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第19話
買い物がてらに新大久保へやってきた。
KPOPのダンスを参考にしているせいか、今までとは違った視点で新大久保を歩いてる。
あ、あのアイドル知ってる…
店外に飾ってあるポスターの顔が誰なのか熟知してしまっていた。
服が欲しいオレは洋服屋に入ってTシャツとアイドルのポスターを買った。
YouTubeの見過ぎで軽くKPOPアイドルのファンになりかけている自分がいる。
この子踊りキレキレでかっこいいんだもん…
ベッドの脇に貼ろう…ドキドキ
小腹が空いたのでよく行くお店に入った。
韓国人経営の本格的な韓国料理のお店だ。
キムチがおいしてくすっかりハマっている。
席に案内されて座る。
「あれ?シロさん?」
大学生くらいの女の子3人グループに声をかけられた。
「ごめん、誰か分からないです。」
オレはそう言っておばちゃんにソルロンタンとポッサムを頼んだ。
夜はご馳走になる予定なのに、すっかり忘れて沢山頼んでしまった。
「あ、私、依冬の彼女です。」
え…やだ、絶対話したくないんだけど…
「ごめん、ご飯食べたいからまたにして。」
オレは塩対応して携帯に目を落とした。
「じゃあ、ご飯が来るまで…良いですよね?」
迷惑だからやめろと言う友達の制止も聞かないでこちらに向かって来る。
この女の子は何なんだ…
呆れて視線を外す友達を尻目に1人オレの向かいの席に座ってこちらを見る。
…なんかこの子怖くてやだ
「この前お店でお会いしましたよね?YouTubeで話題だから見てみたいってお願いして依冬に連れて行ってもらったんです。あの時も塩対応でしたよね?友達なのになんで?って思いました~。」
早くご飯来ないかな…この子怖い
「何か用なの?」
オレはその子の顔を見て聞いた。
髪の毛を指先でいじりながらこちらを伺う様に言ってきた。
「シロさんてゲイですか?バイですか?」
「なんで?」
「依冬とは寝てますか?」
「何言ってんの?」
「依冬とそういう関係ですか?」
「君失礼だよ。オレ、君と話したくない」
オレはそう言って手でしっしとした。
「否定しないんですね…ふぅん…」
そういうと彼女は怒った様な顔をしてこちらを睨んできた。
「初めは親の勧めで会いましたけど、今私依冬の事が大好きなんです。もう近づかないでくれますか?あなたに塩対応された後の彼、すごく可哀想だった!」
そう言って席を立つと友達を連れていなくなった。
やな女…揉めて別れれば良いのに…
どうせ昨日の夜、オレの家に押しかけるためにあの子は無理やり家に帰されたんだろ…。
あいつとセックス出来なかった八つ当たりかよ…
「何あの子?」
「知らない」
店のおばちゃんにそう言ってオレは出されたソルロンタンと、ポッサムを食べた。
キムチもちゃんと付いてて美味しかった。
オレは別売りのキムチを買って店を出た。
依冬と同い年くらいなのかな…気が強い子だったな。
面倒臭そう…
好きなら付き合えば良いじゃん…勝手にさ…
オレの知ったことかよ…
考えたくなくてひたすら意味もなく歩いた。
気がつくとオレは新宿御苑まで来てしまった。
紅葉を見に来てるのかな…夕方なのに人が多い。
御苑を通り過ぎてまだ歩く…このまま歩いて六本木まで行けるのかな…そう思ってひたすら歩いた。どんどん暗くなり街灯の灯る景色に変わる。
今何時だろう…?
まぁいいか…
オレは時間を気にすることなく歩いて六本木までたどり着いた。
ピンポン
向井さんの部屋の呼び鈴を鳴らす。
「遅かったね、心配したよ?」
そう言ってオートロックの自動ドアを開けてくれた。
時間を確認すると8:30…そんなにかかったんだ…
歩くの遅かったかな…
向井さんはオレが新宿から歩いてきたと話すと驚いて、電話したのに出なかったことを注意された。
頭を空っぽにして何にも邪魔されたくなかったんだ…
あんなに食べたのに歩いたせいかお腹が空いた。
「お腹すいた…」
そう言うと、向井さんはオレの後ろに抱きついて首元に顔を埋めてきた。
背中があったかくなって気持ちいい。
オレはそのまま向井さんの方を向いて抱きついてキスした。
「ご飯温め直すから待ってて」
そう言って離れていきそうになるから、オレは向井さんの腰にしがみついてついて行く。
今日の向井さんはエプロンを付けていて妙に可愛く見えた。
「昨日頑張ったからお休みになったんだけど、何もすることないから新大久保に行ったんだ。」
料理が乗ったテーブルで向井さんと隣同士に座って楽しく過ごす。
兄ちゃんとご飯を食べてるみたいで、嬉しい。
「シロ、YouTubeで話題になってるみたいだね。これからファンがどっと増えるね」
オレの方を頬杖しながら嬉しそうに眺めている向井さんが兄ちゃんに似ていて、褒められて嬉しくなった。
客が増えるのは良い事だけど、人が苦手な自分はもてはやされるのが嫌いだった。
「人は嫌いだよ…」
ポツリと言った。
「人が嫌いなの?」
オレの髪を分けて表情を見ながら向井さんが聞き返した。
「人なんてみんないなくなればいいのに…」
「どうしてそう思うの?」
「…汚くて自分さえ良ければいい癖に…良い人ぶって嘘をつく…ファンが増えたって得体の知れない人が増えるだけで…怖いしか思わない。」
両腕をテーブルに置いてそこに頭を乗せると向井さんの方を見ながらそう言った。
「人が怖いの?」
オレの頭を撫でて聞いてくる。
その手があったかくて気持ち良くて目を瞑る。
「人は怖いよ…嘘つきで傲慢で必ず裏切る」
「傷付けられるのが怖いんだね…」
嫌だ…傷付けられるのは悲しくなるし…自分のせいで人を傷つけるのも怖い…
「依冬くんもシロを裏切ったの?」
変わらず優しく撫でる手に安心感を感じながら目をうっすら開けて答えた。
「いや……オレが勝手に傷ついただけ…」
「仲直りできると良いね…」
その言葉に返答を躊躇ったが視線を外して小さく答えた。
「うん…」
目から涙が落ちるのが分かって下に敷いた腕で顔を拭った。
また一緒に居たいと願うのに自分でそれをぶち壊しに行く…なんの成長もしない幼稚なガキみたいに同じ事を繰り返し続ける自分が嫌いだ…
「シロ眠い?」
お腹が一杯なのと優しく撫でられてうとうとし始めたオレに向井さんが声をかける。
「眠くない…」
そう言って手を上げて伸びをすると向井さんに向かって手を広げて下ろした。
彼はその手を潜ってオレの体を抱きしめる。
「あっちで映画見る?」
「うん」
オレを抱き抱えて、ソファまで運んでくれた。
「片付けするから何見たいか選んでおいて」
そう言ってソファに取り残された。
お皿を集めて流しに向かう姿が兄ちゃんみたいで…ここに1人残された事が不安で、オレは向井さんのところに行くと腰元にまたくっついた。
「手伝う?」
「やだ」
片付ける動き、流しで洗い物する動き、目を瞑って兄ちゃんを思う。
「シロ動き辛いよ…」
「知ってる…」
兄ちゃんにも何度も言われたもん…
でも離れたくないんだ。
もう離したくない。
片付けが終わってまたソファに戻ってきた。
「何見る?」
オレの方を見てそう聞く向井さんの膝に足を乗せて横になった。
その様子を見て寝るの?と聞く向井さんを足で挟んで笑って言った。
「寝ない、横になっただけ。」
オレは映画よりも兄ちゃんとしたい…
手を伸ばして彼を掴んでこっちに引き寄せる。
オレの真上に向井さんの顔が来てオレを見つめる。
「ねぇ…したくなった。」
オレがそう言うと向井さんは顔を近づけてキスする。
舌を絡ませていやらしい音を立てながらキスしてると、頭がじんとしてきて気持ちいい。
「シロかわいい…」
そう言ってオレの首元を舐めて吸う。
体がビクンと反応して下半身が疼く。
オレのTシャツをめくって体に舌を這わす。
オレは身を起こして彼の髪を撫でる。
「にいちゃん…ここも気持ち良くして…?」
オレはそう言って自分のズボンのボタンを外して中のモノを取り出して扱いて見せた。
「かわい…」
目をギラつかせてそう言うとオレのモノを口に咥えて手と舌で扱き始めた。
「んっ、んぁっ…あっ…あぁん…ん、にいちゃん…きもちいぃ…んっ、はぁ…ん」
気持ち良くて顔が仰け反る。
兄ちゃんの指がオレの中に入ってきて…熱い。
もっと汚してよ…兄ちゃん…
オレ兄ちゃんに汚されるの好きなんだ…
オレの中に大きくなったモノを入れてゆっくりと腰を動かす。
「に…ちゃん…んん、きもちい…あっ…あぁ…」
「シロ…かわいい俺のシロ…愛してるよ…」
いつからそんなに甘くなったの…?
そんな事言われるとオレ本気にしちゃうよ…
快感が走って体が反る。
「あぁっ!イッちゃうっ‼! にいちゃあん!! んっ…あぁっ…、や、ん…イッちゃう……!んぁああっ!!」
彼の腕を握りしめて顔を仰け反らせて小さく震えながらイッた。
オレのイキ顔が良かったのか兄ちゃんも一緒にイッてしまった。
快感の後の虚無感…この時間が大嫌いだ。
さっきまで何も考えないでただ快楽を求めるだけのシンプルな時間だったのに…急に現実に引き戻されて行く…
ずっとセックスだけしていたいよ…
気持ち良くなることだけ考えていたいよ
「ん…ねぇ、早く…ちょうだい…あっ、きもちいぃ…すごい、おっきい…」
オレの1番古い記憶。
兄ちゃんがまだ中学生くらいだったから多分オレは2,3才の時、母親はオレが部屋にいるのも構わず知らない男を連れ込んではセックスばかりしていた。
売春していたんだと思う。
「このガキ何見てんだよ!」
男に蹴飛ばされて殴られるオレに母親は鬱陶しそうに唾を吐く。
「こいつ一丁前についてるから勃たせてみようぜ。お前に入れたらイッちゃうかもよ?」
男がオレの服を脱がしてオレのモノをいじる。
悲しいかな、オレのモノは刺激に反応するように意思とは関係なくムクムクと大きくなる。
「あたしその子嫌いなの。その子の父親も嫌い…もし試したかったらあんたがその子に挿れたら?」
大きくなったオレのモノを男が扱いて抜こうとする。
足がガタガタいって力が入らない。
オレを四つん這いにさせると男の指がオレの中に乱暴に入ってくる…
痛くて怖かった。
「もうちょっと大きくなったらこっち系で金取ろうぜ…なぁ、いいだろ?」
痛がって呻くオレに大きくなったモノを入れてファックする。
そんな男にキスして金を数える母親。
オレはこんな狂った世界で育った。
オレを心配した兄ちゃんは部活も辞めて学校が終わるとすぐに家に帰ってきていた。
「シロ…シロ……可哀想」
家に帰るとオレの汚れた体を泣きながら洗ってくれる。
体にできた無数のアザや傷。
尻から流れる誰のかも知らない精液を泣きながら綺麗にしてくれた。
幼すぎたせいかオレは何も感じなかった。
ただそうしないと殴られると思って従っていた。
いつも兄ちゃんが泣いてるから、オレはそっちの方が心配だった。
仕事が見つからずやけになった母親は自宅で売春を繰り返して弟を妊娠した。
母親の腹が大きくなって、もうすぐ弟が生まれそうになるくらいの時期は男の相手は全てオレがしていた。
「ふっ…んっ、はぁはぁ…あっ、んっ…ん」
大きな男の膝に乗せられ男のモノを穴に入れ腰を掴まれ乱暴に動かされる。
「このガキ一丁前に感じてるぜ?こいつでAV撮ったら大儲けしそうだな…」
そう言いながらオレの勃ったモノを扱いて何度もイカせる。
「最近はこの子目当ての客も増えてるから、そういう趣味の人は喜んで金出しそうよね?」
アナルファックを仕込まれ、フェラチオを仕込まれ…よがり方や喘ぎ声まで仕込まれたオレはまるで生きるダッチワイフだ。
こんな生活はオレが小学校に上がるまで続いた。
弟が言っていた兄ちゃんがオレにべったりだったというのは、きっと兄ちゃんがオレを母親から守るために一緒にいた事を切って繋げて言っているのかも知れない…。
「シロ、これあげるよ」
「何か食べたいものはある?」
「シロこっちに来て隠れてて…」
兄ちゃんはオレを可哀想と思って色々世話してくれ守ってくれた。
オレが小学校に上がった頃、母親の仕事が見つかりほぼ家に戻らなくなった。
男が出入りすることのなくなった家は静かでいつも清潔だった。
「シロ…これは?」
「…さかな」
他の子と比べて反応の薄いオレを心配して学校から帰ると兄ちゃんが勉強や友達との遊び方、喜怒哀楽を教えてくれた。
母親が帰らなくなってから、オレはみるみる普通の子供に戻り、忌々しい記憶も奥の方にしまい生活していた。あの自慰を覚えるまでは…
大事に守ったオレが結局肉欲に溺れる様を見て、兄ちゃんは壊れてしまったのかも知れない…。
足りないとねだるオレを愛おしそうに見たのも哀れな弟を愛したのも全部壊れた兄ちゃんの愛情かもしれない…。
そんな兄ちゃんが女とキスするのを見て、オレの寄せ集めの情緒は不安定になりドロドロとした汚い感情を吐き出すだけになった。オレ以外を大切にするなんて認めたくなかった。だってその女はオレより可哀想じゃないじゃないか…
兄ちゃんの方が生きて幸せになるべきなのに…
ただのダッチワイフがいつまで生きるつもりだろう…
汚くて淫乱で目を覆いたくなる程の生い立ちの自分が、誰かに大切にされることなど無いのに…
オレが消えればよかったのに。
目の前で眠る男に兄ちゃんを重ねて…答えも結論も付かない不毛な事をして…
オレなんて死ねば良いのに…
自分が大嫌いだ…
「シロ…寝れない?」
うつ伏せに寝てぼんやりと感傷に浸っていると向井さんが起きてこちらを心配そうに見る。
優しい声でオレを呼ぶ声が心地いい。
「寝てる…」
そう笑って返すのは誰なのかなんの感情なのか自分でも分からない。
混乱した頭の中で生きるのは意外と簡単で、そこには綱渡りするような恐怖はない。問題は誰かと関係を築く時だ。
自分の感情が分からなくて混乱する度に打ちのめされる。
どうも自分は普通じゃない…と。
結局幼い頃から培った情緒ではなく寄せ集めの情緒しか持ち合わせない空っぽの心のダッチワイフでしか無いのだ…。
死にたいと思いながら意地汚く生きるオレこそ、他の人のためにも消えた方が良いと思うんだ…。
目の前の兄ちゃんの寝息を聞きながら体に感じる自分の重さを感じて、このまま潰れてしまいたいと思った…。
「シロ、おはよう」
声をかけられても目の開かないオレに軽くキスすると、今度は舌を入れて熱くキスする。
「んっ…はぁっ…んん、んっ…ふぁ、んっ…」
そのままオレの上に覆いかぶさって首を舐めて耳に熱く息を吹きかける。
「ん…起きた、起きたから…」
そう言って相手を退かすけど、すぐまた寝入るオレの服をまくって体に舌を這わす。
「や、やらぁ…」
「起きて?朝だよ。このまま最後までやっちゃうよ?」
オレは体を横に倒して抵抗した。
「ん~かわいいね。」
そう言うとオレの後ろに寝転がりオレのズボンを下げて尻を出すと自分の大きくなったモノを当ててきた。
「あ、ダメ…!しないで…!」
慌てて起き上がろうとすると後ろからガッチリ掴まれて指で穴をいじられる。
「ん…んっ、あっ…んん…起きるから、起きるからぁ…や、やだぁ…ん、んっ…」
体を逸らして後ろを見ると熱いキスがオレを襲う。
なんだこれ…朝からこんなにきもちいいなんて…
キスしながらオレの中に自分のモノを挿入して腰をゆっくり動かして来る。
抱き抱えた布団にしがみついて快感を感じる。
「んっ、んぁっ…あぁ…ん、はぁ、はぁ…」
「シロ…きもちいい?」
「うん…きもちいよ…」
オレのTシャツの下から手を入れて乳首を撫でる。
「あっ!…あっ…ん、や、やだ…イッちゃうよ…もっとしてたい…気持ちいいの…まだしてたい…」
体を仰け反らせて後ろの相手に頭を擦っておねだりする。
「シロかわい…俺もずっとこうしてたいよ…」
半開きにした目に明るい窓がみえる。
白いシーツが眩しく目に刺さる。
向井さんは白いシャツを着てる…出勤前?
「あっ…んん…はぁ、はぁ…もう起きたから…オレ起きたから…」
「じゃあもうイク?」
「うん…もうイキたい…」
オレがそう言うとすっかり立ち上がったオレのモノに手を伸ばして扱き始める。
「あぁあっ!ふっ…んぁ!あぁっ、あぁん!あっ、んん…きもちい…んっ、イッちゃう…あぁっ…あぁあん!!」
腰が跳ねて朝からイッてしまった。
イッてビクつくオレのモノを綺麗に舐める向井さんを見る。
シャツがエロくて…もっとしたくなる…。
「今度シャツ着たにいちゃんとやりたい…」
向井さんに跨ってうっとりした目でキスしながらおねだりした。
「良いよ。シロのためなら何でもする。」
じゃあもう一回やってよ…と言う言葉は飲み込んだ。
だって出勤しなきゃいけないんでしょ…
フラフラとキッチンに行くとすでにご飯が用意されていた。
主婦みたい…。
「お母さんみたいだね…」
オレが言うと笑いながらご飯をよそってこう言った。
「俺の母親はまぁ最悪だったけど、普通のお母さんはこういう事するんだろうね。」
「向井さんのお母さん、最悪だったの?」
ご飯を受け取りオレが聞くと、うんと頷いた。
この人のプライベート初めて聞いた…
「オレのお母さんも酷かったよ…」
オレは下を向いて小さい声で言った。
その様子を見て向井さんが話し始めた。
「俺の母親は依冬くんのお父さんの恋人だったんだ。俺を妊娠したら相手にされなくなって、捨てられたみたい。その恨みが全部子供の俺に来てね…結局最後は自殺したよ。」
オレの髪を優しく触ってるのに、話してる内容はハードだった。
オレの母親は…と言い出したけど、酷すぎて話せない。下を俯いて唇を軽く噛み締める。
「大丈夫、話してみて?」
オレの顔を包み込んでじっと見つめて来る。
その目が兄ちゃんと同じで…
「オレが2,3才の頃から家で売春してて、オレも客の相手をさせられた。にいちゃんがいる時は守ってくれたけど、オレがすぐイッちゃうのとか、感じやすいのって、多分そういうの染み付いてんだと思う…」
オレが言い終わるかどうかのうちに向井さんの目が歪んで涙が溢れて来る。
どんどん溢れる涙がキラキラ光って綺麗だった。
「だから…人が怖いんだと…思う…」
ポロポロ溢れる涙がオレにも移って、顔の下に手をやると雨みたいに落ちてきた。
こんな事、初めて人に話した…
向井さんを見るとまだ嗚咽を漏らして泣いてるから、オレはギュッと抱きしめてあげた。
「今はにいちゃんがいてくれるから…平気」
そう言って落ち着くまで背中を撫でてあげた。
「ご飯美味しい。」
足をバタつかせて喜ぶと向井さんはまだ赤い目を細めて笑った。
「シロ送って行くからご飯食べたら着替えておいで。」
そう言ってオレの食べ終わった食器を片付ける。
オレは言われた通りに着替えを済ませてソファに座って兄ちゃんの支度を待った。
「シロ、着替えた?」
「うん」
スーツ姿の兄ちゃんがカッコよくて見惚れた。
「おいで」
呼ばれて抱きしめられる。
兄ちゃんのスーツ、良い匂いがする。
「キスして」
腰に手を回して上を見上げておねだりした。
兄ちゃんがオレの頬を包む様に持ってキスしてくれた。
熱くてのぼせそうなくらいのキスで頭がすぐにぼうっとなった。
ずっと一緒にいられたら良いのに…
車で送ってもらい家の近くの道で下ろしてもらった。
この時間人の行き来が多くて慌ただしい。
「ありがとう、にいちゃんまたね!」
そう言って車のドアを閉めた。
人混みに紛れて車の方を見るとまだこっちを見ていた。
にいちゃん心配なのかな…
オレが小さく手を振ると車内で手を振っていた。
時刻は9:00いつもならまだ寝てる時間だ。
家について鍵を開けてドアを開ける。
これが現実か…って感じの狭い部屋に帰ってきた。
持ち歩きすぎてヨレヨレになってしまったKPOPアイドルのポスターをベッドサイドに貼る。
「あ、カッコいい…」
まるでファンだ…いや、オレはファンだ。
今日は11:00からレッスンがある。
寝るには短い時間だし…と思い、オレは少しでも部屋が広く見える様に片付けをして過ごしていた。
本棚の整理をしているとパラリと1枚のポラロイド写真が出てきた。
手にとって見てみる。
写真の裏にシロ3才と書かれている。
あ…これ…
「にいちゃん…」
写真には木の前で棒立ちする3才のオレとオレの手をギュッと握りしめてしゃがんでる兄ちゃんが写っていた。
オレの表情の無さに今見ると薄気味悪ささえ感じる。
兄ちゃんは少し微笑んで見える。
「にいちゃん…にいちゃん…」
さっきまで一緒にいた人と似ても似つかない兄ちゃんの顔。
なのに、どうして自分はあの人を兄ちゃんと思ってしまうんだろう…。
頬に涙が伝うけど、悲しい涙なのか自分を哀れんでる涙なのか分からなかった。
写真の兄ちゃんの指で顔をなぞる。
「にいちゃん…愛してる」
そっと小さく呟いて写真を胸に押し当てた。
これはオレが家を出る時持ってきた唯一のものだ。たしかこの日は土曜日で母親の客からオレを隠すために兄ちゃんが遠くの公園まで連れてきてくれてたんだ。たまたまいたおじさんがポラロイドで撮ってくれた写真。
兄ちゃんが手帳に挟んでいた写真。
遺品整理の時に健太から投げつけられた写真。
いつでも見られるようにここに置いておこう…
ベッドサイドのテーブルに斜めに立てかけた。
唯一の本物の兄ちゃん
あっという間に10:00になりレッスンの支度を始める。
スタジオはそんなに遠くないのでのんびりシャワーを浴びて歯を磨いて買ったばかりのスウェットに着替えた。
今までのよりスリムな感じで今時っぽかった。
歩いて30分位のスタジオに着いた。
受付を済ませて予約しているスタジオの前で先生が鍵を開けるのを待つ。
オーディションまで1ヶ月を切ったけど、あと2回のレッスンで足りるかな…と考え込んでいると後ろから声をかけられた。
「シロ、おはよう。今日もかわいいね、チューして?ハグして!」
「先生、おはよう。」
挨拶をして鍵を開けてもらい、こもった空気の室内に入った。
「今日はご飯行ける?」
陽介先生が窓を開けながら聞いてきた。
「うん、特に予定ないから…」
「やった!」
荷物を置いて靴を履き替える。
「先生、オレここがうまく決まらないんだ…もっと強い感じでやりたいのに、フワフワしちゃってなんか違うんだよね…」
細かいディティールを教えてもらい、何回も何回も同じ曲を踊る。
「ここの時もう少し重心そらしてみる?」
さすが先生は踊りのことに関しては的確で妥協がない。
時間が勿体無い、ぶっ続けで踊る。
「シロカッコいい!」
最後に動画を撮って今日のレッスンは終わった。
この動画を見返して次のレッスンまでに改善点を見つける。
「ねぇ~こんな爆イケの姿、俺しか知らないよ?彼氏さんはこのシロを知らないよ?俺ってある意味シロのスペシャルじゃない?」
先生は着替えをするオレに向かってうつ伏せに寝転がり、かわいく頬杖をつきながら聞いてきた。
「確かに…先生しか知らないね。」
ね?そうでしょ?と食い気味にくる。
「後は俺がシロを落とす事に成功すれば…俺は両方のシロを知る最強の人物になれるんだ!」
いつのまにか立ち上がってポーズをとっている。
「先生って面白い人だね。」
オレは靴を履き替えながらそう言った。
「シロはかわいいよ。」
そう言うとしゃがんでいるオレに近づいて来て真ん前で立ち止まる。
リュックに荷物を入れてチャックを閉める。
目の前の足を見上げると先生の顔が近くにあって驚いて後ろに尻餅をついた。
「ねぇ、シロ。あのバク宙もう一回やって見て?」
もうレッスンの時間過ぎてるのに…と思いつつオレはスタジオの真ん中に移動してあの時のバク宙をした。
「軽いんだよ、まるで背中に羽が生えてるみたいに…!お前は天使なの?シロは天使だったの?」
ご飯の時もこんな調子なのかな…
恥ずかしいな…
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