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第25話

「あんたが桜二だったの?」 シロが気絶する前にオレを見て呟いた俺の名前はちゃんと依冬の耳にも届いた様で、腕の中のシロをみながら覚悟を決めて頷いた。 シロに早く会いたくていつもの場所に路駐して歩いて店に向かっていた。 途中依冬に出会い、何のことなく歩いていたら、遠くからシロの名前を呼ぶ声がした。 ただ事じゃ無い様子に走って向かうと“連れてかれる!”と叫ぶ声と声の方から動き出す車を見つけた。オレが道路に立ってその車を止めると、後ろのシートで誰かが事に及ぶ様子が見えた。 「依冬、シロが乗ってる…」 オレが言うと依冬は荒れる野人と化して運転手を引き摺り下ろしてぶん殴った。 こいつにだけは殴られたく無いと思うくらいすごい力で多分顎の骨を砕いたと感じた。 運転席のロックを外してスライドドアを開けるとまだ彼に腰を振ってるクズがいたのでそのまま依冬に渡した。 「シロをレイプした…」 と伝えると激昂して殴りかかった。 シロを助けようと後部座席に目をやるとすでに彼は逃げ出していて、道路に倒れ込んでいた。 顔に垂れる血を見て頭に怪我してると分かった。 楓くんが駆け寄ってきて、シロの様子を見て悲鳴を上げてへたり込んだ。 「シロ…大丈夫だからね…病院に行くからね」 自分の声が震えてる事に気づく。 頭の傷を止血しようと押さえるとじんわり血が滲んで手が染まる。 このまま死んだらどうしよう…! 「シロ、シロ?」 オレの問いにこちらを見て名前を呼んだ。 虚な目でオレを見て半笑いしながら言った。 「桜二…」 「桜二様、来るのが遅い」 そう呟くと目を閉じて気絶してしまい、このまま死んでしまうのでは無いかと気が動転した。手が震えてあの時のあいつみたいにシロの顔を撫でて泣いた。 その時、依冬に尋ねられた。 「あんたが桜二だったの?」 誰かが呼んだ救急車が来て担架に乗せられる彼にあの時の湊の姿が同期して心臓が冷たくなる。きっと後ろに立つ依冬もそう感じてるだろう…。 お店の支配人が走ってきて事の顛末を楓くんが話した。 警察も来て依冬と俺は事情を聞かれ支配人も立ち会って実況見分を行った。 「ちょっとやりすぎじゃない?」 そう警察に言われた依冬は弁護士の名刺を出した。 もう一台救急車が到着して連れ去りレイプ犯を乗せていく。 見た感じ半殺しよりもひどい怪我で半年は元には戻らなそうだ。 「もう行っても良いですか?早くあの子に付いててあげたいから、死んじゃうかもしれないから…もう行っても良いですか?」 動揺して混乱しながら警察に言うがまだまだかかりそうだ…。残酷だ…。 支配人が刑事事件で告訴するらしく実況見分が長引く。 涙が止まらなくて震えてる手にあの子の血が付いている。 気が動転しすぎてこのまま倒れそうだ…。 「狼狽方まで父親にそっくりだな…。」 依冬の低い声が後ろで聞こえる。 そうだな…あの時のお前らもこんな気持ちだったんだろうな…。 「すまなかった…。」 そう言って俯いて手を握りしめて爪を立てる。 しっかりしろ! 「お前、行けるならシロの病院に行ってやってくれ…頼む。」 俺は振り返らずに依冬にそう言うと、あいつが踵を返して立ち去るまで手を握りしめていた。 やっと駆けつけた頃にはあの子は傷の処置を受けICUに入って呼吸気を付けていた。 「容態は?どうなった?大丈夫なのか?」 椅子に座った依冬に矢継ぎ早に問い立てる。 「シロは大丈夫だよ。念のため酸素吸入をつけてるだけ。明日、頭の検査をするって」 疲れ切った様子でそう言った。 「そうか…良かった……」 そう言って依冬の隣にへたり込んだ。 手に違和感を感じて見てみると、まだあの子の血が手についていて掌を動かすと乾いて割れた。 「なぁ…何で湊を殺したの?」 掠れた声で聞いてくる依冬。 俺は観念して正直に答えることにした。 「死にたくなったら殺してやると約束したから…。」 俺はそう言って俯いた。 床にポタポタ涙が落ちて床を濡らす。 「すまなかった…!依冬…湊を奪ってすまなかった…」 シロを失うかもしれない恐怖を連日味わって、心が何度張り裂けそうになったか… 辛い…あの子が傷つくのは…居なくなるのは… 怖くて体の中から震える…。 「何で…湊、死にたくなったのかな…」 拳から流れる自分の血を指先で拭いながら依冬が呟いた。 俺は親父にさえ伝えていなかったあの日のことを依冬に話した。 「…もしもし?あの、湊です…。あの…この前仰ってた事…本当にお願いしても良いんでしょうか?」 湊に電話番号を渡してそう時間が経たないうちに彼から電話を受けた。 「良いよ。いつにする?」 俺は動揺もせずそう言った。 「じゃあ、明日…夜、でお願いします。」 随分早く死にたいんだな… 興味本位で聞いた。 「何で死にたいの?」 しばらく沈黙が続いて大きく深呼吸する音が聞こえる。 「もともと僕は生まれない方が良かったんです。母は体が弱くて僕を産んで肥立ちが悪く病気を拗らせて亡くなりました。父は…母によく似た僕を幼い頃から抱いています。…弟はそんな父を見て混乱しておかしくなってしまいました…。義理の母はそれを見てショックで自殺してしまいました…。全部僕のせいです…。」 所々堪えながら話しているのが伝わる。 俺なら自分のせいになんてしないのに…この子は地球が回るのも戦争が起きるのも、毎日事故で誰かが亡くなるのも自分のせいにしてしまいそうなくらい自己犠牲の精神に溢れているのか? 「それは君のせいじゃないのに…」 俺はそう言って彼の心を揺さぶった。 「もとは母が悪いと思っています。妻子ある男性と関係を持つなんて…更に子供まで産んでさっさと死ぬなんて…勝手すぎますよね…」 お母さんに不満があるんだな…変態親父と弟の事はどう思ってるのかな…? 「例えそうだとしても息子を無理やり抱いたりしないよ…、弟君だって異常だよ?いっそのこと逃げた方が良いんじゃないの?」 俺は同情してそう言ったわけではなく、揺さぶって本音が知りたかった。 「僕は目的は達成したから…」 お…? さっきと雰囲気がガラリと変わった湊に驚いて固まる。ゾクゾクする声色だね。 「母を弄んで子供を産ませ…母の死後も子供を溺愛?キモチワルイ…僕も母もあいつを憎んでる。僕はあいつの1番になったから…今あいつの前で死んでやりたい…これ以上触られたくない。目的は達成した。」 虐待による二重人格か、か弱く装うのが上手なのか…この子は思った以上に骨太だった。 死んで一生残る傷をつけてやりたい、という事? 「弟くんは?」 なんて言うのか楽しみで聞いてみた。 「あいつはただの猿だ。父親の真似をしたがる猿だ。僕はその道具であって目的じゃない。」 あなたも…と続けて 「あいつの血が混じってるんでしょ?汚い血。早めに死ぬことをお勧めしますよ…もちろん僕を殺してからね。思いっきり血を出してあっという間に死なせて下さい。あいつが血だらけになればもっと良い…!!汚い血を全部体から抜いて死にたい」 何と言うことだ。凄まじくどす黒いこの子は虐待の上こんな精神状態になったのか?それとも本来の資質か?見極める術など持っておらず、またそこに注力する気もなかった。 「分かった。派手に殺そう」 そう言って電話を切り本当の狂人に触れた時の言い知れぬ恐ろしさを感じた。 次の日、指定された時刻に親父の書斎へ向かう。 親父が湊に向き合って何か話している様子だ。 「何でそんな口を聞くんだ?」 「あぁキモチワルイ…ヘンタイ」 言うね… オレは湊の後ろに立って彼の鎖骨あたりに腕を回して肩を持つと彼の首に用意したナイフを当てた。 「!桜二!!やめろ!その子には…何もしないで!お願い!やめてくれ!!その子は俺の…」 1番の宝物… 「あははは!何言ってんだよ!クソ野郎!!お前なんか死ねば良いんだ!ばーーーーーか!」 豪快にそう言うと湊は首を仰け反らせナイフを持つ俺の手を握った。 そのままブスリと突き刺して横に引いていく。 刺した瞬間はカラースプレーの様に細かい噴出をしていた血液は切り裂くにつれて体を掴んだ俺の手にドクドクと流れていき、あったかくてまるでぬるい蝋が流れていく様に俺の腕にまとわりついた。 ずっと笑い続けた湊は気管を切ったことで声が出なくなりそれでもゴボゴボと音を立てて笑った。 阿鼻叫喚の親父が口を大きく開けて変な声を出している。 俺は湊を放るとカーテンで手を拭った。 すかさず親父は駆け寄って血だまりの中の湊を抱き抱えた。 「お父さん、もうその子死んでますよ?」 湊を抱き抱えて泣き喚く親父に言った。 「人って脆いね、あんなに可愛がっても一瞬で死ぬね、喉を掻き切っただけなのにさ」 そう言って隣の部屋に身を隠した。 しばらくして家政婦が呼んだのか救急車が来て依冬が駆けつける。 その後救急車と依冬が現場を去ると俺は親父の前に行った。 「どんな気持ち?ねぇ…どんな気持ち?」 顔を覗くとほぼ廃人になっていて笑った。 「そんなに大切だったの?湊の復讐は成功したんだ…。凄い、あの子は凄い!」 俺は嬉しくて飛び跳ねる気分だった。 「どう言うことだ…湊の復讐?」 俺は笑って言ってやった。 「知りたいか?教えてやらない。俺が話す気になるまでは教えてやらない」 親父はコクリと頷いてヨロヨロと歩いて部屋を出て行った。 親父はもしかしたらまだその事を聞くために俺を囲ってるのかもしれないな… 今なら分かる。 湊がシロなら俺は誰に何をされても彼の意思を知りたいと願うから… 話し終わると依冬は目から涙を溢れさせて口元は笑っていた。 「真似したがる猿か…」 湊の本音を聞いて打ちのめされる様子の依冬…。 何の声もかけられない。 ICUで眠る彼を見るため立ち上がろうとすると腕を掴まれて引き戻された。 「お前は何で父親に復讐したいの?」 腕を掴む手に力が入っていて締め付けてくる。 顔を見ると依冬の目は据わって淀んでいる。 「…俺の母はあいつに孕まされて捨てられた。生まれた俺にあいつへの恨み言を全てぶつけてきた。俺はそれをあいつに返したいだけだ。」 そうか…と言って手を解放するとブツブツと下を俯いて話している。 「依冬…シロのこと愛してるの?」 俺が問いかけると俺の方を見て目から涙を流して口を震わせる。 「シロはお前のことすごく愛してるよ…もう湊は手放した方が良い…」 下を向いて嗚咽を漏らす。 もうお前は猿じゃないよ… 「凄い音だった…」 MRIを終えてシロが検査室から出てきた。 CTは先に済ませていたので、このまま病室に戻る。 途中中庭を散歩して外の風に当たる。 「桜二、食べられる花があるって知ってる?」 シロがしゃがんで花を見ながら俺に聞いてきた。 「知ってる」 「なんて名前の花?」 「シロ」 俺がそう言うと大笑いして俺を叩いた。 この子は智の復讐の為に、俺に湊と同じ復讐をしようとしていた… もし…もし… 今もまだその計画の途中だとしたら…? 俺は親父の様に狂気と背中合わせに生きていくのかな… それとも打ちのめされて死を選ぶのかな… もし、突然お前が目の前で笑いながら首を掻っ切って死んだら… 俺はその場で一緒に首を切って死のう… そんな恐怖を抱きながら それでも今は一緒にいて愛していたい。 こんなに幸せなら後から不幸が来ても構わない。 花壇に咲く花を綺麗、と言って眺めるシロの後ろ姿を見てそう思った。 「残念だよ…シロくん」 ゲイ先生が夕方オレの病室に来てそう言った。 やだな…何か問題があったのかな…怖くて黙って聞いていた。 「どこにも問題なかったよ…残念だ。」 「先生って最低だね…。」 オレは呆れてそっぽを向いた。 「シロくんのお店に行ったらさ、お喋りできるの?それともショーしかしないの?」 椅子に腰掛けてオレの寝てる布団の中に手を入れてくる。 いやらしくてほんといやだ… 「ショーだけじゃなくてお店にも出てるけど、人が多い時はお店には出ないよ。」 そう言いながら布団の中で足を触ってくる手を退かした。 「先生が彼氏になったらシロくんの体を毎日診察してあげるのに…。」 「良いよ、どこも悪くないから。おじいちゃんなら喜ぶかもしれないよ?」 オレがそう言うとゲイ先生は大笑いしながらオレの布団に更に手を突っ込んできた。 「先生、何したいの?」 「触りたいの。」 「どこを?」 「おちんちん」 最悪だ…この先生最悪です 桜二は帰ってしまったし、もうすぐご飯が来るらしいからしばらくこのゲイ先生と遊ぶしかない… 実際触らせたらどうなるのかな…? 「ねぇ、先生触っても良いよ。」 オレはそう言って防御していた手を布団の上に出した。 「本当?」 嬉しそうに言うから面白くて頷いた。 「じゃあ…」 そう言って布団の中に手を入れてきてオレのモノを服の上から撫でた。 「あ、かわいい…」 変態だ。 ハッキリ言って変態医者だ。 でも面白いから好きにさせる。 オレのモノを撫でる手が半立ちしてくるモノに興奮したのかどんどん大胆になっていき、いつのまにか扱き始めている。 「ん…!先生…触るだけって…言ったじゃん!」 体が反応して仰け反りそうになる…きもちいい。 声を出さない様に口を手で抑えるけど、すごく気持ちよくて喘ぎたくなる。 「先生ねフェラ得意だよ?試してみたくない?」 絶対ダメだよ、オレ絶対イクもん… でもして欲しいかも…しれない… 「や、やだ…んっ、んぁ…!だめ…ん、あっ」 手で押さえただけじゃ足りなくて、布団の中に口を入れて上から抑える。 先生はオレのズボンからモノを出していやらしく扱き始める。どうしてなのか…めちゃめちゃきもち良くてすぐイキそうになる。足を突っ張らせて堪えるけど、そう長くは持ちそうもない… 「イッちゃうよ…」 「お口はもっときもちいいよ?」 「して…」 「…かわい」 そう言って先生はオレの布団の中に顔を潜らせるとオレのモノを口に入れた。 「あっ!ぁああん!や、凄いっ!んっ、らめ!イッちゃう…んっ!あっ!凄いっ…んんぁっ!!」 体がビクついて激しく跳ねる。 あっという間にイッてしまった… 何このテクニック…怖い、ハマりそう… 「ね?先生上手だったでしょ?」 そう言いながら布団から顔を出すと、オレの穴を指で触ってくる。 「だめ、それはやだ…」 「先生はねお医者さんだからどうやったら気持ちいいのか知ってるんだよ~」 マジかよ…もっと違うこと考えろよ… 「指でするだけだから…ね?」 そう言って穴に指を入れてくる。 足がガクガク言って震えて突っ張る。 「あっ!ぁああん…!はっ…だめ、きもちい…あっ!!あっああん…んっなにこれ…やばい…!!」 ゲイ先生はオレの顔を見ながら自分のモノを扱いてる…やっぱり変態だ。 でも…めちゃくちゃ上手くてきもちいい…!! 「これでフェラしたらイッちゃうかな?」 そう言われるとしてみたくなる… 「フェラして…」 オレが言うと布団の中にまた顔を入れて口に含んであの超絶フェラをする。 「ぁああん!!あっ!あっ、ああ…んっ!!イッちゃう!!きもちい!!すごいっ…んっ!イッちゃう~~!!」 ダメだ、凄くきもち良くて体が喜んでる。 手を顔に当てて堪えるけど喘ぎ声が出て声が甘くなる。 そしてまたすぐイッてしまった… すごい…この人…凄い…!! これが…神の手なの? 「先生のこと見直した?エッチはもっと上手だよ?試してみたくない?」 試したい…でもこれって浮気っていうのかな? 「オレ、そういうのは好きな人とするからっ」 ハッキリ断った。 でもたまにこの人に抜いてもらうのも悪くない… というか病みつきになりそう… 残念がる先生にコツを聞いた。 オレのモノを使って説明するから、きもち良くてまたイッてしまった… あぁ気持ち良すぎる… 今度桜二にやってあげよう… ご飯が運ばれる時間になって先生は退散していった。 世の中にはまだまだ凄い人がいるんだと思い知った。 明日には退院できる。 依冬ときちんと話せるといいな… 窓の外の暗くなった景色を眺めて思った。 桜二…今頃何してるかな…? オレは先生に抜いてもらったよ… 夜ご飯を食べてやる事もなく桜二に電話をかけてみた。 「もしもし?今何してるの?そっか~分かった。 あ、オレ異常なかったよ!うん、明日退院できる!うん、分かった!またね~!」 まだ仕事中だった… でも明日迎えにきてくれるっていうから良かった。 買ってきてもらった服でも着て待ってよ。 次に依冬に電話をかけてみた。 何故か病室の外で着信音が鳴ってドアが開くと彼が顔を覗かせながらオレのかけた電話に出た。 オレは依冬を見て笑いながら電話口に話しかける。 「もしもし?依冬?今何してるの?」 「今仕事してる…後でまたかけ直すね。」 依冬はそうやって言ってふざけて笑った。 「依冬!依冬!」 オレはまた手を広げて依冬を呼んだ。 「シロ甘えん坊でかわいいね。」 あいつに抱きしめられて胸板に顔を埋める。 あったかくてきもちいい… 「ご飯食べた?」 「ん…」 「何が1番美味しくなかった?」 「ごぼう…」 抱きしめられながらそんなどうでもいい事を話してる。 あったかくて眠たくなってくる。 「シロ、検査の結果は?」 大切な事を言い忘れて慌てて顔を上げた。 「異常なしだった」 「良かった…」 オレの頬に手を当てて親指で撫でてくる。 オレはその手に自分の手を添えて頬擦りする。 「依冬今日何食べるの?」 「牛丼」 「え~」 「すき焼き」 「え~~」 本当に下らない会話だけど、すごく楽しくて幸せを感じるんだ。 可愛くて面白くて大好きだ。 依冬とベッドに腰掛けて寄りかかる。 何となく依冬の股間を触るとダメだよ!と小声で言ってきた。 「今日オレ、ゲイの先生に抜いてもらったんだ…」 え? と依冬が怒った顔でこちらを見る。 「すごくきもち良くてすぐイッちゃった…」 依冬はすっかり黙っちゃったけど、窓に映るお前の顔見たら怒ってるのが分かった。 「怒ったの?」 オレが依冬の顔を見上げるとオレの方を見て頷いた。 「何で?怒ったの?」 「シロはオレのだから勝手に他に人に触られるなんて絶対嫌だから。」 そっか…ごめん。軽い気持ちだった…と謝って聞いてみた。 「桜二は?」 「シロ…あの人の名前いつ知ったの?」 「最近…オレの前から居なくなるつもりだったみたいで最後に名前を呼んでって…それで知った。」 「居なくなるって逃げるって事かな?」 「いや…死のうとしてたんだと思う。」 オレは依冬の顔を見上げて顎を撫でた。 「湊を殺しちゃったって…」 「うん…」 「依冬ごめんね…オレ桜二が好きだよ…」 「…うん」 「お前も好きなんだ…ごめんね…依冬」 「シロ…愛してる」 オレに軽くチュッとキスをすると笑いかけてくる。 かわいくて凶暴で…あったかい お前が大好きだ。 「じゃあチョコレートパフェとフルーツパフェだとどっちがハイカロリーだと思う?」 こんなオレの下らない質問にうーんと頭を悩ませて答えて外すお前が大好きだ… 9:00 消灯時間で依冬も帰ってしまった… 悲しい… 1人ベッドの上に寝転がってぼんやり天井を見つめる。 にいちゃんの下手くそな歌を突然思い出して1人でクスッと笑った。 あの時、オレが兄ちゃんを許していたらまだ傍に居てくれたのかな…? それともやっぱり女の人と結婚して、子供を作って、オレはその子にお年玉をあげたりしたのかな… 「にいちゃん…」 何であんなに歌が下手だったのかな… 音楽も体育も数学もオール5なのに…変な歌ばっか歌ってたな…オレはそれが面白くてよくねだっては笑ったな…。 にいちゃんに会いたいな… もう会えないけど、願うのは自由だよね… 「にいちゃん…」 オレは布団を兄ちゃんの代わりにして抱きしめて眠った。 寝過ぎて目が覚めた。 携帯を見るとまだ5:00で早すぎる… オレは目が覚めてしまい軽くストレッチして体を伸ばした。 携帯を持って中庭に行って誰もいない事を確認してからダンスの練習をした。 1日1回は踊っていたから少し何もしないだけで気持ち悪く感じてしまう。 オーディション用の踊りをひたすら練習して汗が出る。 朝日が登ってきてそろそろ部屋に戻ろうとしたら窓からゲイ先生が見ていた。 オレは近づいていき挨拶をした。 「先生おはよう。朝早いんだね?」 「シロくん…綺麗だ…」 見た感じ朝が早いんじゃなくて昨日帰れていない様子のボサボサの髪型だった。 医者って大変なんだな… オレは病室に戻ってシャワーを浴びた。 買ってもらった新品の服に着替えたけど、いつも着てるやつとたいして見た目は変わらないのに肌触りが上質で気持ちよかった。 値札を見ると1桁違う値段に驚いて丸めて捨てた。 見なかったことにする。 早く桜二に会いたいな… 9:00 桜二が来る約束の時間 オレは退院の準備を済ませ桜二が来るのを待っていた。 帰りにコンビニに寄っておにぎりを買おうと思ってた。 思ったより来るのが遅くて携帯で時間を確かめると既に10:00になっていた。 確かに昨日電話で9:00に迎えにいくと言っていたはずなのに…。 おかしい… ガラッと扉が開く音がして見てみると依冬が立っていた。 退院の手続きを済ませたから帰ろうと言う。 「桜二は…?」 オレが聞くと知らないよ、と言った。 「昨日電話で9:00に迎えに来るって言ってたんだよ…」 オレは荷物の入ったリュックの肩紐を触りながら依冬に言った。 動揺しているのか若干手が震える。 「きっと用が出来たんじゃない?もう帰ろう。」 もし…もしそうなら必ず連絡するはずなのに… おかしい… 「お前何か知ってるの?」 オレが聞くと依冬はまた、知らないと言う。 絶対嘘だと思った… 「桜二が来ない…」 声が震えて頭が冷たくなっていくのが分かった。 依冬は質問に一切答えずオレのリュックを持って扉の前でこちらを見て言う。 「シロ早く帰ろう。」 桜二に何かあったんだ… 「オレ…桜二が来るまで待つ…」 オレは依冬を見てそう言った。 携帯の着信履歴から彼の番号に電話する。 呼び出し音はなるのに出る気配がない。 「依冬…桜二、電話に出ない…」 手が大きく震えて携帯が落ちる。 体全体が振動するみたいに震える… 息が浅くなって呼吸が苦しくなる。 動悸がしてあまりの強さに体を持っていかれそうになる… どこかにいってしまったの…? オレは胸が苦しくなって前のめりになった。 依冬はそんなオレのそばにくるといつものように優しく体を支えて呼吸を合わせて言った。 「シロ大丈夫だから、深呼吸してみて…?」 オレは依冬に掴みかかって叫んだ。 「桜二がっ…!!にいちゃんが来ないっ!何で?お前…何か知ってんだろ?言えよっ!!」 依冬は悲しそうな顔で黙ってオレに揺すられ続ける。 「大丈夫だから…」 としか言わないこいつに全然大丈夫な気がしない…。 頭がグルグル回る。 この意味がわからない状況に頭が真っ白になって何も考えられなくなった…足元はフワフワ浮いてるようで1人では歩けない。 依冬に手を引かれて病室を後にする。 エレベーターに乗って1階まで降りる。 依冬の背中を見て本当ならここに桜二がいる事を想像する。 何で来ないの…? 依冬の背中に声をかけられず握られた手の強さに違和感を感じた。 受付の前を通って出口に向かう。 「怨恨の可能性が高いとの情報も入ってきていますが、依然調査中です。尚、今回被害に遭われた〇〇桜二さんは現在意識不明の重体です。」 テレビアナウンサーの声が耳に入って立ち止まった。 依冬は足を止めたオレを振り返り肩を抱いて足早に出口を出る。 「今…」 オレが依冬の方を向いて話しかけると依冬は視線を合わせずに車のドアを開けてオレを座らせてシートベルトをかけた。 運転席に乗り後ろを見ながらバックさせ車を出す。 あれ…? 今…聞こえたんだけど… 「シロしばらくはうちに居て。荷物も後で持ってくるから…ね?心配だからそうして?」 「な…なにが…心配なの…?」 依冬を見ながら尋ねると彼は前を向いてオレを見ないまま答えた。 「脳震盪起こしたから、念のためだよ。ね?」 そう…なの? 嫌な予感がする…動悸はいつのまにか胸騒ぎに変わり嫌な汗を背中に伝わせる。 手がずっと震えて治らない… 桜二に何かあったんだ… 車は来たことのない道を走る。 そういや、オレは1度も依冬の家に行ったこと無かったな… こんな形で行くなんて…やだな 車が止まってドアを開けてもらう。 支えてもらわないと立てないくらい体が震えて揺れる。 「抱っこしても良い?」 依冬にそう言われて震えの止まらない腕を伸ばしあいつの首にしがみつく。 頭を依冬の体に持たれさせ歩くたびに揺れる動きを感じる。 エレベーターに乗ると依冬の呼吸音がよく聞こえた。 細身とはいえ58キロあるのに…全然息が上がらないなんて、強いんだな… そのまま部屋まで抱っこされて入る。 ソファに座らされ背中をもたれさせて毛布をかけてくれた。 寒いわけじゃないのに… 依冬はオレの様子をしばらく見て荷物を置くとキッチンのほうに向かった。 「桜二…死んじゃったのかなぁ」 ポツリとオレは抑揚のない声で呟いた。 依冬の動きがピタリと止まるから急に不安になってくる。 目に涙が溜まってボロボロ溢れてくる。 「ねぇ……さっきテレビで言ってた被害者って桜二の事なのかなぁ…」 オレの問いに答えないでローテーブルに水の入ったグラスを置くと、横に座ってオレを抱きしめた。依冬の体があったかくて気持ちいい… オレは前を向いたまましゃくり上げて泣く。 ボロボロ落ちる涙が鬱陶しくて嫌いになる。 まだ何も聞いてないのに…依冬の様子からただ事じゃない事だけ伝わって恐怖で泣く。 「昨日の深夜自宅で襲われて今病院にいる。」 依冬の言葉に息が止まる。 深夜?オレの寝ていたころ…? 「なんで…?な…んで?」 泣きながら依冬を見上げると、依冬はオレを見て涙を溜めながら言った。 「俺達の父親が…刺した。」 頭から血の気が引く。 なんで?どうして?刺した?どうして? 「昨日…電話で話したんだ!今日迎えに来るって…桜二が言ったんだ!桜二の声でそう言ったんだ!!」 頭を抱えてうずくまる。 どういうこと?どうして?刺された? …生きてるの? 「今、ICUに入ってて…」 「連れてって」 「ダメだよ」 「なんで」 「今は連れて行かない!!」 オレは依冬に掴みかかって乗り上げると大声で怒鳴った。 「どこにいるのか言え!!どこの病院にいるのか教えろよっ!!」 オレを悲しそうな目で見ながら依冬はオレの髪を触って頭を抱くと自分に引き寄せた。 「離せっ!桜二のとこに行く!!離せっ!依冬!離せよっ!!バカ!ばか!嫌だ…!!こんなの…!」 あいつの力に抵抗なんて元から出来なくて… 抱きしめられたまま、もがいて叫んだ。 「死んじゃう!桜二が死んじゃう!あぁぁっ!!どうしよう!どうしよう!!」 依冬はずっとオレの髪を撫でて優しく囁き声でオレの名前を呼んでる。 「シロ…シロ落ち着いて…」 桜二に会いたい… 今、こうしてる間にもし死んじゃったらどうしよう… 「離してよ…!!桜二…!!あ…あああっ!!やだ!いやだ!!にいちゃんがまた死んじゃうよ…なんで?なんでだよ…もう嫌だ…!!」 恐怖に駆られて死にたくなる。 もう耐えられない…こんな怖い思いもうしたくないのに…。 いっその事…今死んでしまいたい。 オレに桜二の死なんて受け入れられる気がしないよ…。 もう悲しくなりたくないよ…。 もうあの時みたいに…愛する人の死に顔なんて見たくない!! そんなことばかり浮かんで泣き喚いては宥められる。 せめてまだ生きてるなら、近くに居たいだけなのに… 「シロが落ち着いたら…連れてってあげるから…落ち着いて…シロ、傍にいるから…」 依冬の声が低くオレの体を振動させる。 「…落ち着いた」 「もうちょっと…」 そんな事を繰り返して体の震えが収まるまでオレを抱きしめて体を撫で続けた。 「何で…刺したの」 まだ震える指先で依冬の胸板をなぞりながら聞いた。 「もう限界だったか…桜二が湊の事を話したか…俺も分からない。」 「また湊かよ…」 吐き捨てるように言う。 死んだ亡霊に振り回されてばかりでオレはすっかり湊が嫌いになっていた。 「9:00にシロを迎えに行って宥めて。って俺宛に伝言を頼んだらしくて、今朝救急隊から電話が来て状況を知ったんだ。」 涙がホロリと落ちる。 オレの事…心配してたんだ…桜二… 死にそうなのに…オレの事…心配してたんだ!! 「うっ…うっ…悲しいよぉ…」 柔らかい人肌を感じて襲ってくる恐怖をやり過ごす様に依冬に顔を押し付けて静かに泣く。 もし死んじゃったらどうしよう…怖いよオレ どうしたらいいの… オレの体をポンポン叩きながら落ち着かせていた依冬が叩く調子に合わせて変な歌を歌い出した。 それがまるで兄ちゃんみたいで… 「なぁんで…なんで…ヘタクソな…うた、うたうんだよ…そんなの、おかしいじゃん…こんなに悲しいのに…おかしくて…笑っちゃうじゃん…」 顔を起こして依冬の胸板を殴った。 「笑ったら元気が出るよ。元気が出たら会いに行けるよ。早く会いに行きたいでしょ?」 そう依冬が言ってオレの頬を撫でた。 言葉を失った… 兄ちゃんもそんな気持ちだったのかな… オレは依冬の顔を両手で包んで撫でた。 そのまま顔を近づけてキスして頬擦りした。 「優しい…依冬優しいね…ごめんね。」 そのまま…また依冬の上に抱きついてあいつのヘタクソな歌を聞いた。 ポンポンと背中を叩く振動と顔に響くあいつの低い声の振動を感じながらたまにクスッと笑い気持ちを落ち着かせた。 少し落ち着きを取り戻しオレは依冬のヘタクソな歌から解放された。 来た時より体が自由に動く様になった。 「あったかいの飲んで」 ダイニングテーブルに座ったオレに紅茶を出してくれた。犬の描かれたダサいマグカップだ。 依冬の携帯が鳴る。 オレはカップを持ったまま固まってその様子を見る。 オレの様子を見ながら話している依冬。 お前もオレの事が心配なんだ… オレは視線を外して紅茶を一口飲んだ。 「病院からの電話で容態は安定したみたいだよ。ただ意識がまだ戻らないから予断は許さない状況に変わりはないんだけどね…ひとまず安心した。」 そう言ってオレの隣の席に腰掛けてオレの前髪を指で分けた。 「会いに行く?」 「うん」 「それ飲んだらいこうね」 「うん」 テーブルの上に両手を広げて握って動かす。 ぎこちないけどちゃんと動き始める四肢に自分が落ち着いて大丈夫な保証を得た気持ちになり安心する。 桜二を見てもまたパニックにならない様にしないと…ちゃんと側にいてあげないと。 傍でオレの様子を気にする依冬の方を見て言った。 「オレの事気にしてくれてるの?ありがとう…」 依冬はオレの頬を触ってそのまま前髪を分けるとおでこにキスして口にもキスした。 「シロ…愛してるよ」 紅茶はあともう少しで全部飲み干せそう。 もうすぐ会いに行くからね… どこにも行かないで…

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