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第29話
「陽介先生、これ再生できる?」
今日は特別に入れてもらったオーディション前の最終レッスン日。
時間いっぱい踊り切って、オーディションの時の注意点など聞いた。
着替えを済ませて帰る前にオレはこの前桜二の家で見つけたカセットテープを先生に見せて尋ねた。
「懐かしいやつ持ってるね?貸してみ」
そう言うと先生はラジカセって呼ばれるものに逆さにして差し込んで蓋を閉めた。
巻き戻しを押すと中のテープが凄い勢いでそれこそ巻き戻され、再生を押すと音が聞こえた。
先生はそっとオレから離れていった。
「何これ?」
誰かの会話してる声が入っていて、オレにはそれがすぐ湊のだと分かった。
初めて聞いた湊の肉声…弱々しくてどことなくねっとりとした依存性を感じる喋り方。
「桜二…好きだよ。僕と逃げてよ…」
「何で…?僕の事好きになってよ…」
「言うこと聞いたら好きになってくれるの?」
「僕、桜二のためなら何でもする…」
オレは一時停止を止めて固まった。
桜二は…これをあいつに聞かせたのか…
そのままカセットテープを取り出して上着のポケットに突っ込んだ。
知りたくなかった…聞きたくなかった…
どういうことなのか、断片の湊の会話と声色を聞けば察しはつく。
桜二は湊と関係を持っていたんだ…
オレの聞いてた話と違う…どういう事…嘘つかれた。
しかも湊は桜二に夢中な様子で…うっとりとした声色からそれが事後のものだと容易に想像できた。
1番マウントを取りたがったのは……桜二じゃん…
こんなの聞かされたら…オレだって刺しちゃうよ…
きっとオレの事も…湊に似てるから…
だから抱いてるのかな…頭から冷たい汗が流れるが、不思議と動揺は強くなかった…。ただ、足元からガラガラと音を立てて何かが崩れていく気がした。
先生のランチをいつもの様に断ってオレは家路に着いた。
だいぶ怪我が回復をした桜二は今日は朝から通院の日で既に家に戻ったと先程メールがあった。
家に着くと中で桜二がゴソゴソと掃除を始めている。
「シロ…お帰り、先生どうだった?」
いつもの様に桜二にもたれかかる様に抱きつき、まだガーゼのつく怪我の跡に手を当てた。
「掃除してるの?」
キッチンの中の扉を開けて洗剤や鍋が散乱している様を横目に見て尋ねた。
何を探してるかは容易に予測がついた…
「シロ…ここに…」
「これ?」
カセットテープをポケットから取り出して桜二に見せる。
「…何で持ってんの?」
怒った様な顔をして声色の変わった桜二。
胸が苦しくなって痛む…
何でオレにそんな顔するんだよ…
「お前…やっぱり…」
オレの手からカセットを奪う様に取ると、中を確認している。
「シロ…中、聞いたの?」
「……う…ん」
「何でわざわざ持っていって聞いたんだよっ!」
興奮した桜二がテーブルにぶつかって大きな音が鳴る…
桜二の強い言葉に体がビクつく…
息が出来ない…頭がクラクラする…
「何処まで聞いたの?シロ!何処まで聞いたの?」
オレの肩を掴んで顔を覗く様にして揺すって聞いてくる。
「…お前…オレの事なんて…愛してないじゃん…全部……湊の事じゃん…」
桜二は舌打ちしてオレの体を抱きしめると耳元で低く言った。
「確かに湊と寝たけど、俺が愛してるのはお前だけだよ…どうして何回も言わないと分からないの?」
「なんで!なんでそんなに怒るんだよっ!嘘ついたくせに!湊の事愛してないって!嘘ついたくせに!」
オレは桜二の肩を押して退かそうとした。
「前の俺を知ってるだろ?愛してないやつでも平気で抱けたんだよ。それに、湊と寝た目的はこれを録音するためだった。これをあいつに聞かせてやりたかったから録音して大事に持っていた。 これは、お前に聞かせるために持ってたものじゃない…あいつを発狂させるために持っていたものだ…理由も聞かないで、勝手に聞いて、勝手に傷つくのが許せない!!」
聞いたこともない声でオレに怒りをぶつける。
オレの体を持ち上げるとソファに押しつけて覆いかぶさってくる。
「やめろよっ!オレは湊の代わりじゃないっ!お前の事本当に好きなのにっ!」
オレは自分にキスしようとする桜二の顔を押さえて拒絶する。
「俺がいつシロの事湊の代わりなんて言った?なぁ!俺はいつだってお前に夢中なのに、何でそんな風に疑うんだよ!」
オレの手を掴んで頭の上に押しつけて激しいキスをしてくる。
舌が熱くて頭が揺れる。
そのまま腰に手を回して抱きしめてキスする。
「シロ…抱きたい…もう我慢できない!」
そう言って体を起こすとTシャツを脱いでまたオレに覆い被さる。
血の跡がうっすら残ったガーゼを体のあちこちに付けてオレの服を捲り上げて体を舐める。
「んっ…桜二…!傷が開くから…やめてよっ!」
オレは久しぶりの桜二の舌に持って行かれそうになる気持ちを抑えて桜二を制する。
「したくないの…?お前、俺としたくないの?」
オレの頬を優しく撫でて怖い顔で聞いてくる
「したいけど…傷が開くからしてないんだろ!そんな事も分からないのかよ!バカ!バカ!」
だんだんムカついてきて怒りながらそう言った。
そして起き上がって桜二に跨ってTシャツを脱ぐとあいつの顔を押さえてキスをした。
桜二がオレの腰から背中にかけて手を滑らせて愛撫する。
久しぶりに感じる桜二の手の感覚に体が喜んでクラクラする。
「はぁはぁ…ね、早く挿れたい…」
オレがそう言うと桜二はオレのズボンを脱がせて穴に指を入れてくる。オレは片足にズボンを付けたまま身体をあいつに密着させて腕を首に巻きつけて腰を浮かせてよがる。
「あっああ…ん、桜二、桜二…桜二きもちい…大好き…ん、あっ、ぁあっ…!はぁはぁ…も、挿れて…!」
早く挿れたい…!
桜二が自分のズボンを下げると大きくなったモノが飛び出す。
オレはそれを根本から指先で掴み上まで撫でると自分の穴に押し当ててゆっくり挿れていく。
「あっ…シロ!シロ…抱きたかった…ずっとしたかった…!俺偉いでしょ?褒めて…ねぇ、シロ!」
自分の中にあいつのモノを根元まで入れていやらしく腰を動かす。
「あっああ…ん!桜二の…きもちい…!かわいい…!あっ、あっ!んっ…はぁ…ん!」
片手でオレの腰を掴んでもう片手で頬を撫でてうっとりと乱れるオレを見る。
「シロ…キスして?」
オレは仰け反る顔を桜二の方に落として額を擦り付けキスする。
舌を入れて絡みつかせていやらしく何回も何回も吸い付く。
きもち良くて腰がうねる。桜二の腕がオレの腰を締め付けて気持ちいい…
唇を外して桜二の目を間近で見ながら喘ぐ。
「あっぁあ…桜二…イッちゃう…オレもうイッちゃう…!きもちい…!はぁん…あっ!桜二!」
オレの顔をうっとりアホ面で見るお前が湊にハマるわけないよな…
「シロ…俺、も…イキそう…!」
あいつの頭を腕で掴んで快感に任せて激しく腰を動かす。
あ…イッちゃいそう…!!
「あっあっ!あぁあっ!んっ…はぁはぁ…んっ」
桜二と同時にあっという間にイッてしまった。
あいつの頭をこちらに向けるとだらしない顔ではぁはぁしてるから、また腰を動かしてきもち良くさせてやる。
「桜二…もっと、もっとして…?オレ足りない…お前が全然足りないよ…!」
快感が抜ける前に次の快感を求めて、まるでチェーンスモーカーみたいに…快感のない時間を作らずずっと気持ちよくしてあげるよ…
「シロ…!んっ…あっ、はぁはぁ…んぁっ…」
喘ぎ声…かわいい…堪らない!
あいつの顔を見ながら腰を動かして気持ちよくしてあげる。
「あっ…!桜二、桜二…!またおっきくなったね…エッチ…桜二のエッチ!ぁああっ!きもちい!」
桜二の肩を押して体をソファの背もたれに押しつけて覆いかぶさるようにして腰を動かす。
あいつの仰け反った顎の下から舌を這わせて唇を貪るようにキスする。
まるでオレがお前にファックしてるみたいな感覚になって…興奮する。
「はぁはぁ…桜二…?気持ちいい?ねぇ…んっ、あっあぁあ!や、やらぁ!オレがやるの!」
オレの尻を掴んで下から突き上げ始める桜二に一気に形勢が逆転する。
「あっ…ぁあっ、やっ…やだ!動かないで…!あっあっ!んんっ!ぁあん!らめぇ、きもちい!ぁああっ!!」
すっかりオレは受け身になり桜二に与えられる快感に酔いしれる。
腰が震えて喜ぶ。
「シロ…かわい…本当ずっと抱きたかった…」
オレの項垂れた頬に手を当てて持ち上げると舌で頬を舐める。
「俺の可愛いシロ…誰にも触らせたくない」
そう言ってキスするとオレをソファに寝かせて足の間に入り大きくなったモノを挿れてくる。
「沢山してあげる」
奥まで入れて腰を回してオレの中を感じる。
オレの勃ったモノを愛おしそうに見て指先でなぞる。
ビクビク反応するのを見てゆっくり握るといやらしく指を動かして扱く。
「あっ…ああっ!んっ…はぁっ…ぁああっ!桜二…!んっ、あっあぁあ!きもちい…!」
体が仰け反って快感が巡ってくる…桜二の腰がねちっこく動くから快感のストロークが長くて…堪らなくエロくなる…
「あっあはぁ…きもちい!桜二…!桜二!ぁんっ!イッちゃいそう…!きもちい!ぁああっ!」
オレがイッてるのに、ずっと扱き続けてまた勃たせる。
「シロ…可愛くて見てるだけでイキそうになる…。俺のシロ…可愛い…!!」
桜二はそう言って極まるとオレの腰を掴んでオレに覆い被さりキスしながら腰を動かしてくる。
やばいよ…すごく気持ち良くってまたすぐイッちゃう…!!
「んっ…んっふあ…ん、んんっ!んぁっ!桜二!らめぇっ!イッちゃう!んっ!きもちい!!んっぁああっ!!」
激しくイッて腰が揺れる…!桜二もイッたはずなのに余韻も感じずまだ腰を振るからオレの中から精液がグジュグジュ音を立てて掻き出される。
「やだっ!も、もっとゆっくりしてよっ!んっんん!あっあぁあ!らめ!おうじ、やぁだ!!」
オレがゆっくりやれと言うといつもならゆっくりしてくれるのに、今日はまるで依冬の様に野獣化していて手がつけられない…!
「やんっ!やぁ…ぁああっ!んっ!はぁはぁ…おうじ…おうじ…あっあ…ぁあん!イッちゃうよ!」
オレの両手を頭の上に押さえつけてガンガン腰を突いてくる。やばい…頭が真っ白になる!
「あっあああ!きもちい!おうじぃ!イッちゃうよ!あっ、あああん!」
桜二の背中にしがみついて激しくイッてしまった。
「まって…まって…ちょっと、まって…」
オレがそう言って桜二の腕を抜けると今度は後ろからオレの腰を掴んで挿れてくる…
「だめ…1回待って!ぁあん!桜二!やら!」
オレをソファにもたれさせて腰をねちっこく動かしながらオレのモノを扱く。
「だめ!だめ!イッちゃう…!んっんん!桜二…!きもちい!やだぁ…あっああ!きもちい…!」
イキすぎて足がガクガクする。
上半身はソファにもたれて顔すら上げられない。
ひたすら襲ってくる快感が体全体が巡って震える。
俺の背中にキスしてえぐる様に腰を動かしてオレのグチュグチュのモノを丁寧に扱く…
「ああっあ…きもちい…あぁあ…おうじ…んぁあ!…おうじ…!やぁ…ん…あぁあ…イッちゃう…ん」
もう何回イッたんだよ…オレの精液はまだ出るの…?
やっとオレを解放して背中にキスして首に顔を埋めるとオレを自分の方に向かせた。
向かい合って座ると床に座ってとろけたオレの顔を包み込んで舌を出してキスする。熱くて甘くて激しいキス。
そのままシャワーに一緒に行ってガーゼの中の傷を洗ってあげる。
「痛い?」
「ううん…シロ、キスして?」
「やだ」
オレがそう言うと笑いながらオレの頬を掴んで自分に向けてキスする。
シャワーがかかって体の隆起を流れていく様が美しくて見惚れた。
「桜二、勝手に聞いてごめん…気になったの」
「…あんなに怒ってごめんね。聞かせたくなかったんだ…。俺のどす黒い所これ以上見せたくなかった…」
「もう2度と怒らないで…怖いから」
オレがそう言うと、ごめんと言って真剣な顔でキスしてきた。
シャワーを出て部屋着に着替えて桜二のガーゼを新しく付けてあげる。
その後ストレッチを始めてバク転の練習をゆっくりする。
体が心地良く重く感じて嫌いじゃない…
「ねぇ病院で何か言われた?」
オレが尋ねるとカセットテープのテープ部分を細かく切りながら何も~と桜二が答えた。
何も言われないなんであるか…と思いつつ逆立ちしてゆっくり足を戻した。
その後ヨガのポーズを取ると桜二がふざけて真似するからそのまま足を後ろにそらしてアラベスクをした。そして手を床につけて爪先を動かしながらぐるっと一周回って、一回ピルエットをした。
「綺麗だ…!」
拍手を頂いてお辞儀をした。
「シロのオーディション、会場まで送っていくから寝坊しないでね」
桜二はそう言ってテープを切るハサミに目を落とした。
オレは桜二の背中に覆いかぶさって頭を撫でながら聞いた。
「湊ってお前にベタ惚れみたい…オレと同じだね…」
「シロとは違うよ」
「どこが?」
「全部似てない」
「え~」
そう言ってオレを膝に抱き抱えると髪をかき上げおでこを付けてすりすりしながら言った。
「シロは可愛くて綺麗で儚くて…お前は俺にベタ惚れじゃないけど、俺はお前にベタ惚れだから」
全然似てない…とオレの顔を撫でてキスした。
「お前は何で湊と寝たの?」
桜二の首に手を回して聞くと俯いて答えたくなさそうだった。
「どんなもんか…試して見たかっただけ…」
ポツリと呟いて言う。
「で、どうだった?」
「え?そりゃあ、もう…怖かった」
オレの体を抱きしめて強く締める。
「でもあんなテープまで録音して死ぬ様に仕向けたんだろ?」
そうあいつの頭に向かって言うとコクリと頷いて顔を見上げて聞いてきた。
「俺の事どう思う?」
オレは桜二の顔を包み込んで言った。
「とっても桜二らしいと思うよ」
試したかったんだって…ウケる。
オレは桜二の髪を指で解かして頭を撫でた。
「お前ってかわいい…」
そう呟いておでこにキスした。
「シロ!起きて!もうっ!」
今日はオーディションのある日。
受付が9:00から始まる。
オレは昨日仕事ではしゃいで飲みすぎてしまい、まだ身体がだるかった…。
「まだ…大丈夫でしょ?」
オレがベッドの中でそう言うと、桜二が布団を引っぺがしてオレを抱き起こした。
「シロ、今8:45だよ?何回も起こしたのに!」
オレはムクリと起き上がって歯を磨いた。
頭が重くて最悪だ…。
オレのパジャマを脱がせて着替えを手伝ってくれる桜二がお母さんみたいでウケる。
顔を洗って頭を濡らしてドライヤーで乾かす。
最後にソファに座って待っていると桜二が靴下を持って来た。
「オレこの靴下嫌だ!」
と言って桜二の頭に思い切りぶつけた。
「…シロ、次やったら怒るからね…」
と凄んで違う靴下を取りに行く姿がかわいい。
9:00 車に乗って会場に向かう。
道路工事で渋滞していてなかなか先に進まない状況に桜二が苛ついていて面白い。
「受付は9:00からだけど、沢山人がいるからなんだかんだ10:00過ぎまで受付してるよ~」
オレがそう言っても桜二の苛つきは治らずついにはクラクションまで鳴らし出したから頭に響いた。
何とか会場に到着して桜二にお礼を言って車を降りた。
急ぎ足で受付に行くと、ほらまだやってるじゃん。
オレは必要書類を提出して番号を受け取った。256番…結構時間がかかりそうな予感がした。
周りを見るとオレより若い子や年配の人、結構ばらつきのある候補者達に驚いた。
ガチめの人も散見して張り詰めた雰囲気の待合室に緊張感が少し芽生えた。
「君、プロ?」
隣の男の人がオレに声をかけてきた。
「いや、違いますよ?」
オレは笑って答えた。
「年はいくつ?」
「今年で20になりますよ」
「若いな…俺なんて32だよ…」
橋本さんという名前のこの人はどうもオーディションの常連ぽい人で、ダンスのオーディションには必ず応募して落ちているらしい…。
妙に現場のスタッフの動きを把握していて逆にスタッフのアルバイトをするべきなんじゃないかと思うくらい動線を把握していた。
「あの子、見える?」
橋本さんの指をさす方を見ると黒髪の背の高い男性がいる。
「今回の有力候補だよ」
通ってるダンススタジオで大体の実力を予測する橋本さんの情報量と知識は競馬にも役に立ちそうだと思った。
「君は誰に教えてもらったの?」
オレの方を見て聞いてくる。
「オレは個人レッスンで代々木にあるスタジオで陽介先生に教えてもらいましたよ。」
あーー!と大きい声を出したかと思ったら、急に身を屈めて口元を手で押さえて小さい声で喋る。
「陽介さんって、もともと凄いダンサーだったのに怪我で思うように踊れなくなっちゃったんだよね。あの人今そんな事やってるんだ…」
オレは聞いちゃいけない先生の過去を聞いた気がして返答に詰まった。
「オレ向こうでストレッチしてきます」
そう言って席を立って広めに開けられたスペースでストレッチする。
朝起きたばっかりだから体をほぐしておこう…
さっき橋本さんが要チェック!と言っていた男性が目の前でオレを見てる。
「君髪の毛綺麗だね。それ何色なの?」
微笑みかけて近づいてくる瞬間、こいつがゲイだと気付いた。
「これ?ピンクだよ」
オレは素っ気なく言ってストレッチをする。
「へぇ…可愛い」
やめてくれよ…そういうの…
「体柔らかいね?どこのスタジオから来たの?名前は?何才?この後予定ある?」
全ての質問を無視して笑ってごまかす。
「今日はどんな感じの踊りを用意しました?」
オレがそいつに聞くと、オレの顔を覗いてきてニヤリと笑った。
「気になる?」
「まぁ…」
「ひ、み、つ!」
嫌だ…この人…オレ、嫌だ…
苦笑いしか出来なかった…
立ち上がって肩をほぐして腕を回して血を巡らせる。首を回して足首、手首を動かす。
大人数でやってるのか意外とどんどん人が掃けていく。
こんなもんなんだ…
256番の番号が呼ばれてオレはスタジオみたいな部屋に入った。
長いテーブルに3人審査員が座っていて、オレの他に4人同時に審査するみたいだった。
要チェックの彼も同じ部屋にいてこちらを見て微笑んだ。
…こっち見んな…
順番に呼ばれて審査員の前に立って名前を言って聞かれた事に答えてる。その後はリクエストに答えて体を動かして終わりみたいだった。
なんだ、これでは踊らないんだ…オレは拍子抜けした。
要チェックの彼の番が来て、自信満々に審査員の前に立った。姿勢が良くて彼の体幹の強さが分かった。
「蒲田尚、23才です」
楓と同い年なんだ…もっと幼く見えた…
審査員の質問に答えて、リクエストに沿った動きをする。アラベスクからのピルエット2回転…か。お前の体幹なら簡単だろ?そう思ったがグラグラとブレて足をついてしまった…あぁ、緊張しちゃったのかな
その次の人が呼ばれ、同じようにしていく…次はオレの番だ…
番号が呼ばれて審査員の前に行く。
名前と年齢を言って質問に答える。
「髪の毛凄い綺麗だね、ピンク?」
「はい、ピンクです。」
「なんのお仕事してるの?」
「歌舞伎町でストリッパーしてます。」
少し後ろがざわついたが、まぁオレは誇りを持って脱いでるので気にしない。
「今回の募集してるダンスはそういうのじゃないけど、大丈夫?」
「はいそのつもりで応募しました」
「じゃあ、さっきと同じでアラベスクからのピルエット2回転してみて?」
馬鹿にしたように半笑いする審査員の声にオレははい、と答えて手足を伸ばして体を傾ける。二日酔いの頭痛もどこへ行ったのか頭はクリアだった。しばらくキープして戻るとそこから膝と足首を使ってピルエットを2回回りポーズをとった。
「凄い綺麗だね、バレエやってたの?」
「いえ、教えてもらいました。」
「じゃあ…他にも何かできる?」
「女性のですけど…エスメラルダのバリエーションを教えてもらいました。」
「見たい、今やってくれる?」
そう言われたのでオレは靴と靴下を脱いで裸足になった。
瞬く間に音源が用意されタンバリンを手渡される。
審査員の方を向いてポーズを取ってスタンバイする。
この踊りは所謂ノートルダムの鐘のジプシー、エスメラルダの踊りだ。幼い頃に母親と生き別れ、ジプシーとして育ちどうでも良い男にちやほやされて本命には婚約者がいて…最後に処刑されてしまうなんて…なんか湊みたいな話だ。
哀しくて激情を秘めたエスメラルダのバリエーション、オレはこの踊りが大好きで夢中になって覚えた。
今日は湊を思って踊ってみようかな…
「じゃあお願いします。」
オレが言うと音楽が流れる。
手に持ったタンバリンを音楽に合わせて足を上げて爪先で打ち付けていく。ブレずに何回も回転して止まる。頭の上のタンバリンを体をそらせて爪先で叩く。最後に膝をついてポーズして終わりだ。悲恋、悲哀、哀しくて力強い。そんな踊り。
オレが踊り終わると審査員はシンと静まり返っていた。
あれ、やっちゃったかな…
パチパチと拍手がなっていつのまにか沢山の拍手を浴びていた。
「シロくん…凄いね美しかった!圧倒されたよ」
すごく褒められて驚いた。
エスメラルダ…サンキュー
「踊りを見て思い出したけど、あなたYouTubeで話題になったストリッパーの子ね。なるほど…」
新大久保のSM対決がこんな所まで影響するとは…YouTubeを甘く見ていた…
「じゃあ、後日連絡を待って下さいね。今日はこれで解散で」
そんな感じにオレの人生初オーディションは終わった。
帰りに依冬と合流してカフェでパフェを奢ってもらった。
頑張ったお祝いだそうだ。
「シロ、バレエが好きなら今度一緒に観に行こう。」
「本当?やった!」
思わぬ収穫を得て気分が良くなった。
「ねぇ、じゃあ車買ってよ。」
「免許ないじゃん…」
「じゃあ家買ってよ。」
「…結婚してくれるなら。」
条件をつけるなんてケチ臭い男だと思った。
お金持ちなんだから貧しい人に分け与えろよ。
まだ仕事のある依冬と別れて桜二の部屋に戻った。
部屋に入ると良い匂いがして今日のご飯が何かわかった。
「すき焼き~!」
スキップして部屋に入るとエプロン姿の桜二がおたまを持ってお帰りって言った。
こういう生活…良いなぁ…帰るとご馳走があって愛しい妻が出迎えてくれるなんて…
そんな事を考えながら桜二の背後にくっ付いて腰を振った。
「やめて!変態!」
と言われてしまった。
「今日はすき焼きなの?」
「シロ頑張ったから奮発して良いお肉しか買わなかった…」
「うわ~!嬉しい!もう食べたい!そしてご飯食べたらお店に送って」
オレはダイニングテーブルに着席して器に卵を割って溶かして待った。
「今日仕事あるのか…残念だね。」
一緒にいたかったのに…と寂しそうに言うからキュンとした。
「ねぇ、女子力高くなってるけどそろそろオレに掘られたくなってきたの?」
桜二が焼き始めたお肉がジューっと音を立てて良い匂いがする。
「何年後かに倦怠期が来たら考えてみるよ…」
割り下を入れて少し煮込んだお肉をオレの器に入れながら桜二はそう言った。
いただきます!して食べる。
「あっ!高いお肉の味がする!」
簡単に噛み切れるお肉、サイコー!
18:00 でちょっと早めの夕飯を桜二と囲んで食べる。今日のオーディションで先生の事を聞いた話や、オーディションの常連がいる事、スタジオ毎に見えないランク付けがあって派閥みたいなものが存在する事など、今日知った事を話した。
「オレ、まさかオーディションで練習したダンスじゃなくてエスメラルダを踊ると思わなかった…」
きっとオーディションが進んでいけば陽介先生と練習した踊りを踊る機会もあるんだろうけど、ちょっとガッカリしたのも事実だ。オレはそう言ってご馳走さますると流しに洗い物を置いてシャワーを浴びに行こうとした。
「エスメラルダのバリエーション…ってどんなの?シロ、踊って見せて。」
彼女に頼まれたらやるしかないよな…全くやれやれだ。
食後だからあんまり激しくすると吐いちゃうから気をつけながらエスメラルダの特徴的なタンバリンを爪先で叩く動きを見せてあげた。
「シロ…俺もそれみたかったな…。」
「じゃあ今度陽介先生のスタジオでやってあげるよ。音付きで。オレこれ大好きで頼み込んで教えてもらったからまだ覚えてるんだ。」
本当はバレリーナが踊るやつだけどね!と言いながら服を脱ぐ。
そろそろ急がないと遅刻する…
「陽介先生がまたその気になっちゃうよ。」
と桜二が笑いながら言うのを背中で聞いてオレはシャワーを浴びに行った。
急いでシャワーを済ませると既に桜二は鍵を持って待っている。
「早く、早く。」
急かすから嫌いな靴下を手に取ってしまった。
引き返す時間も惜しくて嫌だけど履いた。
急いで車に乗って出発する。
「今朝の桜二面白かったね、苛ついてクラクション鳴らしてさ、アレはまずいよね。」
オレは今朝の桜二を思い出してお腹を抱えて笑った。
「シロが寝坊しなければ良かったんだよ!」
オレの腹をこしょぐりながらそう言った。
車は凄い…あっという間に店の近くまで来るんだもん…オレは余った時間を車の中で桜二とキスして過ごした。
「あ…エッチしたくなる…」
顔を離してオレが言うと、しても良いよと桜二が言う…。
せっかく急いで来たのに遅刻しちゃうじゃないか…
オレは桜二にお礼を言って後ろ髪引かれる思いで店に行った。
「シロ、遅い~!」
「まだ18:50だよ?」
「…いつもの時間に来ないと心配になる…」
支配人はそう言って上目遣いで見てきてきもかった。
やめて!と言って笑いながら階段を降りた。
「シロおはよう…僕二日酔いだよ…」
昨日オレと飲み比べ大会をした楓は頭を抱えて頭痛薬を飲んだ。
2人でベロンベロンになるまで飲んで記憶が飛んでる。
オレはそんな中でオーディションしたんだよ…気力ってすごい…!
「オレ今日は気分がいいからこれにしよう~」
オレは白い王子様の服を着て馬術用の鞭を手に持った。
店内に行くと女性客の反応が異様に良くて嬉しくなった。
常連のお姉さんに可愛がられているとステージの時間が来た。
「シロ、そろそろ」
支配人が声をかける
オレはステージの裏に行って鞭の振りを確かめた。
ビュン!としなる馬術用の鞭は痛そう…。
馬ってかわいそう…こんなのお尻に打たれたら皮膚が切れそうだよ…
今日はちょっとだけスローテンポの曲でねっとり踊ろう。
音楽が流れてカーテンが開く。
オレは王子様っぽく歩いてステージに出る。
馬の鞭は振らない…痛そうだから。
王子様はカッコ良く踊って上の服を脱ぎますよ。
前のボタンをいやらしくひとつずつ外します。
表情を作って女性を誘うように腰を動かしますよ。
「シローーーー!抱いて!抱いてぇ~!」
オレも誰か抱きたいよ…
持て余した男性ホルモンを見せつけるようにポールを掴んで筋肉見せて登ります。
上まで登って足にポールを引っ掛けて逆さになってマッチョポーズをとります!そのあとポールを頭の下で逆手に掴んで一気に足を外して体の上下を反転させると片手の関節でポールを挟んで片足をポールに置いて滑り落ちます。
そのあと王子様はズボンを半分まで下げて床ファックした。桜二みたいなロングストロークでいやらしくねちっこく動かすと女性客が悲鳴を上げる。これが気持ちいいって知ってるんだね。
そして大サービスでオレのズボンを脱がせてもらう。
もちろんのんけにしてもらった。
嫌そうにしながらもオレの肌に触れた時ちょっとだけドキッとしただろ?
もちろん王子様の下着は白いボクサーパンツ。
その格好で鞭を持って王子のように歩いた。
チップを受け取る時も女性とゲイなら口で取りに行き、のんけには優しく指で取ってあげた。
オレが仰向けに寝転がると女性客が列を作ってチップを口渡ししていく。
ブリッジして股間の形を強調させるともっと喜ぶんだもん。
みんなエッチだよね。
そのあと腹筋を使って起き上がり紳士淑女に一礼をしてフィニッシュした。
カーテンの裏に戻って楓の手にキスする。
「シロ今日は爆イケだね、犯したくなる~」
オレは誰かに入れたいんだよ…楓は綺麗だからあんまりベタベタされるとムラムラする。
オレはメイクを落としてTシャツと短パンを着ると店内に戻った。
「シロ、ピンクの王子様が良かったのに…!なんで着替えちゃうの!」
なんで?服を変えただけなのにこの温度差酷くない?オレは悲しくカウンターの席についてマスターに“衣装の力”と言う名の話を延々と聞かされた。
何だよ…ちぇっ!
桜二には王子様の格好が似合いそうだな…想像するとちょっと興奮する。
依冬は…野獣の王子様だな…こっちもなかなかエロカッコよくて…あぁこれが衣装の力か…
「シロ!」
肩を落としてカウンターに座っていると陽介先生が来てくれた。
「あ!先生!今日、オレ頑張ったよ!」
今日のオーディションの話をして盛り上がった。
「シロ、バレエが好きなの?」
「うん、綺麗じゃん」
「白タイツ履いてモッコリをカサ増しするんだろ?ズルじゃん!ズルしてんじゃん!」
自分の股間に手を当ててモッコリ、モッコリとする先生がおかしくて笑った。
「オレはちょっと変で、男性の踊りはあまり興味ないんだよ。女性のしなやかで力強い踊りがすごく好きなんだよね…」
「ふぅん…いいね」
そういうと陽介先生は穏やかに笑う。
やめてよ、先生その顔もう見たくないよ…
「桜二が見たいっていうから、今度先生の所でやってみても良い?」
オレは先生の顔から視線を外して聞いた。
「良いよ、使いなよ。」
そう言ってオレの頬を持って視線を自分に戻した。
意識してんのバレてるな…やば
「へへ、ありがとう。」
そう言って笑ってごまかした。
この前先生とキスしてから何だか変に意識してしまいドキドキしちゃうんだよな…多分見た事ないような顔をされてギャップ萌えしたんだと思う。
ギャップって凄い武器だな。
「先生はさ、キリンの鳴き声知ってる?」
雰囲気を変えたくていつも依冬とやる鳴き声クイズを出した。
「え?キリンの鳴き声?知ってるよ、シロ知りたい?」
「ふふ、知りたいよ。」
「それはね、ッキッリィーーーーン!だよ…」
「…嘘つき」
「シロは本当のキリンを見た事ないから知らないんだよ、本当のキリンはこうやって鳴くの。」
「動物園のキリンはそうやって鳴かないじゃん。」
「あれは…全部ロボットだから…」
「…嘘つき。」
くだらないやりとりをして場の雰囲気を元に戻す。
常連のお姉さんがオレの背中に寄り掛かって陽介先生に色目を使う。
「オレもう行くからお姉さん、ここ座んなよ」
オレはそう言って立ち上がると控え室に向かった。
何でだろう…モヤモヤする
楓の出番が来てステージに見送る。
鏡の前で次のステージのメイクをする。
何だろう…このモヤモヤ…
先生ともっと一緒に居たかったな…
あの顔で見つめられていくとこまでいってみたい…。
そんな気持ちがムクムクと湧き上がる。
「オレただのビッチじゃん…」
自重しろ…ここで落ちたらお前はただのビッチだぞ!オレは気高い男だから、二股で十分じゃないか…!三股とか…三股…かぁ。
悪くないよな…
違う!そうじゃない!先生はのんけなんだよ?オレがその気にならなければ先生の操を守れるんだ!ダメだ!絶対、ダメ!
そんな事を考えて苦しんでいたら楓が半泣きで戻ってきた。
「今日のお客さん塩だよ~~‼︎」
オレに縋って泣いてくる。
「ん?さっきは盛り上がったけど…?」
オレはカーテンの隙間からこっそり覗き見た。
「あれ?客層ガラッと変わったな…」
さっきまで女性客が多かったのに今は男が多い上に厳つい。
厳つい男に囲まれて知ってる顔が見えた。
オレはカーテンを開けてステージに出るとそいつの真ん前まで行って仁王立ちした。
「おい!こんな繁盛する時間帯に何の用だよ?ハニ!!」
新大久保のストリップバー、花形スターのハニ様が取り巻きを引き連れてうちにやってきた。
「僕のおかげでYouTubeで人気の出たシロ、久しぶり!遊びに来たよ!」
ステージの端に座りハニの取り巻きを見回した。
「お前ら厳つい!他のお客さんが怖がるから必要最低限残して帰れ!ばか!」
そう言って捲し立てて追い出した。
「シロ!酷いな…みんな僕と来たかっただけなのに…」
悲しむハニに寄り添う取り巻き達…
支配人を見ると両手を合わせてお願いポーズしてる…。
何なんだよ…まったく
「何の用だよ」
オレが聞くとハニは立ち上がって言い放った。
「この前のSM対決は僕にとって不利だった!だって僕は天使だから…。シロ、今日は天使対決するよ!わざわざその為に、この魑魅魍魎の歌舞伎町に天使が舞い降りたよっ!」
決まった…ハニがビシッと決めて取り巻きからハニコールが起こる。
男臭え…
「次のステージ、僕と対決する?それとも臆病なシロは怖くて逃げる?」
ムカつく…
「かかって来いよ?またぶっ潰してやるよ…輝きの足りないハニ様」
オレはそう言ってカーテンの裏に戻った。
店内は変な盛り上がりを見せて控え室まで声が聞こえて来る。
「シローー!あの子めっちゃ怖いんだよ…僕悲しい…」
「あいつは自分より目立つ奴が嫌いなんだよ。お前は美人だから意地悪されたんだ。気にすんな、捻くれたゲイのチビだ!」
オレはそう言って次のステージまで天使のイメージを沸かす。
天使って…この前先生がオレに言ってたな…
いや、先生の事は一旦忘れよう。名誉をかけた戦いだ…絶対負けたくない!
あいつの衣装…白かったな…フワフワの毛もついてた…天使のイメージそのままか…じゃあ、オレはお前の逆を行く!
あんな陳腐な天使じゃなくて大人の天使をコンセプトに考える。
メイク…はなるべく素に近く薄化粧で目元に赤いシャドウを入れて頬紅も少し入れる。唇はピンクにしてヌード感を出す。
髪をわざとボサボサにして寝起き感を出す。
絶対負けねえ、あいつの鼻へし折ってやる!
衣装はあいつが白ならオレは黒にする。
自前の黒いダメージジーンズと楓の着てきた黒のダボダボのトレーナー…下着は白のピタピタサイズブリーフこれで決まりだ!
ぶっ潰してやる!
オレは衣装を着て店内を歩く。
先生のところに行って反応を確かめる。
「シロ…かわい」
穏やかな笑顔でオレに挑むがオレは動じないよ、照れてる場合じゃないからね…
「絶対負けたくない…!」
怒り狂うオレの肩を抱き寄せて自分の体に引き寄せる。
先生の香水の匂いがしてクラクラする。
「シロ…可愛い…柔らかい…」
何だろう…ホワホワしてくる。
知らない体に抱き寄せられてドキドキする…桜二の匂いと違う…依冬の匂いとも違う…男の匂いに…ビッチが疼く。
手を伸ばして抱きしめて跨ってオレのものにしたくなる…あぁあったかい…
ハッとして我に帰る!
ダメだ…!この状態をキープしろ…オレ!
このモヤモヤを天使に活かすんだ!
オレはクルクル回りながら先生から離れると、そのままハニにあっかんべして控え室に戻る。
あと10分…気持ちを作る。
先生好き…先生に抱かれたい…先生としたい…先生の顔…目…口…キスした時の感覚…指先の感覚…オレを呼ぶ声…あぁ…ドキドキしてきた…
カーテンの向こうがドッと盛り上がりハニがステージに上がった事が分かった。
オレもカーテンの外に行く。
気分は出来上がってるぜ。
「今日は特別ステージをお送りします!我が新宿歌舞伎町花形ストリップダンサー!シロと新大久保の小悪魔ハニちゃんの天使対決をお送りします!御来店のお客様の拍手の多さで勝敗を決めます。どうぞお楽しみ下さい!」
支配人の熱の入ったアナウンスが流れてハニがオレを見て言ってきた。
「どっちが先にやる?」
オレはもう我慢できないから先行を希望すると、吐き捨てる様にハニが言う。
「フン!せいぜい頑張りな!」
おい、そんな事…天使が言うかよ…
予めDJに渡した曲、これオレのオーディション用の曲。
オレは今から先生に求愛ダンスをする。
この時だけの…今だけ…思いを思い切りぶつける。
オレはステージ中央にお姉さん座りで足を緩めて気怠く座る。
これからオレはビッチ全開で先生を誘う。
陽介先生を目で探すと、あぁ…そんな近くに来てくれてたんだ…先生…嬉しい。
音楽がなる。あっ…とした顔をする先生に微笑んで四つん這いになる。そのまま膝立ちして足を広げてトレーナーを胸まで上げて裾を口で咥えて止める。オレの白い肌が黒い服とコントラストしてより白く見える。自分で体を愛撫するみたいに指を這わせて顔を仰け反って感じる。
公開オナニーかな…ってくらいマジで感じながらやる。
だって先生が見てるんだよ?興奮するだろ?
ズボンの上から自分のモノをさすって伸びをする猫みたいに体をしならせる。ブカブカのトレーナーがオレの背中と腹を見せてギリギリ乳首が見えるところでゆっくり腰を動かす。桜二や依冬に後ろからされてる時みたいに、いやらしく腰を動かして先生を見る。
あ…せんせい…すごくエッチな顔してるね…
オレはうつ伏せから体を起こすと足を広げて腰を動かした。
先生…オレにファックしてよ…ほら
先生は綺麗なのが好きだからオレが綺麗に見えるようにポールを使って仰け反る。
このポールを先生だと思って股間を擦り付ける。
「シローーーー!エロいーーー!」
一旦ポールから離れる…オレが先生にそうしたみたいに…
振り返って走っていくと高く飛んで凄い音を立てながら片手で掴む。
足で挟んで体を仰け反らせて両腕を上げると自然にトレーナーが落ちていく。
「シローーーー!かわいい!シローーーー!」
露わになった胸を両手を交差させて指を這わして胸を反らせる。
乳首が立ってるでしょ?せんせい…舐めてよ…
感じすぎてポールに絡めた足が緩んで下に落ちる。
下に着く前に止めることが出来たが、一歩間違えば流血で前歯全ロスだよ…
バカヤロウ死ぬだろ…!
自分を叱りながらカバーする。
ポールを背中に置いて腰を下げながらズボンのチャックを下げるそして足首まで下げると片方つけたままヨタヨタと背中を向けてステージに戻って正面を向きながらへたり込んで体をよじりながら腰を上下に動かして声を出さないで喘ぐ。
あ…きもちい…
チップを取るのを忘れてイッちゃいそう…
まずい…まずい…極まりすぎた…
ひと呼吸してチップを取りに行く。
みんなポカンとした顔でチップを咥えてるから可愛く見えて頭を撫でて顔を上に傾けてゆっくり咥えて取った。
先生は最後だよ…
でもさ…
先生…どうして…寝転がってチップ渡してくれないの…?
寂しいよ…
オレは先生の前まで行ってステージの縁に座ると先生を引き寄せて抱きしめて足を絡ませた。そのままステージに引き上げて先生が膝をついて上がるのを確認してから先生の体を振って仰向けにさせて上に跨った。
先生…勃っちゃったの…あぁかわい…オレも勃ってるよ…分かるでしょ?
先生の名誉を守る為、勃った部分に腰を下ろして両手で肩から肘、手のひらまで手を動かして恋人つなぎする。そして先生の頭の上に両手を持っていって顔を近づけてトロけた目で見つめながらチップを咥えて取った。
その後、勃起したのが分からないように体を添わせて先生をステージから下ろしてあげる。
先生と見つめ合う…
先生?キスしたい…?
オレはめちゃくちゃしたい…
おでこを合わせて息がかかる距離…
やばい…やりたい…
「シローーーー!エロ天使降臨!」
客の声に我に帰りオレは先生の体をよじ登ってステージに戻ってピルエットして終わった。
ステージにいる時は極まった客の奇声しか聞こえないくらい静かだったのに、ワァァァッ!と湧いた客席の声に圧倒された。
カーテンの裏に戻って頭を抱えた。
何で最後ピルエットしちゃったんだろ…
でもやりたい事は全部やった。
オレの勃ったモノを見て楓が喜んだ。
「口でしてあげたい…!」
「うん…すぐにでもして欲しい」
「マジで?」
「…ううん。冗談」
治れ…オレの息子よ…!
ハニのステージが始まった様だ。
見に行かないと!
オレはTシャツと短パンを履いて控え室を出ると階段を上って店内に入った。
階段の上から見下ろす様にハニのステージを見る。
かわいい音楽にかわいい格好、かわいいポーズをして天使…を演出しているが、客の反応はイマイチだ。オレが強烈なのをお見舞いした後にその陳腐な天使は安っぽすぎるんだよ…バーカ!
オレは踵を返して控え室に戻った。
「ねぇ~楓、オレの勝ちだよ?絶対オレの勝ち!」
オレは楓に抱きついて跳ねた。
「あの子嫌いだからやっつけて!」
もう勝負は決まったよ…ざまあみろ
店内に流れる音楽が終わって客のまばらな拍手が聞こえる…
はっ! ざまあみろ…
オレがカーテンからステージに上がると客がドッと歓声を上げる。
ハニを見ると悔しくて涙目だ。
ざまあみろ…!
「どうやら結果が出た様ですね!今回の勝者もー!私の店の花形ストリップダンサーシローー!」
支配人の喜びの声が大きくて耳が痛い…
湧いた観客にお礼の一礼をしてオレはカーテンに退けようとした。
バチィィン!
横っ面をハニに引っ叩かれた。
「何でお前ばっかり!ふざけんな!クソッ!クソッ!こんなのズルイ!」
ハニの醜態に客が静まる中オレはハニを無視してそのままカーテンの奥へ退けた。
「先生どうだった?オレ天使だった?」
カウンターにいる陽介先生に声をかけると先生は悲しそうに振り返って立ち上がった。
「さっきと服が違うね…」
あ…!
オレは状況を察して先生に謝ると隣に座ってビールを頼んだ。
先生イッちゃって服汚しちゃったんだ…ウケる。
オレは我慢できて良かった。
どうしても聞きたくて悲しい顔の先生の方を見て尋ねる。
「ねぇ…ハニよりもオレの方が…」
「マジ天使だった!」
極まって泣く先生に抱きついて喜んだ。
オレのオナニーでイッてくれて嬉しいよ先生!
おかげでオレはスッキリしたよ!
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