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第51話

「勇吾、この子知ってる?日本のストリッパーで新宿の有名な子らしいんだけど、凄いんだよ、この子スカウトしたいよ。」 俺は遅めのランチを摂りながら、そう言って差し出された携帯の画面を見た。 見た瞬間、口元が緩んで顔面が崩壊した。そして、携帯を持つ友人を見上げて教えてやった。 「この子…俺の恋人だよ」 動画のあの子は鞭を振って客を一蹴してる。投稿日を確認すると、俺と会うずっと前だった…。寂しい様な誇らしい様な気持ちが湧いて動画の彼を見つめる。 「俺のシロ…可愛いな、会いたい。」 ポロリと涙が落ちて周りの友人が動揺する。 「勇吾、大丈夫か?腹でも…痛いのか?」 違うよ、俺はおセンチになってんだよ… 「会いたくなったんだ、愛しのシロに…」 そう言ってポロポロ泣いて笑うと、みんな硬直するんだ…何事かとね…。 俺がこんな風になるなんて、俺自身信じられないよ。 毎日、毎日…裏返しにしたあの子の絵を見れないで泣く。見たら会いたくなって泣くくせに、見たいと泣く…。 復帰する日に依冬くんが送ってくれた動画も1度しか見れていない…。 すぐ桜二に電話してシロと話した…。 危ない事するんだよ…本当に。 復帰したてなのに、無茶して桜二を怒らせて…。 もし俺がそこに居たら同じ事したのかな…? しないだろ? 俺は下で見てるだけじゃないからな…登って行って止めることができるから、俺の前ではしないよな…。 不器用に力任せに場の雰囲気を変えようとしたんだよな… そんなお前が可愛くてどうしようも無いよ。 あの子の事だと、俺はどうしようもない、泣き虫になる。 動揺する友人達を残して、気持ちを落ち着かせるために動画から目を逸らして外に出る。 本当はもっと見てたいけど…帰ってから探す事にする。 そして肖像権の侵害で警告してやる。 俺のシロで稼いでんじゃねぇよ…クソが。 街中はクリスマス一色で、カップルや家族連れが楽しそうに行き交ってる。 なんだよ、つまんねぇな…お前がいないと何してもつまんねぇよ…シロ。 何となくウィンドウショッピングしながら街をぶらついて、何となく店に入る。何となくあいつに似合いそうな物を見つけて、それを買う。 今度会ったら渡そう…。 そう思っていくつも買う。 満たされない何かを埋める様にあの子へのプレゼントを買った。 仕事場に戻り、果たさなければいけない義務を果たす。 公演終了まで気を抜かないでやり切らなければいけないから、踏ん張る。 こんな所で心折れたら、シロにカッコ付かないから…盛大に盛り上げて話題になってやるんだ。 「良いな、オレも出てみたいよ…」 そんな風にあの子に言わせるために、俺は全身全霊掛けてやり遂げるんだ。 「勇吾?お前大丈夫か?そんなにブランドの袋持って、泣いて、心配だよ。少し休んだ方が良くないか?」 心配する友人に、大丈夫だ。と伝えて仕事に戻る。 優しい奴が俺に同情して慰めてくれる。 「勇吾、そんなに好きならまた会いに行け。これが終わったらすぐ会いに行け。そしてちゃんと離れても大丈夫になって戻って来いよ。な?」 俺は泣きじゃくって頷いた。 また会いに行け、という言葉がこんなに響くと思わなかった。 そうか、また行けば良いんだ。 これが終わったら、会いに行く! そう思うと自然と気持ちが落ち着いて、平常心を保つことができた。 「勇吾、聞いたよ?誰?その子…やだな、俺よりもその子の方が良いの?信じられない。アジア人に負けるとか…勇吾がロリコンだと思わなかったよ?」 ブロンドが俺にしなだれかかってそう言った。 「もう良いだろ…どっか行けよ…」 面倒な奴。 見た目は可愛いけど、魅力は無かった。 何でこんな奴と寝たんだろ…俺。 「俺さ、見てくるから!今度そいつに会って来るから!自分で確かめて、そいつが勇吾の言う通りのやつだったら…諦めるから…!」 「シロは凄いよ…面白いから、会ったら良い」 そう言って仕事に戻る。 せいぜい見てきたら良い。 俺の可愛いシロに会って、あの子の正体を見てくれば良い。 他を圧倒させる程の存在感を感じて、自分の身の程を思い知れば良い…。 「勇吾!お前の日本の恋人、凄いクレイジーだな。スカウトして連れて来いよ。この動画、見た?痺れるぜ?」 次々と友人から声をかけられる。 俺があんな風になったのがよぼと衝撃的だったんだろう…今やシロは話題の中心になっている。 “あの勇吾が骨抜きになって泣いて会いたがる恋人”としてあっという間に人気者になった。 あの子の実力を流布できて俺としては醜態は晒したが、満足してる。 「これは、ダンスの先生なんだよ。シロの事、すごく好きでさ…サービスしてんだよ。凄いだろ?めちゃくちゃ可愛んだよ…本当にさ…」 もう泣かない…会えるから泣かない。 あの子の凄さをお前らにも教えてやるよ。 あの子が来た時に、早くみんなと馴染める様に…準備しておいてやる。 朝、目が覚めてベッドを出る。 誰ともセックスしてないせいか朝勃ちが痛い。 「思春期に戻ったみたいだ…若返ったかな…」 独り言を言って1人で笑う…ヤバイな。 シロの絵は相変わらず裏返しておく。 早めに家を出て車に乗る。 ラジオでニュースを聞きながら、朝食とコーヒーを買って仕事場に向かう。 ミーティング前に席について朝食を摂ってコーヒーを飲む。 今日も寒いな… テーブルに置いた携帯がブルッと震えて送信者を見てすぐに確認する。 「ハハッ…本当…お前は、ばかだな…」 送られた動画の中のシロが、サンタの格好しながらお利口に踊っていたかと思ったら、突然ブチ切れてシャウトした。 「クリスマスなんて…くだらねぇんだよっ!!」 なんだ、どうしたよ…? クリスマスが嫌いなのか…? 寂しいのかな…可愛いやつ。 時差を逆算してついさっき踊ったばかりと気付いて、今すぐそこに行って抱きしめてキスしたくなる。 画面から目が離せなくて…恋しくて胸が詰まる。 また携帯がブルッと震える。 「ふふっ…可愛いな…お前は、本当に可愛い」 そこには踊った後のいつもの半袖半ズボン姿のシロが写っていて、可愛くポーズを取った写真と共に“オレはキレてないよ”とメッセージが添えられていた。 「ふふっ、ねぇ、見てよ。これ俺の恋人だよ?めっちゃ可愛いだろ?ほら、俺の事ちゃんと覚えてて連絡くれるんだぜ?良いだろ?なぁ、見てよ」 俺は周りの友人に動画と写真を見せびらかして歩く、涙が出るけどこれは嬉し涙だ。 シロからのメッセージが嬉しくて…あの子の言葉が、あの子の声で聞こえる気がして…嬉しくて、一瞬だけ流れた涙だから、気にしない。 俺は涙を拭って動画を撮った。 カメラを自分に向けて強がって言う。 「シロ!もっとエロい写真送ってこい!」 そして後ろの舞台裏を見せてやる。お前も早くこっちにおいでと誘う様に見せる。 「お前はこっちでも人気だぞ!」 俺がシロにビデオメッセージを作ってると気付いた友人がシロの名前を呼んで叫ぶ。 シローーー!フォーーー! そして、最後にやっと本音を伝える。 「早く会いたい、愛してるよ…」 すぐさま依冬くんに送信して、ミーティングを始める。 あぁ…早く会いたいよ。俺のシロ… 依冬に送ってもらい桜二の部屋に戻る。 「ただいま~」 「お帰り~」 奥から声はするものの姿を現さない桜二…何だ? リビングに行くと、頭に貼る冷却シートをつけてオレから離れる桜二… 怪訝に思って尋ねた。 「桜二、どうした?」 「俺、インフルエンザになった…」 「え?」 話を聞くと、夕方頃どうも具合が悪くて病院に行ったそうだ。そこでインフルエンザB型と診断を受けて今に至るらしい…。薬は貰ったけど、移るからって離れて過ごすと言い張った。 「一緒に寝てよ…」 シャワーを浴びてウトウトするオレは抱き枕の桜二がいないと落ち着かない。 「オレは今日ソファで寝るから、シロは向こうで寝て?移るから!近づいちゃダメだからっ!」 え…、桜二がいるのに1人で寝るの…? 「じゃあ、オレもここで寝る…」 「シロは熱高く上がるから、ほんとに離れて!」 「やだぁ!桜二と寝たいのに…ハックシュン!」 風呂上りで体が冷えてクシャミをした。 「ほら!移るから!絶対だめ!ベッドに行って!電話かけるから、それで会話しよう?」 「……やだぁ…!」 駄々をこねて桜二に抱きついてスリスリする。 「あ…シロ……。もう!何で言うこと聞かないんだよ!」 「桜二…熱い…可哀想。ベッドで寝てよ…」 オレはそう言って桜二を寝室に連れて行きベッドに寝かせた。 体温計で測ると38.6℃。これは高いのか? 氷枕を持ってきてタオルで包んで頭の下に敷いた。 お水と濡れタオルを近くに置いてあげる。 桜二の腕を布団の中に入れてあげる。 触れた手が熱くてドキドキした。 「桜二…死んじゃう?」 「死なないよ…」 オレは隣に添い寝して熱い桜二の顔を撫でた。 いつものように顔を埋める…熱い 手を巻きつける…熱い 足で跨いでホールドする…やっぱり熱い 「楓、今年のクリスマスは彼氏とロンドンに行くんだって… 」 「ん…」 体を起こして話しかけるオレに虚ろで潤んだ瞳で答える桜二… 「桜二…死んじゃうの?」 「シロ…おやすみ…」 オレの頭を無理やりいつものポジションに持っていこうとするから、必死に抵抗して桜二の上に抱きついた。 「…」 「やだぁ…グイってやられたの、やだった!」 オレはそう言って桜二の顔を覗き込んだ。 目を瞑って口が半開きになって、熱い息がはぁはぁと漏れるから、舌を入れて口を覆った。 「シロ…移るって言ってんだろ!」 オレの肩を押し上げて離す桜二にまた抱き付いて言う。 「移すと治るよ?」 「移したくないの…」 「桜二が死んだら嫌だ!」 オレはそう言ってまたキスして舌を入れた。 絡まる舌が熱くて気持ちいい…。 まるで最高に興奮してエッチしてる時みたいで1人で勝手に興奮した。 「シロ…ほんとにもうやめなさい…」 弱々しく言う桜二に萌えて、オレはその後も何回もキスした。 「かわい…具合悪い桜二…かわいい」 興奮したオレは桜二にキスしながら自分のモノを弄り始めた。 「シロ…おやすみ」 そう言ってオレの弄ってる手を握って自分の胸に置くから、反対にその手をつかんでオレのモノにあてがって上から握って扱いた。 熱くて気持ちいい… 「あっ…はぁ…ん、あっ…あっ…はぁはぁ…ん」 桜二の胸板に頭をおいて桜二の顔を見ながらシコる。熱い…気持ちいい… 「シロ…」 オレを見る桜二の目が虚ろで…エロくてイキそう… 「はぁはぁ…あっ…はぁ…ん…あっ…あっ…はぁはぁ…おうじ…おうじ…イッちゃう…」 イキそうな顔をするオレを見ながら髪に手を置いて弱々しく撫でる。 「あっああ…!んっ…はぁはぁ…はぁ…」 1人で勝手にイッて惚ける… 桜二が枕元のティッシュをオレに渡してくる。 オレはそれを受け取って、オレの精液が付いた桜二の掌を拭いた後、濡れタオルで重ねて拭いて綺麗にした。 上のパジャマを口に咥えて自分のモノを1人で綺麗にしてると、桜二がオレを見つめてきた。 「桜二…オレ1人でシコった。」 膝立ちしてイッたモノを見せると口を開けたので、オレは桜二の頭に近づいてモノを彼の口の中に入れた。 熱い…! 「んっ…あっああ…きもちい…はぁはぁ…あ…!桜二…きもちい…熱い…あ…熱い!」 口の中も扱く舌も熱い…きもち良くてオレの腰が引けて桜二の口から外れてしまった。足が震えてわなないて体がビクビクする。このままイキそうなくらい快感の余韻で喘ぐ。 「おいでよ、ほら…もっとしてやるから…」 「やだぁ…きもち良くて力入んないもん…」 「ここに座って…」 桜二が枕元にオレを呼ぶ。枕の上に壁を背に座って桜二の頭がオレの股に収まる。 「逃げんなよ…」 そう言ってオレの足を掴むと舌を這わせてオレのモノを口の中に咥えた。 「あっ!あっああ…ん、や、やぁ!きもちい!ん…おうじ…はぁはぁ…んん…やだぁ…あっ…ん!」 体が仰け反ってベッドの端に腕が当たる。 「ん、シロ気をつけて」 だってすごくきもちいんだ…桜二の体に足を上げられオレの穴に彼の指が入ってくる。 熱いよ…すごく熱くてきもちい…! 「おうじ…だめぇ…きもち良くってイッちゃうから!はぁはぁ…あっ!あっああ!はぁああん!」 オレは体をビクビク震わせてイッてしまった。 そのままトロけるように桜二の寝ていた場所にズルズルと滑り降りると、オレの足の間に入って桜二が自分のモノをオレの中に入れてきた。 「あっああ!熱い!おうじ…おうじ…!」 背中に抱きついて熱い桜二を堪能する。 気持ちいい!たまんない! 苦しそうな桜二の顔も堪らない! オレの顔の両脇に突っ張るあいつの腕に掴まって、下から押し寄せる熱い快感を感じる。 「きもちい…おうじ…おうじ…!あっああ!まってぇ!もっと…もっと、ゆっくりしてよっ!あっああ!やだ!イッちゃう!っああぁあん!」 まだやってたかったのに…桜二がガンガン突くからすぐにイッてしまった… オレを見下ろす桜二がはぁはぁと肩で息をして目は虚ろで汗だくで…しんどそうで…萌える…!! 「桜二、めちゃめちゃセクシーだよ?もっとしようよ!」 オレが抱きつくと力なくオレの上に落ちてきて潰された。 「苦しいよ!桜二…!」 片腕が持ち上がったからそこから這い出ると、桜二は突っ伏してしまった。 「セクシー桜二!セクシー桜二!もう一回やろうよ!ねぇ!ねぇ!」 オレが呼んでも応答がなくなって仕方なく1人シャワーを浴びに行った。 楓は彼氏とクリスマスはロンドンで過ごすのに、オレはセクシー桜二と1回しかできなくて、クリスマスもばかみたいに仕事だ!やんなるよ! ベッドに戻ってセクシー桜二のパンツとズボンを直してやり、布団をかけた。汗を沢山かいたから明日には治るだろ! 「あぁ~!早くクリスマスなんて終わらないかなぁ~!」 大声で喚いて寝た。 「シロ…朝だよ」 酷い声だ… うっすら目を開けると長袖のトレーナーとスウェットを着た桜二がいる。口にはマスクをしてオレを起こしてる。 「昨日あんなにエッチしたから移るならもう移ってるよ、ばかだな!」 「どっちがばかなんだよ…」 掠れた声がセクシーで口元が緩んじゃう。 「熱、下がったの?」 「…あぁ下がった。でもまだ移るから…」 「声、掠れてセクシーだね?」 「…全く…もう起きて…」 オレの髪をグシャグシャとして向こうに行っちゃった…セクシー桜二… オレはむくりとベッドから起き上がってセクシーの後を追った。 「お、偉いじゃん。」 振り返ってオレに気付いたセクシーがオレを褒めた。 「シロも念のため、熱測って?」 体温計を渡されて脇に挟む。 「オレも熱が出たらセクシーになる?」 「ふふ、さあね」 ピピピピっと音が鳴る。37.8℃… 「あ、」 オレが声を上げると桜二が手を出して体温計を取った。 「シロ…後で病院。」 「やだよ、ただの風邪だよ!」 昨日の今日でインフルエンザが移って発熱するわけない…もしそうならもっと前にかかっていたはずだ…だったらオレ、依冬に移したかも… 桜二の腰にしがみついて甘える。 「桜二…具合悪くなった!一緒に寝てよ!抱っこして寝てよ!」 「病院に行ってインフルエンザの検査して…薬飲んでからね…」 弱々しい掠れ声の桜二はやっぱりセクシーだ。 「ねぇ、その声でシロって言って?」 「…シロ」 「ふふ、カッコいい…」 オレは桜二が朝食を準備する間、大いに邪魔して時間を奪った。 「はい、君はインフルエンザB型!」 近所の耳鼻科で晴れてインフルエンザの診断を得た。熱があるのになぜか元気で、普通に仕事にも行けそうなくらいだったが、支配人に来るな!と念を押された。 薬を受け取って部屋に戻ると桜二がソファでぐったりと寝ていた… 「桜二…インフルエンザB型だった…」 目の前に行ってオレが言うと体を起こして目を擦った。 オレを隣に座らせておでこを触る。 「…ん、高くなってきてる…やっぱりお前は熱が高くなりやすいんだよ…」 だんだんぼーっとしてきて体がフワフワする。そのまま桜二の方に傾くと今度は悪寒が走って体が震え始める。 「お、おうじ…さむい…」 「とりあえず着替えよう…あったかいの持って来るから待ってて!」 自分の手を見ると小刻みに震えてるのが分かる。 頭がガンガン痛い… 服を着替えて薬の袋をガサガサと探る。 「シロ…ご飯はさっき食べたから、インフルエンザの薬、使おうね。」 「ん…」 はぁはぁする…息が熱いのが自分でも分かる… 「はい、吸って!」 言われて吸い込む。 「おうじ…あたまいたい…セクシーになった?」 「ばか、ベッドに行くよ?」 抱っこしてもらって運ばれる。 頭がグワングワンして気持ち悪い… 「1回寝て…」 オレを置いて何処かに行こうとするから泣いた。 「やだぁ!一緒にいて…怖いから一緒にいて…」 ため息をついて桜二がオレの寝る隣に座って頭を撫でてくれた。手を出して繋いでもらう。 目がドクドク言う…桜二がオレの頭の下にアイスノンを置く。 まだ寒い…手足が冷たい…朝は平気だったのに… 「桜二…オレ……セクシー?」 「うん…セクシーだから、一回寝て」 そう言うと桜二は待ってて、と言って寝室から消えた。 ガッガッとキッチンで氷を割ってる音がする あ、これ…前も…あったな…… いつだっけ… 懐かしい その頃はまだ向井さんだった… 桜ちゃん… 「このまま…死んじゃう…かも…」 戻ってきた桜二にオレが言うと脇の下に氷嚢を入れて首元にも冷たい物を置いた。 「お前は…熱が高くなりすぎるから…心配なんだよ。一回眠って、大人しくして…ね?」 髪を撫でられて目が重く閉じていく。なんで泣いてんのか、目の端から涙が落ちた。 それをすかさず手で拭う…お前が好き… 少し眠った様で目を覚ますと喉が痛かった。 「おうじ…おうじ……」 ガラガラ声…なんで酷い声なの…全然セクシーじゃない… 体を起こすとオレの体から温くなった氷嚢と保冷剤が落ちた。 頭が痛い… 「おうじ…」 もう一度呼ぶと廊下を歩く音がして桜二が来た。 ずいぶん回復した様子でオレのおでこを触る。 「熱いな…熱、測るよ?」 「……なんか…気持ち悪い…」 「おいで」 体を支えられてトイレまで来ると一気に吐いた。 そのままクラクラして倒れる。 「…シロ、病院行くよ?」 「やだ…もう病院行きたくない…!」 焦った桜二の声にオレはフルフル震えながら病院に行くのを拒否した。 「仕方ない、もう、解熱剤使うよ?」 「う……気持ち悪い…」 繰り返す吐き気にトイレから出られなくなった… 「セクシー…じゃな…い」 トイレに抱きついて呟くオレに桜二が手に持つ薬を見せてきた。 「シロ、口から飲めなさそうだから座薬入れるよ。お尻出して?」 「やだ!やだ!」 何を今更…って言ったの聞こえたぞ! 許さないかんな! 「早く入れないと溶けちゃうから、ほらお尻出して?」 トイレで吐き気に襲われながらケツを出すなんて…なんのプレイなの? 最悪だ…! 「早くしてよぉ!ばか!」 トイレを抱えたままオレはお尻を突き出した。 「なんか…セクシーだよ?」 うるせぇ!ばかやろう! グッとお尻に指が入ってくる。 中でなにかが熱くてトロける。 「出てきちゃうから力入れないでね?」 「…ん」 一体いつまで指入れてるの… もう抜いてよ… 「なんか興奮するね」 ばかなの?ねぇ?ばかなの? オレ今めっちゃ気持ち悪いんだけど? 「気持ち悪い…」 またトイレに吐くオレを見てその気も失せたのか、桜二は指を抜くとパンツとスウェットを元に戻してオレの背中を撫でた。 「かわいそうに…シロ」 何回か吐くと落ち着いてきてオレはベッドに戻された。 「汗すごいな…」 解熱剤の効果はすぐ出て、汗が噴き出してくる。 桜二が着替えとして猫のトレーナーとオレの練習用のスウェットを持ってきた。 それ、オレの一張羅なのに…ばか桜二。 「体拭くよ?」 オレの介護はお手の物の様で、綺麗に体を拭いて新しいパンツとシャツも着せてくれた。 猫トレーナーとスウェットを着せて、古い服は洗濯機に回された。 「ねぇ動画撮って勇吾に送って…」 「やだよ」 「妬いてるの?」 「そうだよ、だからやだ」 「そっか…」 頭痛が少し弱まってこめかみの締め付ける様な痛みが楽になる。 そのままウトウトして眠った。 遠くで依冬の声が聞こえて目を覚ます。 時計を見ると11:00… 沢山寝たおかげか、だいぶ頭がスッキリした。 体を起こして声のする方を歩いていく。 「何にするの?」 「まだ決めてない…」 「俺はテンガにしようかな…」 「最低だな…」 オレもそう思う… フラフラとリビングに行って2人の所に行った。 すかさず近づいて、オレのおでこを触るお前が大好き… 「依冬…オレお前にインフルエンザ移しちゃったかも…ごめん」 依冬に抱きついてそう言うとあいつは笑いながらあっけらかんと言った。 「俺この前なったけど、1日で熱が下がったから軽く済んだよ!シロは白くてかわいいから体弱いのかな?」 ん? 「それいつの話だよ…」 桜二が依冬をジトっと睨んで聞く。 「え?確か不動産屋巡りする前日かな?焦ったけど熱下がったから!良かったよ~!」 あぁ…依冬… 発生源はお前だったのか… オレは依冬を蹴飛ばして桜二に抱きついた。 「先生の結婚式、クリスマスイブなんだよ…」 オレはソファにもたれて携帯を眺める桜二に言って抱きついた。 「赤ちゃんいつ生まれるの?」 「知らない」 「聞いてみたら?」 「…ん」 桜二に促されて携帯で陽介先生にメールした。“先生の赤ちゃんいつ生まれるの?”って 送信するとすぐに返信が来た。 “シロ!愛してる(ハート)7月3日が予定日だよん” 桜二が見て笑う。 「愛してるって…これから結婚する人なのに、他の人に言っちゃダメだろ…」 「挨拶みたいなもんなんだよ、先生界隈では!」 来年の7月か…まだまだ先だな… 「シロ赤ちゃん見たいの?」 「見たい!先生の赤ちゃん見たい」 そう、と言ってオレの頭を撫でて自分の携帯をまた見始める。 オレは桜二に寄り掛かってボーッと暗いテレビを眺めた。 だんだんとウトウトしてきて桜二の胸元に顔を置く…まぶたが降りて来てぼんやりと焦点も合わせず桜二のシャツを眺める。 「向かいに座るから向井さんってセンス、ヤバイよな…」 ポツリとオレが言うと吹き出して大笑いするから、桜二の腹が揺れてオレの顔も揺れた。 「何で今、その話する?」 「何となく…思い出した。」 しばらく沈黙が続いて…オレはまたウトウトしだした。 「シロくん…」 桜二がポツリと言うからオレは笑いながら桜二の腹を叩いた。 また沈黙が続いてウトウトし始める。 「ねぇ…あの時こんな風になるって思った?」 オレは桜二の腹を撫でながら静かに聞いた。 「いや…思わなかった…まさかこんなに愛しちゃうとは…思わなかった。」 そう言ってオレの頭を優しく撫でた。 「オレも…」 応える様にそう言って目を瞑る。 桜二の呼吸が聞こえる…あったかくて良い。 智を思い出す… ごめんなさい、智… 湊を思い出す… 湊、ごめんね… 兄ちゃんを思い出す… 兄ちゃん…オレ今幸せだ… 気がつくと眠ってしまった様で体を起こして桜二を見る。スースーと寝息を立てて彼も眠っていた。 そのまま彼の顔を見る。 触ると起きるから、じっと見る… 髪が少し癖っ毛で体毛はそんなに濃くない…髭も1日剃らなくてもそんなに目立たないくらい… 目は基本的に冷たい目をしてる。でも、オレにだけは優しい…あの目で見られると堪らない… オレの特別な人… 「ねぇ桜二…?オレと結婚する?」 自分にも聞こえないくらい小さな声 何も考えずに口から出てしまった言葉に今更焦る。 これって…プロポーズじゃん… 起きないで! 桜二起きないで! 心の中がドキドキして耐えられない。 そっと起こさない様にソファから降りてその場を静かに立ち去った。 「ヤバイ!ばか!気を付けろ!結婚なんて…変な責任負わされるぞ!」 トイレに入って鍵を閉める。 軽はずみな自分の言動を戒める! 確かに桜二は良い女だ。 しかし、オレには既に依冬と勇吾という他の女もいるじゃ無いか!桜二と結婚したら他の女が騒ぐに決まってる! 修羅場になるだろ? これから引っ越しもして共同生活するっていうのに…どうしてオレはいつも考えなしに爆弾を投下して自爆するのか! 「お前は甲斐性なしだ。自覚しろ、シロ!」 オレは喝を入れてトイレから出た。 こっそりリビングに戻ると桜二が起きてテレビを見ていた。 「桜二~!起きたの?お腹すいた!お買い物行こう!夜はうどん食べたいよ~!」 オレは桜二に走っていって抱きついて甘えた。 「シロ…お前俺と結婚したら、依冬と勇吾とは愛人契約するの?」 あぁ…何だよ… 「……聞こえてたの?」 オレは顔を赤くして俯いた。 「俺は本妻だと思うんだよ、自分でも。でも、結婚しちゃうとさ、あいつらが刺してきそうで怖いんだよ…俺なら刺すからね。まぁシロが俺を本妻と認めてるって分かって嬉しいよ。」 「もうやめて…何となく言っちゃっただけなの…本気にしちゃダメなの…もう忘れてよ…」 オレは恥ずかしくて桜二の顔も見れず…モジモジさせながらお願いした。 ギュッと抱きしめられて頬を包まれて顔を上げる。桜二の優しい目に見つめられて顔が赤くなる。そのままキスして更に強く抱きしめてくる。 「桜二…それでもオレと結婚する?」 ばかなオレはまた良い女にプロポーズする。 「考えとく…」 「ふふっ!」 体よく断られて声を出して吹き出す。 桜二はマジで良い女… プロポーズを断る事でオレの面子を守ってくれたんだ。 本当に桜二は良い女でオレの良き奥さんだ。 「うどん食べるの?」 「うん、うどん食べたい!」 「…食べに行こうか?」 「行く~!」 インフルエンザの出勤停止も明日で終わる。 今日は愛妻とラブラブうどん屋さんだ。

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