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第26話

病院の前に行くと歩道に報道陣が沢山いて場所を占拠していた。 「犯人が大企業のトップだから面白おかしく騒ぐんだよ…」 依冬は忌々しそうな顔で彼らの前を車で通り過ぎる。 何人か依冬に気付いたみたいに動き始めた。 車は駐車場に入って救急外来前の敷地に駐車した。 病院の敷地内にもマスコミが場所を取って代わる代わるカメラに向かってレポーターが語っている姿を見かける。 オレは自分で車を降りて歩いて依冬に近づいた。 「依冬さん!お父さんの犯行に心当たりはないんですか?ご家族内の犯行と言う事で会社に及ぼす影響など如何お考えですか?」 近づいてくるマスコミの人の顔ばかり目に入る。 みんな自分の事でもないのに必死の形相で、こんな事聞いて何がしたいのか分からなかった。 依冬に促されて救急外来の入り口に入る。 流石に中まではマスコミは来ていない様で安心した。 こっちだよ、と促されて付いていく。 何人かの看護師とすれ違い会釈する。 ICUと書かれた部屋に入ると広い部屋にカーテンで仕切られてベッドがいくつか並んでおり、機械の音と短めの指示の声が聞こえる。 看護師や医師が慌ただしく動いてボヤボヤしてると邪魔になりそうなくらいだ。 「こっちだよ」 依冬がオレの手を握って引っ張っていく。 依冬の背中越しに医師と看護師が依冬を見て会釈したのが見えた。 何か話して報告を受けている様だった。依冬がオレを振り返って医師と看護師に見せるから軽く会釈した。 看護師がカーテンを少し開けてどうぞと言った。 中に入ると…いた ベッドの上にオレの桜二がいた… 眠ってるみたいに穏やかな顔をしてるのに手術着から見える体には無数の包帯が巻かれていた。 側に置かれた機械には血溜まりが溜まっていてその量の多さにめまいがする。 近づいて行き震える手で優しく頬を撫でる。 温かくて涙がホロリと落ちる。 まだ生きてる。 「桜二…起きて…もう帰ろう…」 そう言うと口元が少し笑った様な気がした。 死なないで!なんて言わない… 口から“死”の言葉を出したくない。 看護師が忙しいのにわざわざ椅子を出してくれた。 お礼を言って座ってしばらく桜二を眺めた。 手を触って握るけど反応がない。 「ねぇ…依冬のヘタクソな歌聞かせたら起きるかな…」 そう言ったオレの肩に手を置いて依冬は優しく撫でた。 桜二の掌から手首、肘、肩に手を滑らせて撫でる。 いつもは動いてるのにな… 時折襲ってくる恐怖に頭の中が狂ってしまいそうになるのを必死に堪える。 もしここで発狂してしまったら…本当に彼に二度と会えなくなりそうで怖くて耐えた。 彼の体を撫でて自分の存在と彼の存在を確認する。 オレはここに居るよ…お前はここに居るよ… お前はまだ温かいじゃん…それって生きてるってことなんだぜ? お前は生きてるじゃん…生きてる… 依冬が電話で席を外してカーテンの中はオレと桜二だけになった。 そっと彼の顔に近づいて頬を撫でながら言った。 「にいちゃん…起きて…帰ろうよ…病院はもう嫌だよ…オレ、今日退院したばっかなのに…ねぇ…帰ろうよ…ねぇ、にいちゃん!」 そうごねる様に言うとまぶたがピクッと動いた。 あ… 一瞬眉間にシワを寄せてうっすらと目が開いた。 虚ろだけど眼球が動いてオレの事を見た! オレの目から涙がボロボロ落ちて桜二の体を濡らす。 「桜二…うっ…早く、帰ろうよ…んっ」 しゃくり上げながら桜二の体を両手で小さく揺すると右手を上げてオレの頬を撫でて笑った。 「シロ、そろそろ…」 カーテンの中に戻った依冬がその様子を見て慌てて看護師を呼んだ。 医師が来て桜二の目に光を当てて簡単な質問をする。 遅いがちゃんと頷いて答えてる。 意識が戻ったんだ… 足が震えて床に崩れ落ちる。 怖かった…怖かった……怖かった!! 止まっていた心臓が動き出したかの様に次々といろんな感情がこみ上げてくる。 「あぁぁぁ…うああぁぁぁん…んっ、くっ…ああ…ひっく…うわぁあん…」 桜二の遠くで涙が滝のように流れて開きっぱなしの口から声を漏らす。 突っ伏して震える体がバイブレーションのように細かく震える。 怖かった…!もう二度と会えないかもしれないと… 覚悟なんて出来ない…一緒に死のうと…死ぬ方法を考えてた。 「よかった…桜二…!よかった…あぁぁ…にいちゃん!」 体の震えが引いた頃、依冬がオレを支えて桜二の元に戻してくれた。 オレは桜二の肩に顔を寄せて声を押し殺して静かに泣いた。 桜二はオレの頭をポンポン叩いて優しく撫でた。 容態が安定し意識も戻ったのでもうしばらくICUにいて、後は普通病棟に行けるそうだ。 人工呼吸器を外して話せるようになった桜二の声は掠れていて痛々しかった。 「シロくんがきたら目覚めるなんて…コレって愛だと思うのよ…」 看護師さんが目を輝かせてそう言った。 愛か…すごいな… 「桜二…愛してる」 オレが言うと桜二は少し驚いた顔をしてその後微笑んで目を細めて言った。 「シロ…愛してるよ」 入り口の方で依冬が誰かと話してる様子が見えた。 「シロ…お前も、退院したばかりだから…帰って少し…休んだ方が…いい」 桜二はそう言ってオレの頬を包むと親指で優しく顔を撫でた。 オレはうん、と言って席を立つと桜二の顔を両手で包んで口に優しくキスして舌を入れた。 あっ…!と看護師さんが言うけど、オレはそうしたくて仕方がなかった。 口の中が病院の匂いのする桜二とキスして離れるとまたね、と言ってその場を後にした。 後ろ髪惹かれるってこう言う事なのかな… 入り口で話す依冬の背中に軽く触れて近くの椅子に座った。 依冬はオレの方を見て確認すると視線を戻して話を続けた。 聞こえてくる内容からこの人たちは刑事だと思った。 意識の戻った被害者に事情聴取しにきたのか…まだ意識が戻ったばかりなのに… 「ボクはどこの子?」 いつの間にか隣に座っていた白髪の男がオレの顔を覗いて聞いてきた。 髪の毛は白髪なのに顔はそんなに老けて見えない。 どちらかというと若い印象の顔つきの男… 「…」 赤ちゃん言葉で話されてもオレはつれない態度で無視した。 「ごめんね、おじちゃんはこういうものです。」 胸ポケットから手帳を出して見せてきた。 「その人は関係者じゃないですよ。」 依冬が割って入る様にして相手を制する。 オレは刑事のおじちゃんに見守られながら依冬の話が終わるのを待っていた。 「ボクはダンサーかな?体の筋肉のバランスから見てバレエかな?」 すげえ…冴えてんな…これが刑事の勘なのかな? でもオレはお前とは話さない。 依冬が胸ポケットから名刺を出して刑事に渡してこちらを見た。 そろそろ終わるのかな… オレが立ち上がると刑事のおじちゃんも立ち上がった。 「おや!結構背が高いんだね!座ってると小柄に見えたのに…!175㎝くらい?昔とは日本人の体型も違ってきたのかなぁ…おかしいなぁ…」 こういう刑事、ドラマで見たことある…柔らかい物腰で相手を油断させて白状させるやつ。“仏の何とか”って呼ばれるやつだ。 オレはそれでもあんたとは話さない。 話の終わった依冬がこちらに来たからオレも一緒に付いて行った。 あっ!と思い踵を返すと仏に言いに行った。 「まだ意識が戻ったばかりだからあんまり無理させないで下さい。」 仏の目がキラリと光ってオレに聞いた。 「キミは被害者の何?」 「昔からの知人です」 「ほぉ」 「シロ行こう」 依冬に呼ばれて振り返ろうとすると肩を掴まれ顔を寄せて聞いてきた。 「加害者に会ったことはあるかね?」 「…いいえ」 「ほほぉ」 離してと言って手を払って依冬の方に歩いて向かった。 殺人未遂の事態に刑事が出てきた… この疑惑の家族は叩けば埃が咽せるくらいでるキチガイファミリーだ…。 桜二の関わったであろうあの事だけは…何としても目を逸らさせたい… 引っかかるかな…仏のおじちゃん。 依冬と外に出るとマスコミはだいぶ少なくなっていた。他にやることできたのかな… 車に乗ってシートベルトを付ける。 「シロ、もしかしたら刑事に事情聴取を受けるかも知れないよ。大丈夫?」 心配そうに聞いてくるから笑って平気だよ、と言った。 「桜二、良かったね。意識、戻ったね!」 オレは嬉しくて依冬に言った。 「愛の力だって持ちきりだったよ」 そう笑いながら依冬が言うから、お前も目を覚ましてくれる?と聞いたら、もちろん!と言って笑った。 愛の力なんかじゃない…これは奇跡だ。 今まで嫌な人生を生きてきて、神様なんて存在はとっくのとうに信じちゃいない。 ただ、兄ちゃんなら…兄ちゃんなら、オレのために桜二を助けてくれたんじゃないかと… 都合よく思ってしまうんだ。 オレは神様は信じないけど兄ちゃんは信じてる。 「今日のご飯何食べるの?」 「んー、すき焼き」 「やった~~!」 外食して1度自宅に戻って着替えを持って依冬の部屋にまた戻って来た。 リュックから服を出して並べながら聞いてみた。 「お前の父親は逮捕されたの?」 依冬はうん、と言ったけど沈んだ声だった。 まぁイカれてるとは言え父親だしな… そう思って立ち上がるとこう付け加えて依冬が言った。 「精神鑑定が入って実刑にならない可能性があるんだよ…。出来れば刑務所に入って欲しいのに」 オレは依冬のそばに行って表情を見た。 「そっか」 そう言って依冬を抱きしめた。 「優しい依冬…」 「親の実刑を望むことが優しいの?」 違うよ~!と言って彼の肩を叩いた。 彼の顔を仰ぎ見て涙を湛えた目で心からお礼を言った。 「依冬が居てくれて良かった。オレ1人だったら多分勝手に悲観して死んでたかもしれない…お前も大変だったのに…本当にありがとう」 深々と一礼して抱きついた。何かの儀式みたい。 「シロ…良かった…」 オレを抱きしめる手が強くて胸が苦しい。 でも良いんだ… 2人で抱き合って頑張ったお互いを慰めた。 依冬の部屋を初めて訪れたオレは部屋の散策を行なっていた。 桜二のところとどっこいの広さと部屋数だ。 この2人の家の部屋ひとつ分がオレの住んでる部屋と同じくらいだと言うことは今は忘れよう。 「ここは南青山なの?赤坂なの?」 オレが大きな声で尋ねるとどこかの部屋から南青山かな?と返事がした。 すごいな…おもさんだよ… 寝室を見るとキングサイズのベッドが1台置いてあって後はダンベルとか筋トレグッズが転がってる…うぅ…男臭い。 ベッドの寝心地は?と、オレは寝転がって確認してみた。これが本当のマットレスなのか…という感動の寝心地だった。次に隣の部屋に行くとここはほぼトレーニング器具が並んでるむさ苦しい部屋だった。中で筋トレ中の男が居たけど無視して扉を閉めた。そして広いトイレにバスルーム!中はジェットバスの丸い浴槽が付いた広いバスルームだった。これはラブホみたい!! 次のお部屋はリビングとキッチンダイニング、そしてちょっとした物をしまう大きな倉庫みたいな部屋があった。 一通り見て回り依冬の筋トレを眺めた。 「風呂、ラブホみたいだね。明日桜二に教えてあげよう。」 オレがそういうと笑いながら懸垂をこなした。 「ジェットバス使ってみる?」 依冬の提案にオレはすぐ乗った。 お湯を貼って入浴剤を入れてジェットバスボタンを押すと凄い勢いで泡風呂になっていく。 「わぁ~これは…ラブホみたい」 「シロ使ったことあるの?」 「うん年前に女の子と入った…」 「エッチなことしたの?」 「ラブホでそれ以外何するんだよ…」 嫌だ~信じらんなぁい!と汗だくの依冬が言うからオレは目の前の光景の方が信じらんないよ、と思った。 「オレ、入~ろうっと!」 そう言って服を脱いで全裸になり泡風呂に入った。ジェットの力が強すぎて流されるんですけど…依冬は流されて泡だらけになるオレを見て指を差して笑うからムカついてくる。 「弱とか無いの?流されるんです…」 「弱?無いなぁ…。俺が入って流れを堰き止めてあげるよ。」 そう言って汗だくで入ろうとするから一回シャワーを浴びてもらった。 依冬が堰き止めたおかげで泡風呂にゆっくり入ることが出来た。 「シロこっちにおいで」 俺の腕を掴んで引っ張ると自分の足の間に俺を座らせた。丁度泡がくる位置だから首を伸ばしても顎まで泡が来た。 「ここにいても良いことない」 オレはそう言って違うところに行こうとした。 「じゃあこっちにおいで」 依冬はそう言うとオレの脇を掴んで持ち上げて自分の膝に乗せた。 「彼女とこういうことした?」 そう聞きながらオレの首筋を舐めて乳首を後ろから撫でてくる。 「そんなの当たり前じゃん」 オレはそう言って後ろの依冬に顔を向けて舌を伸ばしてキスした。 依冬の手がオレのモノを優しく撫でる。 気持ち良くて体が仰け反って依冬の体にもたれる。 「シロ…彼女とこんな事もした?」 オレのモノを緩く扱きながら足を広げて片方の手で穴に指を入れてくる。 「あっ…んっ!それは…してない、だって…女の子がお風呂でするの…んっ、嫌がったから…」 「シロは?」 そう言うと奥まで指を入れてくる。 「ぁああんっ!はぁはぁ…んっ、きもちい…ぁあ…依冬…オレは…んっ…やじゃない…」 オレの首にキスして耳の裏まで舐めあげて食むように耳を咥える。気持ちいい… 「依冬…お風呂でイクのやだ…」 「何で?」 「お湯が汚れるのやだ…」 「また張れば良いよ…ね?このままさせて?」 そう言ってオレの中に大きくなったモノを押し込んでくる…相変わらず大きくて困る。 「はぅっ…んっ…おっきい!あっああん!や、やぁん…苦しいっ、あっ…あっ!!」 根元まで半ば強引に突っ込むと片手でオレのモノを扱いてもう片手で逃げない様に腰を抑える。 「あぁ…シロ…かわいい、逃がさないよ…気持ちいい…んっ…はぁはぁ」 泡風呂の泡でヌルヌルしていつもより感じる体はあっという間に気持ち良くなっていく。 「あっ!依冬!らめぇ!!…んっ!イッちゃうからっ…まって!ぁあんっ!!…きもちい!!」 オレの中に下から突き上げて動くから水面がパシャパシャと騒ぐ。ヌルヌルの体にヌルヌルの指を這わせて乳首を触られて体に刺激が走る。 「シロ…イキそう…!」 「あっああん!!依冬!!イッちゃう!んんぁっ!!」 オレ達はほぼ一緒にイッてしまった。 快感が抜け切るまで寄り添って息を整える。 「シロ…シロ…」 背中の男が弱々しくオレを呼ぶから首を回して後ろを見た。 「どうしたの…?」 依冬の顔を見ると目に沢山涙を溜めて情けない顔をしている。 「怖かった…シロがどうにかなるんじゃないかと…怖かった…!」 吐露する様に吐き出す。 オレは依冬の方に向き直って正面から抱きしめた。 体を密着させて背中を撫でた。 「怖かったよね…1人で頑張ったよね…依冬…偉かったね…ありがとう…」 依冬の顔を見るとえぐっえぐっと泣いてる…。 かわいい… お風呂のお湯を抜いてシャワーで頭を洗いあって顔を洗って長いお風呂の時間を終わった。 依冬はオレの1個下なのに…偉いな イカれた親を抱えて会社経営にも携わって、こんな年上のお守りまでして… 風呂上りのビールを飲んでプハーとする依冬を見ながらオレももう少ししっかりしないと…年上だし…と思った。 「じゃあ、ペンギンの鳴き声は?」 「キェーーーー!!」 「あはっ!じゃあパンダは?」 「ん~、クォーーン!」 「んふ、絶対違う。じゃあ、キリンは?」 「クェックェッ」 「なにそれ…ガッカリだよ」 そんな会話をしながらベッドで腕枕してもらって寝る。 体を返して依冬のほっぺを両手で挟んでプニプニする。 口がかわいい… 依冬がオレのほっぺに同じようにする。 「真似すんな~」 そう言って鼻に指を入れると同じようにする。 馬鹿みたいだけどこんなのが楽しくてベッドに入ってからずっとやってる。 「シロ…眠くなった…」 急に訪れた依冬の睡魔によってこのおふざけも終わってしまった。 オレを後ろから抱いて寝る依冬。 寝息が聞こえてきて暖かい息が耳に当たる。 オレに絡まる依冬の腕をそっと抜けてオレはベランダに出てみた。 こんな都会だから見える星は限られていて小さな星は都会の明るさにかき消される。 満天の星なんてここでは見れないな… そう思いながらオレは目を瞑って空に祈った。 にいちゃん…桜二を助けてくれてありがとう…。刑事のおじちゃんが食いついてきてオレが焦らないでちゃんと出来る様に守って。 ゆっくり目を開けて風を受ける。 分かったよってにいちゃんが返事したように勝手に思って勝手に安心した… 部屋に戻って依冬を後ろから抱きしめて寝る。 かわいい依冬…オレはお兄ちゃんだから守ってあげる。 今日は朝から桜二の病室にお見舞いに行く。 タクシーを拾って向かう最中、携帯に依冬から電話がかかってきた。 「もしもし?うん、今タクシー。え?病院に?ふぅん…分かった。平気だよ…。はーい、じゃあね!」 どうやら病院で刑事がオレを待ってるらしい…。 ふぅん…良いね。 オレは窓の外に目をやって流れる景色を眺めてほくそ笑んだ。 病院に着いて一般病棟の個室に移動した桜二の病室に向かう。 昨日買ってもらった服着てたけど、気付かないよな…。ちぇっ! 桜二の名前が書いてある病室前に仏のおじちゃん刑事がいた。オレを見ると手を振って笑ってる。 オレは節目がちに挨拶をして桜二の部屋に入った。 目隠しのカーテンを張って外から見えないようにする。 「シロ!おいで!」 桜二に呼ばれて目尻が下がる。 「桜二!桜二!良かった!元気になってきてる!!もうほんと心配したんだよ?もぅ…本当に怖かったんだから…」 そう言って彼を抱きしめて温もりを確かめる。 おでこを触って熱がないか確かめる。 目を見て黄疸が出てないか確かめる。 そして最後に熱いキスをして愛を確かめるんだ… 「シロ、昨日退院大丈夫だった?」 「んふ、大丈夫じゃないよ…でも依冬がすごく頑張ってオレを持ち直させてくれた…元気になったら褒めてあげてよ。」 俯きがちに言って桜二の手を握る。 「オレ情けないよ…依冬が頑張ってくれてるのに、桜二が…桜二が来なかっただけで…も、ダメになっちゃったんだ…」 こみ上げてくるあの時の恐怖を思い出してどんどん涙が出てきてしまう。 悲しそうな顔でオレを抱き寄せて涙を拭ってくれる桜二、愛してる…愛してる。 「ねぇ……何で刺されたの?」 「…湊が自分の殺害をオレに依頼したって話をしたら取り乱してあちこち刺されちゃったよ…」 そう言って腹部と胸、腰の方を指差して言った… 「本当の事言っただけなのにね…」 傷の上を優しく撫でて手を当てる。 こんなに傷つけられて可哀想…痛かったし怖かっただろうに…胸が痛くなる。 「ねぇ…刑事になに聞かれたの?」 急に桜二は言葉に詰まってオレを見る。 「…湊のこと?」 頷いてオレの手を触って笑う。 「どうして分かる?いつも不思議なんだよ…何で言わなくても分かるの?」 だからシロには嘘はつけないね…と言ってオレの手にキスした。 「湊の殺人容疑がかかってるの?」 「多分…そうだと思うよ」 オレは立ち上がると桜二の顔に顔を近づけて小さい声で耳打ちした。 「シロ…それは…」 オレは桜二の目を見て顔を傾げる。 「もう2度とお前に触れなくなるのは嫌なんだよ」 良いね?と言って目に圧を込めた。 「…分かったよ。風向きが変わったら教えて」 そう言ってオレの頬を手で包んで親指でオレの唇を触った。 オレはそれを舌で舐めて笑う。 コンコン ノックの音がしてオレは椅子に座った。 「はい…」 そう言ってカーテンを少し開いて顔を覗かせる。 「ボクは…君はシロくん…だよね。私この前お会いした田中と言います。刑事さんです。ちょっとお話し良いかな?」 オレは桜二の方を1度振り返ってから頷いた。 カーテンを開けて桜二の部屋を出る。 オレの前を仏のおじちゃん…改、田中刑事が歩いて先導する。病院の屋上なんて簡単に入れて良いの?危なくない? 「君、被害者の古くからの知人って言っていたよね?覚えてる?」 屋上の風を受けて田中刑事が白髪をなびかせてオレに聞いて来る。 「あ、え…そうでしたっけ…」 オレは惚けるように俯いて視線を外した。 確かそう言ったよ~と笑う田中刑事。 「新宿でストリップを始めたのはいつからなのかな?動画見たよ?激しいね…嫌いじゃないよ?」 オレは表情を固くして視線を相手に戻して言った。 「大体2年前です…それが、なにか?」 「その前は何してたの?」 …来た 「…普通に学生、してましたけど」 「実家はどちらにあるの?」 「すみません…事件と関係ないことはお話ししたくないです…」 「なるほど。ごめんね…仕事柄その人がどんな人なのか詮索しちゃうんだよね…いけない癖だ。」 オレは田中刑事と距離を取って顔をそらして黙る。 田中刑事は話題を変えよう、と言って笑いかける。 「君、つい最近レイプ被害に遭ってるね?お店の店長さんが酷く相手を怒って今刑事事件になってるよ。もう動いても体は大丈夫なの?」 オレは田中刑事と視線を合わせず黙って俯く。 「その時の現場に、彼居たよね?あと、依冬君も…過剰に暴行を加えていたみたいだけど…いつも3人は一緒にいるのかな?」 オレは田中刑事に振り返ると怒った顔で言った。 「あの日は僕の仕事の日で、たまたま通った2人があいつらから僕を守ってくれたんです!何を聞きたいのか知りませんが…勝手な憶測で決め付けて話すの…やめて下さい!」 あ~!ごめん、ごめん! そう言ってオレの目の前で手を大きく上に振りあげた。 「うっ…!」 顔を逸らして頭を下げて体を引いた。 「大丈夫?」 声をかける田中刑事の目が光ってる。 「…すいません。虫が…飛んできて」 誤魔化すようにそう言って田中刑事から少しまた距離を取る。 「君、この間…事件の加害者と面識は無いって言ったよね?」 オレは黙って下を向いて顔を硬直させた。 「…はい。お会いしたこと…ないです」 「本当?ほんとはよく知ってるんじゃないの?」 「知りません!」 そう言って田中刑事を睨んで見る。 「ほぉ…本当に…よく似てるね。」 そう言ってオレの顔をまじまじと見る田中刑事に憤った様に踵を返して逃げるように屋上を後にした。 食い付いてる…? 逃さないように慎重にいかないと… オレは病室に戻って昼ごはんを食べている桜二に抱きついた。 そしてパニックになる振りをして泣いてる振りもした…そして桜二が抱きしめて、これは振りじゃなく本当に優しいキスを貰った。 何でこんなことをするかっていうと、さっきまでいた屋上からここは丸見えなんだよ…だから、田中刑事が見てる可能性を考慮して演技するんだ。 「食い付いてんだ。離さないように慎重にやる」 そう言って桜二の体を撫でた。 「シロは上手くいくと思うの?」 桜二がオレの体を抱き抱えながそう聞くから、オレは笑って言った。 「オレはシロじゃない…湊だよ……いいね?」 と言って桜二の顔を撫でて叩いた。 オレは湊が本当は生きていてイカれた親父から逃げ出すために一芝居した。というストーリーをでっち上げた。 イカれた親父は桜二が殺したと思ってるけど、実際は死んでない。シロとして生きてるって話だ。それだと殺人罪は適応されない。 オレには戸籍がないから丁度いいだろ? こんな事でクズな母親に感謝する日が来るとはね… さて田中刑事は釣れるかな… こればかりは待つしかない。 桜二の部屋でほぼ大半を過ごして仕事の時間が来る。 「もう動いて平気なの?」 心配そうに手を握ってくる桜二の頭を撫でて大丈夫だよ~と言った。 「また明日くるね」 そう言ってキスして病室を出た。 病院を出てタクシーを拾う。 新宿歌舞伎町まで、と行き先を告げてバックミラーを見る。 付けて来てんな…おいで、もっと オレは携帯を眺めて店につくのを待った。 「シローーーーー!!」 店の入り口で支配人がオレを抱きしめてナデナデして土下座しながら泣いてオレの周りをクルクル回った。 「もう大丈夫だよ…それより楓は?」 支配人は下を指差してまだ泣いていた。 あんたの話には罠しかない… オレは階段を駆け下りて扉を開けた。 「楓!会いたかった!」 オレは手を広げて楓に抱きついた。 アイラインが思いっきりズレて耳の方まではみ出てしまった! 「シロ…シロ!!シローーーーー!!ごめんね!ごめんね!僕のせいだよ…ごめんね!シローー!!」 オレを抱きしめておんおん泣く楓。せっかく化粧したのに…すっかりグチャグチャになってしまった。 「楓は悪くないよ…お前はオレを守ってくれた。」 そう言ってティッシュで涙を拭いてあげる。 「ねぇ?これからは付き合う人はちゃんと選ぶんだよ?」 オレは楓に優しくキスした。 「うん…うん…絶対気をつける!シロ大好き…」 オレも楓が大好きだよ… ぶん殴られても必死に助けを呼んでくれてありがとう。 駆けつけてくれてありがとう… 「もう踊っても平気なの?」 「体が鈍っちゃうよ、早く踊りたい!」 オレはそう言って服を脱いでメイクをする。 今日は…あいつに寄せて行こう。 化粧を済ませて衣装を選ぶ。 最初は慣らして行こう…久しぶりだし。 携帯で電話をかける。 「もしもし?今お店なんだけど、え?や、大丈夫だよ。もう踊らないと踊れなくなるから、それよりさ、時間取れたら来て欲しいの。ん、はいじゃあね!」 さてと、頑張ろう。 19:00 店内に行くと支配人がオレを見てまた泣いた…。 今更男に無理やりやられて壊れるほどオレはやわな環境で生きて来てねぇよ… DJにハグされて今日の曲を渡す。 カウンターに行ったらマスターが泣く… 今日のオレの飲み物は客から以外は支配人の奢りだってさ。 ラッキー! ビールを貰って飲みながら店内をさりげなく観察する。 田中刑事は顔が割れてるから来ないだろう…いや、あのおっさんならわざと来るかもな… 思った途端若い男を2名連れてのこのこやって来た。 カッコいいね、そういうのオレ好きだよ。 常連客に挨拶して回ると事情を知る人は神妙な顔するから変な顔して笑わせた。 徐々に刑事テーブルに近づいていく。 「シロ君!こんな歳でも来て良いのかね?」 そう聞かれたからオレはにっこり笑って勃つなら良いんじゃない?と言った。 ガハガハ笑うおっさんの両脇は微妙な顔して愛想笑いをしていた。 ご苦労さん 「シロ、そろそろ」 泣きながら支配人が声をかける…やめてくれよ オレは控え室に行ってカーテンの裏に控える。 久しぶりだな…楽しみだ。 大音量で音楽が流れてカーテンが開く。 ステージに出てまず簡単なマジックをする。 そう…今日のオレの衣装は白いマジシャンだ! 被ったシルクハットの中から鞭を取り出す。 それを思い切りしならせて鳴らす。 ドSのマジシャンだ。 ポールに近づいて鞭を腰に巻くといやらしくポールに股間を擦り付けて回る。そのままポールを掴んでゆっくり上に登って太ももでポールを挟んで体を反らす。 あぁ…気持ちいい。 ジャケットを脱いで下に落とすと腕の下と片足の太ももでポールを挟んで回りながら体を逸らせて片足を上げる。そして頭を逆さにしながら下まで急降下して手をついてバク転しながらポールを離れる。腰に巻いた鞭を外してしならせズボンをズリ下げていく。お尻が出たあたりで後ろを向いて腰を突き出していやらしく振る。そして前屈しながら最後まで脱ぐとシャツの前を思い切り引っ張って開いて肩まで下げる。チップを咥えた客が寝転がって待ち構えてる。 あぁ田中さんも? オレは一人一人サービスしながらチップを受け取る。田中のおじちゃんは心臓に悪いので最後にする。飛ばして次の客のチップを口で受け取り、その次の客も口で受け取った。 まだ死んだように待ってる田中さんのところに行き頭の真上に立って前屈して指で咥えたチップを取る。そのまま田中さんの体を跨いで四つん這いになりテーブルに座る刑事さんの胸ポケットに差し込んでから口で咥えて取った。そのまま立ち上がってバク転してフィニッシュした。 カーテンの奥に戻って一息つく。 久しぶりのせいか息が上がった… メイクを落として服を着て店内に戻る。 「シロ君!何で取ってくれなかったの?寂しいよ…」 田中刑事がそう言って怒っている。 あんたの目的それじゃないだろ… 「ごめんね」 そう言って通り過ぎる。 カウンター席に行ってビールを飲む。 今日は桜二が居ないから客が隣に座って来て談笑する。 まぁ以前はこんな感じだったし…これも悪くない。 けどやっぱり桜二が居なくて寂しいな 「シロ…来たよ」 依冬が来た! 「依冬!依冬!」 オレは両手を広げて依冬に抱きついて頬擦りした。 そのまま首に手を回して体を密着させてキスする。 気持ち良くて半立ちする… 「ねぇ…聞いて?オレ良い事思いついたの!」 そう言ってカウンターで依冬に計画のことを話した。 もちろん前置きとして刑事が来ていることも話しておいた。 「上手く行くかな…?」 「お前も桜二と同じ事を言うね」 笑いながら依冬の髪を触る。 「オレがもし本当に湊なら嬉しい?」 うっとりと依冬を見つめて聞くと、いいや…と言って顔を近づける。 「オレはシロが好きだ…」 そう言って舌でオレの唇を舐めた。 オレは口を少し開けて依冬の舌がオレの口の中の舌を舐めて行くのを感じた。 田中刑事ご一行がお帰りの様子だ。 収穫はあったかい? またのご来店お待ちしてます。

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