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第59話

「シロ、勇吾と踊ったの、結構危ない事したみたいだね…。周りの人がクレイジーって言ってたよ。シロと勇吾は危ない事する仲間なの?もう…」 「…ん、明日、勇吾と遊ぶ…」 体が痛い…もうすでに体が痛い…もう動けない ベッドにうつ伏せになって目を瞑る。 「遊ぶって言っても元旦はお店やってないよ?」 「良いんだ…富士山に行くから…」 「そんな体で行けるの?」 「寝れば治るから…」 オレの隣に寝転がると髪を撫でながらキスする。 「シロ…連れてかれないでね…」 あの後カウントダウンを終えて、ひと通り騒ぐと、勇吾の友達達は夜の街に繰り出していった。 オレは眠くなったので桜二と家に帰り、依冬は友達の家に向かい、勇吾は友達とホテルに戻った。 明日は朝8:00に待ち合わせて、レンタカーで富士山まで行く。勇吾の運転なんて…心配だなぁ… オレは桜二に寄り添ってもらいながら疲れて眠った。 「シロ、おはよう…ねぼすけさん!かわいい!やっぱり寝てる顔…かわいい…!」 ベッドが激しく揺れる。 オレは体を起こして携帯を手に取って見る。 「まだ6時じゃん!なんだよ!」 ベッドにはまだ桜二が寝てる。 「勇吾…どうやって入ったの?」 「桜ちゃんが開けてくれた。」 「ずっとピンポンされた…!」 桜二めっちゃ怒ってるじゃん… オレはこっちに背中を向けて寝る桜二の背中にしがみついて寝た。あったかい! 「勇吾、迷惑だぞ!リビングで寝てろよ!」 「シロ…おいで…勇ちゃんの方においで…」 オレと桜二の間に手を突っ込んで自分の方に引き寄せると、オレを後ろから抱きしめてくる。 背中があったかい…熱いくらいだ… オレはそのまま目を瞑って眠った。 「シロ…朝だよ」 不機嫌そうな桜二の声… 目を開けると勇吾が後ろでオレを抱いたまま眠ってる。 あぁ…これで機嫌が悪いのか… オレは勇吾の腕を掴んで解こうとした。 「ん…シロ起きたの?行く?」 「ご飯食べてから行く…」 寝起きの勇吾…相変わらず綺麗だな 体を起こして見下ろすと、オレを見上げて手を伸ばしてくるから、その手を掴んで自分の腰に巻いた。 オレの腹に顔を埋めてハフハフする勇吾の頭を撫でる。柔らかくて細い髪…勇吾はまだ中がピンクのままだ。 「オレ髪、赤くした…」 オレが言うと体を起こして向かい合う。 「じゃあ俺も赤くしよう…」 そう言ってキスする。 「シロ!ご飯食べないの!?」 桜二のイライラした声が聞こえてオレは慌ててベッドを降りた。 「卵焼き冷めちゃったよ?顔もまだ洗ってないよ?着替えはどうするの?電車で行くの?」 オレはいただきますして、今年初、桜二の卵焼きを頬張った…美味しい! 「桜二、冷めても美味しい!明けましておめでとう!」 オレがそう言うと、ムスッとした顔が少し解れてオレの背中を撫でてキスをくれた。 「車で行くよ、勇吾が運転するよ。」 味噌汁を飲み干してご馳走様すると、お皿を流しに置いた。 歯を磨いて顔を洗う。 着替えをしに寝室に戻る。 勇吾が大塚先生の色付きのオレの絵を見ている。 「それ、この前貰ったんだ。」 ダメージジーンズを履いてあったかい猫柄の靴下を履く。Tシャツの上に猫のトレーナーを着た。 「見たの?完成したやつ…」 「ん…見た。」 そういや、勇吾も見たいって言ってたな… 勇吾が振り返って聞いてくる。 「どうだった?」 「ん…正直オレはよく分かんない。でも、桜二はずっと見てた。オレだって言ってずっと見てた。それで先生と意気投合してこれ、貰ったみたい…お待たせ、行こう。」 声を掛けると絵の前からやっと離れてこっちに来た。 「夜ご飯は?いつごろ帰るの?連絡して!」 元旦に妻公認で浮気してる様なもんなのか…桜二はイライラしながらもオレにキスして抱きしめて見送ってくれた。 「コート高そう。」 勇吾はオレのコートを見てそう言うと、オレを抱きしめて顔を首に埋めてキスする。コートの中に手を入れて、腰を掴んで自分に引き寄せてくる。 こいつは昨日からやりたがってる… 当初の目的、富士山に行く事は出来るのかな。 エレベーターが一階について勇吾がオレの手を繋いだ。 「行こう、シロ。」 レンタカーを路上駐車だ! SUV…山道は行かないよね…? 「勇吾、運転できるの?」 「俺は安全運転だよ~安心してね。」 助手席のドアを開けてエスコートしてくれた。 「わぁ、イケメンだなぁ~」 オレはそう言って乗り込んで、シートベルトを締めた。 いつもよりも視線が高い。気持ちいいな! 運転席に勇吾が乗って、慣れた様子でシートベルトを締めるとエンジンを掛けた。 後ろを見て車を出す。 「向こうでは車とか乗ってるの?」 オレが聞くと頷いて言った。 「これよりもっと大きいのに乗ってる。依冬くんみたいな車!ちょっと街から離れるとデコボコした田舎道とかずっと畑しか見えない一本道とかザラだからな。」 「良いじゃん、そういうの気持ちよさそう!」 元旦の午前8:00 道路はガラガラでトラックすら通っていない。 勇吾は早々に高速に乗って車を飛ばした。 「シロ…?富士山見たことある?」 「ない」 音楽を掛けようとゴソゴソするオレに勇吾が指差して言う。 「USB…ここ」 「あ…こんなとこ」 携帯に繋いで勇吾に聞く。 「ねぇ、何聞きたい?どんなのが良い?」 「ん~、シロの好きなのでいい。」 オレの方を向いて微笑む美しの君。 じゃあ、ドライブにピッタリのを流そう。 「明けましておめでとうございます!元旦の朝、これからお仕事の人もいるかな?今日は晴天です。こんな良いお天気の日はドライブにうってつけの曲をお届けします。シロの選ぶドライブTOP10!」 ラジオDJ風にオレが言うと勇吾が笑って喜んだ! 「俺、人生相談のコーナーに電話かけよう…」 ウケる…! 邦楽、洋楽ミックスでTOP5まで紹介したあたり、一緒に歌っていたせいか喉が渇いた。 「勇吾、なんか飲みたい。」 「そういや、すぐ高速乗っちゃったから何も買ってないな…サービスエリア寄るか~」 もう辺りを見回すと山ばかりで気持ちいい!! 「人生相談のコーナーはいつくるの?俺ずっと待ってんだけど…」 「え~?仕方ないなぁ…。では、人生相談のコーナーです。今日の相談者の方と今お電話繋がってますか?はい。おはようございます!」 「お、お、おはようございます。」 ウケる…! 「今日はどの様なご相談ですか?」 「あ、あの、その…」 ふざけていつまでも話さないからオレは勇吾の頭をパシッと叩いた。 「好きな人が居るんですけど…全然相手にしてくれなくてもうやんなってます…」 「なるほど~恋愛のご相談ですね。好きな人はあなたが好意を寄せてる事は知ってるのでしょうか?告白とか?付き合って!とか伝えました?」 「ハイ!めちゃめちゃアピールしてセックスも何回も何回もしたんです!」 こいつ…オレのこと言ってる…のか? 「肉体関係があるんだったら良いじゃないですか?それって、もう、そう言う事でしょ?」 「違う!そうじゃない!」 まったく、勇吾は赤ちゃんだ… 「相談者の方が興奮するので切ります。」 オレは冷たく言って電話をガチャリと切った。 「何でだよ~!」 「あ!勇吾サービスエリアだ!入って!外に出たい!」 時刻は8:50 出発からまだそんなに経ってないのに、こんな山奥まで来た。富士山にもあっという間に着きそうだ! 「シロ~寒い~!!」 「お、寒い!」 山の中だから?体感温度が家の前と全然違う! 上着を取ろうと後部座席を開けると、勇吾の鞄が開いた状態で置いてあった。相変わらず中身はぐちゃぐちゃで、目のやり場に困った。 「着ても寒いね…でも気持ちいい」 トイレに行って、飲み物とお菓子を買った。 嫌がる勇吾を連れて展望台に行って山を見る。 「勇吾、1本1本木が生えてるのに、遠くから見ると緑の塊に見える山って凄いね。」 オレが言うと、勇吾は缶コーヒーを開けて白く湯気を立てながらすすって飲む。 山と山の間に白い霧が立ち込めて蠢いている。 「勇吾!あれ見て!ドライアイスの煙りみたい!」 オレが言うと、少し顔を覗かせてコーヒーをすする。 「空気が冷たい!肺に入ってくる空気が冷たいよ?勇吾、深呼吸してみて!ほら!」 オレがそう言って深呼吸すると、一緒に深呼吸して言った。 「寒い…車に戻ろう。」 まったく!せっかくの自然なのになぜ体感しようとしないんだ!! オレの手を繋いで車の方に引っ張っていく。 「富士山なんてもっと寒いのに…勇吾は覚悟が足りないな!自然は厳しいんだぞ!」 「ヘイヘイ…あぁ寒い!」 オレの手を上着のポケットに入れて早歩きで歩く。助手席のドアを開けてオレを乗せる。 運転席に乗り込んでエンジンを掛けると暖房を全開にする。 「ロンドンも寒いんだろ?」 勇吾は、ん~と返事してオレの手を握ってあっためる。オレはそんなに寒くないのに… 「大丈夫だよ…オレ寒くないもん。」 オレの手を包んであっためる勇吾の手を包んでやる。 お前ってなんかかわいいよな… 「ねぇ、人生相談の続きしてやるよ。」 車がサービスエリアから抜けてまた走り出す。 オレは買った飲み物を飲んでまた勇吾の相談に乗ってやる。 「では相談者さんはその人とどうなったら恋が叶ったと安心できるのでしょうか?」 「…ん~、いつもそばにいて…俺しか見なくて…俺がいないと何もできない子になれば…かなぁ」 それを聞いてオレは腹を抱えて笑った。 勇吾はオレを見てニヤけて聞く。 「なんで笑うんだよ?」 「だってさ、お前…オレがお前にそんなになったら、絶対興味なくすと思うぜ?」 「そんな事ない…お前は分かってないんだよ…」 「何が?」 勇吾の顔を覗いて聞くと、苛ついてオレから目をそらす。 そのすぐ怒るの…何とかならないの…? 「勇吾はすぐ怒るの…」 「怒ってない!」 「怒ってる!もうやだ!」 オレは怒った!足を抱えて窓の外を見る。 車内に重苦しい空気が流れる。 山はこんなに綺麗なのに…空もこんなに高く清々しいのに…車も渋滞しないでスイスイと進むのに…勇吾が怒るから全て台無しだ! 手首のブレスレットを掌で撫でる。 「楽しみにしてたのに…喧嘩なんて…嫌だ…」 窓の外を見ながらオレがポツリと言うと勇吾が小さく言った。 「ごめん…」 声に反応して勇吾の方を見る。 オレの方に視線を移してもう1度言った。 「ごめん」 オレは勇吾の方に体を向けて足を抱えて座ると、シフトレバーの彼の手に手を置いた。 「良いよ…」 富士山の近くの遊園地近辺で高速を降りる。 「ジェットコースターだ!観覧車もある!勇吾、遊園地行ったことある?」 「…え?あるけどシロは?」 「無い…1回も無い…ねぇ、あれってどんな感じ?凄い速いんだろ?怖いの?落ちる時どんな感じ?」 子供の頃オレが行ったことのある凄い楽しい所はデパートの屋上くらいかな?兄ちゃんが全部乗せてくれて凄い楽しかった。 「じゃあ、富士山見たら遊園地に行こうか…」 「え……本当?」 待って…待って…待って…!嬉しい!凄い!! 「良いよ、富士山見た後温泉でも行こうかと思ってたけど、お前が喜ぶ方が良い。」 兄ちゃん…オレやっと…遊園地に行ける!! 「やったーーーー!!遊園地だ!遊園地だ!」 オレは大喜びして椅子の上で跳ねた。 すごく楽しみだ!遊園地なんて…!! 「ねぇ、何乗るの?何乗るのが良いの?」 オレはすっかり浮かれて顔がずっと笑ってる。 「行って決めなよ」 そんなオレを見ながら勇吾が笑って言った。 そうなんだ、行ってから決めるもんなんだ…へぇ、凄い…!ジェットコースターに乗ろう…!絶対ジェットコースターに乗ろう!! 富士山のよく見えるスポットにやってきた。 周りには遮るものが何もなく目の前にドドーンと富士山が見える。 「勇吾!富士山てでかいな!」 「でっかい!」 土の感触が嬉しくて走り回る。 「勇吾!楽しい!」 オレが走る後ろをポケットに手を突っ込んだまま歩いてついて来る。 誰もいない…2人しかいない…目の前には富士山があってオレ達を上から見てる。 オレは気持ち良くなって勇吾に一礼すると首と背筋を伸ばして構えピルエットを回り、グラン・ジュテしながら進んだ。最後にフェッテターンしてポーズを取って勇吾に笑った。 「シロ…綺麗だ。おいで」 両手を広げて呼ぶからオレは勇吾に駆け寄って抱きついた。 あの空港の時みたいだ…! くるくる回ってオレを抱き留める。 「勇吾!リフトして!」 「…よっと」 オレの腰に手を当てて持ち上げようとするけど、オレが悪いの?持ち上がらなくて勇吾の方に倒れた。 「あはは!シロがデブだから持ち上がんない!」 「…うぅ」 この高い空の下リフトしてもらったらもっと気持ちいいのに… 「じゃあ振り回して?」 「ほい」 勇吾はオレの背後に回る。脇に腕を通して肩にガッチリホールドするとグルグルと振り回した。 「あはははは!!足が!足が上がるまで!!振って!もっと~~~!! あははは!!良いぞ!勇吾~~!!」 回し過ぎてフラフラになって尻餅を付いて止まる。後ろの勇吾に爆笑しながら抱き付く。 「凄い!足が浮いた!あははは!目が回って、気持ち悪くなった!!おっかしい!!あはははは!!」 「シロって…本当ばかだな!あははは!!」 ほっぺたが痛くなるくらい笑った。 ヒーヒー言って立ち上がり、勇吾に手を差し出して掴んで引き上げて抱き付く。 「勇吾、気持ちいいね!こんなに広いところで回ると本当に気持ちいい!ねぇもっとなんかしようよ!なんか無い?」 「セックス」 「勇吾、リフトして!」 「アラベスクして」 オレはすぐにアラベスクして止まった。 「キープして上で軸足パッセ」 そう言って勇吾がオレの足と腹を持って持ち上げる。上がってる!上に上がってる! 「勇吾~~~!!高い~~~!!」 オレはパッセして腕を綺麗に伸ばして体を反らせてポーズを取った。 「勇吾~オレ綺麗?」 「ん~、下ろすぞ~デブ。」 下ろしてもらって抱きついて喜ぶ。 念願のリフト、すっごい気持ちよかった…! 勇吾の腕を掴んで確認する。 「オレがデブだから手首の骨折ったの?」 「複雑骨折した…」 「可哀想だ…」 勇吾に背中をもたれて両腕をモミモミとマッサージしてやる。持ち上げるってしんどいって昨日分かったからちゃんとケアする。 向こうのほうからカメラを持ったお兄さんが歩いて近づいて来る。 もうここは2人きりじゃなくなった。 普通の人にゲイのイチャつきは毒でしか無い。 オレは勇吾と離れて富士山を見た。 「さっき凄い綺麗で勝手に撮っちゃった…これ見てほしくて…ごめんね邪魔しちゃって」 カメラお兄さんはそう言ってデジカメのプレビューをこちらに向けて見せた。 「はは、本当だ。シロ、綺麗に撮れてるぞ。」 勇吾が言うから近づいて覗いてみた。 一瞬見た時、胸がドキッとした。 映画のワンシーンみたいに綺麗だった… 「あぁ…本当だ。ねぇ、これちょうだい」 オレをリフトする勇吾の顔まで鮮明に写ってて、オレの体も綺麗なシルエット…背景に富士山も写っていて朝日が鮮やかに影を落としてコントラストが綺麗だった。 「良いよ、USBで出来るやつだから携帯貸して?他にもね、君が1人で踊ってるのと、彼に回してもらってるのも可愛く撮れたんだよ?ごめんね、盗撮して…見てみて?コレとか…コレとか…」 オレがフェッテターンしてる時の写真だ…シルエットは完璧だ!綺麗な姿勢がとれていて安心した。 勇吾との写真は2人で大笑いしてて楽しそうに写ってる。何かドラマの一コマみたいだ。 「あぁ、これもちょうだい。凄く良く撮れてる!ありがとう!大事にするね。」 そうだ!オレは楓と彼氏のラブラブ写真を見て、写真を撮るのに憧れていた事を思い出した。 オレの携帯の写真の場所にプロっぽい写真が5枚入った。 「君、凄い良い被写体だよ、勝手に撮ってごめんね。ありがとう!バイバイ!」 お兄さんはそう言って三脚を立てると、富士山に向けてカメラをセットした。 「勇吾、見て?オレ体ちゃんと反ってて指先まで綺麗だよ?何点?」 お兄さんに貰った写真を拡大して何度も自分のポーズを確認する。 「それ、俺にも送って?」 「良いよ、でも勇吾の連絡先知らないんだもん。どうすれば良いの?」 車に戻りながら話すと勇吾が俺の携帯を取り上げて何かした。 「俺の連絡先、入れたからそこに送って?すぐ。」 オレは言われた通り、すぐに貰った5枚の写真を勇吾に転送した。フェッテターンの軸足が伸びきってる時に撮ってもらいたかったな…少し緩んでる足が気に入らなくて何度も拡大縮小してみた。 「ねぇ、勇吾オレ何点?」 携帯を見てる勇吾に話しかけて彼の携帯を覗き見ると、2人でグルグル回ってる写真を見ていた。 「これ、可愛いよね!お前めっちゃ可愛い顔してんじゃん!こう言うのを破顔って言うんだよ。」 オレはそう言って勇吾の背中をポンポン叩いた。 「うん…凄く気に入った…」 こんな良い写真が携帯に初めて残った写真だなんて、後の写真のプレッシャーになるな。

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