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第24話
「ねぇ、昨日向井さんと何してたの?」
シャツを着る依冬の背中に問いかけた。
「ん~?ちょっとね…」
「湊のこと?まだ湊が好きなの?」
ソファに腰掛けて外を見ながら依冬に尋ねる。
依冬はこちらに近づいて来てオレの目の前にひざまづくとオレの太ももに頬擦りしながら言った。
「オレはシロを愛してるよ…」
そうかな…?
「じゃあ何してたのか教えてよ。」
オレはあいつを足で挟んで引き寄せた。
え~と言ってオレから逃げようとするから首に手を回して脇に挟んでヘッドロックしてやった。
でも確実にあいつの方が強いからオレはそのまま軽々と持ち上げられてしまう…。
「怖い…落ちる、怖い!」
オレの腰を掴んで抱きしめるとゆっくり床に下ろしてくれた。
「シロは知らなくても良い事だから…」
そう言ってオレのおでこにキスした。
中途半端に首に巻いたネクタイは散々オレをグルグル巻きにしたおかげでヨレヨレに形が崩れてしまって再度付けることは不可能になった。
依冬はそれを丸めるとジャケットのポケットに押し込んでいた。
ガチャと音がなって向井さんが帰ってきた。
やっぱりちゃんと帰ってきた…
オレの所に帰ってきた。
「誰か来てるの?」
玄関に置かれた靴を見てそう言いながら部屋に入ってくる。
依冬の姿を見て一瞬固まったがそのまま挨拶してオレの方に来てキスする。
「シロ、送っていくから着替えて。」
そう言われ、はーいと返事して寝室へ着替えに行くふりをした。
こっそりと2人に見えない場所で聞き耳を立てる。
「探偵見つかった?」
桜二が依冬に聞いてる。
「今探偵と弁護士と相談してる。実際に調査するのはもう少し後になる予定。」
桜二のことがバレたら依冬はどうするかな…自分の裸足の足を見ながら考える。
「あいつの方は?」
依冬が向井さんに尋ねる。
「変わらないよ。特にお前の様子を気にしてる様でもない…。この前のボコボコにしたのは流石に効いたのか、まだ青痣が残っていたよ。」
桜二はそう言って笑ってる。
そっとその場を後にして部屋で着替える。
黒のダメージジーンズを履いてTシャツをかぶる。
パーカーを羽織ってリュックを背負う。
「お待たせ~」
何食わぬ顔で向井さんの所に行って3人で部屋を出た。
「なんで依冬くんを呼んだの?」
依冬と別れてオレは桜二の車の助手席に乗って家まで送ってもらってる。
「依冬としたくなったから。」
オレがそう言うとルームミラーでオレに視線を送る。目が合うと目を細めて聞いてきた。
「気持ちよかった?」
オレはうん、と答えて手を上に伸ばして関節を動かしてヒラヒラ花弁の様に掌を落とした。手首に少し残るネクタイを縛った跡を指でなぞる。
オレのその跡を見つけて桜二がオレの手を取る。
「どうしたの?これ。」
「依冬が縛った。あいつドSだ。」
笑って話すオレとは反対に桜二はシロにこんな痛い事して…傷付けて…と苛ついていた。
所でさぁ~と前置きしてオレは聞いた。
「桜二、どうして湊殺したの?」
体を桜二に向けてシートにもたれて彼の表情を見る。
「電話がかかってきたから…」
「お前も湊のこと好きだったの?」
そんなことないだろ?お前は湊を愛してないだろ…?
「俺は違うよ…あの時は親父に復讐する事しか考えてなかったし、あの子に興味無かったから。」
「電話って何?」
桜二は湊の義母が亡くなった後、湊に死にたくなったら電話しろと告げて電話番号を書いた紙を渡したと言った。
湊…死にたくなったから桜二に電話したんだ…。
なんかかわいそうだ…
でもこんな話、依冬は信じないだろうな…
オレから話したら信じるかな…?
「どうやって殺したの?」
続けて聞くオレに桜二は深くため息をついてこちらに向き直して聞いてきた。
「なんでそんな事聞きたいの?」
ちょっと怒った顔をしてるの、何でだろう…
「お前がどうやって殺したのか気になるの。」
そう言うとオレは桜二の近くに寄って怒ってるのか確認したくて手で顔をこちらに向けた。
「危ないよ…シロ」
オレは注意されて助手席に戻ってまたさっきと同じ様に桜二を見ながらシートにもたれかかった。
「後ろから刃物で喉を掻っ切った。」
前を見ながら桜二が言った。
その瞬間を想像したらゾクゾクした。
「オレもお前に殺されたいな…。」
早くに逝った湊が羨ましく思った。
頼んだら殺してくれるなんて羨ましすぎる。
「そんな事思わないで…」
桜二の言葉に我に帰る。
オレ死にたがってるのかな…
殺された湊を羨ましがるなんて…どうかしてる…。
なんだか最近頭の中がゴチャゴチャする。
オレ大丈夫かな…
「ごめん、本気じゃない。」
そう言ったけど、お前には本気に聞こえたよね…
オレも本気で言ってたもん…
もう過去を悩むことも考える事も思い出して泣く事もないなんて…一瞬で終わらせることが出来るのなら、それは本当に最高なのに…
目の前で手を動かす。
第一関節から順に動かして手首までうねらせる。
ぼんやりそれを繰り返して車が止まるのを待った。
「ありがとう。またね」
オレはそう言って桜二にキスして車を降りた。
ちょっと歩いて振り返ると彼はまだそこで車の中からこちらを見ている。
もう少し歩いて振り返ってもまだ見ている。
だるまさんが転んだみたいだな…。
そう思いつつも人混みに紛れてからまた振り返ってみたらまだ車が止まっていて、手を振ると車内で手を振る影が見えて涙が溢れた。
いつも送ってもらう度にこうしてしまう。
ずっと一緒にいたいな…
寂しい…
18:00 三叉路の店に来た。
店の外に大きなバスが停まっていて違和感しかない…なんだ…これ
怪訝に思いながらエントランスに入るけど、いつも受付に立ってる支配人がいない。
不審に感じて控室には行かずに店内を覗く。
店内にはスタンドの照明がいくつか一点に向けてたかれていた。
オレは店内の階段を降りて照明の光の中を凝視する。
「あ、シロおはよう!」
照明の中から支配人の声がして、オレは未知との遭遇を思い出して身構えてしまった。
照明の明かりの中から支配人が歩いて近づいてくる。
こいつ…本物かな…?
「テレビの取材が来て開店前にやっていたんだ。YouTubeで話題のダンサーがいる店って有名になってるんだよ。」
オレはそうなんだ…と言って本物か分からない支配人に応えていった。
そのままステージに上がってカーテンの裏に入ろうとしたら支配人が縋ってきた。
「シロ!一曲踊って…!お願い!ギャラは出すから!お願い!ね?お願い!」
そりゃここまでしておいてオレが踊らなかったら顰蹙を買うだろうな…
「事前に伝えて欲しかった…」
オレは少しムッとして支配人を見た。
「そしたら嫌だって言うと思って…」
だよな…
オレは渋々OKしてカーテンの裏に行こうとした。
「君が噂のダンサーなのかな?」
桜二くらいのガタイの人が声をかけてきた。
支配人が間に入ってオレを紹介する。
「この子がシロです。」
「かわいいね、ボーイッシュな女の子みたいだ。」
オレの周りを回ってジロジロ見てくる…
「着替えてきます…」
オレはそう言ってカーテンの奥に逃げた。
…オレの勘だとあいつはガチガチのゲイだ。
そりゃ興味あるよな…
中では楓がカーテンから入って来たオレにビビって椅子から立ち上がっていた。
ビビりすぎだろ…?
「ごめん、何事かと思って店内に寄ったんだ。」
オレがそう言うと、楓はまだオドオドした顔をして小声で話した。
「そっか…あの、プロデューサー…前の前の彼氏なんだ…」
へぇ…そう言いながらオレは服を脱いで化粧ポーチを鏡の前に置いた。
「今から一曲見せないといけないんだけど、前の前の彼氏の趣味は?」
パン1になって楓の隣に座る。
「あの人めちゃくちゃドSで、キメセクばかりするから怖くて逃げたんだ…シロ、僕のこと言わないで…」
それで怯えてるのか…かわいそうだ
「ドSか…分かった~楓の事は絶対言わないから、怖かったらもっと奥の方に居ていいよ。」
オレは方針を決めてメイクを始めた。
ドSが好きなのは言いなりになるドMじゃなくて抵抗するドMかな…?それとも服従しないドSを力技で従わせることが好きなのかな…?
依冬はどうかな?
あいつはオレに甘えて欲しがってたな…
甘えるねぇ…
視線を落として手首の痣を眺める。
触るとまだヒリヒリした。
そんなどうでもいい事を考えながら出来上がったメイクに合いそうな衣装を選ぶ。
首に太いベルトのチョーカーを付けて下着に黒い革パンを履いた。マジックテープですぐ脱げる白シャツと白いストライプのスラックスにサスペンダー。上に黒いジャケットを羽織って出来上がった。まだ開店前なのに呼び出されたDJに曲を渡しに行く。
「シロおはよう…」
お前の不満そうな顔…ウケる。
「合図したら初めて。」
オレはそう言ってステージに登ると首に巻いたチョーカーに軽いチェーンを付けてポールに括り付けた。
撮影用の照明は落とされ、ステージのスポットしか明かりのない、客の声もしない静まった店内。テレビクルーが息を飲んでこちらを見てるけど、緊張なんてしなかった。
楓の前の前の彼氏…ドSのキメセク野郎…
死んじまえ…
「もっとエロい格好するのかと思ったのにしっかり着てるんだね、それでもかわいいけど…」
そんな声が聞こえるけど無視する。
後ろを向いてスタンバイする。
DJに合図を出して音楽が流れる。
オレは音楽に合わせて足を大きく広げて膝を曲げると片足に重心を移動してその軸足のほうにもう片方の足をゆっくり戻していく、最後足が揃うか揃わないかの時に後ろを仰け反って肩甲骨を寄せてジャケットを肩から落とした。
ステップを踏みながらサスペンダーの左右のゴムにそれぞれ親指を入れて上から下まで伸ばしながら滑らしていく。オレはズボンのボタンとチャックを開けるとポールに捕まって1回転しながらサスペンダーを外して後ろに垂らした。
そのままポールを掴んで仰け反りながら足を上に伸ばす。限界まで自分の体を持ち上げて足を絡めて起き上がる。首から落ちるチェーンが音を鳴らしていく。片足ずつズボンを脱いでシャツ一枚になる。足を上にかけ逆さになって回って降りる。ポールに緩くチェーンが絡みついて下に溜まる。オレは体が下に着く前に手を伸ばして逆立ちの様にして足を一本ずつ後ろに倒していく。ブリッジの状態から起き上がりポールのチェーンを鞭の様にしならせて絡まりを取る。そして、シャツに手をかけて後ろを向いて思いっきり引っ張ってあけて肌を露出する。ジャケット同様に肩甲骨を寄せて落とすと正面を向いて前屈しそのまま手を滑らせて四つん這いになった。
楓の前の前の彼氏がチップを咥えて寝転がっているのが見える。
オレはファックされてるみたいに腰を動かして喘ぐ様に口を動かす。
支配人がチップを咥えて横に寝転がってるやつの方を指差してアピールしてくる。
早く取りに行けって?
オレのやり方があるんだよ…全く
オレは一旦ステージを降りるとそいつの足元に行く。そいつの股を撫でて足を開かせる。間に自分の足を乗せていってそいつの顔の横に手を着く。
上から覗いてみると、その気になった顔でオレを見ていてウケた。
なんだお前もう興奮してんの…?サルだな。
顔を近づけて口のチップを咥える。なかなか離さないから一旦離して小さい声で目を見て言ってやった。
「たった一枚で何かあると思うなよ。」
顔を手の甲で撫でて頬をパチィンと叩いた。
そしてオレはそいつの体ギリギリに顔を落として足をゆっくり伸ばしながら立ち上がる。体が伸び切る前にそいつの口のチップを咥えて取るとそいつの上で逆立ちして足を反対側に落として起き上がった。
これくらいで良いかと支配人を見るとOKサインが出たので適当にフィニッシュして終わった。
カーテンの裏に戻ろうとすると楓の前の前の彼氏が声をかけて来た。
その様子を見た支配人が声をかける。
「ダンサーは後で来るのでステージが終わったら一旦バックに戻らせてからにして下さい。」
お前、取材してんのにそんなことも知らないのな…オレはフン!と顔を振ってカーテンの裏に逃げた。
すけべそうな奴だと思った。
カーテンの裏には楓が待っていて戻った途端にオレを抱きしめてきた。
「シロ、ロックオンされてるよ…気をつけて…」
依冬の方がドSだからか、ハッキリ言って舐めている。
ただ薬は嫌だな…
オレの桜二様、助けに来てくれないかな…
メイクを落として短パンとTシャツを着ると嫌々店内に戻った。
「シロ…すごくエロいね…俺君のファンになっちゃった…!チップを弾んだらどこまでしてくれるの?ねぇ、プライベートダンスあるよね?」
オレは支配人にアイコンタクトでノーと言った。
「セキュリティの問題で最近はプライベートダンスはやってないんですよ…残念ですけど…」
そう言って断ってくれた。
楓の前の前の彼氏から離れてカウンターに座る。
「なんかすけべそうな人だね…」
カウンターのマスターが言うから、うんと頷いてビールを貰った。
「今日は彼氏来るの?」
「わかんない…」
「シロ、彼氏にデレデレだよね…。今まで素っ気なかったのに、急に可愛くなってきてビックリしたよ。でも、最近のシロは落ち着いてて見ていて安心するよ…」
ひとつひとつ丁寧にコップを磨きながらマスターが言う。
「前は安心じゃなかった?」
オレが顔を傾げて聞くとコチラをチラッと見て頷いた。
オレの認識と違うんだな…
最近のオレは二重人格みたいに言ってることもやってる事もチグハグで頭が混乱する事が多い…
以前なら淡々と毎日の生活を繰り返すだけだったのに、最近は色々ありすぎて正直疲れる。
「そうか~」
といってマスターを見ると驚いた顔でオレの後ろに視線を向けていた。
その視線の先を見ると楓があの前の前の彼氏に手を掴まれて連れ出されそうになっている。
「楓!」
オレは席を立って楓の元に駆け寄った。
「何してんだよっ!離せよ!」
「シロ、来ちゃダメだよ~」
「ねぇ!あんた!楓を離せって!」
楓が引っ張られて外に連れて行かれるのを止めようとするけど、全然立ち止まろうとしなくてとうとう店の外まで来てしまった。
バスの後ろに停まっている車の前まで来てやっと足を止めてこちらを見る楓の前の前の彼氏。
「シロ!お店に戻って、危ないからっ!」
さっきから楓がそう言って泣いてるけど、オレはお前が酷いことされるのなんて黙って見てられないよ!
バシィンッ!
突然頬に大きな衝撃を受けて体が吹っ飛ぶ。
めちゃくちゃ思い切り打たれた…
耳鳴りがして頭がキンと痛む。
「シロッ!!」
楓の叫び声が耳をつんざく。
吹っ飛んだ衝撃で地面に倒れるオレに楓が駆け寄って腕を掴んで引っ張り上げて店に戻ろうとしてる。
オレの腰に誰かの腕が巻きついて後ろに引っ張り上げる。
楓がオレにしがみついて大声を出す。
「誰か!誰か!助けて!連れてかれる!!」
楓の悲鳴がずっと聞こえる。
連れてかれるって…オレのこと…?
やばい…
状況を理解したオレは自分を捕まえる腕に爪を立てて引っ掻いて暴れる。
「誰か~!!シロ!シロ!!ダメ!やめて!!シロはダメだからっ!!やめてよっ!!」
後ろでオレを担ぐ奴に車に放り込まれて無防備に頭を打つ。
車の外で楓が男にぶん殴られてる…。
なんてこと、かわいそう…
運転席に誰かが乗って来て朦朧とするオレを見て笑う。
楓をぶん殴ったやつがこちらに向き直してオレの隣に乗り込みスライドドアを閉める。
あぁ…オレまわされる…
最悪だ…何で支配人はこんな奴らの取材を受けたんだよ…
意識が朦朧として抵抗しないオレの体を座席に引き下げて覆いかぶさってくる楓の前の前の彼氏。
閉じられた車の窓をバンバン叩いて叫んでる楓が見える。
男の体がオレの目の前に来て視線を塞ぐ。
ギラギラした目だけよく見える。
あぁ、この感じ…よく覚えてる…昔お前とよく似た顔つきのやつらを沢山相手したの思い出す…
車が走り出して楓の声が遠ざかっていく。
男はオレの首筋に顔を落として噛み付いてくる。
嫌がって手で押し退けると手を掴んで乱暴に押さえつける。
オレの短パンとパンツを脱がせて足の間に体をねじ込んでくる。ベルトを外す音がして…あぁ…
オレの中に無理やりねじ込んで腰を振る。
「あ~、めっちゃ気持ちいい…」
顔をオレの前に下ろして舌でオレの唇を舐めてキスしてくる。
最悪だ…こんなの…最悪だ…
信号か何かで車が止まる。
運転手が何か話してる声がする。
オレに覆いかぶさった男は猿の様にオレに腰を振り続ける。
「気持ちいいなら喘げよ…なぁ?かわい子ちゃん、早く素直になりな?」
お前なんて死ねばいいのに…
男の後ろのスライドドアが開いた。
驚いた男が後ろを振り返ってオレに挿れたモノが抜けていった。
気持ち悪い…最悪だ…全てが最悪で劣悪だ。
フラフラする体で起き上がりパンツと短パンを履いて外に逃げ出す。
足が思うように動かなくて地面にこける。
車に乗せられてからあんなに長く感じたのにまだ店からそんなに離れていない場所だった。
急に聴覚が戻ったように車の音や夜の街の音が聞こえて来て、ドサっと近くで何かが落ちる音がした。
振り返って車の方を見ると黒い塊が倒れていて、もう片方の塊を誰かを馬乗りになって殴っている様だ。少し離れたところにもう1人いるみたい。
黒い飛沫のシルエットまで見えてまるでアニメのワンシーンだ…
頭が重い…クラクラする…気がつくと地面に伏して動けない…脳震盪を起こしてる…
誰かの足が見えて駆け寄る足音と楓の声が近づいてくる。
意識の薄れる中オレに呼びかける声でこの靴が誰だか分かった。
「桜二…」
頭が重くて首では支えられない。
抱き抱えられて桜二の顔が見える。
「桜二様…来るのが遅い…」
オレはそう呟いてそのまま意識を失った。
オレの拉致事件は支配人に伝わり、激怒した支配人はプロデューサーと運転手を傷害事件で訴えるそうだ。
オレはあの後病院に運ばれて意識を失ったことを考えて念のため入院することになった。
「検査して異常がなかったら明日には退院できるからね。」
青い服を着た医者がそう言ってオレの頭を撫でて部屋を出て行った。
こいつもゲイ!
視線を移すと桜二が椅子に座っていてこちらを見てる。
「あの医者ゲイだよ。」
オレが言うと椅子から立ち上がってオレの頭にキスする。
「ごめんね、もっと早くお店に行っていればよかった…。」
オレが桜二を見上げて手を伸ばすとあいつはそれを受けて抱きしめてくれる。
あったかい…。
まだ頭を動かすとズキンと痛みがある。
「お前があいつらやっつけたの?」
何も答えない桜二に頬擦りして髪を撫で回してグチャグチャにする。
「お前が好きだよ…いつも守ってくれる。どこにも行かないで…」
キスして…と言うとオレの顔を包んで優しくキスするから、もっと強くしてと注文を入れた。
舌を動かすと頭がズキンと痛む。
看護師が入ってきてあっ!と声を上げたのでオレは桜二から離れた。
本当は抱いて欲しかった…あの男の感覚が体に残ってて最悪で汚くて嫌だった。
「ねぇ…あの時依冬はいた?」
気にかかっていたことを尋ねる。
あの狂ったようにぶん殴ってた奴…なんとなく依冬に見えたから。
返事がなくて状況を理解した。
「そっか…ごめん」
オレ言っちゃってた…お前の名前呼んじゃってた…依冬に知られちゃった…
項垂れるオレを抱きしめて頭をさする。
「シロ少し眠った方がいい。」
桜二がオレの体を支えて横に倒す。
どうしよう…入院してる間に桜二がどうにかなっちゃったら…。
「依冬と話したい…。」
「大丈夫だから、少し眠って。」
「依冬と話したいの…!ねぇどこにいるの!」
オレは桜二の腕を掴んで揺する。
「後で来ると思うから…ね?」
頬を優しく撫でて笑いかけてそう言うけど、嘘か本当か読めない…
…全然読めないよ。
静かすぎる病室、桜二に髪を撫でられてうとうとして眠ってしまう。
点滴に薬でも入ってるのかな…。
目が覚めると部屋は明るくなっていて病室には誰もいなくなっていた。
ガランとした部屋を見渡すと個室なのかベッドは1台しか無いみたいだ。
看護師がやってきてオレの体温と血圧、点滴の様子を見る。
早く体を洗いたくて看護師に尋ねた。
「あの、シャワーって入れますか?」
「点滴がもうすぐ終わるので、外したら入れますよ。」
オレは礼を言って窓の外を眺めた。
今何時かな?携帯を取って時間を確認すると7:30
あれからずっと眠ってたんだ…
頭の痛みはだいぶ少なくなっていて頭を振ってみても昨日のようなズキンとした痛みは無かった。
携帯で依冬の連絡先を選ぶ。
耳に当てて応答を待つ。
「あ、依冬?おはよう。今どこにいるの?オレ寂しいから会いにきてよ…。後、オレの部屋の鍵持ってるでしょ?着替え持ってきてよ、早くシャワー浴びたいから。ね?早く来てね!」
電話口の彼はいつも通りだった。
きっとお願いした通り早く来てくれるだろう…
なんて話そう…
窓の外を見て空を飛ぶ鳥に目をやる。
気持ちよさそうだな…
「おはよう!調子はどうかな?」
昨日のゲイ先生が今日は白衣を着てやってきた。
ベッドにかけられた紙を見てうん、と頷くとオレの方に近づいて聴診器を耳にあてる。
「胸の音聞かせてね。」
そう言って服の下に手を入れて胸の上にあてた。
ずっと顔を見てくるからオレは視線を落としてベッドの端を見ていた。
「胸の音は問題ないね、じゃあ腕を出して?」
言われた通り腕を出すとグッと力を入れて脈を取った。
「このアザどうしたの?」
脈を取る手を手首にずらしてオレのアザを指でなぞる。
手つきがいやらしくてオレはゲイ先生に言った。
「先生はオレがストリッパーだから誰とでも寝ると思って触ってくるの?」
「違うよ、体の調子をちゃんと診るために触ってるんだよ?嫌だった?」
「うん」
「かわい…」
オレはゲイをその気にさせる選手権があったら上位に入る自信がある…
「何かのプレイで付いたのかな?」
オレはゲイ先生を無視して検査のことを聞いた。
「念のためMRIとCTを撮ろうかな?頭に血栓が出来てたりすると大変だからね。」
検査自体は今日の午後に受けられる様で、結果もすぐに教えてくれるらしい。
今日のレッスンもキャンセルしないと…
オレはゲイ先生を無視して携帯を取って陽介先生の連絡先を探した。
「ねぇ、シロくん。YouTube見たんだよ、俺。君すごく上手だよね?鞭使うの…」
「先生?仕事でそうしてるからって本人もその毛があるとは限らないんだよ。オレより長く生きてるのにそんな事も知らないの?」
携帯を見ながらそういなすと先生は笑いながら喜んだ。
じゃあ、後でまた来るね!と言って病室を出て行った。
早く退院したい…
陽介先生に電話をすると、シロ…オレに会いたくなくなったの?と軽くいじけたが事情を話すと後でお見舞いに来てくれるそうだ。
これで少しひまな時間を減らせた。
「おはよう。具合どう?」
依冬がそう言って病室に入ってきた。
「依冬!依冬!」
オレが手を広げて依冬を求めると彼はオレに近づいて大きな体を優しく寄せてきて抱きしめた。頭の包帯を撫でて優しく抱きしめる様はドラマみたいだな…。
「ねぇ、着替えは?」
「はい」
Tシャツとパーカーとジーパンとパンツ、靴下…あ、これ嫌いな靴下だ…
「靴下これ嫌だった…」
オレはむすくれて靴下を依冬に投げつけた。
「そんなの知らないよ~」
と言って落ちた靴下を拾いに行くのかわいい…
「ねぇ、依冬…」
オレが話し始めると依冬はそそくさと帰り支度をする。
オレは焦って依冬を詰った。
「なんでもう帰るの?」
「仕事行かなきゃ行けないから、また来るから。」
「依冬、オレのこと心配じゃないの?」
「…心配だよ。そんなの心配に決まってる。」
「じゃあなんですぐ帰っちゃうの?」
「シロが話そうとしてる事、聞きたくないから。」
「じゃあ……話さないから…まだ居てよ。」
そう言って依冬に手を伸ばすと、しばらく考えてからオレの手を取って椅子に座った。
「朝ごはんまだ食べてないからお腹すいた。」
オレが笑ってそう言うと、依冬が飲み物とパンをくれた。
談笑しながら食べていると、遅れてご飯が出された。
「お前にあげる。」
そう言って病院食に箸をつけて依冬の口に運んだ。
大きな体で食べ物を与えられてる姿が可愛くてオレは依冬のほっぺを撫でた。
「お前って犬みたいにかわいい。」
そう言って依冬の頭を包んで自分の胸にあてた。
依冬は犬みたいにクーンクーンと鳴いてる…ウケる。
そんなごっこ遊びをしていると看護師がまた入ってきて、あっ!と言ったのですぐに離れてやめた…。
「点滴が終わったので外しますね。」
針を抜く時ちょっと痛かったけどこれでシャワーに入れると喜んだ。
頭の包帯も外してくれたけど、あてていた部分に血が付いていて出血していたことを知った。
ふとベッドに置かれた依冬の掌を見た。
関節の部分が赤くなって怪我している様だった。
オレは依冬の掌を取って怪我のところを撫でた。
「お前がアレをやっつけてくれたの?」
殺さなかった?と聞いたら大丈夫と言ってオレの手を握り返して手首のアザを指でなぞった。
「こんなに跡にしてごめんね…。」
「依冬、キスして?」
オレがそう言うと依冬は顔を近づけて優しくキスするから、もっと強くと注文を入れた。
舌を絡めて頭がジンジンする熱いキスをもらい満足して離れる。
「もう帰る?」
「また来るね。」
依冬を見送ってシャワーに入る。
個室ってシャワーまで付いてんだね。
ここ、住めるわ。
シャワーを浴びて汚れた体を洗う。
触られた部分や舌が這った部分…流石に指を入れて中まで洗いたくなくてそこは表面を洗った。
気持ち悪い…
シャワーから出て持ってきてもらった着替えに着替えて窓辺に行く。
知ってる風景にひとり呟いた。
「この病院知ってる…」
「シローーーー!!」
すごい勢いで呼ばれてビクッとして振り返ると同時に抱きしめられて、揺すられて…この人が誰だか分かった。
「陽介先生…久しぶりだね。」
先生はオレのレッスン予定の時間が空いたので会いにきてくれたみたいだ。
「シロいい匂い…。」
「シャワー入ったから。」
「このまま抱いていい?」
「先生…?オレ、オーディションまでのレッスン2回も行き損ねちゃった…心配だよ…。」
オレは先生の質問を無視して自分の心配事を話した。
もっと練習が必要なのに、最近男とセックスばかりしてる気がする…。
「シロのためなら俺いつでも空けてあげる。」
「そんな…悪いよ…。」
「代わりにエッチなことしてよ。」
体を求めずエッチな事と濁すところが先生の優しさなのかな…
オレは考えておく、と伝えてベッドに腰かけた。
陽介先生と向かい合って話してると先生の視線がオレの首あたりによく来ることに気付いた。
「首に何かある?」
触って確かめても特に何も無いけど…
「そこだけすごく赤くなってるからどうしたのかな?と思った。」
とオレの首に手を伸ばして指で優しく撫でた。
「あぁ…レイプ魔に舐められて気持ち悪くて洗う時ゴシゴシしたから赤くなったんだ…」
オレがそう言ってその部分を手で覆うと先生はオレの手を握って抱き寄せた。
「先生…どんどん男に触るの自然になってきてるよ…オレ心配だよ。」
先生の腕の中でそう言いながらぼんやりする。
あったかいな…
「シロ。」
個室のドアが空いて桜二が入って来た。
アワアワする先生を他所にオレは歩いて抱きつきに行く。
「歩いて平気なの?」
抱きしめられながらうん、と言って上を見上げてキスをねだる。
先生を無視して熱いキスをもらうとオレは服を見せながら言った。
「依冬に服持って来てもらった…。」
「着替え買ってきちゃったよ。」
桜二の手に服屋の袋が掛かっていたのでそれは貰っとくと笑って伝えた。
オレが陽介先生と手のアイソレーションをして遊んでいるとゲイの先生が部屋にやってきた。
「おぉ…ここは楽しそうだね。検査の時間が分かったから伝えに来たよ。シロくんは14:00にMRIとCT予約したから、その時間になったら検査するところまで歩いてこれるよね?」
オレは、大丈夫です。と返事をした。
「検査って何でするの?」
陽介先生が訪ねてきたからオレはベッドに寝転がって手で遊びながら言った。
「頭を打った後、体が動かなくなって気絶したから、念のため撮るんだって。」
へぇ…と呟いてオレの近くに来ると、さっきからずっとやってるオレの手遊びに参加した。
オレが右手から左手にウェーブを送ってまた左手から右手にウェーブを送ってるのを途中で先生が受けて感電したみたいに動いて面白かった。
「先生、面白いなぁ~お腹痛くなっちゃうよ!」
大笑いしてベッドで転げる。
この人の彼女もしくは彼氏になる人は楽しいだろうな、と漠然と感じた。
「シロ、また来るね!」
次のレッスンがあるため先生は嵐の様に来て嵐の様に去って行った。
「先生どんどんゲイになってきてて心配だよ。」
先生の去ったドアを見つめてそう言うと、桜二が笑って言った。
「シロが煽るからだよ。」
だよね、
「依冬と話そうとしたら嫌がられて出来なかった…。桜二は何か依冬に言われた?」
オレがそう聞くと、別に…と言ったけど嘘か本当か読めなかった。
桜二をベッドに座らせて隣に座って寝転がる。膝枕してもらって頭を撫でてもらう。
桜二はオレの頭の傷を見て痛そう、と言った。
「ねぇ、あいつらはどのくらいボコボコにされたの?」
目を瞑って尋ねるとうーん、と言い渋る。
あの依冬の様相はさながらバーサーカーの様で戦国時代なら名を馳せると思うくらい凶暴だった。
「肋骨は多分折れてる。」
桜二の言葉に驚いて顔を見上げると穏やかな顔でオレを見ていたから仰向けに体勢を変えて手で顔を触った。
「桜二…昨日挿れられちゃったんだ…ずっと気持ち悪くて嫌なの。だからお前の挿れてよ…」
彼の口に指を入れて舌を触る。
「ここは病院だから退院したらじゃダメ?」
オレは起き上がって桜二の顔を掴むと舌を入れてキスした。
熱い口の中で舌を絡ませる。
口端から吐息の様な声が漏れて、オレのモノが反応してあっという間に勃ってしまう。
「今したい…」
オレはそう言うと桜二をシャワー室の脱衣所に連れ込んで自分のズボンとパンツを下げた。
「挿れて…桜二ので綺麗にしてよ…。」
「シロ…」
桜二はオレの中に指を入れるとオレの感じやすい部分を刺激しながら指の数を増やしていく。
「ん…んっ、ん……ぁ、ん」
気持ち良くて足が震える。
桜二は大きくなったモノをオレの中にグッと押し込んでくる。
「ぁあ…ん、んっ…はぁはぁ…きもちい……」
きもち良くって足から力が抜けそうなのを壁に指を立ててしがみつく様に踏ん張りながら堪える。
やっとやな奴に挿れられた感触が消えて、桜二のモノの感触がオレを満たしていく。
場所のせいかずっとしたかったせいか…オレはあっという間にイキそうになっている。
「シロ…きもちい?」
桜二は背中に覆いかぶさってオレの壁に押し付けてる手に指を絡ませて握ってくる。
「ん…!イッちゃう…ん、んん…ん、んぁあっ!」
あっという間にイッてしまい体を巡る快感が去るまで壁に頬をつけて息を整えた。
するとオレの体の向きを変えて桜二がまた挿入してくる。
「ぁあっ…んっ、んっ…ん、ん…桜二…んっ」
オレはあいつの首に手を回してしがみつく。あいつはオレの足を持って腰を抱くと下から突き上げる様に腰を動かす。気持ち良くてすぐにオレのモノはまたギンギンに勃ってしまう。
「あっ…ん…ねぇ…キスして?」
オレが顔をのけぞらせて舌を出すと桜二はそれを口に入れて舌で絡める。クチュクチュといやらしい音を出しながらキスする。
「シロ…イッても良い?」
オレは首にしがみついて桜二の胸板に顔をすり寄せるとうん、と頷いて快感に溺れる。
硬くなった桜二のモノがオレの中を満たして更に硬くなる。
「はぁはぁ…シロ…んっんん!」
オレの中にドクドクと桜二の精液が溢れてダラダラと穴から漏れて垂れる。
熱いキスをして一緒に快感の余韻を堪能する。
本当はもっとしたい…でも病院だからこのくらいでやめておく。
床を綺麗に拭いてシャワーに入る。
桜二はそのまま病室に戻った。
「きもちよかった…」
オレはシャワーを浴びながら狭いシャワー室の壁に頭を付けてまだ快感の余韻に浸っていた。
シャワーを出ると桜二が時計を指差して言った。
「シロ、そろそろ時間だよ」
もうすぐ14:00か…MRI初めてだから心配だな。
「なんか怖いよね~」
そんな事を喋りながら病室を出て桜二と検査する部屋まで行った。
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