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第31話

「桜二あの人とどこであったの?何で桜ちゃんて呼ぶの?何であんなに綺麗なの?何歳なの?」 ベッドに入ってもオレの興奮は収まらなくて、眠たい桜二の耳元でずっと話しかける。 「ねぇ、ねぇ!教えてよ!」 体を揺すって聞くけど桜二の腕が伸びて来て捕まって抱き寄せられ寝る体勢に持っていかれる。 「すごかった…なんだろう、あの感覚…」 「シロ、勇吾を気に入ったの?」 「うん、あの人凄いよ」 「エッチしたい?」 「そういうのじゃないんだ…凄いんだよあの人。」 何が凄いかって言うと…と話そうとすると、さっき聞いたと制される。 桜二の腕に抱きついて興奮を沈めようとするけど、こみ上げてくるドキドキが止まらなくて、また話しかけてしまう。 頭の後ろで寝息が聞こえると体を揺らして起こして話す。 髪を撫でて宥めて寝かそうとしてくるけどオレは最高にハイになっていて寝れそうもない。それでもいつのまにか桜二は起きなくなっていって、寝息を聞いていたらオレも眠たくなった。 7:00 「シロ、朝だよ…」 桜二…いつも思うけど朝早く起きすぎだと思う… オレは桜二の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。 けど桜二の体は引き寄せられず、自分の体が上に上がった。 手を離して布団に潜る。 布団の上から揺するからもっと丸まってオレはダンゴムシになった。 足音が遠ざかって行ったので大の字で眠る。 爺さんみたいに早起きなやつだ…オレは夜働いてんだぞ!全く!なってない奴だ! ぶつくさ思いながらもまた眠りについた。 しばらくするとまたやって来た…懲りないやつだ! 「シロ…寝てていいよ。」 布団の中にモゾモゾ入ってくる。 なんだ…自分が爺さん並みに早起きだと気がついて反省して寝に戻ったのか… 10:00かな?早くても10:00だよ…うん。 香水みたいないい匂いがしてオレの体を後ろから抱きしめる四肢が桜二より細いことに気がついた。 寝ぼけながら腕を掴んで撫でるとそれが誰か分かった。 「勇吾も爺さんみたいに早起きするんだね…」 オレが言うとふふっと笑って布団の中でオレに覆いかぶさった。 「寝坊助のシロ、かわいい奴!起きないと悪戯するよ?」 オレ、こいつだったら抱けるかも… 体格的に勇吾の方が少しだけ…ほんの少しだけ大きいくらいだし、何より超絶美形だ…。肌もスベスベで女より綺麗… 「オレが挿れるの?」 半開きの目で尋ねると笑ってオレにキスする。 「どっちが良い?」 「挿れたい」 「ふふ、可愛い…」 軽めのキスがどんどん荒い息遣いになっていき舌を絡めた熱いキスに変わっていく。 良い匂い… オレの掌に指を絡めて押し付けてくる。 首に顔を埋めて首筋を舐めてくる。 「ん…ねぇ…なんでこんな細い体であんな事出来るの?…あっ、ん…ねぇ…教えてよ…」 オレが聞いてもふふっと笑うだけで答えない。 狐の様な奴だ… オレのパジャマをめくって体に舌を這わせてくる。 手で乳首を触って脇腹から腹に向かってキスしたり舐めたりするから気持ち良くなって来ちゃう。 「あっ…ん…はぁはぁ…ねぇ…んっ、あっ…ぁあ」 足の間に体を入れてオレの腰を持ってファックするみたいに動かしてくる。 「違うだろ…オレがするんだろ!」 オレが怒ると布団が引っぺがされた。 桜二が勇吾を睨んでオレを起こす。 「やらせてくれるって言ったんだ…」 オレは寝ぼけながらポツリと呟いた。 桜二に手を引かれて寝室を出た。 リビングに行くと夏子さんもいた。 「みんな早起きなんだな…オレはまだ眠いのに…」 そう言ってダイニングテーブルに置いてある朝ごはんを食べ始めた。 「シロはいつも桜二に朝食作ってもらってるの?」 夏子さんが興味津々に聞いてくる。 「そうだよ、この卵焼きがめちゃくちゃ美味しいんだ。良い奥さんになりそうだよ。」 オレは卵焼きを頬張りながら答えた。 「信じられない…桜二、こんな家庭的じゃなかったよね?ロンリーウルフの桜二なのに…こんなに丸くなって…主婦とか…え?イメージ壊れた!」 「シロ可愛い!欲しい!桜ちゃん、シロちょうだい!ね?あんなに可愛いのずるいよ!!」 勇吾が桜二と話してるのをじっとみる。 この2人がカップルでもおかしくないよな…。 ちょっと妬けてオレは桜二にしがみついた。 「オレの男に近づかないで!」 その様子を見てみんな笑うからムカついた… 「シロ?俺は桜ちゃんとはそんな関係にはなった事無いよ?俺はねこういうのタイプじゃないの…」 そういうけど、オレは桜二を自分の側に置いて朝ごはんを食べた。 ご馳走様して洗い物を流しに持っていく。 それを洗う桜二の後ろにくっ付いてダラダラと甘える。 オレのルーティンなのに…夏子さんがガン見して笑う。 「シロ可愛い!私もこんな子欲しい!」 「俺も…」 人に見られると恥ずかしい…でもルーティンだからやめない。 「卵焼きもっと食べたかった。」 「あんまり食べると太っちゃうよ?」 「ん、やだぁ…」 「太っちゃうよ。」 「太らない~。」 「豚ちゃんになっちゃうよ。」 「ならない~。」 「ハァ…もうお腹いっぱいだわ…」 夏子さんの冷めた声にオレ以外の大人が笑った。 何だよ子供扱いしてさ、フン! 「ねぇ、なんでこんな朝早くからいるの?」 洗い物を終えた桜二に聞くと、時差ボケで元気いっぱいだから遊びに来たそうだ…。 オレのパジャマに描かれた猫柄について夏子さんと勇吾がソファで討論し始めた。 「これは気に入ってずっと着てるやつだから…」 オレがそう言うと元気いっぱいの夏子さんが手を叩いて言った。 「シロ、1番!」 「え…1番…」 バレエの1番のポーズをとる。 「2番!」 言われるままにポーズをとる。 「首をもっと高く伸ばして!」 なんなのコレ… 「シロそのままの首の高さでピルエット!」 言われるままに回転してポーズを取った。 「ストップ!手の先、足、ちゃんと意識してもう1回!」 最後のポーズに指導が入ってまた回転してポーズをとった。 「シロ、この指の先に水が垂れてるイメージして指先まで美しく流れる様にするの、分かった?」 オレは素直に頷いた。 「かわいい…!!」 オレを抱きしめて頬擦りする夏子さんのテンションについていけない… 「シロじゃあ次は俺ね、両手をグーにして?」 言われるままにグーにした。 「顔の前にグーを持ってきてちょっと高さに違いを出してね!」 勇吾の真似をしてグーを顔の前に持ってきた。 「はい、一緒に動かして!にゃんにゃん!」 オレは言われるままににゃんにゃんした… かわいい!と爆笑される中 オレは桜二に駆け寄って抱きついた。  「あの人たち意地悪だからやだ!」 「あんまりおちょくらないで…可哀想だから…」 桜二に注意してもらった。ざまぁ。 「今日先生のとこでレッスンがあるから桜二一緒に来なよ。エスメラルダのバリエーション見たいんでしょ?」 オレが桜二に話すと夏子さんが食いついた。 「私もみたいな!それ!」 「え、やだよ…」 「俺も見たい。シロのエスメラルダ見たい!」 絶対陽介先生の前でもおちょくられるもん… やだな…やだな… オレが下を見てモジモジしていると夏子さんが言った。 「シロ、トゥシューズどうしてるの?」 「そんなの指が折れそうで怖くて履きたくないよ…オレのは元バレリーナのストリッパーの友達に教えてもらっただけだから…そんな本格的じゃないの。練習でもその子は履いてたけど、オレは怖いからつま先で立ってやってた。」 オレがそう言うと、夏子さんがやってみて?と言うから爪先立ちした。 「そのままアラベスクできる?」 爪先立ちしながら足を遠くに伸ばして手を前に伸ばした。 「手と頭、下げて?」 夏子さん、声色怖いな〜 言われるままに手を床ギリギリまで下げる。 「ゆっくり戻って4番!」 バレエのレッスンみたくなってるよ… オレはゆっくりアラベスクに戻ってその後4番のポーズを取った。 「シロ、バレリーナになれるよ。こんなに揺るがない体幹珍しい…小さい頃からバランス取るの上手だった?」 まぁ…ある意味バランスとりながら腰を動かして相手していたからかな…あんなんで体幹鍛えられたとか死んでも言えない…ウケる。オレ、ウケる。 「シロ、そろそろ着替えておいで?」 桜二の助け舟が入りオレは歯を磨いて着替えに寝室に行った。 パジャマを脱いでパン1になって服を探していると、いきなり体をバックハグされた。 「シロ…可愛くて綺麗だね…俺シロに夢中だよ…」 「着替えても良い?」 後ろを振り返って尋ねると良いよと目の奥が光った。 勇吾は変わってるな…と思いながら着替えを探した。 「シロ、その服エッチに着てみて?」 「なにそれ?」 「やってみて?」 オレはとりあえず勇吾の顔を見ながらエッチにTシャツを着てみた。 「20点」 え!点数シビアだな… 腰掛けてズボンをエッチに履いてみた。 「15点」 シビアすぎ… 「じゃあ勇吾がやって見せてよ!まずエッチに脱ぐところから~!」 オレはベッドに乗って客になりきった。 いいよ、と言って勇吾がオレの前に立つ。 口を半開きにしてエロい顔になってシャツのボタンを外していく。 ボタンの部分を少し引っ張り上げてるのはポイントなのか?その後半分まで脱ぐと首の後ろがズレていって花魁みたいな感じになった。 最後までボタンを外して肩から落とすと、次はズボンのボタンに手をかけた。 チャックを開いて半ケツまで下げるとファックする。 その後脇に手を持って前屈しながら下ろすとオレの方に来てベッドに押し倒した。 「早くエロく着てよ…待ってるんだけど?」 オレがそう言うとふふっと笑ってキスしてくる。 オレのズボンのチャックを開けて中に手を入れる。指先がいやらしく動いてオレのモノを扱き始める。 「あっ…!んんぁっ!すぐ…そうなるのって…勇吾がビッチだから?…はぁはぁ…」 オレが尋ねると舌舐めずりして答えた。 「シロがエロいからだよ。」 「じゃあ、さっきの点数おかしいじゃん!」 オレは体を起こして抗議した。 もしオレのエロく服を着る行為で欲情したとしたら、あまりにもあの点数が低すぎると思ったからだ。 オレの言葉を聞いて勇吾は大笑いしてベッドに転げた。 「俺もお前といたら丸くなれそう…」 そう言って笑った。 「変なやつ!」 そう言って早くエロく服を着ろよと促した。 「シロ、そろそろ行くよ?またやってるの…?」 オレは勇吾がエロく服を着るって言うから見てると桜二に伝えて一緒にそれを眺めたが、全然オレよりいけてなくて2人で見てダメ出ししてやった。 「車がギュウギュウだね…」 いつもオレが乗る時は後ろには誰も乗っていないのに、今日は埋まっていて新鮮だ。 「ねぇ、いつからの知り合いなの?」 桜二に聞くと高校生の時くらいって答えた。 同級生なのかな…? 「桜二は素行悪かったから…狼少年だし、すぐ暴力振るうから危ないやつなのに。なのに…こんなに奉仕の精神に溢れるお母さんになるとは…あぁ…」 夏子さんが演技がかって言った。 確かに会った当時は狡猾な奴だと思ってかなり警戒した。 智の事も…お母さんの骨を捨てちゃうのも…そういう面だよな… 「俺もシロと居たら優しくなれる気がする…」 勇吾がオレの肩を触って言うから笑った。 「勇吾は優しいじゃん。」 オレがそう言うと車内の空気がどんよりした。 その反応で勇吾が優しくない事が分かった… 優しくないんだ… 車を止めてスタジオに向かう。 1人で歩いていても目を引くハイスペックを3人も引き連れて歩いてかなり目立った。 スタジオに着いて先生に紹介する。 「シロ…こんなに沢山恋人ができたの?俺の枠は?」 「先生は彼女できたじゃん…」 オレがふざけてそう言うとションボリした気がした。 …まぁ気のせいだ。 早くこのご一行から開放されたくて目的のエスメラルダを始めに踊ってしまおうと思った。軽くストレッチして体を逸らす。 手首、足首を回して首を伸ばす。 「シロ、タンバリン…コレでいい?」 先生のナイトフィーバー用のカラフルなタンバリンを受け取った。 ヒラヒラが付いててかわいい! 「ありがとう、先生。」 短パンとTシャツ、手にはヒラヒラの下がったナイトフィーバー用のタンバリン。 これで踊ります。オレのエスメラルダfeat.湊 スタジオの左袖にスタンバイして合図する。 先生が音源を流す。 …手の先から水滴が落ちる様に…首を長く… 夏子さんの言葉が頭にリフレインする。 中央に移動して音楽に合わせて踊る。 湊ラルダは美しいけど悲しいんだ。笑顔なんてつけないで踊る。 爪先を立たせて足を上げてから膝から下をトンと上げてタンバリンを打つ。 夏子さんの目が本気モードなのが分かって怖いけど、オレはオレの湊ラルダを踊るから見ててね。 スタジオの右袖に移動して行きここからラッシュが始まる。1番盛り上がるところ。 3回叩いてクルッと回る~3回叩いてクルッと回る~3回叩いて手をあげる~走って飛んで後ろ足でタンバリンを打って最後のポーズ。 「シロ…オレのエスメラルダ!」 陽介先生が走ってきてオレを抱きしめる。 「あはは!先生、エスメラルダは死ぬんだよ。」 オレが言うと悲しそうな顔をしてオレを抱きしめながらブンブン振った。 「桜二どうだった?綺麗でしょ?女の人はもっとしなやかに踊れるんだけどね…好き?」 オレは桜二の前に行って聞いてみた。 「好き。すごく美しかったよ…シロ、綺麗だ。」 ありがとう、知ってる、これから爆イケの練習するけどね… 桜二を押し除けて夏子さんが食い気味に聞いてくる。 「シロ独学なの?全て独学でやったの?」 「いや、バレリーナの子に教えてもらったよ?」 「その前は?バレエやってたの?」 「いや、そんな環境じゃなかったから~。」 「桜二!この子凄い!私にちょうだい!」 「ダメだよ…あげない。」 「オレ、レッスンあるから…もう帰って。」 わちゃわちゃする人達を押して追い出す。 でも気になった。 勇吾の凄さは分かったけど、夏子さんはどうなのかな… 「夏子さんの踊り…見てみたいな…」 オレがポツリと言うと夏子さんはギラっと目を輝かせてオレの肩を鷲掴みした。 「良いよ。コンテンポラリーで良ければ!昨日何となくあんたを見て思いついたやつ、やらせてよ!」 オレを見て?面白そう…! 「みたい」 オレがそう言うと携帯で音源を選んで夏子さんがスタンバイした。 桜二じゃない誰かがオレの手を握ったけど、視線を夏子さんから逸らしたくなくて無視した。 音楽が流れると夏子さんの体がぐにゃりと丸まってまるで骨がないみたいに突っ伏した。 その後疼くように不気味に動く。 何だろう…心がゾワゾワする… オレってこんなに…苦しそうなの…? 誰かに握られてる手に力が入る。 その後元気になったり落ち込んだりを繰り返してバレエを踊り始める夏子さん。 綺麗だ…完璧な動き…惚れ惚れする。 手の先まで意識するとあんなに美しく見えるの? 最後は本当に圧巻で重力を感じさせないグラン・ジュテをしてポーズした。 「綺麗…」 「シロの方が綺麗だよ。」 手を握った相手が耳元で囁いてきた。 勇吾だったんだ… 「最初の時、手をギュッとしたけど、踊りを見て怖かったの?それとも、俺の事が好きなの?」 オレは勇吾を無視して夏子さんに近寄った。 「夏子さんの踊りかっこよくて綺麗だった…すごいね、どうしてあんなに高く飛べるの?」 レッスンの事を忘れて夏子さんを捕まえて質問しまくる。 「シロ…レッスンしよう。」 後ろから陽介先生に呼ばれて我に帰った。 みんなに退室してもらって先生とストレッチしながら話す。 「あんなに高く飛ぶなんて…脚力が強そうな訳でもないのに…不思議だね…」 「シロの方が可愛かったよ。」 「オレもあんな風に綺麗になりたいな…」 「ん!シロは既に綺麗なのに…!!」 全く会話が噛み合っていないのはいつもの事なので気にならなかった。 「先生、香水の匂いキツい…」 女の匂いなのか抱きしめられた時の匂いが鼻について離れなかった。 「誰と会ってたの?」 「この前シロが席を譲った子だよ。」 「へぇ…エッチしてるの?」 オレは意地悪な顔で聞いた。 「この年になるとね、どんどん色んな事の意味が軽くなっていってしまうんだよ…体の関係も仕事の関係もどんどん意味が軽くなっていって、無意味だったって最後に気がつくのかもね…」 しょんぼり背中を丸めるからかわいそうに見えて後ろから抱きしめてあげた。 「先生、今日も厳しくよろしくお願いします。」 そう言って立ち上がってまた踊り始める。 何回も何回も同じ踊りを踊って精度を上げる。 この時が1番楽しい… 「桜二、あの子本当に可愛い!」 夏子はシロのことを思い出したのか窓の外を見ながら突然そう言った。 シロのスタジオを後にして俺はこの2人を車でホテルまで送っていた。 「シロの危ない事する癖、何とかならないかな…見ていてヒヤヒヤするよ。昨日のアレとか…」 勇吾が不満そうにそう言った。 「あの人はそういう事をしちゃう人なんだよ。」 俺はそう言って諦めろと伝えた。 シロの自傷癖とも呼べる行為は今に始まった事じゃない…心のどこかでいつも死にたがってる様に感じることがある。 夏子もその危うさを感じ取ってコンテンポラリーの要素にああいう表現を入れたんだろう。 芸術家同士、気が合った様で安心したが、勇吾のシロに対する熱の入れように若干危惧する。 絶対連れて帰りたい…なんて冗談ぽく言っていたけど、本当に連れて行かれるかもしれない…と、不安に駆られる。 「あまりシロに構うなよ…」 バックミラー越しに勇吾を見て言った。 「妬いてんの?桜ちゃんも嫉妬するんだね。本当、久しぶりに日本に帰ってきたら可愛い子連れて丸くなっちゃって…つまんないよ?」 俺の後ろをガンと蹴飛ばして言った。 シロ…これがこいつの本質だ…優しくなんかない 「まぁまぁ…私は今の桜二、嫌いじゃないけど…?前は尖りすぎてたから、これくらいが生きやすいじゃん?」 夏子が勇吾の足を叩いてやめさせた。 「あの可愛い子、闇堕ちさせたの面白かったのにな…シロにはしないの?」 勇吾は不敵に笑ってそう言うからオレも笑って答えた。 「あの子は闇そのものだから、もうこれ以上下には落ちないんだよ。」 へぇ、と目を光らせて勇吾が口端をあげる。 お前は知らないかもしれないけど、あの子の人生は壮絶だ。 これからは上に向かうだけだと信じてる。 その時に側に俺がいれたら、どんなに幸せか。 「シロ、欲しい。」 「ダメ」 「抱きたい。」 「ダメ」 全く会話が噛み合ってないな。 勇吾をあの子に会わせた事を少し後悔する。 でも、シロ…すごく喜んでいた。 やっぱり芸術家同士は気が合うのか…? 「シロ、アイドルのバックダンサーなんか勿体ないよ。あの子がスターだと思うけど…棄権しないかな。勿体無い。」 勇吾は相当シロが気に入った様だ…。 「まぁ本人が決めるでしょ?」 夏子は眠たそうにあくびをして言った。 「あぁ、シロがお持ち帰りできれば俺も機嫌良く過ごせるのにな…朝ごはん作ってあげたり、お世話したくなってシロ沼にはまっていくのに…」 …言ってろ ホテルに着いて2人を下ろす。 「ねぇ、あの子今日も店に出るの?」 「多分」 「OK!ありがと、またね!」 夏子はそう言って手を振った。 車を出して家に戻る。 勇吾…あまりシロを揺さぶるなよ… あいつのあの食いつきっぷりが心配だ。 ダンスの技術を見て欲しかったのに、明らかにシロのパーソナリティに興味を持ってる。 そんなに惚れっぽい奴でもなく淡白で自分以外ブスだと思ってるあいつがあんなにシロに入れ込む様に夏子も驚いていた。 やだな…取りに来そうだ。 平気な顔して俺からシロを奪っていきそうで心配だ…。 ロンドンに連れてかれたらどうしよう。 はぁ…とため息をついて駐車場に戻った。 そろそろ復職の時期も迫って来ている。 会社は依冬が何とか役員と揉めずに運営している。 今のところは…だが、恐怖政治で成り立っていたから、掌返しされる場面も多いだろう。 シロは気付いているか…最近の依冬はやや荒んでいる。 もともと俺とは事務的な会話くらいしかしないが、それでも感じる悲壮感。 想像するに容易いが、きっとそういった鬱憤が溜まっているのだろう。 服から匂う香水があの令嬢の物と同じで、シロに内緒であの令嬢を激しく調教しているんだろうなと勘付いた。 シロにはいい顔をしたい気持ちも分かるが、混沌とする狂気があいつを荒ませていくなら早めに令嬢の調教を止めるべきなのか…依冬も相当拗らせて来ていると感じている。 「シロ…今頃、踊ってるかな…」 時計を見て彼を思う。 可愛いシロ、ずっと一緒にいられたら良いのに… 勇吾の飛び入りステージにも臆さずこなすあの子は本当に勘が良い。 踊りの勘だけでは無く人心術のような勘も鋭い。 だからか…俺はあの子に嘘をつけない。 悪い癖としては、よく人を煽り怒らせるギリギリのラインを攻める時があって俺はハラハラさせられる。 自然とその人が欲する事や状況が分かってしまうのも辛いんだろうが、側から見るとあまりに自然と相手の懐に入っていく為、人懐こく柔和な印象さえ与える。 あの子の本当の本質は本人が思うように“無”なのだろうか…幼いころに兄さんに教えられた喜怒哀楽の概念が彼の基礎を構築していて相手のそれを察しようとするあまり欲する所を読む力が強くなってしまったのだろうか… 喜怒哀楽そのものの様にコロコロとよく変わるあの子の心は“無”とは正反対に位置している様に感じる。 しかし、時折織りなす言葉の数々に違和感を感じる事があるのは否めない。 そのチグハグさが?危うさが?同じように心に何かしらの問題がある者を惹きつけてしまうのだろうか… 小さい子どもの様にストレートすぎる感情が湧き上がってる時、あの子の本質、本音を感じる。 嫌だ、良い、好き、嫌い、オレの、お前の、楽しい、怖い、気持ちいい、知らない、分からない、 こういう言葉があの子の本音。 だから俺はあの子にお前はオレのものだと認定されて嬉しいんだ。 それは紛れもなく彼の本音だから。 依冬が令嬢と会っている事、秘密にしている事を知ったらどんな反応を示すのか気になっている。 怒るのか?放っておくのか?嫉妬するのか?嫌うのか? 全く予想がつかない。 18:00 三叉路のいつもの店 支配人に挨拶すると、この前の勇吾の話になった。 「あの人…えっとすごい美人の人、ポールに逆さになって凄かったね。あれ、シロ、楓と出来ないの?」 「あれはあの人がプロで上手だから出来たんだよ…楓とやったらオレ多分死ぬよ…」 確かに…と2人で下を向いた。 階段を降りて控え室に向かう。 「シロ…見て!これ、ハロウィンの仮装だよ?」 ハロウィン?早くない? オレは二度見してしまった。 「シロ何着る?僕は魔女!」 「え…、じゃあ……これ。」 オレは伯爵の服にした。 1番豪華でカッコ良かったから。 メイクもハロウィン仕様にして顔を真っ白くして目の周りを真っ黒にした。 「やばい…これ、どう?」 オレの顔を見て大爆笑する楓… 「パンダみたくて可愛い!」 目の周りを黒くしすぎたみたいだ。 19:00 店内に行くとみんなオレを見て笑う… 「シロ目の周りを黒く塗りすぎ、パンダみたいになってるよ?」 あぁ同じこと言われたよ… 「じゃあお姉さんやってよ…」 かわいいお姉さんを捕まえてオレがそう言うと、脇から反対の手を引っ張られた。 強引な人もいるんだな…と顔を見ると夏子さんだった… 「私がやってあげる!」 そう言って楓が化粧する控え室にドカドカ入って行った。 人ん家に勝手に入り浸るヤンキーみたい…!やだ、怖い! 「あ…なに、シロ…ここでエッチ始めないでよ?」 お前とは違うよ… 夏子さんはメイク落としコットンでオレの顔を強く擦った。 「痛い、もっと優しくしてよ…」 オレが文句を言っても無視して擦る。 「夏子さん…彼氏いなさそうだね?」 オレが聞くと、やっと笑って返事した。 「お姉さんはね、女の子が好きなの。わかる?めちゃくちゃ可愛いシロみたいな女の子が好きなの。わかる?」 分かったよ…何回もわかる?って聞くなよ…怖いな… メイクを落とすとオレの顔をまじまじ見てくる。 「何?顔しょぼいって言っても傷つかないからね…」 そう予防線を張って自分を守る。 「本当…子供みたいな顔してるよね。」 そう言うとオレの額とほっぺ、鼻の頭、顎を指で指して、ここが出っ張ってる。と言う。 顔を白く塗って出っ張ってる部分はやや薄く塗っていた。 目の周りの凹凸を見て黒いシャドウを付けて、唇は青い口紅をつけて黒いアイラインでほっぺたまで線を引いた。 チョンチョンと書いて、はい。と言って鏡を見せてくれた。 「お!オレはコレがやりたかったんだよ!」 クールなスカルフェイスになって喜んだ。 「夏子さんメイクも上手なんだね?」 オレが喜んで言うとオレの髪型までセットし始めた。 楓のヘアアイロンでクルクルに丸めていく。 最後にワックスを手につけてグワシグワシとやり完成した。 「堕ちた堕天使のゾンビ伯爵…」 ポツリと呟く夏子さんはクールだった。 頭のボサボサ感が最高にイカす! お礼を言って控室から出て一緒に店内に戻った。 「可愛い…」 通り過ぎる客に言われる。知ってる、オレにはプロがついてるからね。 ふふん。 「シロ…!可愛いね、おいでよ!」 勇吾も来ていてステージのそばの席を陣取っていた。 桜二は一緒じゃないみたいだ。 「桜二は?」 オレが聞くと今日は2人で来たと言った。 「なんだ…桜二居ないのか…」 オレがそう言って立ち去ろうとすると勇吾が後ろから捕まえて引き寄せた。 「あんまくっつくと、メイク付くよ?」 オレは手でガードしながら勇吾に言った。 今日は昨日みたいにお行儀良くなさそうだ。 「良いよ、別に。ね、それよりこっちにおいでよ。」 そう言ってオレの体を後ろから抱きしめると腰を擦り付けてくる。 「すけべ親父みたいだね?飲んできたの?それともそれが勇吾の本当なの?だったらガッカリだよ…オレはもっと優しい奴が好きだからさ。」 オレは後ろにもたれながら顔を反らして勇吾を見て言った。 「シロも保護者がいないと悪い子になるでしょ?」 口の端を上げて笑うから指で戻してやった。 「そんな表情似合わない顔なのに…もうしないでよ、勇吾は綺麗なんだから、そんな顔しないで。」 オレがそう言うと勇吾は今度は優しく笑ってオレにキスした。 「シロ、今日は何踊るの?」 夏子さんがビールを飲みながら聞いてくる。 「ん、決めてない。何がいいかな…?ゾンビ伯爵はどんな奴かな…」 「俺の事が大好きな可愛い伯爵!」 そう言って勇吾が俺の首にキスする。 いちいち手の動きが綺麗で見惚れてしまうから困るよな…だって今もズボンの中に手を入れられてるのにあまりに指先が綺麗で見惚れてしまい止められなかったから… 核心の部分は触らないから放っておく。 「そうだなぁ…私ならハードに行くけど、ソフトなのも捨てがたいよね?シロはどっちが好き?」 夏子さんが俺の髪をクルクル指で回しながら聞く。 「オレは…ロックに行く。」 いいね、と夏子さんが言って後ろの勇吾は俺の首にキスマークをつけるのに熱心で何も言わなかった。 「そろそろ向こうに行くね。」 そう言って勇吾を見るとさっきオレにキスしたからオレの青い口紅が付いてしまった様だ。 そっと顔を近づけて舌で舐めて指で拭いてあげる。 「取れないや…ごめんね。口青いよ…ふふ」 そう言ってその場を後にしてDJに曲を渡しに行った。 オレの首にチュッチュッとしてたから首も青くなってるかも…控え室で落とそう… 「もうハロウィンなんだね…骸骨ボーイ。」 「うん、もうそんな時期なんだよアフロ…」 アフロのカツラがよく似合うDJに嫉妬した。 「オレは頭の形がいいから…」 ってスカしてるけど、カツラなら頭の形関係ないと思うのに… この時期は客もチラホラ仮装していていつも目立つダンサーが霞むな… 「ギター貸して?」 そう言って後ろのエレキを貸してもらう。 「壊さないでね…」 「大丈夫だよ、ちょっと最初だけやるだけだから。アンプも貸して。」 大荷物になってステージに上がる。 アンプを置いてギターと繋げると少しハウリングした。 「シロ、バンドするの?」 常連の客が声をかけてくる。 「しないよ、小道具だよ。」 そう答えて線を引っ張ってギターごとカーテンの裏に戻った。 「あーあ、また派手にキスマーク付けやがって…」 鏡を見ながら勇吾が舐めたであろう部分をメイク落としで落とす。 青って落ちやすいか落ちにくいかのどちらかで、これは落ちにくい方のみたいだった。 仕方ないのでコンシーラーで隠す。 カーテンをちょっと開けて支配人が声をかけてきた。 「シロ、そろそろ」 小道具のギターを見て笑う。 どっちので踊るの?って聞くからオレはもちろんあっちの方だよ。と答えた。 オレが踊る予定の曲はメロディが特徴的でイントロからそれで始まる。 だから最初だけ弾きたかった。 本当は全部弾けるけどね!脳ある鷹は何とかって言うだろ?全部弾いたらそれこそただのバンドだ。 オレはストリッパーだからイントロしか弾かないの。 ギターの弦に物が当たって向こうのアンプから音がする。 「糸電話みたい…」 楓が可愛いこと言った。 今日はいい事がありそうだ。 オレはカーテンを開けてステージに立った。 イントロが流れる。 知ってるでしょ?この曲。 ゾンビ伯爵も弾くよ? ギターが心配でアフロDJが袖にスタンバイしてる。 みんなの知ってるアノ曲のイントロを弾く。 気持ちいい‼︎ 一瞬の演出なのにみんなヘドバンしだして準備はOKになった。 オレはギターを丁寧にDJに手渡しし、歌ってるみたいにリップシンクしながら踊る。 骸骨メイクが最高にクールだ。 走って行ってポールに飛びつく、凄い音がしてポールが揺れて手が痺れる。 上まで登って揺らす。 猿だ。 いや、ロックだ! ポールの上で伯爵の上を破り捨てる…そういう風に脱げる仕様…とオレは頭を下にして一気に下に落ちた。 ギリギリで止まって体勢を戻すと足で勢いをつけながら派手にスピンさせて回る。 ロックに体を揺らしてノリながらズボンを破り捨てる…略…下着は黒の革パンボクサータイプ。シドビシャスみたいだろ? ただのロックライブになってはいけないので、ちゃんとエロも入れておく。 床ファックだ! 床ファックからの膝立ちでエアギターからの歯弾きだ! 「シローーー!抱いてーーー!キャーーー!」 曲のせいか凄い盛り上がりを見せてチップを取りに行くのを忘れた。 ロックに四つん這いになって膝立ちして腰を振りながらパンツに挟んでもらう。 女性客が多くて嬉しい… 勇吾がすごい笑顔でオレのパンツにチップを挟むから髪を掴んで言ってやった。 「良い子にしてたら取りに行ってやったのに…」 そう言って立ち上がりヘドバンして回るとポーズをとってフィニッシュだ! 決まった! 店内は大盛り上がりして大盛況だ! オレは控え室に戻るとメイクを落とした。 アイシャドウ、落ちるか心配だったけど綺麗に落ちて安心した。 「皮膚呼吸…ありがたい」 すっぴんに戻って顔がスッキリした。 Tシャツとダメージの入った黒デニムの短パンを履いて髪の毛はそのままで店内に戻った。 「シロ…やっぱりあれだよね。」 支配人がオレをみて感慨深く頷いてる。 オレは適当に答えて店内に戻った。 「シローーー!最高だった!」 盛り上がった客にチップをもらって揉みくちゃになりながら進む。 カウンターに着くとその気になった男の子とその気になった女の子がやってくる。 ビールを飲みながら談笑してチップを貰って席に返す。 「桜二にも見せたかったな…」 「シロ、最高だった!」 夏子さんがオレにぶつかりながら隣の席に座ってそう言った。 「この子欲しい…」 勇吾がオレを後ろから抱きしめてくる。 2人はオレを挟む様に座って交互に話しかけてくる。 「桜二に甘えん坊してた子はどこに行ったの?なんなのこのギャップ…!不覚にもカッコいいと思ってしまった自分がいる…卵焼きウマウマ小僧に…!悔しい!!」 激しいよ、夏子さん…激しいの。 「あぁ~ん、シロ…お気に入りだよ~‼︎ 持って帰りたいよ~!好き!好き!また髪引っ張ってよ~!蹴飛ばして~!引っ叩いてよ~!」 オレの手を掴んで自分の頭にペシペシする勇吾…この美形…喋らない方が良いのに… オレはそんな2人を他所にもらったチップを数えてる。 わぁ、沢山!これで依冬にあそこのテイクアウト買ってあげて、桜二に眼鏡ケース買ってあげよう… 「チップを数えてニヤつくとか…シロは銭ゲバだね~!桜二に言付けちゃおう!」 夏子さんが意地悪くいうからオレは笑って否定した。 「そんなんじゃないよ。生きてくの大変なんだから仕方ないじゃん」 実際そうだ。 ほぼ帰っていないけど毎月6万の家賃に光熱費の基本料金、陽介先生のレッスン代が毎月かかる。 たまに桜二にジュースを買ってあげたり、依冬にテイクアウトを買ってあげたりするからあっという間にお給料は消えていく。 今の生活で楽になった事は食事と洗濯かな。 乾燥機が付いてるからあっという間に洗濯物が終わるんだ。 奇跡だろ? 「シロ、桜二と居るより俺といた方が楽しいよ?あいつ悪い奴だよ?」 「知ってる。だから好きなの。」 オレはそう言ってチップを束にするとポケットに入れた。 「勇吾にも勇吾がクズだって知ってて愛してくれる人が出来るといいね!」 夏子さんがそう言って笑ったから、オレはピッタリの曲を美声で勇吾に歌ってあげた。 「シロ、次いつ踊るの?」 「ん、と…12時のラストを踊る予定。」 「アフターは?」 「オレはそのまま家に帰るの。」 「一緒に帰って良い?」 「タクシー代払ってくれるなら良いよ。」 「やった!」 「ねぇ、勇吾はなんでストリッパーになったの?」 自分以外のストリッパーで高い技術を持つ勇吾の話が聞きたかった。 「俺の見た目…綺麗だろ?昔からそれで苦労ばかりしてきた。男に掘られたり…おばさんの相手させられたり…本当嫌になるよ。ステージでは、俺の最大限の武器を使って触られずに稼げるから。だからストリッパーになった。まぁ本職は別だけどね。」 ざっくり言うとこんな感じ。と勇吾が言った。 シロは?とオレの髪を弄りながら聞いてくる。 「ん~、オレは支配人にスカウトされたんだ。それで初めてこう言う世界があるって知って、沢山周りの子たちに教えてもらった。強いて言えばみんながオレを見て喜ぶのが面白くて今もやってるかな。」 なんでスカウトされたの?って聞くからこう答えてやった。 「多分オレからそういう匂いを感じたんだと思う。昔、男の相手させられてたから…。出てるんじゃない?そういう匂いが…」 そう言って勇吾の方を見るとギラギラした目でこちらを見ていた。 「お前もしたくなっちゃうんだろ?」 オレは表情を変えずに聞いた。 「すごくしたくなる…食べちゃいたい!」 ため息をついて夏子さんの方を見ると目をウルウルさせてオレの手を握ってくれた。 「大丈夫だよ!もう大人になったから嫌なら相手しなくても良いからね!」 うん!と可愛く言って夏子さんの胸に飛び込んだ。 柔らかい…胸って気持ちいい。 女の人って柔らかい…男が女に弱いのは絶対この柔らかさに弱いからなんだ…

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