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第53話

「大丈夫だから…」 オレは桜二を支度させて仕事に送った。 ずっとオレの顔を見て様子を伺う視線に耐えられなかった。 分かってる…酷い発作だった。 久しぶりに襲ってきた上に激しい発作で一気に持って行かれそうになる。 不安定とは思ってなかったし、桜二に少し不満はあったとしてもあんなになる程の事とは自覚すらして無かった。 自分の中に不満を抱えた奴がもう一人居るような…得体の知れない不安を感じた。 こんな隙…見せたらそれこそ思う壺だと思うのに、どんよりとした気分が上に向くとは思えなかった。 考える事を止める…オレが兄ちゃんを失ってからした自衛方法。 これをまたやるしかない… ご飯を残して卵焼きを捨てた。 皿を洗って支度をする。 服を着替えて外に出かける。 街はクリスマス一色でうんざりする。 でも、プレゼントを探さないと… 桜二には何がいいかな… あいつは料理が好きだからエプロンとか…調理器具とか喜ぶかな…それとも財布とかが良いかな? ネクタイ…なんてベタでやだな… …兄ちゃんには小銭入れ買ってあげたな… ズキン… 胸が痛くなる やめろ…あの人の事は考えるな…! 前もそうした様に頭を真っ白にして記憶の回路をシャットアウトさせる。 桜二には革のお財布を買ってあげよう… オレはオーダーメイドの革細工屋さんに向かった。 恵比寿にある古くからやってる革細工屋さん。 オレはここで何個か衣装のベルトを作ってもらっていた。 工房の中にはいろんな種類の皮が置いてあって匂いが独特なんだ。 ドアを開けて店に入ると気の良いお姉さんが迎えてくれる。 「あ、シロくんいらっしゃい。今日はまた衣装か何か?」 「ううん、財布作りたくて。」 「良いよ、どんなのにする?」 革の見本をバラッと置かれて見てみる。 これ、生き物の皮なんだよな…ゾッとする。 「これかっこいいね。これの青とかある?」 「あるよ、こんな感じの色になるよ」 深い青が桜二っぽくて気に入った。 色落ちしないか確認してこれで作ることにする。 「それで二つ折りの財布作りたいな。中の部分の小銭入れのところだけ違う革にしたい。」 オレが要望を伝えるとお姉さんは大体の出来を想像して頷いた。 「いいね、自分で作る?」 「うん…出来るとこだけ、自分で作りたい。」 「プレゼント?」 「…うん」 かわい、と言って準備をしてくれた。 自分で作るなんて言っても、ミシンなんて使えないから…ちょっとの所を手で縫ったりするだけなんだけど、彼の為に作りたかった。 中の小銭入れの蓋とカード入れの一部を深緑にした。 「これで何か書く?」 半田ごてを出してお姉さんが言った。 「良いね、なんて書こうかな?」 オレは半田ごてで “桜ちゃんが大好き”と書いて自分で照れた。 様子を見守っていたお姉さんも照れてる… 二つ折りの財布を開けるとカード入れの下にメッセージが見える完成になる。 「ちょっとやりすぎたかな…?」 「いや、良いよ。すごく良い。」 お姉さんにオレの手を加えた材料を渡すと、事前に指定した糸でミシンをかけてくれた。 「シロ、お店の方どう?YouTubeで話題になったって聞いたよ。さすがシロだね…」 「ん…どうかな。オレくらいのやつなんてごまんと居るよ…」 「あんたは特別だよ。」 褒めちぎるな…嬉しいけど、照れる。 「はい!できた!」 作品の皮細工を眺めて時間を潰しているとお姉さんがそう言った。 「箱、何色にする?」 「黒、リボンは赤。」 「ふふ、大切な人なんだね…。」 「…ん。」 可愛い小さな紙の手提げに入れてもらった。 「シロ!クリスマスプレゼントならカードも添えて渡すんだよ?メッセージには甘い言葉を大盛りで!汁だくで!増し増しの増しで!」 店を出て手を振った。 さぁ、ひとつ終わった。 良いのができて良かった… 次は依冬に何を用意しようかな…? あいつはオレにテンガを買うらしい…最低だ。 着るものも持つものも上質なものを持ってる依冬には何をあげたら良いかな…? 街をプラプラ見て回るとアンティークショップのショーウィンドウに目が入った。 古い懐中時計…昔こんなCM見たな… 店の中に入って店主に聞く。 「あれは売り物ですか?」 「手巻きだけど、まだまだ現役だよ。」 ザ・古物商の格好をしたおしゃれな爺さんが笑顔で答えてくれる。 「チェーンは18金?」 「あれは違うけど18金もあるよ。お値段するけどどうする?」 「同じ色の18金のチェーン、付けてみて?見てから考えたい。」 オレがそう言うとウィンドウから懐中時計を持ってきて黒いマットの上に置いた。 金色の蓋にはクラシックな装飾が彫られていて形はコロンとして可愛い。手に取って蓋の開け閉めをする。カチンと留まり、パカッと開く…文字盤もシンプルで良い…。 奥から店主が何本かチェーンを持ってきた。 「これかな?ん~こっちかな?」 何本か色を合わせてみる。 「それ、それで良いよ。プレゼントしたいから綺麗に包んで下さい。」 素敵なアンティークの懐中時計を買った。 上等な包装紙でクラシックな紙の小袋に入れてもらった。 依冬がコレを使ってたらめっちゃ痺れる。 オレは良い買い物ができて満足した。 ランジェリーショップに入って店員さんに聞く。 「胸がこのくらいの女性にセクシーなやつをプレゼントしたいんですけど…」 店員さんは顔を赤くするからオレまで赤くなってしどろもどろになる。 「可愛い…よりもセクシーですか?」 「…ハイ、すごくセクシーなやつで…」 胸のサイズがわからないので手で触ったサイズを伝えると店員さんがまた顔を赤くするので、サイズが関係なくても着れるセクシーなベビードールと言うものと同じ色のティーバックを買った。 「プレゼントしたいから包装してください。」 そう言って待つ間、レースの下着を眺めていた。 こんなに繊細なパンツ…洗濯機で洗ったら壊れちゃいそう…手に取ってまじまじと見た。 包装してもらい受け取って店を出た。 夏子さんがこれで彼女とエッチすればいいな… さぁ…困ったぞ。 勇吾には何を買ったら良いかな… 途方に暮れながら歩いていると女子が群がる店を見つけた。 カードショップ、あ、革細工屋さんが言ってたな。カードを添えろって… オレは女子に揉まれながらカードを物色した。 何これ、可愛い… サングラスをかけた猫がツリーを蹴飛ばしてるカードを見つけて、オレはそれを4枚買った。  良いのあった! 可愛いのあって良かった! インポートショップの前を通りかかって見つけてしまった…勇吾へのプレゼント…! これしか無いな…! オレはそれを二つ買って一つを綺麗にラッピングしてもらった。 満足のいく買い物ができて良かった! チップで貯めたお金が消えたけど、悔いなしだ! 携帯が鳴る。 桜二からだ… 「もしもし…今?…外にいる。…うん、いま?…多分渋谷辺りにいると思う。…ん…平気…ん、分かった…じゃあそこに行くね…うん…」 オレの様子を見に家に帰ったのに、居ないから心配したそうだ。 迎えにまできてくれる。 手に持つ荷物で察せらるかな… オレは桜二に言われた場所で彼が来るのを待った。 車を眺めて桜二を待つ。 黒いセダン。良くある車だし目立つわけでも無いのに、この沢山の車から彼の車を見つけるのが得意だ。 あれだ… 遠くに見えて道路に近づく。 その車もオレの前に寄せて停まる。 やっぱり桜二の車だった。 窓を開けてオレをみる桜二はまだ心配そうだ。 オレは笑いかけて言った。 「桜二、お腹空いた!」 荷物を後ろに乗せて助手席に座った。 「ずいぶん買ったね、お金大丈夫だった?」 「ふふ、チップが吹っ飛んだ!でもね、凄く良いもの見つけたから良いの。」 鼻歌を歌って桜二を見る。 まだ眉間あたりに力がこもって緊張した顔をしてる…。 「夏子さんに送りたいけど、住所知ってる?」 話しかけると笑顔になるけどまだ心配しているみたいだ…。 「知ってるよ、送っておいてあげるから後で教えて。今でも良いよ。」 「カードを書くから後で良い。」 オレはそう言って鼻歌を歌った… あの時、兄ちゃんがくれたプレゼント… 何だっけ… 「クリスマスイブは陽介先生の結婚式で表参道の会場に10:00、終わるのが14:00」 土曜日の午前中、桜二に近々のスケジュールを伝えて共有する。 何故かって?すぐ忘れるからだ! あの日以来桜二はオレの様子を注視してる。 オレは兄ちゃんの記憶をシャットアウトしてうまくやってる。 「じゃあ、お店には1回ここに戻ってから行くの?」 「多分…」 オレはソファに座る桜二の隣に座って膝に体を乗せた。 「仕事のシフトは?」 そこまで把握するものなの? 「今日から年末まで休みなしだよ。年始は3日まで休み~!休み~!やっすみだ~!」 両手、両足をバタバタさせて腹這いになって、桜二の上でバランスを取って遊ぶ。 「俺は年末は30日から休みで年始は6日まで休みだよ。どこか旅行に行く?」 「本当?」 「海外は無理だけど、近場なら…もう埋まってるかな…」 「え~~っ‼︎ 期待させんなよ…!」 オレは桜二の膝でぐったりと干からびた。 桜二はそんなオレの頭を右手で撫でて左手でお尻を撫でた。 「ねぇ…桜二?どこに行ってみたい?」 オレは干からびたまま桜二に尋ねた。 「そうだなぁ…山形とか、秋田とか…寒いところに行きたいな。」 「へぇ…良いね。オレも寒い所好きだよ…」 ウトウトして目を閉じる。 クリスマスまで後3日か…早く終わらないかな… ふと桜二がオレの手首を掴んだ。 何かな…まぁ気にしない… 「シロ、お昼何食べる?」 「ん~納豆ご飯…」 「ふふ、何か作ってあげるね…待ってて。」 そう言ってキッチンに行ってしまった。 オレのあったか桜二…眠い… この部屋はリビングのソファにお日様が良く当たってポカポカするから、こうやって寝ると気持ちいいんだ…。ウトウトしてまどろむ。 キッチンから料理をする音が聞こえる。 フライパンが置かれて…水が流れて止まる音。 あ…そうだ、綺麗な小さなスノードーム… どこにやっちゃったんだろ… 兄ちゃんが買ってくれた…サンタのプレゼント… もらった後、どこにやっちゃったんだっけ… 「シロ、ご飯できたよ」 オレの髪を撫でて頬にキスする。 むくりと起き上がって桜二に抱きつく。 あったかい… 「わぁ!美味しそう!スパゲティだ!」 桜二が作ったスパゲティはハズレなしだ! いただきますして食べ始める。 「お店の味がする!」 桜二は本当に料理が上手だな…。 桜二を見るとやっぱりオレの手首を見てる。 何だろ? 「何か気になるの?」 手首を見せて聞いてみると、何でもないって言う。変なの! ピンポーン! 何かな?と桜二がインターフォンに出る。 「ん、宅配便だって…何か頼んだ?」 「いんや、頼んでない。」 オレはスパゲティを食べながら玄関に向かう桜二を見送った。 戻ってきた桜二の手に大包と小包があって、オレの前にポンと置いた。 「何?」 「夏子と勇吾から」 オレが送ったプレゼント、届いたんだ! 「わーい!あけてみよう!」 「ご飯の後にして。」 注意されてムッとした顔で桜二を睨む。 オレの顔に気付いて慌てる。 前は毅然としてたのにな…気にしてんだろうな… 愛されてないなんて口走って…兄ちゃんの方が良いなんて言ったこと… 「分かったよ!」 そう言って残りのスパゲティを食べる。 ぎこちなく気まずい空気… 桜二が腫れ物に触るようにオレに接してる。 オレはそれを知ってて放置してる… 何故かと言うとあの話をしてまた発作が起きるのが嫌だから… 怖い…また傷つけそうで…怖いんだ。 「ご馳走様でした~!」 「はい」 オレは流しにお皿を置くと、ソファの前のローテーブルに送られてきた荷物を並べた。桜二がハサミを持ってきて危ないからと開けてくれた。 「あ、これは夏子さんからだ!」 大きな包みは夏子さんからで、中には丸い円柱の箱が入っていてカードが添えられていた。 「なになに~?えっと、エッチな下着をありがとう!1人で着て踊りました。今度会うときは身につけて会います。だって~!あははは!このバツは何?ダメって事?」 ソファに座る桜二にカードを見せるとキスの事だと言った。 ふぅ~ん… 丸い円柱を出してローテーブルに乗せる。 桜二と挟んでリボンを外して開けてみる。 「あっ!キャップだ~!可愛い!見て!桜二、見て見て!」 オレはキャップを取り出して被って桜二に見せた。 ちょっと大きいキャップは深々と被れて普通のキャップとちょっと違った。 「あ、可愛いね。良く似合うね!」 嬉しい!今日被って行こう~! 次の包みを桜二に開けてもらう。 「こっちは勇吾のだ~」 宛先を書いた文字を見て英語で書かれているのを確認して勇吾が外国にいると再認識する。 「何かな?何かな?」 包みの中には上等なケースが無造作に入っていてその上に名刺程度のカードが添えてあった。 「あ…」 それを見た桜二が“あ”と言った。 「なに?何なの?」 取り出して見ると更に上等さが増す。 「カードには何が書いてあるかな?どれどれ?ん?シロに良い事が沢山あります様に、愛してるだって!ロマンティックだ!」 桜二の目の前に上等なケースを持っていってそっと開けてみた。 「あ、可愛い!」 シンプルなリングが一本入っていた。 細くて小ぶりで可愛い。何かダイヤみたいなのが沢山ついててキラキラして綺麗だった。 「それ、小指に嵌めるんだよ。」 桜二が取り出してオレの小指にはめてくれた。 「ピンキーリングだね…ハ〇ーウィンストンの」 「へぇ~」 オレは桜二の横に座って見せながら話した。 「これってダイヤかな?」 「多分、全部ダイヤ…」 「じゃあ高そうだね。」 オレが言うと黙って頷いた。 「あぁ、面白かった!楽しいね、かわいい帽子気に入った~!」 オレはそう言って片付けした。 「シロ、それ外さないの?」 桜二がオレの小指にはめた指輪を気にしてる。 「もらったものだから、ずっと嵌めとく。」 オレはそう言ってダンボールを潰したりまとめたりした。 「あー桜二、片付けたよ!」 玄関の横に段ボールをまとめてリビングに戻った。 携帯を見てる桜二の横に座って膝枕してもらう。 膝小僧をこしょぐると足を引くのが面白くて何回もやる。 オレの髪を撫でながら桜二が何か言いたそうにしてるのが伝わって緊張する。 「シロ、この前依冬が撮った動画が送られてきてさ、お前がクリスマスなんてくだらねぇんだよ!って叫んでるやつ。どうした?あんな事ステージでいつもやらないだろ?」 やだな…その話。 オレは桜二を無視して寝たふりする。 「シロ…何かあったの?」 話したくない… 「何もない!」 「嘘つくなよ…」 オレは桜二の膝から起き上がってソファから立ち上がろうとした。 桜二はオレを後ろから抱きしめて自分に寄せる。 よしよしと頭を撫でる桜二の手に苛つく… 自分の荒れ荒みに自分で気づく。 何でこんなに腹立ててんだよ… 「楓くんがロンドンに行くのが嫌なの?」 「…違う…そんなんじゃない。」 「クリスマスが嫌いなの…?」 答えられないで黙ってしまう… 「何でか教えてよ…」 「やだ……やだ…」 オレの様子を見ないで、オレの機嫌を取らないで!オレを腫れ物に触るように接しないで!そんな事言ったって心配するに決まってる。 そんな事分かってる… 桜二の優しさが煩わしく苛つくなんて…オレがおかしいに決まってる… 黙りこくるオレを撫でながら桜二が話し始めた。 「シロの手、意外と大きいんだよ。知ってる?指が長いの、ほら見て?俺と比べて指がこんなに長い…長くて細くて…綺麗な手だ。」 オレの手を自分の手と合わせて指を絡めてくる。 優しい手つきに緊張が解けていく。 体の中に包む様にしてオレを抱きしめる。 あったかい… 「足は…?」 オレが聞くと自分の足を出したからオレは隣に足を置いて並べて比べた。 「足は断然、俺の方が大きいね。」 「本当だ…」 しばらく黙って桜二の手を握る。 「クリスマスが嫌い…」 オレがポツリと言うと桜二は静かに、うんと言って聞いている。 「またこの前みたいに、お前に酷い事言うのが怖い…また自分が嫌になるから…怖い。」 オレの頭を撫でて、うんと言った。 「クリスマス前になるとみんな浮かれムードになる…それが嫌い。特に子供はプレゼントが貰えるからみんな楽しみにしてる。それが嫌。」 「うん…」 「にいちゃんがオレにスノードームをくれたの。小ぶりのスノードーム。オレはそれを叩き割ったの。だって…サンタがくれたって言うんだぜ。オレはそんなやつから貰うもの、要らないって…」 「うん…」 「毎年くれたの、何かしらくれたの。全部壊した。にいちゃんの目の前で壊したの。いつもサンタがくれたって言うんだ…シロの事忘れてないって嘘ついてさ…。そんな人いないのに。」 「うん…」 「クリスマスが大嫌いだっ!子供が喜ぶときにオレは男の相手をした!にいちゃんが殴られるから!オレが相手しないとにいちゃんが殴られたり蹴られたりするから!そんなの可哀想だ!何も悪いことしてないのに!オレが抱きたいからって酷い事するんだ!弟に手を出そうとしたり…とにかくやりたいんだよ、あいつらはっ!」 声が暴れる…喉が暴れる…震える手を桜二が握る。離さないで。 意識が向こうに行かない様に! オレ、もう行きたくないんだ… 「毎年、毎年!みんなは楽しそうに…幸せそうにするのに…!オレはずっと家に来る男の相手をした…にいちゃんが殴られない様に。オレがヘタクソだから殴られてると思ってた。違った!にいちゃんがオレを助けようとして殴られたんだ!何回も何回もオレがやられる所をにいちゃんは見たんだ!オレは男にやられながらずっとにいちゃんを見てた。そうすると痛くないから、そうしたんだ…!そうするしか無かった…!」 桜二がオレの体を抱き寄せて背中をあったかい手でさする。 「だから大嫌いだ!クリスマスなんて…この雰囲気も浮かれる奴らも、みんなみんな嫌いだ!サンタなんかいない!にいちゃんがサンタが来たって言ってオレにくれたプレゼントも全部嘘だ!下らない嘘だ!もし、そんなもの…配ってる暇があったら、毎日毎日男の相手する…オレを助けろよ!!」 ウズウズしていた気持ちを全て吐き出す。 桜二はオレの毒を全部浴びた。 震える様にオレを抱きしめて泣く。 また泣かせてしまった…オレのせいで… 「桜二…泣かないで…ごめんね、オレのせいだ…」 オレは体を桜二の方に向けて、彼の頬を両手で包んだ。 何でいつも泣かせてしまうんだろう… 泣いてる桜二にキスする。 桜二はオレの顔を見て静かに聞いた。 「シロ…子供のシロに会ったら…どうする?」 え? 「…オレが今あの場にいたら…泣いてるにいちゃんを助ける。」 「違うよ…子供のシロに会ったら…どうする?」 そんなの…… 「わ…分かんない………」 「俺は子供のシロに会ったら…抱き上げて安全な所に連れて行く、もう絶対誰にも触られない所に隠して守って大事に育てる。誰にも傷つけられない様に守ってやる。抱きしめて、もう何もしなくて良いって言う!シロも…!シロも子供のシロを助けてあげろよ…!!」 兄ちゃんじゃなくて、シロを守れよ! そう言ってオレの肩に泣き崩れる。 どういう事…? もし…オレがあの場にいたら… 兄ちゃんじゃなくて… 襖を開けて男を退かして… あの子を…… 「あっああ…可哀想だ!あんなに小さいのに…何で…?何であんな目に合うんだ!!酷い…!酷すぎるっ!!」 頭を押さえて押し寄せる怒りに体が震える…! 訳もわからない涙がサラサラと溢れて流れる。 感情と乖離していて自分じゃないみたいに大量の涙が止め処なく出て来て恐怖すら感じる。 これは…一体誰の涙なの…… サラサラと流れて落ちる涙になすがままになってひたすら涙を流す。 「オレが…子供の頃のオレに会ったら…抱きしめてあげたい…もう良いって…逃げようって…助けて2度と誰にも傷つけられない所に連れて行きたい。そこで優しい人に会わせて、世の中には良い人もいるって教えてあげたい…。いつか誰かを…好きになれる様に…うっ…うう……あっああ…あああああっ!!」 声を出して泣く…止まらないんだ… 何で、こんなに激しく泣くのか分からない… でも泣く…子供の頃のオレのために泣く!! 桜二がオレの背中を撫でながら言った。 カウンセリングの先生が言ったんだって… 小さい頃の自分を抱きしめてあげてって… そしたら桜二もオレみたいに泣き崩れたって… でもそうしたら少し昔の自分が好きになれたんだって…桜二が言った。 オレはいつも兄ちゃんが殴られるのが嫌だった…だから今も兄ちゃんを助けようと思った…でも、今ならオレは自分を助ける。 だって…シロが1番酷い目に遭ってるじゃないか… 可哀想なシロ…よく頑張ったな… お前は強い… こんな気持ちになったのは、初めてだ… 桜二に抱きついてまたサラサラと溢れる涙が落ち着くまで彼の暖かさを借りる。 ちゃんとカウンセリング…続けようと思った… 涙が落ち着いて桜二を見上げると目が合った。 そのまま顔を近づけてキスする。 舌を入れて絡めると背筋がブルルッと震えた。 何度も食むようにキスして自然と口元が緩む 「あぁ…桜二…愛してるよ…」 そしてまたキスする。 お前がいてくれて良かった… お前のおかげで自分の事が好きになれそうだ… カウンセリングの先生に自分を許してやれと言われた。 オレはそれを聞いてもピンとこなかった… でも、今は分かり始めた気がする…。

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