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第42話

「依冬?大塚先生お店に来たよ~!うん、うん、え?あの後?大丈夫だよ…心配した?ごめんね。でね、凄く絵が上手だったよ。あの人面白いね。」 家に帰るとまずは風呂に入ってパジャマに着替えた。その後依冬に電話して大塚先生の話を教えた。桜二が大塚先生を不審者だと思って、めっちゃ警戒した事も教えてあげた。 電話口から大笑いが聞こえて耳を離す。 「あ!あと、依冬!乾燥機が付いてるんだから洗濯物しちゃった方が良いよ?うん、臭くはないけど…うん、ちゃんとやるんだよ?じゃあね。」 依冬にそう伝えて電話を切ると、ソファでテレビを見る2人の傍に行った。 勇吾が桜二の傍に行こうと前を横切るオレを掴んで膝に乗せた。 「シロ坊、ここは俺の部屋だよ。勝手に入ってきちゃダメだよ、お仕置きしなくちゃ!」 確かに…この前勇吾はリビングの半分で寝起きするって言ってたけど、言ってたけどさ! 「何で?桜二はもっと奥に座っててもっと勇吾の部屋に入ってんじゃん!桜二をまずお仕置きしてよ!」 オレは全力で抗議した。 俺?って顔してこっちを見る桜二が可愛くて萌えた。 「桜ちゃんは怖いから良いの。シロ坊は可愛いからお仕置きするの。」 そう言ってソファに座る桜二と勇吾の間にオレを落とした。 あ…桜二の膝枕だ… オレは手を伸ばして桜二の顔を触った。 勇吾はオレの足を膝に乗せてモミモミマッサージしてくれた! なんだ!お仕置きじゃ無いじゃん! 「勇吾…本当に優しい勇吾になったんだ…」 オレが顔を上げて勇吾を見ると、こっちを見て微笑んだ。 ギュッと太ももを抱える様にしてきたから違和感を感じて顔を起こして勇吾を見ると、スッと手を動かしてオレの足の裏をこしょぐってきた。 「あっ!あははっ!だめ!やめて!やめて!勇吾!あはははっ!ダメだって!やははは!あーーっ!はははは!」 勇吾の腕によって身動ぎ取れないオレをいい事に、勇吾が天使の様に微笑みながらオレの足の裏をこしょぐる! 「桜二!桜二!助けて!やだあはははは!!」 「シロ…楽しそう…」 桜二のばか! オレがこしょぐられて笑ってる間、桜二はじっとオレの顔を見ていた。ぶん殴るぞ! オレは渾身の力を込めて腹筋を使い起き上がると、勇吾の頭を叩いた。 イテッ!と言って手を離した瞬間、体を翻して桜二の上に跨って頭をペチペチ叩いた。 「シロ!ごめんごめん!」 オレを抱きしめてそう言うと、桜二はオレに優しくキスしてきた。 舌の絡んだエッチなキスで気持ち良くなる。 糸を引いて唇を離すとオレの首筋を舐めて吸った。 「桜二…エッチしたい…」 「シロ、昨日ちゃんと寝れて無いでしょ?今日は寝た方が良いよ、ね?」 「…そんな事言って!明日、自分が寝坊したく無いだけなんだ!仕事があるからって!ばか!桜二のばか!もう知らない!」 オレはそう言ってソファに突っ伏して桜二を後ろ足で蹴飛ばした。そんなつもりじゃないって分かってる。分かってるけど、したかったのにお預けを食らうのが嫌なんだ! 「勇吾!桜二が酷いんだ!えーん、えーん!」 勇吾の膝に縋って泣きつくオレに、桜二が笑いながらそんなんじゃ無いって!って言ってオレの足を撫でて揺する。 おもむろに勇吾が自分のスウェットを下げてゴソゴソとモノを引っ張り出した。 「シロ…舐めて?」 自分で扱きながらオレにおねだりする顔にちょっと興奮して、オレは勇吾の股間に顔を埋めてペロっと舐めた。 ビクンと大きく勇吾の体が跳ねて、可愛くてもう一回ペロリと舐めた。 「あっ…シロ…口で…ん、口でして…」 オレは下から舐め上げて上から口の中に入れて中で舌を動かして刺激した。 「シロ…可愛い、顔見せて?」 オレは敢えて苦しそうな顔をしながら勇吾のモノを口で気持ち良くした。 どんどん大きく硬くなる勇吾のモノに興奮してオレは自分のモノを触った。 それを見た桜二がオレのパジャマの短パンを下げてオレのモノを扱き始める。 「ん、んぁ…ん、ん…ん」 気持ち良くて勇吾のモノを咥えながら喘ぐ。 桜二はオレの穴に指をゆっくり入れて焦らす様に刺激を加える。 オレは勇吾のモノが欲しくておねだりする。 「勇吾…このおっきくなったの、ちょうだい…」 「シロ…俺としようよ…」 「良いよ、シロおいで。」 オレは喜んで勇吾に跨って勇吾のモノを手で支えて入れようとした。 後ろから桜二がオレの腰を掴んで自分のモノを挿れる。 「あっ!ぁあっ!桜二!…んぁあ!や、やだぁ!桜二はやだ!」 「何で?シロ、良い子だからこっちにおいで!」 そう言ってオレの中に入れたままソファの下にオレを下ろして四つん這いにさせる。 あぁ…桜二のすごく気持ちいい!やばい…! 「シロ…お口で続きして?」 勇吾がソファに座って足を広げるからオレはそこまで体を伸ばして勇吾のモノを口に入れる。 「良い子だね、シロ…ん、きもちい…」 オレの髪を撫でて前髪をかき上げて顔を覗く。 硬くて大きくて挿れたかった勇吾のモノを秘儀を使って気持ち良くさせよう…! 「あっ!あぁあ!シロ!待って!これは…どこで覚えたの?これはまずい!イッちゃう…!シロ、シロ、まって!もっとしてたいからストップ、ストップ!」 勇吾が腰を引いて強制的に口からモノを出したからオレの顔にベチンとあたった。 その瞬間勇吾がイッてしまい、顔射された…。 「あっ…シロ…ごめん、はぁはぁ…ちょっちょっと待ってて…はぁはぁ…」 勇吾がそう言ってティッシュで拭き取ると濡れタオルを用意しに行った。 「あはは…シロ、アレやったの?ふふ、ふはは!」 桜二がオレの後ろで笑いながら腰を動かす。 オレは勇吾のいなくなったソファに突っ伏して桜二のくれる快感に身を捩って喘ぐ。 「ぁああ…桜二…きもちい…ん、んぁああ…きもちい…もっと…ん、ぁあっ…」 桜二がオレの上に覆いかぶさって背中を舐める。 きもちい…気持ちいい…オレはオレの腰を掴む桜二の手を掴んで握る。 お前が好き…大好き 桜二はオレの体を起こしてソファに上体を乗せるとそのまま後ろから腰をつけてやらしくオレの中をかき回す。 「きもちいい…!桜二…!あっあああ!きもちい!きもちい!桜二好き、好き!好き! 大好き!」 オレがそう言うと桜二の腰がガクガクしてイッてしまった…え…早くない?早くない? 「シロ…シロ…俺も大好き…」 そう言ってオレの中から抜くと向き合ってキスし始める。 オレの顔面まだ勇吾の残ってるのに… 「ちょっと拭くよ~?」 そう言って勇吾があったかいタオルを持ってきてオレの顔を拭く。 もうめちゃくちゃだ! オレは続きをする元気もなくなりシャワーを浴びに行った。 桜二がついて来て一緒にシャワーを浴びる。 「何で今日はあんなに早かったんだろうね?」 シャワーを浴びながらオレが桜二の顔を撫でて聞くと、あいつが言った。 「シロが…俺の事、好き、好き、好き、大好き!って言ったから…嬉しくなって…そのまま…」 「本当に?」 オレは笑いを堪えて聞いた。 うん…と答えてオレにキスする。 今鼻で息をするのはまずいのに… そう思ったら桜二がシャワーを止めて舌を入れて熱くキスした。 お前、何でも分かるんだ… きもちいい… 体を拭いてパジャマをまた着ると髪も乾かさずベッドに行った。 「シロおいで」 待ち構えてた勇吾に抱きついて横になると首に巻いたタオルでオレの髪をゴシゴシしてくれた。 どんどん目が閉じてく… そんなオレを見て勇吾が笑いながら言った。 「疲れたね、もう眠ろうね…」 やっぱり勇吾優しくなった… 桜二が来るのを待たずにそのままオレは勇吾と眠ってしまった。 「シロ、朝だよ」 まだ早いよ…お爺ちゃんの起きる時間だよ… 「シロ、俺今日仕事があるから起きて?」 オレはガバッと起き上がって桜二を見る。 スーツ着てる…やだ、やだ! 「やだぁ!行かないでぇ!」 オレは泣きながら桜二にしがみついて縋った。 桜二はオレをそのまま抱えるとダイニングテーブルに着かせた。 「あーーん!やだぁ!やだぁ!行かないで、行かないでよ!置いてかないで!やだ!やだぁ!」 「シロ、うるさい…!」 夏子さんが家に戻ってる…いつの間に? 「シロ、ご飯冷めちゃうよ?」 勇吾がそう言ってオレの口元に卵焼きを持ってくる。けど、けど、ダメなんだぁ! オレは席を立って桜二にしがみつくと泣き喚いた。 「やだぁ!やだぁ!行かないで!だめ!やだ!桜二!置いてかないで!やだぁ!うわーーーん!」 桜二の仕事用の鞄と車の鍵を抱えて泣き喚く。 「シロ、俺も夏子もまだ居るから…1人じゃないから怖くないだろ?」 勇吾が優しい! 「あんた達が甘やかすから!19歳にもなって泣き喚くクソじゃりになってんのよ?分かってんの?こういうのは部屋に閉じ込めちゃえば良いのよ!」 夏子さんが俺の手を引っ張って寝室に連れて行こうとするのを桜二が止める。 「シロ、シロ、ほら電話するから、ね?鍵と鞄返して?」 やだ、やだ、やだ、やだ!! 「やだ…一緒に行く…」 スパーンとスリッパで頭を殴られて夏子さんの雷が落ちた。 「いい加減にして!たかが仕事に行くだけなのに!何をそんなに泣いてんの?シロ!男は泣かない!あんたらも甘やかすな!特に勇吾!あんた何丸くなってんの?勇吾!どうしちゃったの?」 オレは手から鞄と鍵を落として寝室に走って行った。 扉を閉めて桜二のつけた鍵をかけた。 ベッドに入って目を瞑る。 酷い!オレを置いてくなんて…酷い!! 扉の向こうで桜二が何か言ってる…嫌だ!お前なんてどっか行っちゃえ!知らない!知らない! ……大嫌いだ!! 兄ちゃんの声が頭の中に聞こえた… 「シロ少し話そう」 「嫌だ」 「オレのことなんて放っておいて」 「オレのことなんてどうでもいいんでしょ…」 「オレがいない方がいいじゃん」 「シロ!刃物を持った人と喧嘩なんかして、もし刺されたらどうするの!危ないだろ?もうやめてくれ…!お前にもしものことがあったら…」 「…オレ死にたいもん。兄ちゃんにズタボロにされてオレ死にたいもん…。こういうのやめて欲しいならオレの前から消えてよ…」 ーー兄ちゃん!! オレは布団を飛び出して鍵を開けると夏子さんと勇吾の間を通り抜けて玄関で靴を履く桜二に抱きついた。 「気をつけてね、待ってるから…気をつけてね…桜二…愛してる…ごめんなさい」 桜二はオレを強く抱きしめて頭を撫でてくれた。あったかい手で優しく撫でてくれた。 もう後悔したく無い…思っても無い言葉で誰かを傷つけて、謝ることも出来ないで会えなくなるなんて…そんな思いはもうしたく無い…! 「シロ、いってらっしゃいのキスして?」 オレの頬を持ち上げて優しく笑う。 オレは少し背伸びをして桜二にキスした。 「行ってくるね」 そう言って桜二は玄関を出た。 これで良かったんだ… 頭ではそう思っても心が震える。 どうにかなりそうな気持ちを抱えて寝室に行く。 寝れば治る… そう信じてベッドに突っ伏すと 震える心が冷たく凍って痛くなる。 「にいちゃん…」 そう呼ぶことで落ち着くならそう呼ぼう… 嵐が過ぎるまで…1人…兄ちゃんと… 心があったまるまでここで耐えよう… 「何であんなに大袈裟になるのかな、あのカップルは…」 ため息をつきながら髪の毛をセットする夏子に話す。桜二から聞いた話。 「シロ、母ちゃんが売春してて2,3歳くらいからその客相手に性的虐待受けてて種違いの兄ちゃんがあいつの事守ってたんだって。でもその兄ちゃんもあいつが小学生の時に性的虐待する様になって中学の時は売春させてたらしい…。それでもあいつは兄ちゃんが全てで、16の時に女とキスしてるの見て兄ちゃんに怒りをぶつけたら首吊って死んじまったらしい…、桜二のことも初めは兄ちゃんと混同して接してたらしいから…桜二はあいつの特別なんだよ。特に離れるのが怖いんだろ…まぁ許してやってよ。」 「………何それ…」 絶句する夏子を見てまぁ気持ちはわかった。 俺だってまさかそんな事が日本であるとは思わなかったから。自分の生い立ちを自慢できる環境とは言えないが、想像を絶する環境で心に深い傷を負いながら生きてる奴もいるんだな…と思い知らされる。そして自分たちの幸運さに感謝する。運悪く生まれるところを間違えたら誰だってあの子と変わらない環境に晒されるのだから。 ドアを開けたままでベッドに突っ伏してブツブツ言うシロを見ると心が痛い。 お前は何も悪い事してないのにな… 「シロ、お腹空いてない?卵焼きあるよ?」 隣に腰掛けて髪を撫でてやる。 「にいちゃん…にいちゃん…」 消え入りそうな声で呪文のように呟いてひたすら目から大粒の涙を落とすこの子に俺は何をしてあげられるのか… 髪を撫でながら透き通った頬の肌を見る。 かわいいな… 俺は桜二じゃ無いから、同じようにこの子の支えにはなれないだろう。 俺が出来る事を考えよう… 夏子が部屋に入ってきた。ベッドに腰かけてシロの頭を俺と一緒に撫でた。せっかく化粧したのに涙でも流したのか目の周りが赤くなって化粧も落ちていた。ジッとあの子の様子を見て目を潤ませる。お前もシロ、気に入ってるもんな…可哀想だよな…いつもあんなに元気にしてるのに、ひょんな事でこんなになっちゃうんだぜ…。脆いと一言で言ってはいけない…この子はいつも耐えてるんだから… ブツブツ呟くいつものあの子じゃ無い姿を見てもお前は大丈夫そうだな… 俺は正直怖いよ… このまま壊れてしまいそうで… この子が壊れたら自分も傷つきそうで…怖い 「シロ…俺が面白い話してやるよ。俺が初めて自転車に乗った時の話なんだけど、補助輪なんて物は買ってもらえなくて俺は初めからバランスを取って自転車に乗らなきゃいけなかったんだ。初めはみんな怖くて漕げないだろ?でも、漕がないと進まないしバランスも取れないんだよな。この葛藤からどうしても抜け出せなくて、俺は車輪が一つならいけるんじゃ無いかと思ったんだ。」 やわらかい髪を撫でながら話し続ける。 届いてるのか分からないけど、俺のとっておきのばかなエピソードだ。 笑ってくれよ…シロ 「それで、俺は学校から一輪車をパクって来て放課後公園で練習したんだ。でもさ、アレだって漕がなきゃ進まないしバランスも取れないんだよな。しかも自転車よりも怖くて危ないんだよ。結局一輪車の練習で腕を骨折して、治った頃にもう一回自転車に乗ったらすんなりと乗れたって事。本当ばかで間抜けでおかしいだろ?」 俺はそう笑いながら言ってシロの顔を見下ろした。 あの子はにいちゃんを呼ぶ呪文をやめて俺をじっと見ていた。 表情はいつものあの子で… 目が笑っていて口元も緩んでいる。 「それって…良い話しなんじゃ無いの?」 俺の膝に手を伸ばして小さく言って笑う。 「だって、勇吾は自転車よりも怖い一輪車の練習をする事で自転車への恐怖を克服したんだよ?こんなに頭の良い子居ないよ…」 俺はあいつの頬を撫でて笑って言った。 「俺は馬鹿じゃ無くて…賢かったんだな…」 夏子がシロを後ろから抱きしめる。 「お姉さんがついてるからな…シロ」 涙声に驚いた顔をしてから嬉しそうに笑って、うん。と頷いたこの子の目の端から涙が伝ってまた落ちた。俺はそれを指で掬って手の中にしまいシロの頬にキスした。 朝ごはんを大人しく食べるシロを眺めながら心情を考察する。 向かいに夏子が座ってメイクをやり直してる。 「これ、シロの分のアイライナー買ってきたよ。」 「うわ、ありがとう!夏子さん昨日はどこに行ってたの?」 「現地妻に会ってきた。なんか冷めてきちゃって帰ってきちゃった。」 「何で冷めたの?」 「魅力ってなくなっていく物なのかもね~つまんなくなって。」 「ふぅん…つまんなくなるんだ…」 他愛もない話をしてご飯を食べてる。 時計を見ると10:00近い…俺と夏子は11:00にコンサート会場入りして動線のチェックをしなければいけない… この子、置いてっても平気なのか… ご飯を食べ終わって自分でお皿を洗うシロを見る。 いつもは桜二に甘えるひと時なのにね… 洗い物を済ませてテレビを見ながら俺の方に歩いてくる。 「シロ坊…おいで」 隣に座らせて膝枕してもらう。 柔らかくてスベスベの太もも最高… 「起訴って何?」 俺の髪を撫でながらシロが聞いてくるから、教える。 「裁判所に訴えますから判決出してください~って言って、裁判所が良いよ!判決出すよ!ってなる事じゃない?」 「支配人がこの前起訴したって話してた。オレの連れ去り暴行事件。裁判所に通ったんだ。」 「あったりまえだよ!そんな事して起訴されないわけねえんだから!全く死ねば良いのに」 本当に腹が立つ… 桜二から聞いた話だと、この時頭を強く打ってシロは脳震盪を起こして一時入院したって言うじゃないか…許せない 俺も今まで無理やりやられる経験は何度もあった、今でも相手を恨んでいるし殺してやりたいと思ってる。 可哀想なシロ…目立つから狙われるんだな… その後、桜二が親父さんに刺されて意識不明になったって聞いて驚いたんだ。 あのシロを見てしまうと、その時のあの子は壮絶だっただろうと容易に想像できる。 依冬くんはなんだかんだ言って桜二不在の超絶堕ちモードのシロを支えるのに頑張ったんだな…偉いよ。 俺は…俺だったら… 一緒に堕ちちゃうかもしれない… シロを見上げて鼻の穴に指を入れる。 「ん、だよ」 鬱陶しそうにする彼に心がときめく。 「シロ…勇ちゃんの事、好きか?」 シロの頬を持って自分に向ける。 俺を見てよ、シロ… あの子は可愛い笑顔になって俺の頬を両手で包んで寄せると小さな声でこう言った。 「勇ちゃん…大好き。」 かわいい…! 俺は興奮してシロのパジャマをめくると腹に顔を埋めてハムハムした。 「やめてよ!や、やめてよ!あはは!」 夏子が来て俺を引き剥がす。 何だよ…あのまま押し倒したかったのに… 「勇吾!支度してよ?」 朝から何もしてない俺に激を飛ばしてスリッパで殴る。誰だよこいつに武器渡したのは… シロを見ると慌ただしく準備する夏子を、あの画家の先生の描いた顔をして横目に見てる。 かわいい… イチャイチャしたい… 俺は歯を磨いて顔を洗いシロの横で服を着替えると、あの子の隣に座って自分の方に抱き寄せた。 テレビをぼんやり眺めるシロを眺める。半開きの口が可愛くて指を突っ込む。 「ん、やめて」 だって、かわいいんだもん… そのまま覆いかぶさってキスする。 舌であの子の柔らかい唇を舐めて堪能する。そのまま舌を入れてもっと柔らかいあの子の舌を絡めて舐める。俺の体に手を添えて俺を制してるつもりなの?かわいいな… このまま抱きたい… シロのパジャマに手を入れて素肌に触れる。しっとりした肌が滑らかで指で撫でると気持ちいい。 「勇吾、やめてってば!」 嫌がるなよ…悲しい… 俺はシロの首筋に顔を埋めてハムハムした。 「シロ…勇ちゃんの事、嫌いなの?」 俺がいじけて言うと後ろからスリッパで誰かに殴られた… ダイニングテーブルでシロの携帯が鳴ったので取りに行く。 あぁ。桜二からのラブコールだ… 「桜二からだよ…」 そう言って渡すとあの子はそそくさと寝室に行ってしまった…後を追いかけて聞き耳を立てる。 俺はちゃんとケアできたのか… あの子の気を紛らわせることが出来たのか… ただ単純にそれが気になっただけだ… 「桜二……ん、ん………うん……いつ?……ん…。分かんない……ん。…………会いたい…ん、ぅん…うっ、うっ……んん…ひっく…ひっく……桜二………愛してる…」 泣きながら電話してる声を聞いて打ちひしがれる。電話の内容なんて簡単に想像できるよ…桜二が大丈夫?って聞いてあの子がうんって答えて、ご飯食べた?って聞いてまたうんって答える。泣き出したあたりは今日昼に一回戻るとかそんな事言ったんだろう…壁を眺めながらあの子の泣き声を聞いていると夏子がやってきて俺に言った。 「野暮」 「上等です」 中指を立ててそう言い返して、またあの子の泣き声を聞く。 心配なんだよ… ふと泣き声がしなくなってベッドから降りる音がする。下を向いて俺のそばに来て携帯を渡す。 「桜二が勇吾と話したいって…」 シロにジッと見守られながら電話に出る。 「はい勇吾ですよ。うん、あーもうすぐ出るよ。うん、どうかな…?ん~、成る程ね、ハイハイ。ん?あぁ…成る程ね…分かった、俺が連れていくよ。良いよ、大丈夫だから、お前から伝えて?」 どうやら桜二は復職の手続きが長引いてお昼に家に戻れそうもないらしい…期待させて落とすなよ…全く…俺はこのままこの子を置いておきたくないので一緒に連れて行くと決めた。 俺から言うより桜二から言ってもらうのはあいつの罰だ。 「ん……う、うっ…ひっくひっく…やだぁ…んん…桜二…嘘つき……やだぁ………ん、ん…勇吾?……ん、ぅん…桜二………愛してる…」 携帯を切ってシロがオレの胸に抱きつく。 おいで、もう俺のとこにおいでよ… 「シロ、俺とコンサート会場の裏側見学に行こう。ね?楽しいよ?親戚の子って言って許してもらうからさ、一緒に来てよ。」 あの子を抱きしめて耳元で優しく言う。 シロは小さく、うん。と言って俺の胸に顔をギュッと埋める。 背中でこっちを見てる夏子に話しかける。 「なっちゃん、今日シロを会場に連れて行くから。その体でよろしくどうぞ」 「ハイハイ」 そう言うと夏子はシロの腕を掴んで言った。 「シロ坊、顔洗って髪の毛綺麗にしてあげる。こっちにおいで」 そう言って俺のかわいいシロを連れて行った。 可愛すぎるだろ…俺だけの、俺だけの物にしたい!!甘い言葉を囁いて連れ去って独り占めしたい。泣いても喚いても、縛ってでも捕まえて俺だけを見てて欲しい…! でも、そんなことしたらきっともうあの子の笑顔は見れなくなるんだろうな…。俺に心を閉ざしてしまうんだろうな…。桜二のいない場所ではこの子は生きていけないんだろうな…。 独り占めする?…いいや、しない。…というか、出来ない。 弱ってる所をかっさらうなんて今まで良くやった手なのに、シロにそんな気が起きないのは何故だろう…こんなに独り占めしたいと思うのに…こんなに連れ去りたいと思うのに…。自信がないからかな?この子を桜二から離してまで幸せにする自信がないのかな…。今まで自分本位でしか考えていなかったのに、対この子になると途端にこの子の幸せを優先的に考えてしまう。 …それが普通の愛情なんだろうけど…俺にしたらとんだ自己犠牲だ。 いつもより内巻きに巻かれたシロの髪の毛… かわいいかよっ!キューティクル全開だろ? 夏子のヘアメイクでより可愛くなったシロ…大好きだよ… 今日は俺はシロの手を握って過ごすことにした。保護者に返すまで俺が仮の保護者だからな…ヒヤリハットの無いように気をつけないと! タクシーを止めて3人で乗り込む。 目的地を告げて出発する。 夏子は今日使う音源を聴くためにイヤフォンを付ける。いつもなら俺もするけど、今日はお前がいるからしなくて良いや。 恋人つなぎの手を眺めるシロにエアキッスする。 クスッと笑う顔が可愛くて心が躍る。 タクシーが到着して俺達は楽屋口から入って行く。演出監督に挨拶をしてシロを紹介する。 「この子の俺の親戚の子なんだけど、今日連れて歩くんでよろしくお願いします。」 監督はおっ?と驚いた顔をして俺を見て言った。 「この子覚えてますよ、確か今回のオーディション受けたよね?一際目立って上手だったからよく覚えてる。シロくん?だったよね?ピンクの髪もそのままだね、いらっしゃい。ちょっと今日は慌ただしいけど、邪魔にならない様にね。」 そうシロに言うとあの子の頭を撫でて行った。 俺はすぐ綺麗にする様にシロの頭を払った。 「勇吾、露骨。やめなよ。」 うるさい!夏子!馬鹿の汚い手で触られたんだぞ! 許せるかよ! シロと手を繋いで用意された控え室に荷物を置く。服を着替えてまたシロの手を握る。 「広いね…こんな風になってんだ…」 物珍しそうに見渡すと笑って楽しいと言った。 夏子と別れて担当するところを回る。 俺の歩くのが早いのかシロがタラタラ歩くのか気付くと繋いだ方の腕が伸びてピンと張る。 「歩くの早い?」 シロに尋ねると面白いからわざとやってると言った。かわいい奴め!この、この! ステージの上に上がって音響、ライティング、マイクのテストなどをしてる間を通り捌ける場所を確認する。 「勇吾…あれ、あんな遠くの客席からここは遠すぎて見えないね。」 シロが後ろの客席を指差してそう言うから、あそこの席になった人はスクリーン見るんだよ、と教えた。 「勇吾さん、おはようございます。これからメンバー達と合わせてバックダンサー入るのであちらで見てください。」 林さんに声をかけられ俺は頷いて指定されたところに行く。 俺のシロをいやらしい目で見るんじゃないよ。とんだスケベ野郎だ! 全く! 「あ、勇吾。俺あの子知ってる。」 そう言ってシロの指差したやつはクソ下手な奴と、顔だけイケメンの奴だった。 「お前の方が断然上手いのにな…」 俺はそう言ってシロの方を見たけどあの子はこの光景が物珍しいのか、楽しそうに眺めている。 こんな事、向こうではしょっちゅうある…こういうのが好きなら俺と一緒に来いよ…シロ。 俺が現場に連れてって一から全部教えてあげるのに…。 大音量の音が鳴って会場内に籠る。 ライトが当たってキラキラとステージが光る。 ここに立てるのはお前みたいに努力した奴だけになって欲しいよな…。今みたいにコネや名声だけで人の目を欺く物がもてはやされるのではなく、本物が…本物のエンターテイメントが評価される時代が来る事を切望するよ。俺のしてる仕事もその一環だ。お前みたいな才能を埋もれさせたくない…。そんな気持ちで始めたロンドンでの活動も評価されて賛同者も増えてきた。 お前を俺の演出で…俺の舞台で…とっておきの場所と1番の演出で踊らせたいよ…。俺の分身。俺の愛するシロ…お前は本当に特別だ。 目の前ではヘタクソな歌と踊りが繰り広げられて頭痛がしてくる。こんなんじゃ、バックダンサーもへったくれも無い… お前らがそれで良いならそれで良い…今回俺はこのスタンスで行くことにしてる。 「どうですかね?」 「いんじゃ無いですか?捌け口の確認と入りのタイミングだけ後で細かく打ち合わせしたいです。思ったより出入口が小さかった。」 これだと渋滞するかスタッフを多めに配置しないと、テンポ良く出入り出来なさそうだ。 次の確認場所に移動しようとシロの手を引っ張った。 「シロくん!」 名前を呼ばれたシロが立ち止まって振り返る。繋いだ手がピンと張って俺も振り返る。 「先生の秘蔵っ子だったんだ…だからダンスが上手なんだ。コネがあるのに、どうして落ちちゃったの?」 そんな会話が聞こえてきて俺はそいつを睨んで見た。まともに踊れない負け犬の癖に自惚れんなよ…ブス。 「勇吾…秘蔵っ子って何?」 俺に聞き返すシロの顔が混乱しててウケる。 そんな言葉、お前は知らなくて良いんだよ。 「シロ、行くよ。」 そう言ってシロの手を引っ張る。お前はあんなのと会話する必要は無いんだよ。 「勇吾、疲れた…」 会場内を行ったり来たり端から端まで歩き回って、シロが疲れてしまった…まだやる事が山積みだから、仕方ないおぶるか…と考えていた時、世界一安全な奴を見つけた。 「おい、ジョージ!ちょっとこの子の面倒見てて?俺の大切な人だから、絶対1人にするなよ?」 アメリカ生まれの日本育ち、女になりたくてモノをぶった切った、メイクアップのジョージにシロを預けた。 ジョージにハグされながら、俺を見送るシロ…パパは頑張ってタスクをクリアしてくるよ! 急げ!急げ!早く済ませてお迎えに行かないと!…俺はいつも以上に頑張って午前中にやるべき確認作業を全てやり終えた。…我ながらすごいスピードでやれば出来るというのを証明した。 あれから1時間半しか経ってない…後は午後にやるタスクのみだ! ジョージに預けたシロを急ぎ足で引き取りに行く。 「あっ…勇吾…お帰り。」 ジョージの控え室に行くとバッチリメイクされたシロがいた。いつもよりも濃いメイクだけど、かわいいじゃん。 俺はメイクの出来を確認しながらシロの顔を触った。 柔らかい…かわいい…抱きたい… 「ベビーフェイス」 そう言ってシロにメイクの道具を渡している。 「オレがストリップしてるって話したら、メイクの道具あげるって、これ貰った。」 手に余るほど沢山貰って…使い方分かるの?と少し思った。 「勇吾のハニーかわいいね。アイドルより肌綺麗だよ。それに私、ちゃんと悪い奴らから守ったよ。偉い?ご褒美頂戴!」 せがまれて仕方なくシロの視界に入らない所でキスした。もちろん軽いやつだ。 再びシロの手を繋いで遅めの昼食を取りに食堂に向かう。 「あ、桜二から電話来てる…待って、出るから!」 そんなの切っちゃえ!…なんて思ってても言えない…お前の嬉しそうな顔見たら冗談でも言えない…俺はなんていい男なんだ。 「もしもし…うん。勇吾忙しく働いてるよ、ちゃんと働いてる。…うん、大丈夫だよ…ん、平気。今からご飯だって。今日?…うん、仕事あるよ。」 桜ちゃんさ…話が長いんだよ… 俺はシロと繋いだ手を離さないで、何を食べるかケータリングをチェックした。 食堂内のゲイども、俺のシロを見るな!かわいいだろ!俺のだ!俺のシロだぞ! 「勇吾、ごめんね。桜二が4時に迎えに来てくれるって!」 なんだと!後2時間しか無いじゃないか!! 「ふぅん…良かったな…」 俺は悲しみを抑えてそう言うと、シロにケータリングを指差して何が食べたい?と聞いた。 「ん…そうだな…あのラーメン食べたい。」 俺はシロの為にラーメンを作ってあげて、おぼんに乗せた。ここは有象無象が行き交う危険な場所だから絶対1人に出来ない…!おぼんを持たせる訳にいかないから、仕方なく手を離して付いてきてもらう。俺は適当に、肉とパンと蕎麦と唐揚げを持ってテーブルに着いた。 「勇吾、そんなにいっぺんに食べると…お腹痛くなるよ?」 俺にそう言ってガミガミ言うシロを壁側に隣に座らせ、俺はその隣に並んで座る。 「これは、シロにあげる分だよ!はい、あーん!」 箸で唐揚げを摘まんであの子の口に持っていくと、可愛い間抜け面して口を開ける。親鳥の気持ち…。あーんって言うと口を反射的に開けるなんて…躾けられてんな! 「美味しいね、ラーメンも美味しいよ?」 俺はお前に違うモノをすすって欲しいよ…シロ 「先生、お疲れ様です。ここ座っても良いですか?」 アイドルグループの喧嘩した子がニヤニヤしながらやってきた。なんだ、ブス!あっちへ行け!お前が来ていい場所じゃない! 俺は手をちょいちょい動かしてダメって言った。 「え~、先生と食べたかったのに!」 ごねるなブス、媚びても何もでねぇぞ…あっちいけ!俺とシロのひと時を邪魔するな!! 「あっち行って?」 「…勇吾」 拒絶する俺の一言にシロが困った様に俺を呼ぶ。 「俺はお前と2人きりで食べたいの…邪魔されたく無いんだよ。分かるだろ?勇ちゃんの気持ち、分かるだろ~?」 そう言ってシロに甘える。ゴロニャンゴロニャン 「勇吾…もうちょっとさ、優しく言えば良いのに…」 俺のゴロニャンする頭を優しく撫でてシロが言った。 「シロ、大切な人にだけ、優しくすれば良いんだよ。他はどうでも良い。」 俺はそう言って唐揚げをまたシロの口に持っていった。あーん、と開ける口から、かわいい舌が見えたから俺は思わずキスして舌を舐めた。 どこからか、もっとやれー!と奇声が聞こえたけど気にしない。気が済むまで舌を絡めて愛する。 「ん、勇吾!もうやめてよ!」 やめないよ、だって後2時間しか一緒にいられないんだから… 「先生は親戚の子とも色々と仲良しなんですね。」 林さんがおぼんを持ってこっちに来るから近親相関なんです、と真顔で答えて手で追い払った。茶々入れんな!出来損ない! しかし、こんな場所でキスしたせいか…シロの機嫌が少し悪くなった…悲しい。勇ちゃんに軽く背を向けて、ちょっとだけ向こうを向いてラーメンをすすっている…。 「シロ…悪かったよ、もうしないから…機嫌直してよ。かわいいシロちゃん!だいちゅき!」 「勇吾やだ!そういうのやだ!」 あーーーーー!かわいい!出たよ!やだやだ!やだやだ! 「シロちゃん!だいちゅきだよ~!チュッチュッチュッ!かわいい!かわいいね~?」 俺はそう言ってシロを抱きしめるとスリスリ頬ずりしてハムハム首を甘噛みした。 頭にガンと何かが当たって後ろを振り向くと、おぼんを持った夏子が鬼の形相で隣に座るシロを指差した。 「めっちゃシロ怒ってるけど?」 そう言われて見てみると、可愛いシロが唇を噛んでこっちを睨んでる。 あーーーーーー!何その顔!かわい! 「やめてってさっきから言ってるのに、どんどん悪ノリするんだ!勇吾、本当にやだ!」 フン!と顔を背けられ悲しくシロの肩に項垂れる。 ごめんね、ごめんねとシロに縋る俺。 夏子がそんな俺を冷たい目で見てくる… 「勇吾の事怖いって思ってる人は、少なからず…今のあんたを見て腹抱えて笑ってんだろうな~」 夏子はそう言いながら持ってきた自分のラーメンを食べ始めた。 「俺はね、そういうの気にしないの。どうでも良いやつにどう思われたってどうでも良いんだよ。」 そう言って夏子のラーメンに唐揚げをポチャンと入れた。あっ、と言って睨む夏子が続けて言う。 「どうでも良くない子があんたをどう思ってるか、もう一回思い出したらどうですか?」 そう言ってシロを指さした。 「シロは勇ちゃんの事、大大大好きだよね?」 シロ…頼む! 「あんま好きじゃなくなった。」 そう言ってまた、フン!とする。 夏子は大笑いしてシロとハイタッチする。 ハッ!いらないコンビネーションだな! 昼食を済ませて食堂を出ると、俺はシロを連れてエントランスの外に出てコーヒーを買った。 「ねぇ、勇吾?あんな大きな会場で踊ったらどんなだろう?」 目をキラキラさせてシロが俺に聞いてくる。 「向こうではストリップも芸術として評価されてるんだ。お前の踊りはそっち向き。芸術的で安っぽいエロとは違う。俺はお前の踊りと才能に惚れてるよ。シロ、お前はすごい天才だよ。」 そう俺がシロに言うと、あの子は目をうるうる潤ませて頬を赤らめながら俺に熱っぽく話し出した。 「そんな事初めて言われた…!勇吾に言われるなんて…凄く嬉しい!あんなんでも一応毎回考えてやってる。だから、分かってもらえて…凄く嬉しい!」 こんな顔するんだ…。感極まったようにボロボロ涙を流して喜ぶシロが愛しくて胸が苦しくなる。 お前はもっと評価されるべき人間だよ…。 勇吾に言われるなんて…その言葉が特に胸に刺さる。お前は俺を過大評価しすぎだよ…お前の方が、断然凄いのに…。 何もない環境からよくここまで自分を成長させてきたと、本当に感心するんだ。 体作りも、踊りに対する欲も、お前はいっぱしのダンサーと同じストイックさでここまで上り詰めてきたんだぞ。踊りをしてるからこそ、俺には分るんだ…それは並大抵の努力では無かったはず…。健気で、儚くて…強い。 お前は凄いよ。お前の演出力も、ステージに対する欲も…全部オレを奮い立たせる。こんな奴とずっと一緒に居たいって…そう思わせるんだ。 シロの携帯がまた鳴ってあの子はグスンと鼻をすすって電話に出た。 「桜二…うん、今外にいる。見えるの?どこ?…うん、うん。分かった。すぐ行く!」 シロの声色で察するよ…どうせ、もう迎えにきちゃったんだろ…短い時間だったな… もっとこの子と2人きりで過ごしたかった…。 「勇吾!桜二、来てるって!オレの事見えるって言ってた!今日はありがとう!楽しかった!夏子さんにもよろしく言っといて!」 声に元気が出て嬉しそうに道路の方をキョロキョロする…まだ行くなよ… 「あ!桜二だ!」 桜ちゃん、来るの早いよ… 「シロ…」 とっさに口から出たあの子の名前。小さく呼ぶとシロは振り返って、俺の方に来て微笑んで言う。 「なんだよ?」 手に届く距離で強く抱きしめる。 離したくない! 耳元に顔を寄せて告白する。 「シロ…勇ちゃんシロの事、本当に愛しちゃった…どうしよう。お前と離れたくないよ…」 俺がそう言うと、あの子は戸惑いもしないで俺を抱きしめて言った。 「オレも勇ちゃんの事、本当に愛しちゃってるよ。でもどうもしない。離れなければ良い。」 ばかだな、お前…本気にするだろ… 俺はシロの口に愛を込めてキスをする。 あの子は俺の背中に手を回してそれを受け取る。 3人も危ない男を手玉に取るなんて… 本当にお前って最高だな…

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