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第18話

「シロくん!オレ達新婚だよ?」 陽介先生は貴重なレッスン時間をずっとこんな調子で浪費していく。 ストレッチが終わっても続くようなら1回怒ってみよう… オレは少しムッとした顔で先生を見た。 「ズキン!」 オーバーにリアクションして倒れる陽介先生の今後が心配だよ…。 一通り踊れるようになったオレは細かいディティールを教えてもらっていた。 「かわいい、シロ、かわいい…」 「先生、オレオーディションまでにクオリティあげたいよ。こんな風になるならもうお店出禁にするよ?」 オレが言うと、またズキン!と言って倒れた。と思ったら起き上がってキリッとした顔をした。 「ごめん!ちゃんとやらないとね!シロの踊りに影響したら大変だ…オレのシロが恥をかかないようにしないと!」 そう言って細かい部分を丁寧に教えてくれた。 少し時間がオーバーしたけど満足のいくレッスンが行えた。 レッスンが終わり、スタジオの端で座って着替えていると先生が寄って来た。 「シロくん…あの人とどこまでしてるの?」 好奇心の塊なんだな… 「先生?あんまりこういうの興味持たない方が良いですよ…ショック受けてたでしょ?こんな話やめましょう」 オレがそう言って話を終えると先生は膝をついて座りオレに近づきながら言った。 「あれはシロくんが可愛くて固まってただけだよ。あんな甘え方して…あの人はズルイ!」 この人面白いな…変な人。 オレは着替えを終えて立ち上がった。 「ご飯一緒に行かない?」 「あ…約束してるから、また今度で」 オレは先生の誘いを断るとスタジオを後にして約束した店に向かった。 「シロ」 小洒落た店の前に大きな男発見。 「依冬!」 オレは人目も憚らず抱きつくと胸板にスリスリして彼にマーキングした。 「急にごめんね、今レッスン帰りなの?」 雑談しながらお店に入る。 「いいよ、別に。それより待った?」 店内は小洒落たアンティークな雰囲気で観葉植物が所々に置かれている。 照明も薄暗くてムーディだ。 店員が来てオレ達を案内する。 意外と男2人って組み合わせ多いんだな… みんながみんなゲイなわけじゃないと思うけど… 案内された席は外が見える窓辺の席だった。 ラッキー!とメニューを見てみるとまた英語だらけなので依冬に任せてしまった。 「この前道で会った時さ、父親がお前が前の彼女と別れたって言ってたよ?あの子新しい彼女?」 話題が唐突すぎたのか依冬が一瞬固まった。 「振られちゃったんだよね…父が別れさせ屋みたいなの雇ってさ…あの人とはお見合い中なんだ」 ふぅん…と言って窓の外を眺めた。 オレはそんな話お前から聞いてなかったから… 「この後美容室に行くんだけど、今度は何色がいいと思う?」 オレは依冬に向き直ると気を取り直して話題を変えた。 「うーん…俺は赤い髪のシロがいいと思う。」 頬杖をついてニコニコ笑う依冬。オレはこの顔が好きだ。 かわいくて…無邪気だから。 「じゃあ、緑は?」 色んな色を聞いてみたけど、依冬は赤が良いみたいだ。 また赤に戻すのも悪くない。 料理が運ばれてテーブルの上に並んだ。 今してるダンスの練習の話やトレーニングの話をしているとオレのトレーニングに興味があるのか、依冬がしつこく聞いてきた。 「筋トレって何するの?」 「腕立てとか腹筋はいつもやってるから、プラス、ランニングとかインナーマッスルを鍛えるやつ」 確かに依冬は筋肉質だけど、オレのトレーニング方法は聞いてもお前の筋肉にはあまり参考にならないと思うけど? 「ねぇ、何でそんなに知りたいの?」 オレはサラダを食べながら依冬に聞いた。 そしたらあいつはオレの目を見て言った。 「シロの細い体が好きだから…」 オレはその言葉をどう受け取ったら良い? 一瞬考えて沸沸と嫌な気持ちが沸き起こるのがわかった… 「湊に似てるから?筋肉つくとやなんだ。」 吐き捨てる様に言ったオレの言葉に依冬の食事の手が止まったのが見えた。 オレは依冬を見上げて追い込む様に言った。 「そうなんだろ?」 「違うよ」 「何で嘘つくの?」 「嘘じゃないよ」 「別に良いじゃん…」 「だって俺そんな風に思ってないよ」 「もう良いよ…」 そんな言葉の応酬で、すっかり場がこの店の照明と同じように暗くなってしまった。 また外に目をやって違う話題を考える… このまま暗い雰囲気なんて嫌だから… 「この前新大久保のお店に衣装借りに行ったらSMダンス対決になってさ…オレが勝ったんだよ。YouTubeに上がってるらしいから見てみてよ。」 依冬を見ないで明るく話すけどオレの新しく提供した話題に反応がなくて食べるのをやめ依冬の方を見た。 彼は不満そうに黙ったまま手を止めている。 「なんだよ…だって本当の事じゃん…」 「何にも知らないでしょ…」 オレを睨む様な目で見る依冬に動揺する。 やめろよ…オレはお前の敵じゃないのに… そんな目で見るな… 「…湊とお前のことを?知りたくもないよ。そんなに大切な思い出なら、オレで汚す前にもうこうして会わないほうが良いんじゃない?」 鋭い刃物の様な言葉を投げつける。 依冬は目を伏せてオレから視線を外すと悲しそうな声で言った。 「…もう良いよ、シロ。あの時の事、怒ってるんだね…」 「怒ってない…」 居心地が悪い…もう帰りたい…消えたい… 沈黙とこの空気に耐え切れずオレは依冬の方を睨んで言った。 「もう帰る…」 オレが席を立とうとすると、依冬はオレの手を掴んできた。向かいの席から隣の席に移動してオレの顔を覗いてゆっくり言った。 「ごめんね…傷つけたよね…でも、俺はシロの事が大好きだよ。」 なんだよ、これ… まるであやされるガキじゃねぇか… 「もういい…オレ帰りたい。離して。」 「シロ…待って。」 オレは依冬を置いて店を出るとタクシーを拾って乗り込んだ。 もうここにいたくない… もう会いたくない… もうお前なんて知らない… お前なんてずっと湊でオナニーしてればいい…大嫌いだ 美容室近くでタクシーを降りた。 予約よりも早い時間に行ったのにいつもの店員さんは快くカットとヘアカラーをしてくれた。 「今日は何色にする?」 「ピンクにしたい」 「かわいいね、それにしよう」 すぐ準備がされてYouTubeを見ながら待つ。 この色にしたらどの衣装が似合うかな… どうでもいい事をぼんやりと考えながら頭を空にして動画の内容だけただ流し見した。 「わぁ、よく似合うね!」 既にブリーチのかかったオレの髪はあっという間に薄いピンクになった。 美容室を後にして街中を何となくふらつく。 レッスン用に下に履くスウェットを買った。 あと虎の抱き枕を買って家に帰った。 家に着くと依冬がオレの帰りを道端で待っていた。 こちらに気づいて近づいて来る。 まさかいるとは思わずびっくりしたけど、頭にきていたオレはそれを気づかれない様に歩いた。 「ピンクにした…」 オレは依冬の前に行ってそう言った。 依冬はオレの髪を触って撫でると笑いかけながら言った。 「かわいいよ」 「嘘だ」 「シロ」 「もう話したくない」 「なんで…」 うん…わかんないよ、もう話したくないんだ。 オレの手を掴んで振り向かせるけど、オレはもうダメみたいだ… お前の声も姿も見たくない。 「オレは湊じゃないから…もう付き纏わないでよ。オレはお前の好きな人じゃないから!」 オレがそういうと依冬はオレを引き寄せて抱きしめた。…お前はそうやって荒れるオレを落ち着かそうとするけど、もうダメなんだ…お前なんてもう大嫌いになったから… 「オレのこと構わないでよ!…お前も勘違いしてるだけだよ…もうほっといてよ!」 そう言ってお前の腕を振り払った。 これって兄ちゃんの時と同じだ…。 もうやめろ…依冬を傷つけるなよ… 兄ちゃんみたいに死んじゃったらどうすんだよ… なんで…なんでこんなにオレは弱いんだろう。 18:00  三叉路の店に行くと店の表で楓が男といちゃついていた。 「楓、おはよ」 顔も見ないで声を掛けて中に入る。 エントランスの支配人に声をかけて階段を降りる。鏡の前に座ってメイクをする。 表情が曇って暗い… 依冬との事切り替えられずに引きずってるのか…自分がほんとにめんどくせぇ… 後から入ってきた楓が葉っぱを吸いながら入ってきてオレの目の前にかざして聞いてきた。 「シロも一口吸う?」 「うん…」 オレは口を開けてそれを咥えるとタバコを吸う様に吸った。 「シロ、もっと吸って」 楓の声にオレは2、3回深く吸い込む。 この程度だったら少しハイになるくらいだ。 暗い気持ちでステージに立ちたくなかったオレは言われるままに葉っぱを吸った。 「楓、それ見つかったらクビになるよ」 オレはいつまでも煙を燻らす楓に忠告した。 既に室内は煙たいくらいになってる。 「シロはお利口さんだね?僕は悪い子なの。だから前のとこもクビになったのかなぁ…」 衣装に着替えるためパン1になるオレの肩に後ろから顔を乗せて体を触ってくる。 「楓、離して」 オレは刺激しない様に静かにお願いした。 「この前来た彼氏がね?シロの事気に入って、きっとすごく気持ちいいって言うんだよ?」 オレの体を撫でる楓の手がいやらしく動く。 「試しても良い?」 耳元でそう言うとオレのパンツに手を入れてモノを扱き始める。 「楓!やだ!離してっ!」 180㎝を超える楓に覆いかぶさられると細身とはいえまともに抵抗すら出来ない。 「かわいい…確かにかわいいね、シロ?口でしてあげるよ?僕上手だから!」 オレを座らせて股の間に入るとパンツを膝まで下げてオレのモノを咥え始めた。両手を掴まれて抑えられたオレはただ楓のフェラを耐えるしかない。 「シロ、かわい…気持ち良くなってるよ?早く声が聞きたいよぉ~」 完全にハイになってる楓のフェラは止まらない。ねっとりとオレのモノを舐めたり口で扱いたりして気持ち良くなる… 「楓…やめて…んっ、ぁあ…!楓!怒るよ…やめて…んっ、はぁ…ん、やだ…」 すっかり反り立ったオレのモノを激しく口で扱く。きもちいい…やばい…イッちゃいそう 「シロの声かわいい…僕の挿れたくなるよ~」 「シロ~?もう19:00だよ?」 時間になっても現れないオレを不審に思った支配人が扉を開けて入ってきた。 「おい、何してんだ?」 煙った室内と腕を掴まれたオレを見て察したのか楓を引き剥がして助けてくれた。 「楓…ハイになってるだけ…いつもは良い子だよ…」 ヘラヘラ笑う楓と怒り心頭の支配人の間に立ってこの状況を納めようとしていたけど、自分の勃起したモノを見てオレは無性におかしくなって裸で笑い始めた。 オレが笑うと楓も笑って、一緒にケラケラ笑いころげた。 支配人はオレも室内にいたから煙を吸ってハイになってると思ったみたいで黙ってパンツを履かせてくれた。 煙を逃すために扉を開けたり閉めたりする支配人がおかしくて指を指して楓と大笑いした。 店内ではカーテンの裏がすごい盛り上がってると思われたに違いない。 しばらく経つとまどろみ始めてオレは楓と向かい合って床に横になった。 「ねぇ楓のフェラ気持ちよかったよ…」 綺麗な顔の頬を触って撫でる。楓は気持ちよさそうにそれを受けてオレに言った。 「シロの声もかわいかった…」 フフフと笑ってまどろむ。 「変な男に引っ掛かったらダメだよ、楓。お前はすごく綺麗で素晴らしいのに…葉っぱを渡す男と付き合うなんて…間違ってる。」 楓を抱き寄せて言った。 猫みたいに体を丸めてオレに抱きしめられる楓は小さい子供みたいで、対極する状況にいる事がひどく悲しかった。 しばらく楓の髪を撫でていると葉っぱの効果も切れ始めて、意識がはっきりしてきた。オレは寝転がる楓にダウンをかけて衣装に着替えると店内へ向かった。 「随分楽しそうだったね?」 店内に行くと常連の客がそう言って聞いてくる。 「ちょっと面白い事があってね…」 オレはDJに曲を渡して急いで裏に戻ろうと客の間を揉まれながら進む。今日は楓にはステージは無理そうだからオレが3回こなさないと… 「シロくん!今日も来てるよ!」 突然腕を掴まれてビビって振り返ると陽介先生がキラキラした目でこちらを見ている。 「先生ごめんね、ちょっと急いでるの。後で必ず顔出すから…離して?」 ぶりっこしてそう言うと簡単に離してくれた。 先生やばいよ…こっち側に来てんじゃん… 「なんであんなに人が多いの?」 支配人に今日のステージのシフト変更を話しながら聞いた。 どうもオレのSMステージがYouTubeで話題になったらしく目当ての客が増えたらしい。 「シロ…サンクス」 なんだよそれ… 「オレSMしないからね!」 そう言って控え室に急ぐ。 完全に寝むりに入った楓を踏まない様に移動して、カーテンの裏にたどり着く。 音楽が鳴ってカーテンが開く。 ステージに出るとまあすごい人だ…。 こんなに人が入るのはハロウィンくらいかな? オレはゆっくり歩いてポールに捕まるとゆっくり回転しながら逆立ちしてポールを足で挟んだ。 そのまま腹筋で起き上がりゆっくり回転しながら降りる。 のんけ率の高さがいつも以上に高い。 踊りの種類を選択しないといけないのかな… 1回目のステージはウォーミングアップの様にゆっくり客の反応を見ながらやった。 既に嫌そうにしてる人も何人かいてウケた。 ダンサーが男だろうと女だろうとストリップに抵抗感のある人はいる。意外と初めにこういう反応をする人ほど熱心な客になったりするから人って分からないね… 1回目のステージを終えて控え室に戻ると急いでDJの所に行って客層を聞いた。反応が掴めなくて正直オレには何が正解か分からなかった。 「ね、どの路線で行ったら良い?」 「スーパーハード」 オレが尋ねるとそう即答するから驚いてDJの顔を覗き見た。 「ピンクの髪のスーパーハードで」 「なんだ、それ…?カッコいいな!」 オレはわははと笑ってそう言うと急いで控え室に戻った。 「いいね、オレのスーパーハードをお見舞いしよう…」 さっきまで客に合わせた踊りを考えていたけど、オレのステージだ。 好きに踊ればいいんだ。 葉っぱでハイになったおかげか度胸もついた様で、オレは衣装を新しく選んだ。 「これにしよう…」 今日は人が捌けるまで店内にはいかない。 床で眠る楓を愛でて時間を潰す。 2回目のステージはハードに行く。 衣装は繋がったボンテージだ。これでポールを回るのって生地が引っかかるから結構しんどい。 カーテンの前に立って深呼吸する。 ふと楓が寝言でお兄ちゃんって言ったのが微かに聞こえた。 …あぁ、お前もお兄ちゃんいるんだな。どんな人? 大音量の音楽が鳴る。 まずはハードに行こう… カーテンを開けてステージに行く。 音楽に合わせていやらしく腰を動かして仰け反りそのまま客の方に頭を向けて仰向けになる。 あ…埃が見える… その後うつ伏せになり腰だけ上げる。そのまま足を広げて手を上に上げながら体を起こす。 反動を付けて立ち上がり走ってポールに飛び乗ってガンッとすごい音を鳴らす。 音楽に乗せて頭を揺らす。きもちいいな… 片方の脇の下と太ももでポールを挟んで上で体を逸らす。もっと、顔を真上に向けて高く上げた足が見える位に体を逸らして回る。そのまま手でポールを掴んで背中と足でポールを挟んで頭を下に向け回りながら前面のチャックを腰までゆっくり下げる。手を持ち替えてポールを足で挟んでから体を逸らして肩から袖が落ちる様に揺らす。 オレの上半身の繋ぎが脱げて肌が露出する。 ゆっくり反り返り手を床に付けてバク転しながら離れると前屈しながらチャックを一気に下まで下ろして服を全て脱ぎうつ伏せになる。今日の肌着は黒いボクサーの皮パンだからはみでたりするのを気にしなくて良くて動きやすい。 常連客がオレにチップを咥えさせる。 そのまま猫の様に後ろに腰を引いてチップ回収に行く。 「楓の、してーーー‼︎」 なんて通な声が上がるから、オレは声のする方に手を向けてガオー!ってした。 陽介先生がとうとう口にチップを挟んで寝転がっている。どうしよう… オレは陽介先生の上に片膝を立てて跨って乗ると指でピッと引っ張ってチップを取った。そのまま立ち上がり先生を見下ろしたまま左足を思い切り後ろに振った。その動きを見た時の先生の顔が面白くて…笑いながら先生の上で思い切り体を振り切ってバク宙を飛ぶと先生の顔の横に左手をつけて立ち上がった。 我ながらかっこよくきまった!と思った。 これでフィニッシュした。 常連客が最後の技に興奮して叫ぶ。 まさかあそこで飛ぶと思わなかったでしょ? 先生のビビった顔が面白かった…ウケる。 今日は人が多くて怖いからチップは取りに行かない。楓はとうとう小さくイビキをかきはじめた。寝れなくならないかな…と心配して楓の鼻に指を入れた。 次の衣装はどれにしようかな… 楓の髪をいじりながらぼんやり眺める。 寝顔…かわいい… 騒がしい店内の音が漏れ聞こえる静かな控え室で オレは背中を丸めて楓の鼻をまたいじった。 スーパーハードを目指す3回目のステージは逆に私服を着た。 裸足で黒のダメージジーンズとぶかいTシャツ。 下着まで私服にした。水色の水玉ボクサーパンツなんて、生活感あるだろ? 服だから滑ったら顔面いくな…まぁいいか… あっという間にステージの時間になる。 オレは音楽がなる前にステージに上がった。 驚いた客がこっちを見るけど、そのままステージの上にあぐらで座って客に笑顔を向ける。 スカのリズムが荒れる音楽が始まる。 あぐらの状態からゆっくり逆立ちする。そのまま体を逸らして足をつけて体を起こす。ほら、私服の方がグッとエロく見えるだろ? Tシャツがめくれて見える肌はチラリズムの基本なのかな…? 女性客の食いつきが良い。 そのままポールに近づいて木をよじ登るみたいにゆっくり登っていく。上で体を逸らして回って手を下のほうに持ち直す。そのまま顔を下に向けて一気に滑り落ちる。 女の子のキャッ!て声が聞こえた。オレも内心キャッ!だよ… 顔面スレスレに落ちると今度は上の方に手を持ち替えて体を仰け反らせて回る。そこでTシャツを普段の様に脱ぐ。手を伸ばしてさらに上の方を掴むと左足で反動を付けて右足を上に上げ絡めてまた上に登る。 逆さにぶら下がってズボンのボタンを外してチャックを開く。 手を持ち替えて上と下踏ん張る様に持つと足を上下に開きながら回る。爪先が頭に乗る様に顔を逸らせて腕だけで支える。正直1番キツイ… その後背中と太ももでポールを挟んで一気に下に落ちるとその勢いのままズボンを下まで下げてジーパンを脱いで蹴飛ばした。 ほら、オレの部屋着だぞ。 「シローーーー! ︎抱いてぇーーーー!」 水色の水玉パンツの効果だ… そのままポールにファックするみたいに腰を動かすと女性の歓声が沸き起こり、オレは半ケツ出しながら床ファックした。 オレの水色の水玉ボクサーパンツにチップを挟ませて口で渡す客には口で受け取る。 先生…また寝転がってるね…口には大量のチップが咥えられている。へぇ…すごい量だね 今度はどんな怖い目にあいたいの? オレは陽介先生の頭を挟む様に膝をつくとお腹に顔を置いて腰を引かせる。先生の体に乗せた手で体に触れて指先でなぞり腹から胸、首元から顔をなぞっていき頬を両側から掴んで唇に軽く触れる様にチップを咥えた。 目を見ると完全にオレにハマっちゃってるね… レッスンに響かないなら上客の出来上がりだ。 前屈しながらゆっくり立ち上がると踵を返してステージ中央に戻る。 腕立て伏せを何回かしてその後膝を開いて状態を起こし腰をいやらしく動かす。 「シローーー!! ファックしてーーー!!」 その後勢いをつけて立ち上がってフィニッシュした。 女性の食いつきが良くて良かった。 オレ今日頑張ったよね… 控え室に戻り楓の隣に倒れる。 体中が痛い…。 明日絶対筋肉痛だ… 支配人が来て大盛況に大喜びしてる。 今がチャンスとオレは手を合わせてお願いした。 「楓の事クビにしないで…」 支配人はしばらく寝る楓を見ていたけど、分かったと言って居なくなった。 今日はオレの飲み物タダにしてくれるって。 ただ今は横になりたいよ… やっと立てる様になり陽介先生に会いに店内へ向かった。 約束したから仕方ない… オレが現れると店内はわぁっと盛り上がった。 「シロ、最高だった!」 「シロかわいい!お姉さんの所においで!」 うわ…すごいなぁ… そんな感じでチップをもらったり揉みくちゃになりながら進む。その気になった女の子やその気になった男の子に絡まれるけど、適当に話してチップをもらう。 なんとかカウンターまで来ると向井さんが居た。 オレは手を広げる向井さんに抱きつきにいき、顔を擦って甘えた。 「今日は大変だったんだよ?楓が寝ちゃったから…オレ1人しか居なかったんだよ~偉い?頑張ったでしょ?」 向井さんの顔を見上げながら言うと偉かったね、と頭を撫でてキスをくれた。 向井さんの胸に顔を置いて甘えると視線の先に陽介先生が居てこちらをニヤニヤ見ていた。 「…先生さぁ、日に日に慣れてくるのほんとに心配だよ。ゲイになっちゃうよ?」 そう言いながら陽介先生の隣に座った。 「シロくん!バク宙すごく綺麗だね!あれ、なかなかあの正確さで決まらないよ?やっぱりオレの嫁は凄いわ…しなやかかつパワフルだね。」 先生のバク宙講義を聞きながら向井さんを見る。 彼もオレをたまに見て微笑みかけてくる。 早く彼に甘ったれたい… 「ね?だからあの状態でバク宙するってめっちゃ高度なんだよ?わかる?」 「分かんないよ…先生を踏んでも良いと思ってやったんだよ…」 わざとそう言って先生を煽って笑う。 「そういえば先生、沢山チップくれたね。ありがとう~」 お礼を言うと嫁のためなら!って言ってマスターがまたクラッカーを鳴らした。 あんたらコンビなの…? 「シロ…」 ワイワイ騒いでいると後ろから声をかけられた。 振り返ると依冬がいて隣に新しい彼女がいた。 え、普通こんなとこでデートする? 「依冬、来てたんだ。ねぇ、オレ頑張ったでしょ?」 オレはそう言うと依冬の返事も聞かずに笑って席を立った。 陽介先生に帰ると挨拶して、向井さんに目配せする。 じゃあね、と言って通り過ぎて控え室に行った。 あ、楓を起こさないと… 控え室でスヤスヤ眠る塊を見て思い出した。 優しく揺すると小さく呻いて目を開ける。 「シロ…おはよ。泣いてんの?」 「うん…楓がかわいくて泣いたの」 オレはこの窮地を逃げずに乗り切ったのに、最後の最後で現れた依冬に動揺してホロリと涙がこぼれてしまった。 早々に帰り支度をして店を出る。 出口には向井さんが立っていて待っていてくれた。 駆け寄り抱きついて腰に手を回して彼を捕まえる。 「ねぇオレの家に送ってって」 オレが言うと良いよと言って髪を撫でた。 「疲れた…」 「おんぶしてあげようか?」 「今日楓が控え室で葉っぱを吸いはじめてオレも貰ったんだけど、楓はハイになって寝ちゃったんだ…」 オレが言うと危ないよ、と向井さんが言った。 「どこから手に入れたか分からない薬物と葉っぱは吸わないで。何が入ってるか分からないから…もしシロが欲しいならオレが持ってきてあげる」 そう言って良いね?と念押しすると車のドアを開けた。 あんた何もんだよ… 「今日の1番良かったところは?」 助手席に足を抱えて座りながら向井さんの方を向いて甘える。 「全部好きだけど、1番を決めるなら…先生の上をバク宙した時かな?あれは痺れたなぁ~」 でしょっ?と笑う。 「シロは運動神経が良いのかな、細い体なのに良く動くね」 オレの体をさすって細さを確かめるみたいに腕を握った。 ところで、と急に声の調子が変わる。 なんとなく何を聞かれるか察した。 「依冬くんと何かあったの?」 オレの反応を見る様にこちらに視線を送る。 オレはその視線が鬱陶しくて窓の外を見ながら素っ気なく言った。 「…ん、よく分かんない…」 「そう…困ったら言うんだよ…」 うん、と短く言うと向井さんの腕に頭を乗せて目を瞑った。 この人があれこれ言わない大人で良かった… 家の近くについてオレはお礼を言ってキスすると車から降りた。 後ろを振り返るとオレが部屋に入るまで確認すると向井さんは車を出して帰っていくのが見えた。 とりあえず今日買ったトラの抱き枕で寝よう…。 そう思って袋から出そうとガサガサやると、ノックの音がした。 向井さんかな…? オレが扉を開けるとそこには依冬がいて体をねじ込む様に強引に中に入ってきた。 「オレ今日疲れてるから…帰れよ。」 臨戦体制のオレに比べて依冬は落ち着いていた。 腕を伸ばすとオレを引き寄せて強く抱きしめた。 「やめろよ…なんだよ!」 なんでオレはこんなにも荒れるんだろう… 依冬の体は変わらずあったかくて気持ちいいのに… 「シロ、ごめんね。ごめん。許してよ」 オレに縋る様に抱きしめながら哀願してくる。 オレはあいつの胸板に手を置いて力一杯押しのけるけど、まったく動く様子はない。 依冬の服からさっきまで一緒にいた女の子の匂いがした… 「シロどこにも行かないでよ…」 オレの首に顔を埋めてきてあいつの熱い息が首にかかる。 あったかい体に絆されて突っぱねたオレの腕の緊張がだんだんと解けていく。 「なんで構うんだよ…」 小さい声で尋ねると同じくらいの声で返して来る。 「シロ大好きだよ…俺から離れて行かないで」 「…」 オレの背中から手を滑らせて頭に添えると自分の体に押し付ける。 「やだ…お前はオレのじゃないから…やだ…」 口ではそう言うけどオレは依冬に触れたくて仕方なかった。 抱きしめたい。胸元に顔を埋めてすりすりしたい…キスしたい…。 なのにオレは依冬への怒りが収まらなくて酷い言葉を浴びせる。 「お前なんか知らない…! 嫌いだ! もう2度と会いたくない!大嫌いだ!」 そして彼の胸元をぐっと押して引き離す。 彼の体がフッと離れていく。 なんで…もっとオレをキツく抱きしめてよ… 「ごめん…」 そう言って彼が部屋から出ていく。 肩から力が抜けてドアの前に立ち尽くす。 またやっちゃった… オレ、依冬に触れられなかった… 残った彼の暖かさを感じる様にオレは自分を抱きしめてベッドに伏せた。 …依冬もう来ないかも… そう思うと悲しくて涙が溢れる。 素直になれれば良かったのに… そしたら今頃はあいつのキスでとろけているはずなのに… 甘い彼の声や体温を思い出す。 「にいちゃんの時と同じだ…」 どうしていつも自分はこうしてしまうんだろう… もう…ほんとに嫌だ… 14:00 アラームの音で目覚める。 支配人からメールが来ていて昨日頑張ったから今日はオレはオフになった… 本来なら喜ぶ所だが、家にいても悶々とする。 いっそ仕事でもした方が気が紛れるのに… トラの抱き枕を袋から出して値札を外す。 ギュッと一度抱きしめて枕元に置いた。 「湊と比べてないのに…勝手に動揺して怒ってバカなのはオレだよな…」 トラの抱き枕を触りながら呟く。 そんな本音を1人で呟いた所でなんの解決にもなっていないのに… ただ虚しく部屋に響くだけだ。 依冬にもう会えないかも… 「なんで…あんな風にしちゃうんだろう…」 俯いて手を見る。閉じたり開いたりして手を動かして遊ぶ。 何やってんだろ…オレ 堂々巡りする頭にうんざりして溜まった洗濯物を洗いに出かける。 洗濯が終わったら買い物にでも行こう… 洗濯物をカゴに集めて入れているとオレの携帯が鳴った。 「もしもし…ん、起きてるよ。今日はオフになったから…うん、そう?ほんと?分かった、じゃあ19:00位に。うん、じゃあね」 向井さんからの連絡電話だ。 19時に夜ご飯の約束をした。 向井さんの家でご馳走してくれるらしい。 美味しいの作るかな…と期待してオレは洗濯カゴを持ち上げてコインランドリーへと向かった。 ランチも終わったこの時間、人は多いけどみんな忙しなく動いてる。 のんびり洗濯するのはオレくらいなもんか… 秋晴れとはいえ…日向は暑いのに日陰になると寒い…上着着てこれば良かった… コインランドリーで洗濯をする。これは日常のルーティンだ。だってうちには洗濯機がないから。この作業をサボるとオレは着る服があっという間に無くなるんだ。 今日のご飯…何食べさせてもらえるんだろう… お腹がぐー、と鳴った。

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