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第28話

「桜二、やっとだ、家に帰ろう!」 今日は桜二の退院の日だ…! 病院の先生に見送られイテテとなりながら自分で立って歩いて帰れるなんて… 涙が出る。 依冬の運転する車の後部座席に乗る。 オレはすぐ桜二に抱きついてキスを始めた。 あぁ…病院のベッド以外で桜二に触れられるなんて…感極まって涙が出て来る。 泣きながらキスするから桜二はビックリしてオレの髪を上げながら聞いてきた。 「シロ?どうしたの?」 「ずっと怖かったから…オレ嬉しいの…」 そう言って落ちてく涙を放ったらかしにして桜二の首に腕を回して軽くキスして舌で舐めて口の中で絡めてキスする。 このまま犯しちゃおうかな… そんな気持ちが湧き上がる。 桜二の部屋について電気をつけてあげた。 依冬が荷物の入った鞄を置いてどこに座る?と聞く。 桜二はソファっと言って自分で歩いて座った。 座るときにイテテと言うのが可愛いと思った。 オレは桜二の横に座って膝に寝転がった。髪を優しく撫でてくれるのが嬉しい… 「ねぇ、どこで刺されたの?」 オレが見上げて聞くと桜二はえっと…と言って指を差して教えてくれた。 「あそこで初めに脇腹を刺されて、その後逃げてる時に背中を刺されて、倒れた時に胸を何回か刺された。」 マジか… 「桜二、痛かった?」 桜二の頬を撫でて聞くと、うんと頷いた。 「かわいそう…」 オレは桜二に跨って抱きしめた。 「イテテ…シロ、まだ…イテテ」 何でイテテって言うのか分からなくて面白くて笑った。 依冬が後ろからオレの脇を掴んで持ち上げた。 「まだ傷が治ってないんだから、そういうのは俺としようね。」 と言ってキスした。 「傷いつ良くなる?」 桜二の膝に手を乗せて聞くと、内臓の方も傷ついてるからまだしばらくイテテが続くみたいだった。つまらない… オレはガッカリして桜二の股の間に入ると頭を腹に置いて痛い場所をさすった。 髪の毛を撫でる手があったかくてうとうとする。 このまま寝ちゃおうかな… 「ベッドで横になった方が良いよ。」 依冬が桜二に言って、ベッドのほうに連れて行く。 何だよ…つまらない… オレはその後ろをトボトボ歩いてついて行きベッドにイテテしながら寝転がる桜二を見た。 「シロ、おいで」 そう言われたけど行かなかった。 だってどうせすぐイテテって言うから… 「何で行ってあげないの?シロ桜二に会いたかったんでしょ?分かんないな…そういう所。」 依冬に言われてムッとする。 「オレ、レッスンに行ってくる!」 そう言って荷物を持った。 「送るよ」 「いい!」 そう言って桜二の部屋を出た… だって…もっと甘えたかったんだ… 前みたいに体全部で感じたかったんだ! もう桜二が足りなくて…欲求不満だよ… エレベーターでメソメソして外に出て空を仰ぐ。 にいちゃん…オレわがままだよな… 下を向いて自己嫌悪する。 タクシーを止めてスタジオまで向かう。 依冬の広い家で連日練習したおかげか調子も戻ってきたし、今日も躍り込もう…。 頭を空っぽにしてこの言い知れぬ苛々を発散させて桜二に素直に優しくしたい… 「シロ!彼氏今日、退院するんだよね?オメデトー!!」 陽介先生、覚えててくれたんだ。 「…ありがとうございます」 オレの浮かない顔に先生が尋ねてきた。 「何かあったの?」 堪えてた思いが込み上げて、こんな事ダンスの先生に言う事じゃないのに…我慢できなくて話してしまった。 「…オレがわがままで、桜二に酷い態度をとっちゃった…。自分の事ばっかり言って困らせちゃったぁ~っ!うわぁん!うわぁあん!」 ボロボロ泣くオレに陽介先生は顔を赤らめて嬉しそうな顔をして抱きしめてくれた。 「シロ…大丈夫だよ」 そう言って背中をさすってくれた。 「すごい嬉しくて早く前みたいにしたくて…でも出来なくてイライラしちゃったの…酷いよね…こんなオレ、嫌われちゃうよね…グスッグスッ」 「あぁ…シロ…天使…いや、そんな事で嫌いになったりしないよ。むしろ何でそうなっちゃったか理由を話したらどうなの?」 陽介先生…優しい…こんなどうでも良い話にちゃんと乗ってくれるなんて…申し訳ない 「うん…そうする。ありがとう先生…」 オレは散々泣いて目の周りがシャドウが付いたように赤くなってしまった。 オレが先生を見上げてお礼を言うと先生は視線を外して、おぅ…と言った。 「練習お願いします」 切り替えてレッスンを始める。 先生の指摘を受けて直して繰り返す。その繰り返し。何回も何回も頭が真っ白になって体が自然に動くまで… 「シロ今の良かった」 褒められた…まだ、もっと 時間いっぱい同じことを繰り返して精度を上げる。 オレでも出来るって…これに少し賭けてる。 いやかなり賭けてる。 頑張れ、オレ… 「シロ、お昼…」 「うん、いいよ」 「やったー!嬉しいな~、何食べたい?」 今日は陽介先生にお世話になったから…ランチを一緒に食べよう。 着替えるためにTシャツを脱ぐ。 先生が近づいてきた。 何か用かな? 顔を上げて先生を見るとオレの前に膝をついて座りオレの肩を押すとそのまま押し倒してきた。 あ、これマジのやつだ… 「シロ…好きだよ」 オレの首に顔を沈めてくる。やばい… 「ダメだよ…先生、オレ先生とそんな風になるの…嫌だよ。先生…尊敬してるから、やめて…」 オレは陽介先生との関係をそんなものにしたくなくて声が震えるけど気持ちを伝えた。 「俺のこと尊敬してるの?」 「うん、先生のダンス好きだから…あと明るくてカッコいい所も好きだよ。でも…」 「彼氏には慣れないんだな…」 オレの首から顔を上げて見下ろす先生はいつものふざけた先生じゃなくてイケメンだった… 「先生って…イケメンだったんだね…」 オレが言うと見たことない顔で笑って顔を近づけてくる。 やばい…カッコいい、堕ちるかも 「諦めるから、一回キスだけお願い」 そう言ってオレの口に舌を入れてキスしてくる。 「んっ…ふっ…ん、んっ…はぁっ…せんせ…」 先生のキスが気持ち良くて頭がとろけてくる。手を自然と先生の首に回して自分からキスする。たまに口の隙間から漏れるキスの音がいやらしくてその気になるのを我慢してキスする。 糸を引かせて口を離す。トロンとした目でオレを見てくる…あぁエロいな…先生は 「せんせ…きもちよかった…」 オレがそう言うとやっぱり見たことない顔でオレの頬を撫でて唇を触った。 そして立ち上がって向こうに行ってしまった… 何これ…すごくドキドキする。 オレは起き上がってフワフワした頭で服を着替えて支度を済ませて、向こうを向いてる先生に声をかけた。 「先生、ご飯行こう」 先生は振り返ってわーい!と行って付いてきた。 いつもの先生に戻っていた。 この人の彼女になる人が羨ましい… これで良いんだ。 きっとこれで良かったんだ。 「じゃあ昔ハマったのは?」 「フォー、ヒーハー!」 「ふふ、じゃあ最近好きなのは?」 「ブルタウォルネ」 「あははは!上手い、先生似てた!」 先生の知り合いのお洒落なカフェのテラス席でご飯を食べた。 話の内容は大体が音楽とかダンスの話。 先生の話は面白くて、いつもほっぺが痛くなる。 今日はあんな事をしたせいか、オレの胸もドキドキして痛かった。 「ちゃんと彼氏と話せると良いね…」 帰り際先生がそう言って手を握ってきた。 うん、と行って握り返して先生とは違う方向に足を進めて手を離した。 「先生またね!」 手を振って前を向いて歩く。 胸がドキドキして戸惑う。 「先生って…ロマンチックだな…」 タクシーを拾って桜二のいる家に帰る。 オレのこと嫌いになってないかな… 申し訳ない気持ちとわがままな気持ちがまだ葛藤する。 ドアを開けて中に入る。 依冬はもう行ったみたいで室内は静かだ。 洗濯物を出してシャワーを浴びる。 部屋着に着替えて寝室に向かう。 ゆっくりドアを開けると桜二は寝息を立てて眠っている。 オレはゆっくりベッドに乗ると布団に入って桜二の顔を見ながら寄り添って横になった。 起こしてしまったようで、うっすら目を開けてオレを見る。 あの時と同じだ… 意識が戻ったときのことを思い出す…本当に怖かった…兄ちゃんの死に顔を思い出して、泣き叫びたい気持ちを堪えてあの時ベッドの隣にいた… 「シロ…お帰り。レッスン、どうだった?」 オレの頬を撫でて微笑みながら聞いてくる桜二の声が弱々しく掠れていて… 胸が苦しい 「先生に褒められた…」 小さい声でそう言うと、オレは桜二に背中を向けて彼の手を自分の胸元に回した。 オレの首に顔を埋める桜二の息が耳にかかって熱い。 「さっきはごめんね…自分の事ばっかり言ってごめん…。退院したのが嬉しくて…前みたいに甘えたかったんだ…こんなに怪我して弱ってるのに…酷いよな…ごめん」 桜二の手を触りながら謝った。 桜二はもう片方の手をオレの頭の下に通すと自分の体をオレに寄せて抱きしめた。 「シロ…ごめんね、俺も早くシロを思い切り抱きしめたい。歯痒いよ…ごめんね。でも怪我は良くなるから…必ず治るからもう少しだけお互い我慢しようね。かわいいシロ…愛してる」 オレは桜二の方に寝返って怪我をしてない所に手を置いて顔を彼の胸元にそっと寄せた。 「桜二…あったかい…嬉しい」 こうやって触れ合う事が出来るだけで幸せのはずなのに… 欲張りになってしまったみたいだ。 「先生は元気だった?」 頭の上から低く掠れた声がする。 オレは桜二の腕に抱かれて胸の中でその声を聞く。 「先生…?素敵だった…」 オレの言葉に声を出して笑ってるけど、本当に素敵だったんだから… お前の知らない先生。 オレと歴代の彼女しか知らない顔なのかな… 「依冬は?」 「仕事に行くって言ってたよ。」 「桜二…寝て良いよ」 「ん…分かった」 しばらくすると寝息が聞こえる。 オレも一緒に眠る。 ちょっと疲れたから一緒に眠ろう… 「シロ、シロ」 すごくぐっすり眠ってしまった。 誰かに呼ばれて目を開けると依冬がオレを呼んでいる。 「…眠い」 そう言って目を閉じるとしつこく揺すってくる。 「…もうなんだよ!ばか!」 「シロ…どうしたの?」 頭の上で桜二の声が聞こえた。 あ、そうだ…桜二は退院して一緒に寝てたんだ。 「何でもない…ごめん」 そう言って起き上がってベッドから降りる。 「起きるの?」 桜二がオレに聞くので、うんと答えて部屋を出た。 「シロ、これ見て…」 「わぁ…ざまあみろだ」 テレビでオレを襲ったレイブ魔が支配人に起訴された報道がやっていた。こうやってテレビで見るとあんなにデカく感じたガタイは大したことないように縮んで見えた。 「これからシロも警察に事情を聞かれるかもしれないね…大丈夫?」 「別に…オレは悪いことしてないもん」 そう言ってソファに座った。 時計を見ると21:00だった。 随分寝てしまった… 久しぶりに桜二と寝て緊張が解けたみたいにぐっすりと寝てしまった。 「桜二お腹空かないのかな…」 オレが言うと依冬は買ってきた小洒落たお店のテイクアウトを見せた。 「そういうのじゃなくてもっと栄養のあるものが良いよね。」 オレはそう言ってキッチンに行くと包丁が入ってる扉を開けた。 カタッと何かが落ちる音がして、見てみると何かのカセットテープだった。 べっとりと血の跡が付いていてゾッとした。 この前の事件と関係ありそうなもの… 「…何だろう?依冬…これ」 「カセットテープだよ。音楽とか録音するやつ」 初めて実物を見た…カセットテープ… 「これ、何が入ってるのかな…」 オレは再生できそうなものを探して回ったがこのカセットテープを入れられそうな機械はどこにも無かった…。 いけない事とは思いつつ、オレは血を拭き取ってカセットテープを自分のリュックにそっとしまった。 冷蔵庫を開けて何か作れるか考えるけど、よく分からなかった。 「卵かけご飯は栄養あるよね?」 「それは…ん~普通にこういうので良いじゃん」 小洒落たテイクアウトを食べながら依冬が言った。 「今日はそれで良いけど、明日は仕事に行く前に何か作ってあげれたら良いなぁ~」 「シロが作るの?」 「うん」 「う~ん…どうかな…。それより、シロ、一緒に食べよう?」 小洒落たテイクアウトをひとつ空けて依冬が言った。 オレは桜二に水を持っていってあげる。 携帯見ながら食べて本当に行儀の悪い奴だと思った。 「桜二…お腹空かない?」 桜二のおでこを触って熱がないか確かめる。 カセットテープの事は伝えない… 「ん…今何時?」 「9:30だよ、すごい寝てるけど具合悪い?」 ふふっと笑って本当だね、と言った。 「ご飯食べる?お水だけ飲む?」 「お水だけ飲む」 そう言うから持ってきた水を渡した。 ゴクゴクと喉を鳴らして飲むから見入ってしまった。 あっという間に飲み干して空のコップを受け取った。 「夜の分の痛み止め飲んでないよ?先生が何か食べてからって言ってたけど、プリン食べる?」 そう聞くと笑って食べると言ったのでオレは急いで依冬のテイクアウトからプリンを横取りしてスプーンを持って桜二のところに戻った。 スプーンで掬って食べさせてあげる。 「このプリン美味しいよ。シロも食べてみて?」 そう言ってスプーンを取るとオレにあーんと言った。 オレは口を開けてプリンを食べた。 うん、美味しい… 食べ終わったので薬を持ってきて抗生物質と痛み止めを渡して水を飲ませた。 「桜二…もう寝て良いよ」 オレがそう言うと桜二は横になってまぶたを閉じた。 依冬が来て空のプリンを見た。 「シロもご飯食べて。オレが怒られちゃう…」 そう言われてダイニングの残ったサラダを少し食べた。 もともと夜は働いてるから食べない習慣がついてるのでそんなに食欲が無い。 「薬飲んだ?」 「うん」 「シロもう眠い?」 「うん…眠い」 「明日仕事の前にまた来るね?」 「うん、ありがとう」 オレは依冬を玄関まで送ってキスした。 寂しそうに帰る姿がクーン…と可哀想に見えて、飼ってあげたくなった。 部屋に戻って歯を磨く。 寝過ぎてもっと眠くなってしまった。 電気を消して寝室に向かう。 起こさないようにゆっくりベッドに入ると桜二が待っていたかのようにオレを引き寄せて後ろから抱きしめた。桜二の体に密着する背中がポカポカあったかくなっていき、布団の中の暖かさと相まって心地良くなる。 「依冬帰ったの?」 掠れた声で耳元に聞いてくるから、うんと頷いて頭を桜二の方へくっ付けた。膝を曲げ足を絡めてくっつく。 「桜二あったかい…」 オレはすぐにうとうとしてそう呟いてまぶたを閉じた。 首に顔を埋めてオレの首筋を食む。 好きにして… オレはそのまま眠った。 「シロ?朝だよ…?」 「眠い…」 体を揺すられても起きないオレを依冬がベッドから引っ張り上げる。 「やめて…!やだ!」 オレは暴れて桜二の隣に戻ってまた眠る。 「シロ、桜二に薬飲ませなくて良いの?」 そうだ!オレは朝一番に桜二に痛み止めと抗生物質を飲ませなきゃいけないんだ!! 桜二にぶつかりながらベッドを飛び起きてフラフラとキッチンに向かう。 薬の袋を手に取って指で押して薬を出すとコロコロと転がって床に落ちていく。 「あ!落ちちゃった…!」 オレがそう言うと依冬が床を探して拾って置いてくれた。 「3秒ルール…」 依冬と目を合わせてそう言って頷いた。 オレは何か食べさせてあげようと冷蔵庫を開けた。 賞味期限がどれも過ぎてて使えそうにない…米は炊いてない…味噌汁の作り方が分からない…オレ用に買ってあるプッチンプリンと薬、お水をオボンに置いて寝室に持っていこうとした。 「シロ、大丈夫。起きたよ…」 弱々しい声で桜二が寝室からこちらに向かって歩いて来る。 「なぁんで?寝ててよ。オレが持っていくのに!」 頼りにされていないみたいに感じて少し苛立って言って、すぐに反省して依冬の買ってきた食べ物を袋から出した。 昨日の夜にお米をセットしておけばよかった…。 桜二がいるのに卵焼きのない朝…。 朝ごはんと呼ぶには悲しい出来合いの料理…。 「卵焼き。明日は作ってあげるね。」 落ち込んで箸を持ったまま固まるオレに桜二が優しく言う。 …もっとお世話、ちゃんとしたいのに全然できてない。 ムスッとして何にも手を付けないオレの顔を覗き込んで依冬が聞いて来る。 「シロ、お腹空いてないの?」 「こんなの食べたくない…違うもん!」 堪える様に涙をポロポロ流すオレに依冬が席から立ち上がって言う。 「卵焼き買ってくる!」 「いらない!そうじゃないもん!」 「シロ…」 桜二が席を立ってオレを背中から抱きしめる。 「良いんだよ、気にしなくて良いんだよ。大丈夫だから。ね?」 堪えてた気持ちがあふれて涙が止まらない。 「もっとちゃんとお世話したいのに…うぇえええん。」 よしよし、と頭を撫でてキスをくれる桜二に甘えて抱きつく。 「シロは時々難しいよ…俺には難しい!」 そう言って買ってきた食べ物を黙々と食べる依冬。 お前の凶暴性はきっとコンビニ弁当の食べ過ぎからくるものだ。 オレはもっと栄養のあるものを食べさせてあげたいんだよ! 10:00 オレは朝食の挽回をするためにスーパーに行った。 カゴを持って野菜コーナーから物色する。 ほうれん草は栄養がありそうだ!あとは、キノコも栄養がありそうだ!あとは…にんじんは硬いから買っておくか? 次にお魚コーナーを飛ばしてお肉コーナーに立ち寄る。 とりあえず牛肉をカゴに入れる。ロース?薄切り?よく分からない。とりあえず入れる。 そのあと、ウインナーをカゴに入れて、チキンナゲット、ハム…こういうの大好き。 卵もカゴに入れて、パンも買った。 お会計して袋に入れて桜二の部屋に帰る。 「お帰り、何買ってきたの?」 玄関でお出迎えしてくれる優しい桜二にチュッとキスする。 オレは買ってきた物をテーブルに広げて見せた。 「卵焼き作る?」 「ん、オレが作るから良いの。待ってて!」 さて…時計を見ると11:00 お昼ご飯って12:00に食べるものだよね? じゃあこれから作らないと間に合わない! オレは手洗いして材料とにらめっこした… 「シロ…オムレツとか作ってみる?」 オムレツ…?栄養あるのかな…?オレはとりあえず頷いて桜二を見た。 「じゃあ、まずほうれん草を切ろうか?」 「どうやって?」 オレが途方に暮れていると桜二がまな板と包丁をどこからか出してきてオレの目の前に置いた。 「…ほうれん草を…切る!」 オレの後ろに桜二が覆いかぶさってオレの手を持って手伝ってくれる。 「まず、ほうれん草を袋から出して…水で洗うよ?」 オレは言われたとおりにほうれん草を袋から出して流しで適当に洗った。 「次に、根っこは…今日は捨てようか…まな板に載せて…切るよ?」 オレの手に自分の手を重ねて包丁を持ってほうれん草を切っていく。 「あ…ザクザク言うね…」 オレがそう言うと桜二はオレの頭の上でクスッと笑った。 「シロ、ウインナー入れる?」 「ウインナー入れる!」 桜二に聞かれて即答する。ウインナーとハムが大好きだ。 ウインナーをまな板に載せて切っていく。 コロコロ転がるから手で押さえるけど…なんか、これ… 「指に見えて気持ち悪い…」 オレはそう言って体を捩って桜二の胸板に顔を埋めた。クンクン嗅ぐと服の下から包帯の匂いがした。 「シロ、ちゃんと見ないと指切っちゃうよ?」 「桜二が切って…気持ち悪いから」 オレの手を動かして桜二がウインナーを切ってくれた。 「じゃあ、次は卵を割るよ?」 卵は割れる。だって、卵かけご飯が大好きだから。 「何個割るの?」 「ん…4つくらいかな」 オレは得意げに卵を4つ割ってボールに落とした。 「じゃあ、フライパンを置いて、火をつけるよ?危ないからもっと離れてね。」 桜二の体がぴったりくっついてオレの腰を掴んで自分の方に引き寄せる。 カチカチカチ…ボッ! 火がコンロについてフライパンを温める。 「まずは油を敷いて、ウインナーから入れていこうかな?」 オレは言われたとおりに油を入れてウインナーをフライパンに入れた。 ジュ健太ュウいってパチッと油がはねて手に当たる。 「熱い!」 「あぁ…熱かった?かわいそうに…水で冷やそうか?」 大丈夫、と言ってオレはほうれん草を入れた。 ほうれん草を入れると大分ジュ健太ュウする音が少なくなって落ち着いた。 「味付けしちゃおうか?塩と胡椒を入れて…」 オレは桜二が渡してくる塩と胡椒をパラパラ入れた。 「シロ、上手だね?もう少し入れようか?」 褒められた!オレは塩、胡椒をもう少し入れて卵を手に取った。 「いつ入れる?」 「もう入れていいよ」 「え…どんな感じで入れる?」 オレが卵の入ったボールを構えて戸惑っていると桜二が手を添えてフライパンに流して入れた。 オレの右手を包んで掴んで手際よくフライパンの中をかき混ぜる。 オレの左手を包んでフライパンを揺すって中身を揺らす。 「あ…ああ!桜二、オムレツになった!」 いつも見てるオムレツがフライパンの中で出来上がると桜二は、まだまだ!と言ってオレの左手を包む手をクイッと大きく掬うように動かした。 フライパンの中のオムレツが宙に浮いてペタン!とフライパンに戻る。 「あーーーっ!すごい!何それ!桜二、すごい!もっとして!」 オレはすっかりこのペタン!に夢中になって何回もやってもらった。 「シロ?そろそろ焦げちゃうから」 そう言われてオムレツをお皿に移した。 「わぁ…、オムレツ…オレが作った!」 洗い物は桜二にしてもらってオレはダイニングテーブルにオムレツを飾った。 「桜二、これ食べて!栄養あるよ。食べて!」 オレは桜二の腰にしがみ付いてダイニングテーブルに座らせた。 ピーピーピーと炊飯器が鳴る。 「シロも一緒に食べよう?」 「うん。食べる」 オレは桜二にご飯をよそってあげて渡した。 あ、にいちゃんともしたことある…この動き。嬉しいな… 自分のご飯をよそって桜二の隣に座る。 気付くとダイニングテーブルにはお箸もお茶も揃っていた。 「いただきます」 桜二がオムレツをお箸で切って口に入れる。 オレはそれをお箸を持ったまま固唾を飲んで見守る。 「うん、シロ美味しい!上手にできたね!」 にっこり笑ってオレの頭を撫でてくれた。 「栄養あるからいっぱい食べて、薬飲んで寝てね」 オレはそう言ってウインナーの沢山入ってる部分を切って食べた。 「桜二の作ったやつの方がふわふわだ…」 沢山フライパンを返してペタン!と遊んだせいでふわふわじゃ無くなっちゃった。 「シロ、また作って」 桜二におねだりされて嬉しくなってオレは顔を崩して笑った。 「うん、また作る!」 ご飯を食べて、洗い物を頑張ってして薬を桜二に飲ませてベッドに寝かせる。 「シロ、おいで」 桜二に呼ばれて一緒にベッドに入る。 彼の脇に寝転がって腕枕してもらう。あったかくて気持ちいい。 「次は何をご馳走してくれるのかな~」 「ステーキ!」 オレは自分が食べたいものを言った。 桜二はふふっと笑ってオレの頭を抱いて自分に寄せた。 「桜二、寝て…」 「うん…おやすみ」 桜二が寝入るまで見てようと思ったけど、頭を撫でる手があったかくて気持ちよくて…気付いたら一緒に寝てしまっていた。 次の日も、そのまた次の日も…オレはお昼ご飯を作ってあげた。 いつも桜二が手伝ってくれたけど、栄養のあるものを食べたおかげで桜二はどんどん元気になった気がする。食べ物って大事だよ。特に病み上がりは体に入れる物は気を付けないといけない。と、依冬にも教えてあげた。

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