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第20話
先生の行きつけのお店でお昼ご飯を食べた。
ずっとあんな調子でとても恥ずかしかったけど、一緒にいると元気が出る人で面白い人だ。
あともう少し…頑張って踊りのクオリティを上げて行こう!
家に帰る途中、オープンテラスのカフェに知ってる背中を見つけて歩きながら目で追った。
「依冬…」
依冬はあの女の子とケーキを食べている。
ふぅん…楽しくやってんだな…
オレはわざと依冬の視界に入る位置を通って家に帰った。
あいつ、オレに気づいたかな…
家に着くと洗濯物をカゴに入れた。
汗をかいた体をシャワーで流して服を着なおす。
ベッドに横になりながらイヤフォンを片側に付けて今日のレッスンの動画をループ再生させていた。
毎回"オレの嫁何回目のレッスン"って先生が言うの、ループする度に耳に響いて恥ずかしいからやめて欲しい…
コンコン
ノックの音がしてオレは動画を見ながらドアを開ける。
やっぱり来たんだ…
「シロ、会いたかった…」
上から覆いかぶさるようにオレを抱きしめて部屋に入る。
そのまま奥に上がりベッドにオレを押し倒して自分のジャケットを床に投げ捨てる。
「依冬…待って」
オレの声なんか聞こえてないみたいにオレのシャツをめくり体に舌を這わせて乳首を舐める。跳ねて仰け反るオレの腰に手を入れて引き上げ唇を貪る様にしてキスする。
「んっ…はぁ、ふぁ…んっ…んん、んっ、」
大きく開けられた口から舌の絡む音が漏れて頭の中に響く。
ほのかに甘くてケーキの味がする…
依冬はオレのズボンに手を掛けパンツと一緒に脱がすとオレの足の間に入ってオレのモノを咥えて扱き出した。
「んっ…!んぁっあん…んっ、んんっ…ぁあ」
依冬の頭を掴んで座ったまま顔を仰向けにのけ反る。オレの背中から尻にかけて大きな手を滑らせながらオレの腰を鷲掴みして顔を上下させる。
「ぁあっ!んっ、や、やぁ…ん!イッちゃう…きもちい…あっ、ら、らめぇ…んっ、依冬…!」
突然与えられた激しい快感に頭が追いつかないくらい激しく乱暴にオレを貪る。
「依冬!やらっ!オレに乱暴しないで!」
あいつの髪を引っ張って頭を叩くけど、びくともしない…嫌だ…湊の代わりは嫌だ!
「やだっ!やだぁ!バカ!依冬…!やめて!!」
悲鳴にも似た声で叫ぶとオレの股の間の依冬動きがピタリと止まり顔を上げてオレをみた。
ショックを受けた様なひどい顔で目からポロポロ涙を流してる。
「…ん、なんで泣いてんの?」
オレがそう聞くともっと涙を溢れさせながらオレの腹に抱きついて泣き喚く。
「シロが…シロが……も、会えないと思って……せっかく優しく…優しく愛せたのに……」
胸が苦しくなった…
こいつオレのこと愛してたの…?
呆然とするオレにしゃくり上げながら一生懸命まだ話してくる。
「興奮すると…乱暴しちゃうから……んぐ、またしちゃって…ごめん…シロ…ごめん……」
耳に入れたイアフォンから先生の"オレの嫁何回目のレッスン"の声が流れる…
オレは我に帰って腹の上で泣きじゃくる大男を優しく抱きしめた。
「オレこそごめんね…依冬」
「シロ…シロが好きだよ…大好きだよ……!!湊には…ぁああ…っ、酷い事したから…ああぁ…もう謝れないから…ぁああ…」
お前も…そんな風に後悔してるんだ…。
二度と会えない人に償えない気持ちを持って生きてるんだ…。
オレと同じなんだ…
オレの腹があいつの涙と色々でグチャグチャになる…。
オレはあいつの髪を撫でて落ち着くまで泣かせた。
「これ見て」
オレは依冬を腹に乗せたまま今日見つけた写真を見せた。
「これ、オレと兄ちゃん」
「あの人に全然似てない…どっちかと言うとオレに似てる…あと、シロが…まだ小さいのになんか悲しそうな目だね…」
そう?と見返すと確かに悲しそうな顔してる。
「オレこれくらいの年から母親に売春させられてたから…あんまり表情がないんだ。」
え?
と顔を上げて依冬はオレをみた。
「にいちゃんがいつも守ってくれたんだ…。この写真の時も、男の相手させられない様に連れ出してくれた…」
「このシロ…まだ赤ちゃんだよ?」
「ん…」
「この子に…何させるの?」
「…アナルファック」
「何それ…」
「人って怖いよね…こんな子供相手に出来るんだもん。こんな奴らが大人ぶって生きてるんだもんな…。オレたちが狂ってもおかしくないよな。」
オレは依冬の頭を撫でながら静かにそう言った。不思議と穏やかな気持ちだ…
「…可哀想だよ…こんな…小さい子に……なんで」
その先の言葉が声にならない様子でオレをみて泣く。
オレの頭を撫でながら涙を流す。
そうだよな…とオレは呟くと、依冬から視線を外して小さく言った。
「可哀想だよな…」
オレの腹で激しく慟哭する依冬がまるでオレの代わりに泣いてくれてるみたいで…。
向井さんも泣いてくれた…
兄ちゃんも…
オレが泣けない分みんな泣いてくれてるみたい…
オレは依冬の体をギュッと抱きしめて顔を寄せた。
両手で頬を持って持ち上げるとあいつは酷い顔で…笑っちゃうくらいブスだった。
「優しいね…オレの代わりに泣いてくれてありがとう。依冬…愛してるよ」
そう言って彼の口にキスした。
依冬はブスのまましゃくり上げながらオレに言った。
「こんなに…大きくなるまでよく頑張ったね…シロ…よく頑張ったね…強いよ…シロは強い」
その言葉がすごく心に突き刺さって…
オレは依冬の顔を気の抜けた間抜けな顔で見つめた。
「オレ…頑張ったかな…」
「偉かった…!! 強かった!!」
みるみる自分の顔が崩れていくのがわかる。
極まるってこういう感じなの…?
言葉が出ないくらい嬉しくて…胸の奥から説明できないものが込み上げてきて…オレは依冬に抱きついて静かに泣いた。
こんな事言ってくれる人がいるんだ…
汚いオレの人生を頑張ったと褒めてくれる人がいるんだ…なんて…なんて事だろう…
こんな気持ちを幸せって言うのかな…?
今オレは幸せを感じてる…
いつもの三叉路の店
今日は依冬と同伴出勤だ。
あの後彼はオレに手を出さなかった。というか出せなかったのかもしれない。
聞いた話が壮絶すぎてとてもそんな気にならなかったのだろう。
雑談とオレのダンスの動画を見せてあげた。
これで陽介先生はオレのスペシャルじゃなくなった。
エントランスにいる支配人に挨拶する。
「シロ、いらっしゃい~」
店内に入るとカウンターに向井さんがいた。
目が合うと彼は少し驚いた顔をしたけど笑いかけてきた。
オレは依冬を後ろに連れて彼の元に行った。
そしていつもの様に抱きつき甘えて熱いキスをした。
「今日依冬と来たの。」
「うん」
「依冬と仲良くして。」
「分かった」
依冬にもそう言ってキスするとオレは控え室に向かった。
揉めるなんて心配はしなかった。
オレには2人が必要だって、多分2人がそう思ってるから…。
支配人の前を通ると声をかけられる。
「シロ…二股で堂々と2人を同じところに置いてくるなんて…はぁぁ~‼︎ 悪女だね!」
オレは笑いながら答えた。
「オレは男だから、女じゃないなぁ~」
支配人と笑ってオレは階段を降りて控え室に向かった。
扉を開けると楓が鏡の前に座ってメイクしてる。
オレは綺麗な楓の横顔を眺める。
「なぁに?」
「綺麗だなぁと思ってさ…」
オレがそういうとオレの方に向き直して笑いかけて言った。
「シロはエロかわいいね」
なんだ、それ~と言って笑い合う。
楓は本当面白い人だと思う。
「今日は何踊るの?」
オレが聞くと楓は"アフリカ"とだけ言った。
何それ、めっちゃ面白そう…!!
じゃあオレはアフリカに沿った物にしようかな…
今日のステージは楓が1回目に踊り、次にオレが出る。3回目は楓って聞いてるけどそれもアフリカなのかな…?
ストレッチしながら楓が言う。
「僕この前の彼氏と別れた。」
「そっか…」
お前にはもっといい男が似合うよ。
オレは楓のアフリカを見るため店内に戻った。
カウンターの2人を見ると何やら話し込んでいる。
そのまま放っておく事にしてオレは他の客に混ざってステージで楓のアフリカを待っていた。
店内が暗くなりステージにスポットが当たる。
カーテンが開いてDJが楓の名前を呼んだ。
わぁ…
感嘆した。
白い衣装の楓はライトを浴びてとっても綺麗で天使みたい。
綺麗な体のラインを使って踊る姿が妖艶で見惚れる。
…これがアフリカ!?いや、天国だろこれ。
オレがそう思って魅入っていると、突然曲のテンポが変わり嫌な予感がした…
「パオーーーン!!」
突然腕を鼻の様にして大股でドスンドスンし出した。
あぁ…楓は天使から象になってしまったのか…アフリカ…
なんで…こうしちゃったの…
店内がどっと笑いに包まれて、完全にやってしまっている…。
常連のお姉さんがオレに集まってチップを咥えさせる。
やめて…オレ象にやられるよ…
オレをステージに転がしてお姉さんたちは満足げに見てるけど、楓に完全にロックオンされてる…。
ところがオレの教えた“チップを取る時の簡単なパターンその13”を活用していやらしく近づいてきた。ウケる…その差にツボる…
オレがフガフガ笑っていると、楓はオレの体に跨って顔を近づけてきた。
楓の目がキラキラしていて綺麗だ…見惚れていると口でチップを取っていき、オレは体を起こそうとした。その時だ…
「パオ?パオ?」
後ろで何かキャラクターチックに鳴く象?の声がする。
オレは怖くて後ろを向けない…
「パオーーーン!!」
と大きく鳴くとオレに向かって走ってきた!だから怖いんだよ…!!
これが楓の緩急か…?
オレはステージから逃げてカーテンの裏に行った。
控え室には怒った支配人がいてオレの声は届いてないみたいに仁王立ちしてる。
思った通り楓はまたこっぴどく怒られた。
店内は結構盛り上がってるのに…支配人のストリップの美学に反してるらしい。
「僕ラストやるの自信ないよ…」
落ち込む楓を見て思いついた。
「オレと2人でやってみる?」
「どんなの?」
乗り気で聞いてきた。
初の試みだけどやってみたいことがあった。
とりあえずオレのステージを終わらせてから考える事にして、楓にはコンセプトを決めてもらう事にした。
衣装に着替えながら考える…
楓の美しさが一際輝く構成。
オレのステージの時間が来る。
カーテンを開けてステージに出る。
オレはセパレートのターザンの格好をした。
足は裸足だ!
スキップしてステージに出ると、シロかわいい!と歓声が上がる。オレはそのままダッシュしてポールに飛びついて片手でポールを掴んで上まで回りながら勢いよく上がった。ポールがガンガン揺れて気持ちいい。
逆さにぶら下がり回りながら態勢をいくつも変えていく。シルクドソレイユさながらに美しいバランスを保ち均等なペースで回る。そのあと片手でポールを掴んで足に絡めたままくるくる回りながらギリギリまで降りる。そこから親指と人差し指で挟んでポールを駆け上がり足で挟んで止まり上の服を脱いだ。
そのまま頭を下に向けて滑降する。
ギリギリで止まってブリッジしてポールから離れた。
客がチップを持ってステージの周りに集まる。
オレはそれを身をかがめて取りに行き口で受け取る。お触りしそうな客にはシャーッ!と威嚇して盛り上げる。向こうに依冬が口にチップを挟んで寝転がっているのが見えた。
オレは猫みたいに四肢を動かして駆け寄るとあいつの頭を跨いで体に顔を這わす様に擦り付ける。後ろに後退しながらあいつの顔に自分の顔を近づけて行き両手であいつの顔を逸らせて首から舌を這わしてチップを咥えた。
「ギャーーーーッ!!シローーー!!シローーー!!」
極まった客が叫ぶ。
ちょうど依冬が起き上がったタイミングで肩に足を乗せてバク宙した。
一瞬だし重くないだろ?
大盛況で良かったよ。
「シロみたいに身軽に出来ない」
オレのステージを見た楓がこんなの出来ないとゴネ始めた。
「あんなにしなくていいの。お前はその見た目でイカせることができるんだから!」
そう言ってとりあえず流れだけを説明して細かいところはオレがやるからと伝えた。
これ、楽しみ…
3回目の構成がなんとなく終わってオレはTシャツと短パンで店内に行った。
向井さんと依冬はなんだかんだ言って仲良く座っていた。
「オレ、ターザンになったよ?」
依冬の背中にくっついて手を腰に回して掴むとすりすりしながら言った。
「かわいいお猿さんなの?」
「ターザンは猿じゃなくて人だよ。」
「ポールが外れそうで心配だった…。」
「さすが、オレの嫁…!」
あれ?と思って見てみると陽介先生がこちらを見て頷いていた。
「シロ、彼氏が増えてるじゃん。オレの枠は?」
演技がかったポーズで腕を組んで凄んでいる。
「先生はオレのスペシャルなんでしょ?」
オレがそう言うとニヤけて笑う。
オレは先生の隣に行きステージの方を見て座った。
先生は嬉しそうにこちらを見てオレにビールをくれた。
「わぁ、ありがとう。」
オレがビールを飲むと、こっちをずっと熱い視線で見てくる先生が面白くて噴いた。
…そんなにオレのことが好きなのかな…先生、のんけだったのに…
オレは面白がって陽介先生をプライベートダンスに誘った。
「陽介先生、ストリッパーってチップを弾むとプライベートダンスしてくれるの知ってる?」
オレがそういうと先生はえっ?と驚いてマスターに詳しく話を聞いてる。
「シロを指名すれば俺だけに踊ってくれるの?」
「そうだよ。」
「する!俺、それする!」
「先生はこの前すごく沢山チップくれたから、特別サービスでしてあげるよ。でもね、絶対オレの指示以外の場所をお触りしたらダメだよ?」
オレがそう言うと先生はコクコク頷いてワクワクしてる。
これくらいしてあげても良いよね…?
だってこの人オレに結構投資してる…
オレは陽介先生の手を握るとプライベートダンス専用のカーテンで仕切られた部屋に連れて行った。
別に本番がOKな訳じゃなくお客が勃つから他の客に見られない様に個室にしてる。制限時間は約10分で、外にはウェイターが立っていて何かあるとすぐに駆け付けてくるシステムだ。
1人がけの大きめの椅子に先生を座らせる。
10分という制限の中どこまでいけるのかオレは少し楽しんでいる。
先生に跨るように座り向かい合わせになって先生の顔を持ち上げて聞く。
「ねぇ、先生…オレに何して欲しい?」
「オレの前で脱いで跨いで擦って…出来れば挿れさせて?」
既に興奮済みなのか先生はうっとりと息が荒い。
「最後の以外、全部してあげるね…」
オレはそう言って椅子から降りると先生に背中を向けて着てるTシャツをゆっくりと脱いだ。
「シロ…!あ…かわいい…」
先生…あぁオレのせいなの?こんなになっちゃって…悲しいよ。
正面を向いて胸をそらして自分の乳首を触って喘ぐ顔をする。
腰をいやらしく動かして挑発する。
先生は無言で見てる。目がマジすぎて怖いな…
その後短パンをゆっくり下げていく。
「ねぇ、先生。最後脱がせて?」
そう言って先生に脱がさせると、オレはまた先生を跨いで向かい合わせに座り先生の手をオレの尻と腰にあてがった。
「この手動かしたらダメだよ?」
オレはそう言うと先生の大きくなったモノの上に座り腰をゆっくり振って擦り喘ぎ始めた。
「あ、先生の凄くおっきくなってる…」
オレの言葉に置いた手に力が入るのが分かる。
ガチガチに硬くなっていく先生のモノは依冬と同じくらいデカそうだった。
オレは先生の肩に手を回して体を密着させながら腰をねっとりと動かす。
「ねぇ、先生?オレのきもちいぃ?」
顔を覗くと苦しそうな顔をしてる。
「痛かった?」
動きを止めてオレが尋ねると、先生は悲しそうな顔をして言った。
「イッちゃった…」
早い…早すぎる…
オレは立ち上がって先生にティッシュを渡すと処理するのを眺めていた。
「やめて…見られるとまた興奮するからっ!」
オレはフフフと笑って先生に替えのパンツをあげた。
「またやりたい…」
先生の言葉に、いつでもどうそ…と返した。
先生はその後寂しそうに帰っていった…。
オレのせいでゲイに目覚めちゃったのか…散々煽っておきながら先生のこの先が心配になった。
それにしてもイクの早かったな…
そんなことを考えながら控え室に戻った。
シロがお店に依冬と現れた。
様子がおかしかったから喧嘩でもしたのかと期待したけど、もう仲直りしちゃったみたいだ…
俺だけのシロになったと思ったのに…残念だ。
シロはオレの近くに来るといつもの様に抱きついてくる。
可愛くて抱きしめる。
顔を上げて口を軽く開いて首を伸ばしてくる。
オレはそれを受け取って舌を絡ませたキスをする。
後ろの依冬に見せつける様に長くねっとりとキスする。
「依冬と来た。」
彼はそう言うと仲良くして?とお願いした。
俺はシロのお願いならなんでも聞くよ…。
分かったと答えると依冬にもキスしていたが不思議と嫉妬心は湧かなかった。
「喧嘩でもしてたの?」
俺の隣にお利口に座る依冬に聞いた。
「ちょっと…」
濁すんだ…。
「シロ、落ち込んでたから心配だったんだ…良かったよ、仲直りしてくれて。」
オレの言葉に驚いた顔をする依冬。
「シロの保護者気取りなの?」
相変わらずだな…
俺は少し笑ってステージの方を見る。
シロが他のお客と楽しそうにしているのを見て安心する。
あの子が笑ってるかどうかいつも気になる。
あの子の過去が思ったより悲惨で正直打ちのめされた。
人の為に泣くなんて初めての経験で、心が震えるという事実を知った。
抱いている時に見せる肉欲への狂気は、本人が自覚する通り幼い頃から行われた虐待によって染み付いてしまっていて、彼からは切っても切り離せない部分なんだろう。
俺のことをにいちゃんと呼ぶのは肉欲に溺れる最大限の彼の抵抗なのかもしれない…
気付くとステージは終わっていてシロの姿も無くなっていた。
依冬を見るとなにやらぼんやり考え込んでいる様子だった。
「依冬くん、俺たち兄弟って知ってた?」
「…あぁ、父から聞きました。」
「ふぅん、どう思う?似てるかな?」
「さぁ、よく分かりません。」
つれない回答ばかりだ。
シロに仲良くしろと言われたのに…。
「シロのお兄ちゃんてどんな人?」
俺の知らないシロの事、何を聞いてるのか気になった。
決して嫉妬ではない。俺は年上だから。
「シロのお兄さんは全然あんたに似てなかった。」
「顔見たの?俺それ知らないな~」
戯けて見せるけどちょっとショックだった。
「でも、シロがあんたの事をお兄さんだと思って安心するなら、あんたにいてもらった方がいいとも思った」
「依冬くんは大人だね…」
そう言ってグラスのブランデーを一口飲んだ。
「うちの父は…」
依冬くんが話しかけてきた。
打ち解けてきた?
「なんでシロに声をかけたと思いますか?」
心当たりはある。
言うべきか…核心は避けて言っておく方が無難なのか…こいつはバカじゃなさそうだから、いつか分かる時が来るかもしれないけど、それまでは言っておいた方がシロの周りにいる限り得策なのか…
「シロの事をあの人に伝えたのは俺だよ。とっても彼に似ていて驚いたんだ。あの人は彼を溺愛していたから、シロを利用してあの人を陥れようと思った。」
依冬は俺から視線を外さずに嘘偽りないか確認する様にじっと黙って聞いている。
「ところがあの人はシロをキミに接触させたがって…所謂、彼を取り合っていた者としてシロという存在は自分の手の中にあるってマウンティングしたがってる様に見えたよ。」
でもある日を境にシロに執着しなくなった。
「聞いてるか知らないけど、あの人は夜中にシロの部屋に侵入してレイプしようとしたんだ…。その時にコテンパンに打ちのめされることがあったらしく…今は大人しくしてるよ。」
俺がそう言って視線を向けると、依冬は手の中でグラスを揺らしながら吐き捨てる様に呟いた。
「あの人は狂ってる…」
「そうだな。」
依冬との共通の敵は親父か…まぁ悪くない。
「俺はシロが望むならキミの存在も認めるよ。」
俺は依冬に手を差し伸べて握手を求めた。
「俺もシロがそれで幸せなら…。」
感動的な握手だ…今のところはこれで手打ちとしよう。
愛するシロのために。
時計を見るとそろそろシロのステージの時間だ。
店内の照明が暗くなりスポットが当たる。
いつもあそこからあの子が出てくるたびに胸が締め付けられる。
あの子を知れば知るほど自分だけの物にして檻に入れて過保護に守りたくなる。
歓声が上がって彼が凄い勢いでポールを華麗に登る姿を見る。
本当にこの子は凄いんだよ…。
誰かに自慢したくなるくらいかわいくて、強くて、繊細で…俺のシロ。
彼が服を脱ぐと歓声が上がる。
俺はあの体をいつも好きにしてる…抱きしめてキスして深くまで入って…あの子の甘い声聞いた事ないだろ?あの子の傷も心の重荷も知らないだろ?
あの子を独占したくて仕方がない…
隣の依冬はいそいそチップを持ってステージへ向かった。
シロにサービスしてもらっているのを見る。
観客が歓声を上げる。
きっと際どい事したんだろうな…
俺が見た時は依冬の背中を彼が土台にしていた所なので気にしない。
興奮冷めやらぬ表情でニヤニヤしながらこちらに戻ってきて依冬が言った。
「シロのお猿さんかわいかった…。」
「ターザンね。」
ところで、提案があるんだけど…と前置きをして依冬に話した。
「シロはセックスするのが好きなんだよ。」
「え、何ですか…確かにすごく敏感ではありますけど…それは昔」
途中まで言い掛けて止めるってことはキミもあの子の過去を知ってるんだね…
「聞いたの?小さい頃の話?」
「ええ…酷い話ですよ…あんな小さい子に…」
俺は自分にだけ教えてくれてると思ったから、少し寂しかったが、視線を戻して聞いた。
「2人で一緒にシロを抱いてみたいんだが」
「それって3Pですか?絶対嫌がると思うけど…」
「そうかな…あの子の肉欲はすごいよ…そのうちあの先生も食べられちゃう。幼い頃の虐待の名残だとしたら満たしてあげたいと思わない?」
依冬はしばらく考えさせてくれと言った。
「シロの彼氏さんこんちは~」
シロのダンスの先生がやってきて俺に挨拶をする。
依冬を見て俺に小指を立ててジェスチャーする。
やめてくれよ…こんな奴…
この人はシロのダンスの先生らしいが…どんどんあの子にのめり込んでる様がよくわかる。
ダンスのレッスンはきちんとやってると聞いているが俺は警戒してみている。
「さっきあっちででシロのステージ見たけど、やっぱ俺の嫁は凄いな、大迫力で感動しました!」
そう言ってビールを飲む。
「嫁って?」
依冬が俺に聞いてくる。
「シロのダンスの先生だよ。愛称でシロを嫁って言ってるんだ。本人が嫌がってないから…」
と伝えたけど軽くイラついてるのが分かる。
お前の気持ち、よく分かるよ…
シロが来た。
俺を見ながら依冬を触る。
妬かせたいの?かわいいね。
先生に気が付いて営業モードに切り替わる。
そうだね、そいつは客だから…
しばらく目の端で様子を伺うと先生がこう言い始めた。
「俺プライベートダンス、する!」
なんと、シロのプライベートダンスをすると興奮している。
この子の悪い癖だ…すぐに男を挑発したがる…
シロに手を繋がれ連れて行かれる先生を見送り、ため息をつくと依冬がこちらを見て言った。
「さっきの話、乗った」
俺は笑うと頷いて応えた。。
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