45 / 62

第45話

美容室に着いて髪色の要望を伝える。 やや伸びた髪も切ってもらう。 「耳上からツーブロにして」 「良いね、伸びたから切っちゃおうね」 襟足をガッツリ切ってもみあげからツーブロックにしてもらう。上にかかる髪が耳に止まる程度の長さで後ろに向かって流すと下のピンクが綺麗に見えた。 「かわいい。シロはこういうの似合うね」 褒めてもらって照れ笑いした。 美容室を出て携帯を見ると陽介先生からまたメールが来ていた。 “りょ”と書かれた後ろにハートマークの絵文字がついてる。 女子高生みたいだな… そのまま歩いて街中を散策する。 首元がスッキリしたせいかやけに寒い… 1人喫茶店に入ってコーヒーを飲んだ。 目を引くのはオレの背が他より高いから?それとも世の中の男がみんなゲイになったのかな… 「ねぇ、彼女…お茶しない?」 「オレ、男です」 今お茶してるし…今時そんなセリフでナンパするやつもいるんだな…と驚愕する。 男と知っておずおずと退散するばかを見送って再びコーヒーを飲む。 どうやら、今オレは女性に見える様だ… カットのシルエットのせいなの?髪色が落ち着いたせいなの?いつもと違うところを探す… あ、おでこを出してる! オレは手櫛でおでこを隠したが、セットしてもらってる為またパカっと開いてしまう。 デコッパチが女性らしさを演出してるのか… さっさと家に帰ろう… コーヒーを煽って飲んで喫茶店を出た。 携帯に着信があって歩きながら電話に出る。 「…もしもし、うん…今外…ん…えっと代官山…ん、もう帰る…本当?分かった…どこ?…はい、じゃあね」 依冬が一緒にランチしようと誘ってくれた。 桜二の弁当は仕事行く前に食べよう~。 約束した待ち合わせ場所に向かうと、体の大きな男を発見! 「依冬!依冬!」 後ろから抱きついて驚かせた。 「ビックリした!…あ、シロ…髪色かわいいね。ピンクが見える…それに前髪…」 オレの分かれた前髪を指で掬ってそのまま頬を撫で下ろしながら続けて言う。 「すごくセクシーだね?」 は?何で?ウケる…! オレは吹き出して笑った。 「依冬!何で?何でだよ!前髪分かれただけなのに!腹痛い!あははは!」 だってさ、と言って笑ってるオレの顔を持ち上げて目を合わせる。 「いつも下ろしてる前髪がこうなる時はエッチしてる時だから…」 腹痛い! 「お前!それは…!ないだろ?あははは!本当依冬って面白いな…!」 オレは大笑いしながら依冬の腕に手を入れて掴んだ。 「何ご馳走してくれるの?」 ウキウキしながら見上げると、中華~と言って前方に指を差した。 「わぁ~い!」 高級そうなお店だ。 髪の毛綺麗にして良かった。 個室に案内されてメニューを開く、おぉ!紹興酒がこんなに沢山置かれてるなんて…本格的だ! オレは韓国料理も好きだけど、中華料理も大好きだ。麻婆豆腐は四川風が1番だと思ってる…! 山椒の…あの、ピリッとくる辛味が堪らないんだ… 「コースで頼む?何か食べたいものある?」 「コースじゃなくて…オレ、この空芯菜のやつとカシューナッツの入ってるやつと、あと酢豚と、水餃子食べたい!あと、トマトと卵のやつも」 「そんなに食べるの?」 「食べる!」 上着を脱いで隣の椅子に置く。 「依冬、家を買うことにしたよ!」 オレが言うと依冬が吹いて驚いている。 「シロ、家買えないよ。貧乏だから…」 やなやつだな…オレはムッとして重ねて言った。 「桜二が頭金を出すんだよ。」 あー、と納得するのむかつくわ… 「依冬も一緒に出資して?」 「俺の部屋もあるの?」 「まだ探してない…でも桜二が一緒に住みたいって言うから、月々6万円くらいならオレだって払えるもん。」 「安っ」 「依冬!財産のない人はみんなオレと同じ金銭感覚だよ?そんなん外で言ったら殺されるよ?気をつけて?」 依冬に教育的指導をする。 金持ちのボンはこういう所で世間知らずで困るよ…やれやれだ! 「一軒家なの?マンションなの?」 「まだ何も決めてない」 「そうなの?話だけなんだ…」 「うん」 会話しながらテーブルに置いたオレの手を触る依冬の手を眺める。親指で優しく撫でてエロ親父みたいだな… 「勇吾が大塚先生の作品、自分も見に行きたいってゴネてる。」 依冬に伺う様に顔を傾けて話しかける。 「あの人?うーんどうかな…」 「うん、オレも難しいと思う。」 「聞いてみる?」 「…どうかな、勇吾は金持ちだから買い叩くかもしれないし、揉める様なら無理に話さなくても良い。お前の好きにして」 そう言って依冬の手を握ってオレもエロ親父みたいに親指で撫でた。 大きな手…大好き 「シロ…共依存って知ってる?」 「なにそれ?」 聞き返して依冬が続けて話そうとした時、ちょうどドアが開いて料理が運ばれてきた。 オレはわーい!と言って箸を持つ。 「これ美味しいね~!」 空芯菜の炒め物、シンプルに美味かった。 「さっきの何の話だった?」 「ん、また今度しよう。こっちのも美味しいよ?」 「中華って何でこんなに美味しいんだろうな~」 ピータン以外ハズレはない! 中華料理への信頼は厚い! 「あー美味しかった!ご馳走様~!」 依冬に抱きついてスリスリする。 「お腹一杯になったね~シロ、こっち」 依冬はそう言ってオレの手を掴むと車まで歩き始めた。 掴まれた手を外して握り直して歩く。 「共依存って何?」 信号で止まった時依冬を見上げて聞くと、んーと唸ってオレをみる。 「また今度話そう」 なんだよ、勿体ぶっちゃってさ! オレは、ふぅん、と言って聞くのをやめた。 「依冬、これからなんの仕事するの?」 依冬の車に乗って運転席の彼に話しかける。 「取引先に行って打ち合わせする。その時桜二も多分同席するよ~」 働いてる姿…見てみたいな。 「桜二、元気?」 「はは、それは俺よりシロの方が知ってるでしょ?」 「仕事、元気にしてる?」 「してるよ、大丈夫だよ」 良かった…依冬がウィンカーを上げて車を出した。 「依冬の変な歌、また聞きたいな~」 「あははは…また歌ってあげるよ」 「今聞きたい…!」 「今?…じゃあね、可愛くおねだりしてくれたら良いよ?」 オレは上目遣いで体を傾けながら鼻声で言った。 「…依冬のヘタクソな歌、聞きたい!」 一瞥すると依冬が顔を横に振って言った。 「ダメだなぁ~可愛いけど、足りないなぁ~」 オレは自分の長Tの裾を掴んでゆっくり上に上げながらセクシーな顔をした。 「依冬が歌ってくれたらオナニー見せてあげる…」 オレの体と顔をチラチラ見て歌を歌い始めた。 かわいいな… 「やっぱヘッタクソだわ!」 歌い終わった依冬にダメ出しをして2人で大笑いした。 「でも…それ大好き」 そう言って依冬の頬にキスした。 「オナニー見せて?」 「あれはセリフだよ」 「え~!」 「それに、オレがそんな事始めたらお前は見るだけで済まないだろ?そしたら打ち合わせに遅れちゃうよ?」 「うーーーん……果たしてそうかな?」 そうだよ、全く! 本当かわいいやつ。 オレの弟。 「ありがとう!またね~!桜二によろしく!」 依冬の車に手を振って家に戻った。 「あ…」 玄関に勇吾の靴が置かれてる。 なんとなく察しがついた… 部屋に入ると勇吾が大塚先生から貰った絵を何重にもダンボールで包んでいた。 やっぱり… 「もう、送っちゃえ~って思ってるの?」 勇吾の隣にしゃがんで顔を覗き込んで尋ねる。 「どうしても欲しい」 オレに視線を合わさないで押し殺した様な声を出す。勇吾の頭を撫でて自分に寄せる。 勇吾が吐き捨てる様に言った。 「シロ…桜二ばっかりズルイだろ!」 ズルイ……か 「あいつは特別だから…張り合うなよ」 そう言って勇吾を自分の方に向かせる。 「この絵が勇吾をそんなに苦しめるならお前にあげる。大事にしてね。でも、コピーは桜二にあげて、悲しむから…」 そう言って抱きしめた。 「シロ…良いの?本当にくれるの?」 オレの肩でそう聞いてくる声が苦しそうで、可哀想だった。 「うん、良いよ。勇吾にあげる。トイレには飾らないでね…」 「うん…うん…」 何でだろう…ダンスを踊る勇吾は堂々と自信に満ち溢れているのに。愛してる…なんて言い出す前はあんなに粗暴にしてきたのに…。今のこいつはとてもナイーブで優しくて甘くて泣き虫だ。 「勇吾、仕事抜けてきたの?」 「うん…」 「じゃあもう戻りな…ね?」 「やだ…シロに触りたい…」 そう言ってオレを抱きしめると床に押し倒した。 頬に手を当ててこちらを向かせると、やっぱりだ…苦しそうな顔をしてオレをみる。 「何で…最近、いつもそんなに苦しそうなの?」 オレが聞くと勇吾はオレの首元に顔を落として髪の匂いを嗅いだ。 「シロ…髪色かわいい…似合ってる。前髪も分けたの?すごく可愛いよ…」 「お前も真似する?」 オレが笑って聞くと、するって言った。 「床痛いからベッドでしてよ。汚さない様にしないと桜二に怒られるから」 オレはそう言って勇吾を寝室に入れた。 まるで昼下がりの情事だ… 服を脱いで裸になってオレがベッドに寝転がるとパン1の勇吾がオレに覆いかぶさってキスする。ねっとりとしつこく絡まる舌に頭が痺れてくる。 「シロ…愛してる」 何回も聞いたよ…しかもひとつひとつがすごく重いんだ… 「悲しい顔しないで…苦しまないで…」 勇吾の顔を撫でながら言うと、無理だと言った。 オレの首元から胸板まで舌を這わせて愛撫する。桜二や依冬と違う繊細なセックス… 一度ハマると体だけじゃなくて心の中まで気持ち良くなる… 「ぁあん…ゆうご…きもちいい…はぁ…はぁ…」 視覚効果なのかな…起き上がらせられて勃起した自分のモノを眺めながら扱かれるとこんなに感じるとは思わなかった…口に咥える勇吾の唇がいやらしくて…赤面する。向かい合う様にして挿入され愛を囁かれてゆっくり動かされるのがこんなに快感だと思わなかった。彼の指がオレの背中をなぞって下りる。 「ゆうご…!きもちい…イッちゃうよ…ん、んぁあっ!…ぁあん…あっあっ!」 「シロ…かわいい…大事だよ。俺と暮らそうよ…シロ…愛してる。お前が好きだ…かわいいやつ…」 オレは言葉攻めに興奮して今にもイキそうだ… 勇吾は挿入したままオレをベッドに寝かせてゆっくり腰を動かした。 「勇吾…んっ…あっあっ…エッチ!だめっ!ぁあん!はぁはぁ…んっ、あっあぁ!」 オレのモノを両手で包んで優しく扱く。 緩く腰を動かして感じる部分を擦っていく… 腰から背中にかけて仰け反って快感が上ってくる。浮いた腰に手を添えて背中を撫でてくるからもっと感じてくる。 「シロ…勇ちゃんとエッチするの好き?」 「んんぁあ…勇吾!勇吾…好き…好き!」 「シロ…勇ちゃん、大好きって言って」 「ぁあん…勇ちゃん…大好き…大好き…!」 何でか勇吾は自分のことをちゃん付けで呼ばせたがる。興奮するの…?変なやつ。 「勇ちゃん…きもちい、はぁあん…ぁあん!」 足の先が伸びてイキそう…! 「シロ…まだイカないで…あっ…はぁはぁ」 「やだ…イキたい!勇ちゃあん!きもちい!」 「あ…ぁあ、シロ…!ダメだ…俺もイキそうだ…」 オレの上に覆いかぶさってキスしながら腰を振る。オレは感じすぎて舌が震えてうまく出来ない。かわいいと呟いてオレの舌を絡めて口で扱く。 やめて…きもち良すぎてイッちゃう…! 「んっああ…!ぁあん!…んっ、ん…はぁはぁ」 オレが震えながらイクとオレの中の勇吾のモノがドクンと波打って硬く大きくなった。 オレの中から出して腹の上に射精すると勇吾のモノは糸を引いて白い液を出した。 エロい… 勇吾がティシュでオレの腹の上を綺麗に拭いてる間、勇吾のモノを口に咥える。キメセクしてるみたいにおかしくなって勇吾の事が堪らなく好きになる…もっとしてたい… 「はぁはぁ…ぁあ…シロ…イッちゃう…口に出して良い?」 オレが頷くと同時に口の中の勇吾のモノがドクドク踊って精液を吐き出した。 いつもはまずくて吐き出すけどそのまま喉に流した。焼ける様な感覚もきもち良くてそのまま勇吾に覆い被さりキスする。 「勇ちゃん…もっと愛してよ…甘くして…トロけさせてよ…」 「シロって…本当に可愛い…」 そう言ってほぐれる笑顔に堪らなく顔が熱くなる… どうしたんだろう…オレ 中華料理のせいかな…勇吾が今すごく好きだ… 時計を見ると16:00近くになっていた。 オレ達は全力を尽くしてベッドに寝転がっていた。 「勇ちゃん…怒られるね、ざまぁ」 「ん…シロ…かわいい」 「オレ、シャワー浴びて仕事の準備する。」 「…シロ…勇ちゃんにキスしてよ。」 「じゃあ起き上がって一緒にシャワーに入って?」 オレは勇吾を連れてシャワーを浴びながらキスした。 「何でちゃん付けで呼ばれたいの?」 体を洗いながら勇吾に聞くと、その方が嬉しいってそれだけ言った。 「お前って意外と純真なんだな…意外と」 「お前には…お前にだけはそうみたいだ…俺も意外だ…」 そう言ってオレの腰を掴んで後ろから抱きしめる。 「薬でも盛って連れ去っちゃおうかな…」 冗談ぽく勇吾がそう言った。 「そうしちゃえよ…」 本当にそう思ってしまった… 「シロ…本気?」 「ふふっ、どうかな…」 こうやって勇吾を期待させて奈落に落とすのかな…自分がよく分からない。 何でこんなに惹かれるのかも分からない… 「他の人に惹かれるって悪い事かなぁ~?だってそっちの方が魅力的に映るって事はさ、つまり飽きて来てるって事でしょ?」 そうなのかな… オレ、桜二や依冬に飽きて来てるのかな… 「それって悪い事かな~仕方のない事じゃない?同じ人と付き合うなんてマジで無理だし~」 無理?まさか…桜二はオレの特別で依冬はかわいい弟で…一緒にいると落ち着くんだ。 だからそんな訳ないよ 「ダラダラと付き合って共依存になるよりマシでしょ?」 共依存…なにそれ、依冬も言ってた。 ググるかな… 「あなたがいないとダメなんて…あり得ない。今まで1人で生きて来たのに、そんな事あり得ない!下らないよ!」 カウンター席の隣のお姉さんの話を盗み聞きしながら携帯を取り出して“共依存”を検索する。 …これって…まるでオレと桜二だ 依冬はオレにこれを伝えたかったの?どう言う趣旨で?桜二とオレの関係をこんな風に見てたの…? 深呼吸して気持ちを落ち着けて続きを読む。 チェックシートをやってみる。 “その人が居なくなると自分の価値が分からなくなる…最悪死にたくなる” オレだ… “お世話をする事が相手の成長を阻害する” マジか…凹むな。 確かに桜二といる時のオレは完全にクソガキだ…依冬といる時や勇吾といる時と違って、完全なクソガキになっている… オレも桜二も共依存ってやつなのかな… 「シロ、髪色可愛いよ、よく似合ってる。」 桜二がオレの隣に座ってキスしてくる。 「これ、見て!」 すかさずそのページを見せる。 「だから?」 あっけらかんと言って携帯をオレに返しオレを足の間に挟み抱きしめる桜二。 「お前もオレも多分これ!」 もう一度桜二の目の前にかざして声を出して読み上げていく。 「これオレ達だよ…桜二、知ってた?」 「そんな事どうでもいいじゃん、シロ。」 「どうでも良くないよ!」 「ん…もう、じゃあどうしたいの?」 「一緒に住まない…」 共依存のページに書いてあった対処方法の一つに一緒に住むことをやめる。という項目。 「オレがクソガキみたいなのも、わがまま放題なのも、これになってるせいだよ!」 オレが頑張って話してるのに、桜二はオレの髪を指で掬ってパラパラと落として遊ぶ。 「…ん…桜二…ちゃんと聞いてくれないの…?」 ムッとするオレの頬を撫でてキスする。 「一緒に住む」 「住んだらだめだ!オレがもっとクソガキになって、桜二は俺がいないとシロがだめになる~って思って…」 「俺がいなくてもダメにならないの?」 マジな顔で聞いてくる… あぁ、ダメになるよ… 「お前が居ないとダメだ…」 しょんぼり言って彼に頭を押し付けて腕を背中に回して抱きついた。 「依冬とランチした時あいつが共依存って知ってる?って聞いて来たんだ。さっき向こうのお姉さんも言ってた…共依存になりたくないって。だから…」 「シロ…勇吾としたの?」 オレの首元を見て桜二の声が強くなって圧を感じた。 キスマーク付いてるんだ…気付かなかったよ。 「今日依冬に送ってもらった後、家に帰ったら勇吾がいたんだ。それで、絵をさ…勝手に送ろうとしてたから…そんなに欲しいならお前にやるって言ったんだ。コピーは桜二に渡してねって言ったんだ。なんか勇吾の様子が変なんだよ…だから…」 「言い訳するの、なんで?何かやましいの?」 桜二がオレを責める様に追求する。 見透かしてるくせに言わせたいみたいに感じて目をそらす。 「桜二…お前も変だよ…」 「自分は変じゃないとでも思ってるの?」 もう喧嘩したくない…でもこれ以上話したくない。 「やめてよ…もうやだ。」 体を背けてその場を立ち去ろうとすると桜二がオレの手を掴んで引き寄せて聞いた。 「シロ…勇吾に惚れてるの?」 やめろよ…そんな事聞くなよ… オレは桜二の手を払って控え室に逃げた。 控え室で息を整える。 あんな風にしたら桜二はきっとオレが勇吾に惚れていると思うだろう…。 惚れるってどういう事か分からない… 勇吾を見るとときめくのはそうなのか…? 勇吾に優しくするのもそうなのか…? 彼とのセックスで心が満たされるってそうなのか? だとしたら、オレは勇吾に惚れてる… だとしたら…桜二はどうなるの…? ……桜二はいらないの? ドキドキと動機がする。 涙が出てくる…桜二…どうしよう… なんて事しちゃったんだろう…!! やばい…!! オレは控え室を飛び出して店内の桜二の所に戻る… いない 帰っちゃった……! 桜二!! 「どうしよう…あぁ…どうしよう…!」 桜二のいた席を見てパニックになる。 「シロ…大丈夫?」 頭を抱えて喚くオレに近づいて支配人が声をかける。大丈夫…な訳ない…!! 「帰りたい…帰りたい…!!」 足に力が入らなくなってふらつく。 居なくなっちゃった…! 桜二がオレを置いて居なくなっちゃった…!! 勇吾に恋してるオレに愛想を尽かして居なくなってしまった! 質問にちゃんと答えてない…はぐらかして…誤魔化して… 桜二…!! 兄ちゃんが…また死んじゃう…! オレはフラフラとしながらステージに登り、カーテンの奥の控え室に入り自分の荷物を持った。 携帯を出して桜二に電話をかける。 手が震えて動悸で体を持っていかれそうになる。  「なぁんで…!なんでぇ!…出ないんだよっっ!!」 楓が半狂乱になるオレを支えてソファに座らせようとする。 「ダメだ!…オレ…いかないと!桜二を追いかけないとっ!」 もう2度と会えなくなる…!! 呼吸が浅くなる。 頭の上から冷や水をかけた様に冷たくなる。 目の前が暗くなってブラックアウトする。 ドクドクと鼓動が耳の奥に響く。 桜二…助けてよ… オレはそのまま気を失った。 「シロ、気がついた?」 目を開けると依冬がオレを覗いている。 なんで…こんな冷たいベッドに寝てるんだ…? 「オレ…どうしたの…」 体を起こそうと動かすと依冬に止められる。 「寝てて…まだ寝てて」 声の様子に不安が募る。 「オレなんでここにいるの?」 依冬に聞きながら思い出す。 異様に冷たい頭をフル回転させて思い出す… 「…桜二は?あいつ…どこ?どこにいる?」 依冬に携帯を取ってもらい桜二にかける。 コール音が延々と聞こえる電話口に、今ある危機を明確に思い出して震えが再び体を揺らす。 「ああっ!依冬…!桜二が電話に出ないよ!まただ!またオレが…!ぁああっ!!どうしようっ!?依冬!!桜二を探して!探してよっ!!」 オレが喚くと看護師が来て点滴を緩めてオレを寝かせる。 眠くないのに…意識が薄れて行く。 依冬の腕を掴むけど、すぐ解けて落ちる。 ダメだ…こんなことしてたら…桜二が死んじゃう… 兄ちゃん…やめてよ…桜二を取らないでよ… オレに変な気を起こさせないでよ… 幸せだったのに…なんで…こんな… 「シロ、桜二は家にいるから大丈夫だよ」 うそだ…きっと死んでる…もう居ないんだ… 兄ちゃんが連れてった… オレの大事な桜二を兄ちゃんが連れてった… 「落ち着いたら家に送って行くからね」 このまま死にたい… 桜二が居ないならもう死にたい… 兄ちゃんが勇吾に恋したオレに腹を立てて桜二を連れてった… 死にたい… 気がつくと外は明るくなって室内は白い光で照らされていた。 眩しい…そんな事感じる自分に嫌気がさす。 お前なんか死ねばいいのに… 手に刺してある点滴の針を抜いて思い切り腕に刺す。 死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね! 誰かがオレの手を止める。 止めるなよ…こんなやつ…死ねばいいのに!! 点滴を反対の手に刺し直してまた眠らされる。 こんなやつ…死ねばいいのに…!! 憎い…こいつが憎い…!! 幸せだったのに…!! あんなに愛されていたのに…!! ぶっ殺してやる…!! 意識が薄れて行く… 目の前に桜二がいた気がした。 桜二…あいしてる 絶対居るわけないのに… 目を覚ますと両手を拘束されていた。 体を起こすと目の前に桜二が居た。 「…シロ、俺はここにいるだろ…」 いない… もうお前は兄ちゃんに連れてかれたんだ… いても…居ないんだ もう終わりだ… もう幸せが終わった… 全てが終わって生きてる事が辛すぎる… 全部…こいつのせいなんだ… あぁ…憎い、いつもいつもオレの幸せを邪魔ばかりして…殺してやりたい…いや、今度こそ殺してやる…許せない…!! 「シロ…落ち着いて…俺が側に居るだろ」 もう居ない… もう桜二はいない… 涙が溢れて声にならない… オレが裏切ったから… 桜二はもういない… もう疲れた。 終わりたい… 歯で噛んで舌を噛み切る ゴリっと音がして口の中が血で溢れる。 誰かがオレの体を横にして口に手を入れる。 死ねばいい…死ねばいい…このまま死ねばいい どれくらい眠ったのか… 口の中の違和感が半端ない 誰かの温もりを腕に感じる。 お前にそんな事感じる価値はないんだよ… 死ねばいいのに… クソダッチワイフが!! 何が桜二の卵焼きが美味しいだ!! 何が1番愛してるだ!! クソがっ!クソがっ!!死ね!死ね!死ね! 「シロ…ここに居るから…暴れるな、傷が開く」 嫌だ… お前は桜二じゃない… 桜二は兄ちゃんが連れて行った… もういないんだ… もう終わったんだ…

ともだちにシェアしよう!