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第34話

「桜二!おっさんがオレを犯すの、助けて!」 そう電話がかかってきて頭が真っ白になった。 電話口からシロの嫌がる声が聞こえて胸の奥がゾワっと鳥肌を立てる。 すぐに電話を切って知り合いがいるからとオーディション会場に残った勇吾に電話をして状況を伝えた。 覚悟はしていた… 仕方ないのも分かってる… でも、勇吾のシロを見る目が耐えられない…!! ぶん殴って引き離して2度と会えなくしてやりたくなる。 他人に触られて疼いた体を治めるためにシロは絶対勇吾を誘うと分かっていた… 覚悟していたのに… 許せない…あの子を見るあいつの目が…! シロに好意を抱いてるのは初めから分かっていた。 あの子のショーを見せなければよかった…あの子は煽りながらも拒否して制してた。しかしあんな目にあった後は話が違う…オレや依冬が遭遇する本当の彼が浮き彫りになったであろう…。 狂気を纏った神々しいまでの淫乱。 許せない… あの人の核心に触れたのかと思うと嫉妬する。 シロは勇吾にそれを許したのに、俺が口を出せる立場ではないのも分かっているのに… 悔しくて許せない もう触らないで、もう近づかないで、もう話しかけないで、もう視界に入らないで、どこかに消えて、二度と会わないで、死んでくれ。 この苛つきをシロに咎められて更に苛つく。 なぁ勇吾、お前はこの子の狂気について来れるの?怖くなって逃げ出すんじゃないか? 車内でシロがとった行動の意味、分かるか?俺は分からない…だが、あぁなった時の対処方法は分かる。 決して嘘をつかない事だ。 嘘をついたらそこであの子の信頼は無くなりまたゼロ地点に戻される。 あの子の核心と対峙する時無駄な抵抗はしないでひれ伏して従う。 これが出来ないとまた振り出しだ。 この俺だってアガリまでまだまだ遠い…死んだあの子の兄さんしかアガッてない。 もしかしたら死なないとアガれないのかもしれないけど、俺は着実にコマを進めてる。 お前にまで参加されるとマジで苛つくんだよ。 家に戻るとシャワーを浴びて寝てしまった。 ベッドで寝息を立てるシロの頬を撫でる。 「俺はお前のものだよ。」 そう言って唇にキスする。 俺のテリトリーにいる限りお前には指一本触れさせない…勇吾、残念だよ。 お前を見る目が変わっていくよ。 イギリスにシロを連れてく? ふざけんな、殺すぞ… 苛つきを押さえて俺は寝室を出た。 シロの洗濯物を回す。 リビングに座ってテレビを見る勇吾に向き合う。 「どんなだった?」 俺の問いに質問の意味を理解して答えた。 「狂ってた」 「どう思った?」 「お前に言いたくない。」 勇吾はそう言ってそっぽを向くと窓の方へ歩いていく。 「あの子は何であんなに…」 「お前が知る必要ないだろ?」 どうせすぐにイギリスに戻るんだ…物理的に会えなくなれば忘れていくさ。 お前なんて脅威じゃない… 「なぁ桜ちゃん、そんなに怒るなよ…シロが選んだ事だろ?桜ちゃんが俺に怒れば怒るほどシロはさっきみたいに嫌がるんじゃないの?俺の事も依冬君みたいにさ、受け入れてしまった方が楽なんじゃないか?」 「怒る?怒ってなんかない…ただお前はそのうちまたイギリスに戻らなきゃダメだろ?だから、深入りするなって忠告しただけだよ。」 なぁ…と勇吾が言って俺の方を見た。 「あの子は何であんなに死にたがってるの?」 それは… 多分…兄さんに会いたいんだろう。 あの子にとったら神様と同じくらい絶対的な存在で理想のまま死んだ兄さんに。 「お前が知る必要無い…」 そう言った俺に背中を向けると黙って立ち尽くしていた。 「ガキみたいなやつだと思ってた…無垢で、純朴な…でもストリップしてる時のシロはショーを統べる目を持っていて、アグレッシブでタクティカルだ。その二面性に夏子とも二重人格かなと話してた。なのに…何だあれは1番ヤバいのが隠れてた…でもあれがシロのコアなんだよな…」 よく分析してる…感心した。 お前そんなにあの子のパーソナリティに興味があるのか…そんなに惹かれるのか。 「だからあんな危ない踊りするんだ…だから人を煽って試すんだ…だからお前と依冬君…危ない男を2匹も飼い慣らせるんだな…」 恐ろしいよ… と言って俺を見るお前の目は全然怯えて見えないよ。 「お前も参加するの?」 「あの子…また抱きたい…」 ふぅん…と言って俺はキッチンに向かってコーヒーを淹れる準備をした。 「あの子はシングルマザーの元に産まれて出生届すら出されていない被虐待児だ。歳の離れた兄貴がいてそいつがあの子の拠り所だ。」 「今、その兄ちゃん何してんの?」 「自殺して死んでる。」 勇吾は黙って俺の差し出したコーヒーを受け取った。 「シロは2才くらいかな…幼児の頃から母親の代わりに売春客の相手をさせられてる。歳の離れた兄貴がシロを守ってた。」 「何で死んだの…?兄ちゃん」 「シロが…拒絶したから。あの子はそれをずっと悔いてて心に影を落としてる。」 コーヒーを飲んで俺を見る勇吾。 「桜ちゃん…さっきから俺のことスッゲー怖い顔で見てるの知ってる?」 「あぁ」 「そんなに大事なの?」 「あぁ」 「死に物狂いなの?」 「そうだな…」 「お前から離したりしないよ…」 「だと、良いけどな…」 お前の事信用してないよ…。 特にシロに関してはお前の事信用できないよ。 俺と違う同じ踊れる体を持つお前に嫉妬する…あの子のお前を見る目に嫉妬する。 目を輝かせてお前を褒める言葉に嫉妬する。 俺は勇吾を置いて寝室に向かう。 扉を開けてあの子を見ると誰かと電話していた。 多分依冬か陽介先生あたりだろう… 「シロ…」 俺が声をかけるとこちらを見て、依冬…と言った。 かわいい…今すぐ抱きたい…勇吾の痕跡を消し去りたい… そんな気持ちを隠してあの子のそばに腰を下ろして髪を撫でて愛でる。 なんでこんなにかわいいんだろう… 「桜二…」 電話をしながら俺に手を伸ばすから、可愛くて顔を寄せる。 軽くキスして離れると、あの子はもっとと手を伸ばす。 舌を入れてあの子の気の済むまでキスをする。 こんなに誰かに尽くすことが幸せだと思ったことはないよ…シロ、離したく無い。 そのままあの子の首に顔を落として首筋を舐める。 電話を切って俺の首に手をかけて背中を抱きしめられる。 「勇吾としてどうだった?」 俺が聞くと俺の顔に頬擦りしながら答えた。 「すごく……美しかった…」 俺は?俺のことはどう思ってる? 愛してる?1番愛してるのは俺? 「桜二が1番好きだよ。」 俺の心が読めるの…?シロ…シロ… その言葉にすっかりトロけて俺はあの子に愛を込めてキスする。 「シロ…抱きたい」 「いいよ、おいで」 この子の全てが愛しい… 誰にも渡したく無い… 「陽介先生…オレ頑張ったけどダメだった…」  スタジオの前で先生を捕まえて立ち話する。 あんなに練習に付き合ってもらったのに申し訳なくて、オレは背中を丸めて先生に報告した。 「そうか…残念だったね…シロより踊れる子が居たの?」 オレは黙って俯いた。 コネだなんだと言うのは負け犬の遠吠えみたいで、自分の口からは言いたくなかったから… 「そうか…シロ頑張ったのに…残念だよ。」 オレの方を見ながら頭を撫でてくれた。 「先生、今日はふざけないんだね?」 オレがからかう様に先生を見上げて言うと、穏やかに笑って返した。 「俺、結婚するんだよ。」 え? 「この前の彼女、妊娠してさ…俺今度パパになるんだよ!シロ!子供の名前考えてよ!!」 オレはあまりの展開に驚いて言葉を失った… 「先生…お、お、おめでとう…」   その赤ちゃん…要る子なの… 「シロ!結婚式きてよ!そして俺のために俺の人生最後のポールダンスしてくれよ!」 「やだよ…」 「何で?」 「先生、赤ちゃん要るの?」 「何言って…」 「要らないなら堕してよ!」 オレのストレートすぎる言葉に明らかに不快感を露わにして先生は黙ってオレを見る。 オレをじっと見る先生の目の奥に憤りを感じる… こんな顔されたの初めてだ… 「シロ…最低だな。見損なったよ。」 そう言ってオレに背中を向ける。 振り返りもしないで遠くへ行ってしまう。 「せんせ…」 オレの声なんて…もう聞こえないよね… 確かにオレは最低だ。 あの行きずりの女と結婚して幸せになるの…?あの女との赤ちゃんを愛せるの?要らない子なら産まれる前に存在を無くしてあげた方が良いのに… 下を向いて地面を眺める。 タイル状の歩道。 どれも同じように掘られたタイルの溝に1箇所ガムがこびりついている… 汚い…オレみたい… 先生に酷い事言ってしまったのかな… あんな嫌そうな顔するなんて… 嫌われちゃったな… きっともう2度とオレとは会いたく無いんだろうな…見損なった…か。 オレは先生の歩いていった方向に意味もなく歩みを進めた。 別にいい…要らない子を育てても先生なら幸せにしてくれるかもしれないし… オレみたいなのが言う権利なんて、元々ないし… ふと、視線の先にこちらを向いて止まる知ってる靴が見えて顔を上げる。 「先生…」 「何で?」 「え…」 「何であんな事言ったの…?」 オレは視線を外して俯いた。 「……言いたくない。」 「俺、お前の事嫌いになりたくない。理由があるなら教えてくれよ」 何も言えない…あんな過去知られるくらいなら嫌われた方がマシかもしれない… でも… 「要らない子って言われて育ったから…」 「誰が?…シロが?」 戸惑った声色に同情の色を感じて涙がポタポタ落ちて地面を濡らしていく。 オレは込み上げる感情を抑えられず大きく頷いてしゃくり上げる様に泣く。 人混みの中オレと先生だけ時間が止まったみたいに静かだ。 「あの女の事好きなの?」 「シロ…」 「好きじゃない人と結婚して幸せになるの?」 「…」 「赤ちゃん…大切に出来るの?」 「大切にするよ。」 そう即答するあったかくて優しい声に心が震える。 確かに…この人なら…こんな人なら…どんな命も大切に育てられるのかもしれない… オレも早く会いたかったな…こんな人に 「…ひっく、ひっく…オレも…せんせいみたいな…人に、早くに…会いたかった…!」 オレがあまりに号泣するから先生はオレを抱きしめて背中を優しくさすってくれた。 「泣かないで、シロ泣かないで…」 「オレ酷い所で育ったから…赤ちゃんの事心配だったんだ…でも先生なら…大丈夫だよね……ちゃんと優しく育ててあげられるよね…」 たとえ女と別れても先生なら引き取って育ててくれるよね…気にかけてくれるよね… 「シロ…よく分かったよ…彼女のことは正直よく分からないけど、赤ちゃんが出来た事は素直に嬉しいんだよ。命だからね」 「うん…そうだよ」 オレの背中をさする手が熱くなっていく。 もう先生に触れなくなると思ったら急に寂しくなって、オレは先生の胸元の服を掴んで言った。 「オレ先生としたい…嫌?」 「シロ…だめだよ」 涙がポロポロ落ちて止まらない。 断られた事が悲しいの?嬉しいの? 自分の口元が笑うから嬉しいのかな… 「オレの事…嫌いなの?」 「違うよ…そうじゃないよ…シロ、大好きだよ。」 「じゃあ何で…!」 「赤ちゃんのためにもシロに気持ちがいっちゃだめなんだよ…今お前を抱いたら俺は他の事なんてどうでも良くなるから…」 そう言ってオレの目を真剣な目で見つめてくる。 なんだよ…それ…めっちゃ良いお父さんじゃん… やっぱりね、先生なら大丈夫だよ… 「先生…ひっくひっく…陽介先生…」 オレは先生の名前を何回も呼んで体を抱きしめた。 先生は人目も憚らず抱き返してくれた。 こんな人のそばで暮らしたかったな… オレは先生と別れて店に向かっていた。 何故か気持ちは軽くてスッキリしていた。 あの人に会えて良かった… その事がとても嬉しくて… 足取りも軽く顔を上げて歩ける。 兄ちゃん… 人って素晴らしい人もいるんだね。 大抵ゴミ屑みたいだけど… そのうちの何割かは綺麗なのかもしれない。 18:00 三叉路の店 支配人にいつものように挨拶をして階段を降りる…扉を開けると楓がいて、笑いかけてくる。 「おはよう、楓」 「シロ今日なんの日か知ってる?」 ん?楓の誕生日だったっけ? 「ごめん、わからない。」 オレは化粧ポーチを鏡の前に置いて答えた。 「今日は…なんと…」 「ドキドキ」 「ハローウィンです!」 「やっとか!やっと今日で終わるのか!」 通りでここまで来る道すがら仮装の人が多かったわけだ。 今月後半に入って必ず1回は仮装でショーをしなければいけなかったから、やっと解放されるのか、とオレはホッとした。メイクに時間はかかるし、顔全体に塗るのがあんまり好きじゃないから早く終わって欲しかった。 「明日から普通に戻れるね!」 楓がオレの気持ちを察したのか頭を撫でてくれた。 「本当だよ、大変なんだから…」 ハローウィン最終日、楓は宇宙人みたいなボディスーツを着ている。 これ、なんの仮装なんだろう…? さて、オレはなんの格好をするかな…? 楓のセミロングパッツンのカツラを触りながら考える。 「ねぇ、楓。これまた貸してよ。」 「いいよ!シロ似合うから楽しみ~!」 19:00 衣装を着て店内に行くと、すでに仮装の客で溢れてる。 なんでかしらないがハローウィンの店は混むんだ…怖いもの見たさでのんけが来るからかな… オレの今回の衣装は楓のカツラと仮装用のクレオパトラの衣装…メイクは目元にアイラインをガッツリ引いて楓のキラキラをいくつか付けた。 頭に王冠を付けて長いドレスを腰をくねらせて歩く。 「シロ…クレオパトラだ…美人じゃん!」 「シロ、これも付けて!」 「これつけるともっとパトれるよ!」 常連客がオレに色々オプションを付けていく。 新しく手首に金のブレスレットと足首に金のアンクレット…コブラの頭が付いた杖を装備した。 シロはクレオパトラ度が30%上がった。 桜二を見つけてカウンター席に行く。 オレを見てニヤニヤ笑うから面白くてオレも笑って近づいた。 「女王様…綺麗ですね。」 「ふふ、足舐めたい?」 長いドレスはダンサー用なのでスリッドが沢山入っている。 オレは桜二の腰掛けるカウンター用の椅子の足場に足をかけてスリッドから生足をのぞかせた。 「あぁ…!」 ドレスの生地がエロく落ちて我ながらそそる。 桜二はオレの太ももに手を置いてサワサワ触った。 「シロ!トリックオアトリート!」 声をかけられて後ろを振り返ると勇吾と夏子さんがいた。 2人は白いお揃いのスーツに黒のシャツを着て白いハットを被っていた。 これ、あれだ!有名なスターのあの曲の衣装だ!カッコいい。踊って欲しい…! 「シロ!美人じゃん!有名な彼のMV思い出しちゃった。」 夏子さんはそう言うとハグして挨拶した。 それ、分かるわ…オレも思い出したもん… 「今日も綺麗だよ…シロ」 勇吾がそう言ってオレの腰に手を回す。 顔が近づいてあいつが顔を傾けて口を開ける。 「勇吾…キスしたいの?」 聞いてる最中にキスして舌を絡める。 美男が白スーツでクレオパトラとキスしてるから客が沸いてこっちを見た。 ショー慣れしてるからか動じもしないで気の済むまでキスされた。 「また口紅付いたよ。オレもとれたからまた塗らなきゃダメじゃん…」 オレはそう言って勇吾から離れると桜二の隣に座って、ビールを飲みながら先生の話をした。 「先生赤ちゃん出来たんだって!オレ聞いた時、すごくビックリしたよ。」 桜二も突然すぎて驚いて言葉を失っている。 その顔がなんか面白い。 「あの…お店の常連さんと?」 「そうだよ…」 「本当はシロが良かったのにね…」 「先生きっといいお父さんになるよ!楽しみなんだ、オレ!」 桜二も良いお父さんになりそう!と言うと複雑な顔をして笑った。なんで? 「クレオパトラ、そろそろ」 支配人に呼ばれて席を立つ、控え室に向かうオレに夏子さんが聞いてくる。 「ポップスターの曲でやんなよ。」 なんなの?ポップスターの彼のファンなの? 全く! 言われなくてもそれでやるよ。 カーテンを出てステージに立つと音楽が流れて夏子さんがフォーッ!と叫ぶ。 踊りが好きな人なら一度はハマるあの人!今日はその人の曲のMV版の音源で踊る。細かいって?オタクはそういう所にこだわるんだよ…。 オレはMVで彼が大勢のダンサーと踊るくだりをクレオパトラで完璧に踊った。 なぜならオレも生粋のポップスターオタクだからだ!! アイソレーションの効いたキレキレのダンスはリズムに乗るとめっちゃ気持ちいい。 オレの生足も踊るといい感じに衣装からはみ出て客も喜ぶ。 サビが終わるとエロの時間だ。 オレはポールに大股で一歩助走をつけて乗るとそのまま足をポールに絡めて仰け反って回る。 この衣装のスリット効果なのか、足が出ると客が騒ぐ。脱ぐ必要ないんじゃないかと思うくらいだよ。チラリズムって凄いな… 体をのけぞらせてポールを片手で持ち足を上と下に伸ばしてポールで開脚する。 腕が死ぬ… 後ろ足でポールを蹴飛ばしてポールの上の方を掴んで両手を離して広げて仰け反る。 あぁ気持ちいいな… そして下まで降りるとゆっくりバク転して胸元の衣装をはだけさせる。 そのまま大股を開いてしゃがんでファックするみたいに腰を動かす。 そして床にペタンと座ると両手を上から背中に回してゆっくりと上に上げながら肩を下げる。腰を浮かせて喘いでる口も表情も付けていやらしく腰を動かす。 縛られてエッチするの…意外と気持ちいいんだよな…なんて考えてると、客がチップを咥えて寝転んだり並んだりしだした。 オレはカウンターにいる桜二に投げキッスをしてからゆっくり一人一人のチップを口に咥えていただく。 「シロ…!ファンなの!」 体を固めて寝転がるお姉さんが小声で言ってきた。 嬉しいね…オレはお姉さんの頬を撫でて耳元でささやき声を聞かせた。 「嬉しい…」 お姉さんは絶句して顔を真っ赤にすると口からチップが落ちちゃったからオレはお姉さんの唇に軽くキスしてあげた。 残るは勇吾のみ…さてどうやって取ろうかな… 美形の彼に近づいて体を跨ぐ、そのまま腰を浮かせて下ろして勇吾の体を起こす。 綺麗な顔の頬を両手で挟んでおでこをくっつける。 口にチップを咥えてるせいか、鼻息が荒くておかしくて口元が緩む。 勇吾の手を取ってオレの腰に置くと、ファックしてるみたいにゆっくりいやらしく動かした。 片手を勇吾の膝の方に置いて、もう片方の手を自分の股間に置いて扱くフリをした。 「シローーー!シローーー!」 極まった客の声が聞こえる。さっきこいつとキスしたから彼氏だと思ってるのかな… 勇吾の顔を見下ろすとオレを見てギラギラと目を光らせてる。 オレは勇吾の両肩に手を置いてあいつの体を後ろに押し倒しながら口からチップを受け取った。 「シロ…好きだ。」 小さく言って笑う笑顔がとても綺麗で見惚れた。 そのまま立ち上がってステージの中央に戻り最後にポーズを決めてフィニッシュした。 まずまず盛り上がったのではないだろうか? 控え室に戻ると楓が本当の宇宙人の頭の被り物を被っていたから何も言わずに没収した。 「それ、特注なんだよ?」 「宇宙人のストリップなんて見たくない!美人のストリップが見たい!」 さすがのオレでも、楓の顔が隠れるのはNGだ。 この子はこの顔が売りなんだから…! メイクを落として夏子さんに買ってもらったべらぼうに高い皮パンと、オレの安いTシャツを着て店内に戻った。 「シロ、あんた勇吾とやったでしょ?」 店の入り口でオレを待っていたみたいに夏子さんが話しかけてきた。 「ん…オレが誘っちゃった。」 夏子さんに掻い摘んで説明した。 オレがオーディションに落ちた事、気持ち悪い奴に襲われた事、助けに来てくれた勇吾に抱いてもらって襲われた感覚を消したかった事… 「あんたってメンヘラビッチなのかな?」 オレは首を傾げて夏子さんの話を復唱した。 「メンヘラビッチ…なのかなぁ…」 オレの顔が間抜けだったのか夏子さんが腹を抱えて笑った。 「とにかく、勇吾が腑抜けになったのは事実だから、あんたって凄い魔性なんだね。たった1回であんなになるなんて凄い名器なのかも…」 オレの体を弄ってくる夏子さんにちょっとだけ興奮した… 「あいつ、自分以外みんなブスだと思ってるからさ、今まで付き合った子もみんな奴隷のように使ってたから、なんか新鮮だわ。」 そう言って歩き出したからオレも一緒に歩いて勇吾のところに行った。 「シロ、可愛かった。」 ニコニコ笑顔の勇吾がオレに向かって手を広げるから近づいて行って頬にキスした。 オレを抱きしめて頬擦りするとお返し~と言ってオレの頬にチュッチュッとキスした。 「勇吾、腑抜けなの?」 オレが聞くと真顔になって夏子さんを見て、またオレに視線を戻して言った。 「俺は演技が上手なの。お前にゾッコン~!てすれば、ばかなお前はいつもより多くサービスすると思ってやってるだけ。」 そう言ってオレの頭をポンポン叩いてオレを後ろから抱きしめた。 「ねぇ夏子さんは東京になんで戻ってきたの?仕事?休暇?彼氏作り?」 オレは勇吾を無視して夏子さんに話しかけた。 「仕事だよ。勇吾も同じ仕事。」 どんな?と聞くとオレの頭をポンポン叩いて言った。 「シロの落ちたアイドルコンサートの演出。」 「え~!そうだったんだ!なぁんだ~早く言ってよ!オレ落ちちゃったけど、どんな事するの?」 オレはケラケラ笑って夏子さんに聞いた。 「舞台演出」 勇吾がオレの首に顔を埋めて言った。 「凄いな~演出か~!オレも楓のステージをいくつか演出してる。だって楓が思いのままにやると凄い事になっちゃうから、へぇ、かっこいいね。」 凄いな、依冬にも教えてあげよう。 夏子さんの顔を見るとオレの後ろに視線が行ってるのが分かる。 そんなに気になるんだ… オレの背中をあっためてる勇吾の顔が。 「ねぇ今はどんな事してるの?」 オレは夏子さんにまた話しかけて視線を自分に戻す。 「今は舞台監督と打ち合わせしてコンセプトに沿った演出を練ってる。ドームの舞台装置も確認したいのに、勇吾がサボって来ないから…もう、シロからも言ってよ。」 「なんでオレが言うの?」 オレは面倒臭そうに口を尖らせて言った。 「あんたの言う事なら聞くんじゃない?」 「聞かないよ、ねぇ?聞かないよね?」 オレは後ろの勇吾に顔を向けて尋ねた。 「シロが可愛く言うなら…」 絶対嘘だよ、と夏子さんの顔を見て言った。 ドーム用の演出?何それ凄いな… 「ねぇ、そのアイドルのコンサート行きたいよ。チケット貰えないの?」 夏子さんや勇吾の演出が見てみたくて、でも自分のお金は使いたくないから聞いてみた。 「もらったらあげるね」 よし! 「やったぁ~!」 オレの腰を掴む勇吾の手をポンポンと叩くと離してくれた。 そのまま後でね、と2人に言って桜二の元に戻った。 桜二の体に持たれながらさっきの話を教えてあげた。 「舞台演出ってダンサーがするんだね。」 「今回はそこに特化してるのかもね。」 「オレが合格してたら2人と仕事ができたのかな?」 「どうかな?」 桜二のどうかな?が可愛かった… 確かに末端のダンサーが出会える人たちでは無いのかも知れないな…凄いな。 「桜二は昔2人とどんな事して遊んだの?」 オレは桜二を振り返って抱きつきながら聞いた。 「ん~」 唸る声が体に響いて低くて心地よい。 「悪い事…」 吹いて笑った。 悪い仲間なんだな…この3人は。 「今も仲良しの友達がいるなら悪い仲間でも良い仲間だったんだね…」 オレが言うとまた体に重低音が響いた。 「ん、桜二の声低くて好きだ。」 オレは桜二の胸板にスリスリして抱きしめた。 オレの頭を優しく撫でて抱きしめる桜二の手もあったかくて好き。 楓のステージが始まってステージにスポットが当たる。 暗くなったカウンターの席でオレは桜二とキスをした。

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