くこいつの心臓と呼吸音を聞く。オレの物じゃない依冬…
オレの電話がなる。
携帯を取り電話の主を確認して出る。
「もしもし?うん…ん…今?今日母さんが死んだって連絡があって…うん…名古屋に来てて…ん、大丈夫…揉めたけど…ん、うん、明日には戻る。うん…。え?いいよ…もう帰るだけだから…うん、はい。またね」
携帯を切って依冬を見るとこちらを見て誰?と聞くからオレはわざと知らない人と答えた。言わなくても分かってるだろうし。
「ねぇシャワー浴びてきて一緒に寝よう」
そう言ってベッドに寝転がると依冬の脇腹を蹴った。
イテテと言って脇腹を押さえながらシャワーを浴びに行くあいつを見送ってテレビをつける。
「あぁ…やんなっちゃうな…」
1人宙に吐き捨てる。
全てどうでも良くなる位、何もかもどうでも良くなる位、ショックだ…
オレの事をオレとして愛してくれるのは兄ちゃんと向井さんだけか…意中の彼は湊くんが好きなだけで、オレの事は彼の代わりと思ってるのか…。悲しいな…
にいちゃん…
健太は兄ちゃんが好きだったみたいだよ。
知ってた?
オレの優越感に満ちた顔はさぞ憎かったろうな…どうやっても振り向かせられない無力感。
今日オレが健太に言ったこと…湊に言われたら…立ち直れないくらい打ちのめされるな…
シャワーから出た依冬がオレの隣にうつ伏せて横になる。こちらを見てオレの髪を触る。お前がオレに湊を求めるなら、オレはお前にオレを提供する。彼の片鱗も感じさせないオレだけ見せる。
「ねぇ…やっぱり冷たい飲み物は体に悪いのかな…?」
焦点を合わせずぼんやり手を眺め、宙に伸ばしてヒラヒラと手を動かす。指先から掌、手首、肘にウェーブさせて開いて落とすと依冬の頭に直撃した。依冬はぼんやりするオレの顔を覗きながら笑った声で言う。
「冷たい飲み物より体に悪い物あるよ…」
例えば?と宙を見ながら尋ねると、うーんと悩んで梅干しって言った。
「梅干…ふっ」
可笑しくて噴いて笑う。塩分の取りすぎで体に悪いんだって…変なやつ。
しばらく手のひらをヒラヒラさせて遊ぶ。花びらが落ちるみたいに動かしてあいつの頭に落とす。
直撃するたびにふふと笑う声がして面白い。
まどろみながら依冬に話しかける。
「ねぇ、今度バックダンサーのオーディション受けるんだ…レッスン受けて一曲踊れるようにして…とにかく上手くなるには沢山練習しないと」
あいつはオレのおでこにキスを落として頬を撫でる。あったかくて気持ちいい…
しばらく目を瞑ってあったかさを堪能するとオレは目を開いて依冬を見上げて聞いた。
「じゃあ、塩辛も体に悪いの?」
あいつは吹いて笑った。かわいい笑顔…
湊はお前を笑わせた?
オレだけだろ?
いつもそうだった…兄さんが優先するのはシロだけ。これは俺が生まれて物心ついてからずっとそうだから…彼は特別なんだと思ってた。
歳の離れた兄弟だからかわいくて仕方ないんでしょう?と相談する大人はみんなそう言う。
じゃあ俺は?俺のことは可愛くないの?
男をたぶらかす仕事をする母の血が強いんだ…。かわいこぶって何でもやってもらって…ムカつく…俺はシロが大嫌いだった。
小学校低学年のある日、転んだか何かで膝に大怪我して帰ってきた。泣いてばかりで何もしないから傷を洗って消毒しろと言った。兄さんが帰るまでまだまだ時間があるのに何もしないで泣くばかりのシロがムカついて…オレは年下なのに、弟なのに…!と苛つきながらあいつを風呂場へ連れてった。
あいつの膝をシャワーで流すとビービー泣くから顔にシャワーをかけた。するともっと激しく泣くからシャワーヘッドであいつの頬を打った。赤くなってあざになったけど多少気が収まった。泣くと殴られると知ったのか、ヒクヒク言いながら傷を洗われていた。
傷自体結構深くて痛そうだった。俺は日頃の恨みを晴らす様にその傷をグリグリ洗った。
悲鳴を上げて騒ぐから憎らしくなってもっと詰った。
その時風呂場の鏡に写る兄さんを見た。
すごい形相で俺の背中を睨んでいる。
なんで…
俺を押しのけるとシロの傷をタオルで包み抱えて家の外に行ってしまった。
どうせまた俺が怒られるんだろ…
しばらくすると兄さんがシロを抱えて帰ってきた。足には大層な包帯が巻かれていて子供ながらに呆れた。
「なんであんなにしたの?」
兄さんは怒った顔で俺に詰め寄る。俺が転んだ時、そんなに過保護にしたかよ…
黙って俯く俺に兄さんはビンタした。
痛くてムカついて泣き喚く俺をお前は兄さんの後ろから見ていたな…頬にアザが出来てざまあみろ。お前の自慢の顔に傷が付いてざまあみろ!と思った。
「にいちゃん、やめてあげて…」
か弱く言ってまた兄さんを誘う。この…淫乱が。
思った通り兄さんはシロの方に振り返るとあいつにべったりくっついて離れなかった。
「にいちゃん」
中学に上がりもう立派な反抗期を迎える年なのに、甘ったれた声で兄さんを呼ぶ。
知ってんだぜ。お前が兄さんをたぶらかして体の関係を持ってる事…。本当に節操のない淫乱だ。
「どうしたの?」
尻尾を振る様にシロの元に行く兄さんが嫌いだった。何でだよ…俺にはそんな風にしないのに…
俺も兄さんをたぶらかしたら優しくしてもらえるのかな…?そう思ってある日兄さんに迫った。
眠るシロに膝枕してビールを飲みながらテレビを見てる兄さんに近づいて、顔を寄せて甘えた。
「何?健太、やめて」
これでお終いだ。何だ、それ。
そん時もお前は兄さんの膝から俺を見ていたな…
ムカつく顔でこっちを見るなよ、ぶん殴るぞ。
「にいちゃん、健太に優しくしてあげて…」
体を起こして兄さんにお願いするお前がすごくムカついたから横から蹴飛ばした。
壁に頭を思い切りぶつけて悶絶する姿がすごく面白くて笑ったら、次の瞬間兄さんのグーパンが飛んできて俺は吹っ飛んだ。
「シロ大丈夫?痛くない?」
何なんだよ…クソッ!
「にいちゃん」
高校に上がっても変わらず甘ったるい声で兄さんを呼ぶ。このまま大人になってもこいつは変わらねぇって思ってたある日、状況が一変した。
あんなにベタベタしていたのに、シロが家に寄り付かなくなった。毎日暗い兄さん。
何かあったんだ…ざまあみろ
俺は心底喜んだ。
「兄さん、シロ今日も帰らないね…」
俺が慰めてあげるよ?そう思い話しかけるけど、兄さんには俺の声は届いていなかったみたいで、ずっと一人で考え事をしていた。
兄さんにはほとほと愛想がつきたよ…
「兄さんはさシロのこと特別可愛がるよね?それってあいつが誘うから?何かスケベな事してくれるから?」
俺は兄さんの前に立って捲し立てる様に言った。
「俺は兄さんの事好きなのに、全然可愛がってくれなかったよね?いつもあいつばかりでさ、何で?」
兄さんは顔を上げて俺の方を見ると憔悴した顔で言った。
「シロにいやらしい事したのは俺だよ。あの子の事をずっと好きだった。俺はあの子しか大切に思えないんだ。すまなかった。」
何で…何であいつなの?
その後兄さんが首を吊ってるのを見つけた。
大きな体が天井からぶら下がって少し揺れている。まだ助かるかもしれない…!俺は慌てて救急車を呼んで兄さんの体を泣きながら支えた。
まだ俺大事にされてないよ?まだ愛してもらってないのに…! シロばかり…あいつばっかり!!
初めて触る兄さんの体は大きくて重かった。
救急隊員が来て兄さんを天井から下ろす。
紫に変色した兄さんの首がだらんとしてる。
「シロのせいだ…」
オレは救急車に一緒に乗って病院に行った。
病院で電話をすると母さんが駆けつけてきた。
兄さんが死んでショックを受けている様で泣き喚いていた。
その後シロが来た。
白い顔でフラフラと部屋に入ると兄さんの顔を確認して固まっていた。表情を見ると泣きもしないし悲しそうにもしない…こいつのせいなのに…
俺は悔しくて母さんと一緒に泣いた。
その後シロは逃げる様に東京に行き、俺は母さんと暮らした。
母さんはシロのことを嫌っているから、俺とはウマがあった。
兄さんを殺したシロなんて、俺たちには仇みたいなものだから。
俺は兄さんの面影を求めて男に走った。
たまに兄さんに似ている人を見ると思うんだ。あの人なら愛してくれるかもって…
歪んでるよな…。
あいつ宛の手紙もあいつ宛の形見も全て捨てた。
いつか教えてやるんだ。
あいつが一番傷つくタイミングで、一番壊れるタイミングで。
それまで兄さんの愛に疑心暗鬼になって狂えばいい。
夜中にショートメールが来た。
"10:30"とだけ書かれたメール。
明日墓のある寺に10:30に来いという事だろう…
傍らにうつ伏せで眠る依冬を見る。
癖っ毛の髪が柔らかく眠ってる顔は可愛い…
こんなに可愛らしいのに…あんなに凶暴になるんだな。
しばらく横になって寝顔を眺める。
鼻筋を指でなぞって唇を触り顎の先まで一直線に下ろす。
こんなにされても全然起きないんだな…
兄ちゃんはオレが寝るまで絶対寝なかったな…
向井さんも…
でも、お前はスヤスヤ寝るんだな…
そういう所が好きだよ…依冬
オレは彼の口に軽くキスすると天井を仰いで目を閉じた。
オレが中学のとき、天体観測の宿題があって夜中に兄ちゃんが星の見えるところまで車で連れてってくれた。
満点の星空を見上げて大の字に寝転がると、兄ちゃんは隣に添い寝して聞いてきた。
「シロ…兄ちゃんの事好き?」
「…好きだよ…大好き」
オレの顔を覗いて髪を撫でた。
「ごめんね、痛い事してごめんね…」
突然泣いた兄ちゃんがかわいそうでオレは慌てて起き上がって兄ちゃんのことを抱きしめた。
「泣かないで…」
オレは兄ちゃんを憎んでたのかな…
優越感を与える存在として利用してたのかな…
それとも愛してたのかな…
傍らに眠る依冬を見る。
今までずっと考えるのを避けてきた。
考えだすとどんどん自分が汚く思えて潰されそうになるから。でもこいつが傍にいる今は少しだけ考えてもいいかもしれない…
「にいちゃん…」
小4のある夜、オレは友達に聞いた方法で初めて自慰をした。手についたものに驚いて寝ている兄貴を起こして手の中を見せた。
「自分でやったの?」
そう言って手の物をティッシュで拭いてくれた。
初めてのオナニーが気持ちよかったオレはもっとしたくて兄貴の前で自分のモノを扱き出した。
「にぃ…ちゃん、これ…きもちい…んっ」
それを見た兄貴はオレのモノを咥えて扱き始めた。
これが始まりだった…
中学に上がって夏休みのある日、半袖半ズボンで寝転がり何となく座る兄貴の股間を足で触った。
「シロ、健太がいるから…」
窘められたけどオレはやめなかった。
兄ちゃんはオレには絶対怒らないって知ってたから。オレはバカだから、健太のことなんて考えもせず、足でいじられても勃つんだ…くらいしか思わなかった。
高校生の時だってなんだかんだ言って兄貴に抱かれるのが一番気持ちよかった。
彼女を抱いた日も兄貴を求めて布団に入る。
どんどん多くを求めるようになり兄貴を束縛した。
あの日…あそこを通らなきゃよかったんだ…
夕方、バイト帰り気分転換に遠回りして帰った。
橋の上に仕事終わりの兄ちゃんがいた。
一緒に帰ろうと走って行くと
女の人と一緒にいて
キスしていた。
その瞬間オレは髪が逆立つくらい泣いた。
周りの人が立ち止まる程の大泣きをした。
オレに気づいた兄ちゃんは慌てて走ってきたけど、オレはそれを振り払って逃げた。
なんで、なんで、なんで…なんで!!
兄ちゃんはオレが好きなんじゃないの…?
あんなに沢山したのに…
オレを好きにしたのに…
オレの全てがガラガラと音を立てて崩れていったんだ。
兄ちゃんの顔を見たくなくてあちこちを転々と泊まった。
もうお終いだ…
にいちゃんはオレのじゃない…
「シロ少し話そう」
「嫌だ」
抱きしめて繋ぎ止め様としてくれたのに、オレは兄貴を許せなくて…
自分から死んでいった。
「オレのことなんて放っておいて」
「オレのことなんてどうでもいいんでしょ…」
「オレがいない方がいいじゃん」
オレの吐く呪いの言葉は兄貴もオレも傷つけていくのに止まらなくて…
もう全てが嫌になった…
ある日チンピラと喧嘩して補導された。警察に迎えに来た兄貴は殴られて腫れるオレの顔を見て酷く取り乱してオレを叱った。
「シロ!刃物を持った人と喧嘩なんかして、もし刺されたらどうするの!危ないだろ?もうやめてくれ…!お前にもしものことがあったら…」
オレの肩を掴んで怒るその顔は涙でグシャグシャだった。
でもオレは止まらなかった…止められなかった…
「…オレ死にたいもん。兄ちゃんにズタボロにされてオレ死にたいもん…。こういうのやめて欲しいならオレの前から消えてよ…」
そう言って手を払い除けた。
その後
あっという間に兄ちゃんは首を吊った。
涙が溢れて止まらない…
目の前の依冬がゆっくり目を開ける。
ぼんやりとオレを見る目を見ていたら胸の奥から激情が溢れてきて、口を抑えても嗚咽が漏れて止まらなくなった。
「大丈夫…」
そう言って依冬がオレを抱きしめる。
オレは体を震わせながらあいつに縋った。
「オレのせいだ…兄ちゃんが死んだのはオレのせいだ…オレがいなきゃ良かったのに…オレが死ねば良かったのに…」
オレの頭を撫でて抱きしめる。
「シロ好きだよ…どこにも行かないで、俺の傍にいて…。」
静かに囁くように何回も言いながら俺の体を抱きしめて揺する。
1度溢れた激情は泣き疲れて眠るまで続き、その間ずっと彼はオレを慰めた。
10:20 寺に来るとすでに健太が例の彼氏と到着していた。
オレは車から降りる依冬に待つよう伝えて合流する。
「あの人誰?」
怪訝そうにする健太を無視して寺の中に入った。
住職の有難い話を聞いて納骨してもらった。
お経をあげてもらってる間オレは母よりも兄ちゃんのことを考えていた。
オレだけ愛してると思ってた。
違ったんだ…
それが認められなくて兄ちゃんへの愛が恨みに変わっていったのかな…
何であんなに責めたのか…許せなかったのか…
後悔してももう遅かった。
納骨を済ませると健太は、じゃあ…と言って彼氏を連れて帰っていった。
入れ替わるように依冬がやって来てオレの傍に立った。
「人って脆いよな…昨日までいた人が突然居なくなるのは辛いよな…ましてや愛してた人だとなおさら…あんなこと…言わなきゃ良かった…」
ポツリポツリと話すオレの背中をさすって何も言わずに温めてくれる。
「にいちゃん…ごめんなさい…オレ、にいちゃんが今も大好きだよ…この後悔どうしたらいい…」
つたい落ちる涙を拭わないで流させる。
2度と会えない愛しい人は自分が殺したようなものだった…今更後悔しても遅くて、どんなに叫んでも戻って来ない。
「依冬はどこにも行かないで…」
そう言うオレの背中を抱いて腕をさすってくれた。大きくてあったかいその手がオレの心を助けてくれる気がした。
名古屋駅まで行き東京行きの新幹線に乗る。
オレは足を抱えながら窓から見える景色を眺めていて、あいつは仕事のパソコンを開いてカチャカチャ音を立ててる。
帰ったらそのまま仕事に行きたい。
あの煩雑な空気が考え込みそうなオレの頭の中を麻痺させてくれるから。
「シロ、向井さんとまだ会ってる?」
パソコンに目を落としながらオレに聞いてきた。
「ん…」
依冬の方も見ないで短く答える。
「お兄さんに似てるの?」
オレは流れていく景色の向こう側を見ながらうん、と答えた。
「向井さんとオレ、どっちが好き?」
パソコンの手を止めてオレの顔を覗いて依冬が聞くから、オレは依冬の方を見て答えた。
「依冬」
ふふっと笑ってまたパソコンに目を落とす依冬の腕に体を寄せて目を瞑る。
何だか怠い。東京まで眠ろう…
「依冬、色々ごめんね、ありがとう」
そう言って東京駅で別れた。
電車を乗り継いで結局家に帰る。
今日は何を踊ろうかな…
18:00 三叉路の店に出勤すると神妙な面持ちで支配人がオレの肩を叩いて言った。
「大変だったね…」
普通の子供だと母親って絶対的な存在だと思うけど、オレの家ではそうじゃなかった、だからあまり悲しくないんだ…どうでも良いっていうか、興味がなくて。オレは適当にうん、と言って階段を降りて行った。
控え室から情事の音がする…
着替えるのに…なんで今するんだよ…
ドアを開けると楓と知らない人がコトの最中だった。
「楓、他所でやってよ。オレ支度がしたい!」
慌てて服を着る楓と男を他所にオレはメイクを始めた。大分泣いたから目の周りがシャドウを付けたように赤くなっていた。
…これを見て支配人は同情したのか。
優しいんだな、と思い口元が緩んだ。
男を見送った楓が戻ってくる。
「シロごめんね!」
「ああいうのは他所でやってよ!」
軽く注意した声に余裕がないのは疲れてるからかな…さぁ今日は何を着ようかな…
19:00 店に出ると向井さんが来ていた。
オレはカウンター席の向井さん見つけると足早に近づいていき抱きついた。
「お母さんの事大丈夫だった?」
「ん、どうでもいい…」
なんでだろう…今日は妙に怠い。
「随分甘えん坊だね…どうしたの?」
髪を撫でる手がすごくいやらしくて、オレは向井さんの足の間に割り入ると彼にキスしながら股間を弄った。驚いた様にオレの手を掴んで自分の腰に回して引き寄せるとオレのおでこに手を当てた。
「シロ?熱いよ…」
確かにオレは熱っぽくて…気怠いんだよ…
オレは向井さんの足に手を置くと体を起こして顔を上げた。
「熱出てるよ?」
え?
視界が斜めに傾いて目の前の向井さんの驚いた顔が見えて、変な顔してんな…と思いながら意識がなくなった。
音のしない静かな部屋で目覚めた。
ぼんやりした頭で自分の手を見て開いたり閉じたりする。大きめの長袖を着ていて肌触りが異様に良かった。
誰の家かは容易に分かった。
ベッドから降りてフラフラしながら部屋を出る。
キッチンで腕まくりしながら何かしてる姿が見えて、そちらに向かってフラフラと近づく。
「シロ、寝てないとダメだ」
オレに気づいて駆け寄ると体を支えてベッドに戻す。
「結構熱が高いから、これ以上上がりそうなら病院に行くよ?だからちゃんと寝てて」
そう言ってオレを寝かせるとタオルで巻いたアイスノンを頭の下に敷いてくれた。
「熱…でたの?」
オレの顔を心配そうに見るあんたが兄ちゃんに見えて、手を伸ばして顔を触る。
「にぃちゃん…そばにいて…」
オレの言葉に向井さんはオレの隣に添い寝しておでこにキスした。
頭が痛い…体が怠い…口が乾く
軽々と持ち上がるこの人の体重は何キロなんだろう…。
お店の支配人が貸してくれたロングダウンを着せて彼の荷物を持って足早に車に乗せる。
ハァハァと口から荒い息遣いがして動揺する。
「シロ?シロ?」
「に…ちゃん…」
虚ろに開く目が痛々しくて早く何とかしてあげたかった。
病院に行くか…?自宅に送るか…?オレの家に連れて帰るか…
俺は車を出して病院へ向かった。
救急外来で受診を待つ間も彼の体は小刻みに震えて高熱の症状を表す。
ぼんやりと開く目は潤んでいて待ち時間の長さに気が狂いそうになる。
病院で熱を測ると39.0℃…
こんな高熱見たことなかった…
俺の頭から血の気が引いていく…
早く助けてあげたいのに…。
「疲労と風邪ですね」
医者の診断を得て解熱剤を渡された。これを飲めば良くなるのか…。
俺はシロを抱えてまた車に乗せる。
自宅には置いておけない…自分の家に連れて帰ることにした。
自宅に着き寝室に運ぶ。
室温を上げて加湿器をつける。
もらった解熱剤を何とか飲ませて寝かす。
ベッドに寝かせて衣装のままの彼に気づく。何かあったかくて楽な格好に着替えさせたい…。彼の鞄の中を見るけど半袖とジーパン、イヤフォンと携帯とポーチくらいしか入っていなくて自分の服を着せることにした。
彼の衣装を脱がすと白い肌は薄ピンクになり寒いのか鳥肌が立ってしまった。
「シロ?服着替えるよ…」
そう言って俺の長袖を着せる。明らかにブカブカだったが仕方ない…。同じようにズボンも脱がせると衣装の肌着を付けていたのでそれも脱がせた。
何回も見てるのに何だか悶々としてくる自分を無視してオレのパンツを履かせてオーバーサイズのスウェットを履かせた。
「シロ、今冷たいの持ってくるから」
聞こえてるのか分からないけど声をかけて、俺は急いでアイスノンを取りに行った。
看護師に聞いたら脇の下や首周辺は太い血管が集まるからそこを冷やすとだいぶ楽になるとの事だった。俺は氷嚢を作ろうと氷を割っていた。
フラフラと歩いてこちらにくるシロに気がついた。オーバーサイズすぎてズボンがずり下がりかけて足を縺れさせそうだった。
「シロ、寝てないとダメだよ」
そう言ってベッドに連れて帰る。この子は一体どうして起きてしまったのか…
「結構熱が高いから、これ以上上がりそうなら病院に行くよ?だからちゃんと寝てて」
そう伝えるも届いてるのか不明なくらいぼんやりした目だ。頭の下にアイスノンを置いて脇の下に氷嚢を置いた。俺の目を潤んだ瞳で見て聞いてきた。
「熱…でたの…?」
俺の顔に手を伸ばして触れる。
手は冷たいのに…何でこんなに熱が高いんだ…
「にぃちゃん…そばにいて…」
ポツリと小さく言うと目を瞑って眠ったようだ。
俺は隣に寝転がり彼のおでこにキスをした。
早く良くなります様に…
しばらくそうしていると彼の潤んだ瞳が開いて俺を見ていることに気づいた。どうしたのかと顔を覗くと掠れた声で言った。
「にぃちゃん…エッチしたい…」
流石にこんな状態のシロを抱いたら俺が気が気じゃないだろう。
意識が混濁してると思いこちらを伺う彼の頭をよしよしと撫でた。
すると彼はおもむろに布団の中でゴソゴソし始めて小さく喘ぎ始めた。
「ね…触って…」
小鳥の様な小さな声で俺を誘う。
「シロ、熱あがっちゃうから大人しくしてて…手も出して?」
そう言って布団の中の手を出そうとすると逆に震える手に掴まれて俺の手はシロのモノにあてがわれた。
熱で熱くて半立ちのモノを優しく扱くと俺の胸の下で小さく喘ぐ…
何でこんな時に…と苛立ったがかわいい唇から漏れる熱い吐息と潤んだ目に見惚れてしばらく弄った。しかし足りない様子で、冷たい手が俺の手の上に重なりいつもの強さで扱き始めた。
「…ぁあん…んっ…ふぁっ…んん…」
俺の胸元に顔を埋めて喘ぎながら自慰する姿は卑猥で興奮する。いつもより唇が赤くなり頬も紅潮している。かわいい…
「に…ちゃん…挿れて…?」
「シロ熱が下がってからにしよう…」
「やら…いまして…」
聞かん坊の様にごねる彼を突き放すこともできず、俺は布団を剥ぐと彼のズボンを下げて剥き出しになった彼のモノを咥えて扱いた。
口に入れるといつもより熱いのがよく分かる。オレが口で扱くと、あの子の体は跳ねて反応する。ここから見える乳首が可愛くて指で捏ねると身をよじってよがる姿がすごくかわいい。
「…ねぇ…挿れたい…」
言われるままに彼の穴を指を入れて広げていく。
「ぁあああっ…んんぁあ…はぁ…んん…」
可愛く喘いで腰が震える。中はすごく熱い…指を増やしていく度に気持ちよさそうに体がうねる。俺はあの子の口にキスすると自分のモノをシロの中に挿入した。
熱い…!!
「あぁあっ! んん…きもちいぃ…んん、にいちゃあん…あぁん、もっと…もっとぉ…」
シロの両手を頭の上で押さえて腰を動かす。
熱くてきもちいい…
シロの顔を見ると潤んだ瞳から涙が落ちて、赤く紅潮した唇は半開きになって喘ぐ度に歯と舌が見える。かわいい…すごく可愛くておかしくなりそうだ。
分かってる。これも全部自傷行為だ。
この人はこうやって自傷する。
自分が嫌いなシロの自傷行為を彼が望むなら俺は幾らでも手伝う。
果てて満足したのか大人しく眠るシロ。
まだ息は荒く首筋の血管がドクドク脈打つ。
何もこんなに弱ってる時にする事ないのに…呆れてしまうくらいこの人は自分が嫌いだ。
きっと兄さんにもねだったんだろう。
生まれつきなのか育った環境のせいなのか…自分が嫌いで自分を苛めるのが好きみたいだ。
好きでもない相手に抱かれたり…
卑猥な格好で踊ったり…
この子、死にたいのかな…
肩で浅く呼吸する彼を見て頬を撫でる。
シロも湊みたいに死にたがってるのかな…
頬にあてた手を首に滑らせ湊の首を切ったときの様に指で撫でる。
胸がギュッと締め付けられて動悸がする。
この子が死んだら…
すっかり溶けてしまった氷嚢を持ってベッドから降りた。
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