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第61話

長野県…初めてきた。 「勇吾、桜二に殴られるよ?」 「俺は飛行機に乗って逃げるから良いの。」 勇吾は慣れたように暗い山道をどんどん車で進んで行く。 さっき帰るって言ったのに… 桜二怒る…絶対怒る… 舗装された道路を外れて砂利道に入っていく。 「お化け出そう…勇吾、どこに行くの?死ぬの?死に場所を探してるの?」 オレが怖がってそう聞くと大笑いして言った。 「シロ、お腹すいたんだろ?美味しいの食べさせてあげるよ。桜二の餅より美味しいよ?」 明かりの灯ったログハウスが目の前に見えて、勇吾が車を停めた。 殺人鬼が居る所だ… ホラー映画好きなら分かる…醸し出す怪しい雰囲気…勇吾はきっとインターネットで“元旦、営業、美味しいもの”で検索してここを見つけたんだ…。ばかだから疑いもせずここまでわざわざ来たんだ…。きっと2人とも殺される…ワンチャン逃げ方を映画で知ってるオレだけ助かって、勇吾は殺される…。 「お嬢さん、はよ降りろよ」 外からドアを開けられて恐る恐る車の外に出る。 「寒っ!」 オレの手を握って迷いなくログハウスに近づいていく勇吾…! 「やだ!殺人鬼が居るよ!?勇吾、皮剥がれるよ?」 オレはそう言って両足で踏ん張って抵抗した。 ズズズ…とオレを引きずりながらお構いなしに進む勇吾。 ガチャっとログハウスの扉が開いて、室内の明かりが漏れて辺りを照らす。 ドアを開く大男のシルエットが見えて、オレはヒッ!と声を上げて勇吾の後ろに隠れた。 オレより勇吾の方が美人だから、皮を剥ぐなら勇吾にしてほしい…! 「おー!大ちゃん久しぶり!元気だった?」 「おう!遠くからお疲れさん。この子?」 背中に隠れたオレを得意げに紹介する。 「俺の最初で最後のスペシャルだ!」 室内に案内されると、思っていたのと違くて驚いた。もっと剥製とか…鹿の頭とか…ライフルとか…あると思ったのに、室内は小綺麗で本が床に沢山積まれていた。 ダイニングに案内されると2人分の料理が綺麗に置かれていた。 あっ!ヘンゼルとグレーテルだ! 警戒する俺に大男が笑って言う。 「今ヘンゼルとグレーテルだ!って思ったでしょ?ははは。勇吾に頼まれて用意して待ってたんだよ、安心してね。」 聞くと大男は物書きで、山奥の小屋に篭って書き終わるまで下山しないと縛りを付けて生活しているそうだ。 香ばしそうなローストビーフとサラダ。なんの肉か分からない肉を焼いたものと、スープ。 お腹の空いたオレは、いただきます。してご飯をご馳走になった。 これ、この人が作ったの…? すごく美味しい。 お肉がサクッと噛み切れて良いお肉の味がした。 「美味しい!わぁ!お店のより美味しい!」 オレが笑って大男に言うと、大男は優しそうな顔で笑い返して言った。 「笑顔が可愛いね。」 「可愛いだろ?オレのスペシャルだよ?」 オレの後ろに立って肩をポンと叩くと勇吾は大男に続けて言った。 「シロ、桜ちゃんのスペシャルでもあるんだよ…」 「えーーーーー!!」 なんだ…桜二とも知り合いなのか… だったら、そんなにあいつに怒られないかな… オレと勇吾がご飯を食べるのを大男はホットワインを飲みながら眺める。 「シロ、これは鹿の肉だよ?」 一口に切って、オレの口にあーんとするから、オレは口を開けて頬張る。 うん、獣臭い! 「食べられる?」 聞いてくるから首を振ると、口を近づけてキスしてオレの口から獣の肉を取っていった。 「勇吾…ママじゃん…」 昔、桜二に言ったのに…今度は自分が言われてる… オレにはきっと母性本能をくすぐる何かがあるんだな。 心置きなく桜二に電話ができる。 「桜二に電話しないと…怒られるから…」 オレは携帯を出して桜二に電話した。 「シロ…面白いからスピーカーにしろよ…」 面白い?何が? 勇吾に言われて、オレはスピーカーをオンにした。 「もしもし?シロ?今どこなの?さっき連絡あってから結構経つよ?今どこ?もう高速は降りたの?お雑煮依冬が食べちゃうよ?」 桜二のマシンガントークに、声を潜めて笑う勇吾と大男を無視して、オレは怒られない様に話した。 「今、あの…長野県に来てて…」 「なんで?長野?なんで?勇吾が連れてったの?電話代わって!シロ!」 桜二が怒った…声色が変わって今日1日のイライラが爆発してる。 「桜二…怒んないでよ…あの、違くて…大っきい人の家に来て、ご飯食べてて」 「シロ…勇吾…」 オレの話も聞いてくれないくらい怒ってる…怖い。 オレは桜二のくれたブレスレットを撫でて半泣きになりながら話した。 「桜二…怒んないで…ね?やだよ…ちゃんと連絡したじゃん…怒んないでよ…」 「…はぁ…シロ、怒ってないよ…勇吾に電話代わってくれる?怒ってないから…ね?」 オレがしょんぼりして黙ると勇吾が脇から声を上げた。 「桜ちゃん!今どこに居ると思う?」 「お前、帰ったらこの前以上にボコボコにしてやるからな…分かってんだろうな!あ?シロがどうしてもって言うから俺は我慢してんだよ!分かるか?調子に乗ってるとぶっ殺すぞ?」 あまりの声色の代わり様に驚いて、オレはスピーカーをオフにして勇吾に携帯を渡して遠くに逃げた。オレ知らない! 「今、大ちゃんのとこに来てるんだよ?怒んなって!まいったなぁ~、ほら大ちゃんなんか言って!」 「もしもし?桜二、久しぶり…!お前のかわい子ちゃんは預かったぞ!あはははは!」 時刻は23:20…今日は桜二の元に帰れそうにない。 「君の何がそんなに狂わすんだろうね?」 ソファで寝る勇吾の側で桜二にメールするオレに大男が聞いてきた。 「さあ…分かんないよ。」 オレは視線を移さずそう言ってメールを打っていた。 「桜二は高校生の時からやさぐれてて、タチの悪いいけない事ばかりやっててさ。人の事なんとも思ってないみたいな顔して…恨みを買ってはボコボコにして…喧嘩っ早くてヤバいやつだったよ…ついこの前までそのまんま大きくなっていたかと思ったら、いつの間にか君のママになっててさ…人って簡単に変わるんだな…」 「ママじゃない…」 「ん?」 「にいちゃんだ…」 「…そっか」 オレがメールすると桜二はすぐ返事を返す。 “明日お雑煮また作ってあげるから、安心してね…”だって…あんなにドスの効いた声出してたのに…お前は変わってないよな…オレにだけ優しいだけだ。 「勇吾は?」 「ん?」 「勇吾はどんなに悪かったの?」 「こいつは…桜二に似てるかな…自分以外には興味なくて…好きな人なんて今まで出来たことのないやつでさ、オレの彼女を寝とったんだよ。すごい好きで運命だと思って…この子と結婚しようと思ってた子をさ、スーッと脇から現れて…すぐに落としてさ。」 「最悪だね…」 オレはスヤスヤ寝てる勇吾の頬を軽く引っ叩いた。全然起きなかった… 「何で?って聞いたら…なんて言ったと思う?」 「…ん…そうだな…、本当にそんな価値のあるやつなのか試した…かな」 大男が絶句してオレを見る。 「だって友達がそんな好きになる様な人…どんな人か試してみたいだろ?簡単に落ちてつまらなかったら…その程度なんだって…」 突然大男が大笑いして過呼吸気味になる。 「ハァハァ…すげぇ!そう言うことか…感覚が似てるのか…合ってるよ。そんな事言ってた。俺は酷く傷ついて、彼女とも別れて、それ以来ずっと1人だ…人間不信でさ。勇吾に言ったんだよ…お前は俺の人間不信の元凶だから、もしお前に特別な人ができたら見せてみろって…」 「どんなもんか試してみるの?」 オレが大男を見て尋ねると彼の顔がオレの後ろを見て固まった。 隣で寝ていた勇吾が体を起こしてこちらを見ていた。 「寝ぼけてんのかな?」 オレはそう言って勇吾の頭に手を置いてまた寝かせる様にソファに下ろした。 「桜二はお料理上手で、優しくてあったかくて…あいつがいなくなったらオレはおかしくなって死んじゃうの…オレの全てで、オレの1番、オレの愛する人でオレの奥さん。」 オレはそう言って彼を思い出す。手首のブレスレットを撫でる。会いたい…桜二。 「勇吾は…すぐ泣く泣き虫。最高に綺麗で最高のダンサーで最高のトレーナーでオレの可愛い恋人。でもあんまり好きにならない様にしてる。奥さんが怒るから。」 そう言って大男に視線を移す。 「もう1人可愛い奴がいて、依冬って言うの。桜二の腹違いの弟で、オレよりひとつ下なの。可愛い弟みたいで大好きなんだ。あんたより小さいけど、強くて大きくてあったかくて…すごい凶暴なんだ。依冬はオレの弟。すごく愛しい弟。」 オレはスヤスヤ寝てる勇吾の頭を撫でて言った。 「みんなオレのことが大好きなんだ…不思議だろ?オレもたまに不思議に思うんだ…何でこんなに優しくしてくれるのかなって。それで急に怖くなるの。これが無くなる時のことを考えると気が狂いそうになる。ねぇ、いつまで続くと思う?こんな事…いつまで続くと思う?」 勇吾の頬にポタリと水滴が落ちて自分が泣いてると気づいた。慌てて桜二のブレスレットを撫でる。落ち着け…落ち着け… ムクリと勇吾が起きてオレを抱きしめる。 「シロ…結婚しよう」 「やだよ…はは…ばかだな」 オレは勇吾に抱きしめられて彼の呼吸を感じた。 ゆっくり呼吸してまるでオレに合わせてるみたいに… …あぁ、合わせてくれてるんだ…。 本当にお前って…優しい奴。 大男がオレの様子を見て饒舌に語り始める。 「君はユニークだ…複雑で…儚い。子供の様に幼いかと思えば急に怖いくらいに現実的だ…。魅力に惹かれて人が集まっても諦めの境地の様な絶望と混沌は薄まるどころか濃度を増して君を苦しめるんだね…凄い…感性が鋭敏だがやわでは無い。君の根底は…何なんだろう…」 そう言うと毛布を持って来て勇吾に渡した。 「少し1人になりたい。俺は作業部屋に籠るね。帰る時以外放っといて。」 そしてフラフラ歩くと2階に消えていった… 「俺は可愛い恋人なの?」 ソファに寝転がるオレの後ろに寝転がって抱きしめて頭を撫でながら勇吾が聞いてきた。 …なんだ、起きてたんだ。 「うん。オレ、お前に恋してるから…」 オレがそう言うと熱いキスをしてくる。 「いつか無くなるかもって…怖くなるの?」 頬を撫でて優しい顔で聞いてくる。 「……ずっと続くものなんて、この世には無いだろ?」 オレは美しの君をぼんやりと眺めて言った。 「種が発芽して綺麗な花をつけても、いずれ枯れて土に還るのと同じで、出会って好きになって、セックスして、別れる。それが自然なんだよ…」 勇吾がオレの目の中を綺麗な瞳で覗いてる。 オレの目の中は黒く蠢いてる? 「卵を落とすと割れる。刺せば血が出る。落ちれば死ぬ…みたいにさ…今あるものがいつか無くなるなんてのは当たり前のことなのに…そんな事が怖くてたまらない。」 オレの黒くて汚い目をこれ以上汚さない様に、勇吾がオレの目を手で覆って隠して口にキスする。 「シロ…お前を愛してる。」 オレはそのまま勇吾の胸に頭を落とした。 彼の手の奥で蠢く黒い目を閉じて…彼の呼吸に耳を澄ませて…そのまま眠った。 「シロ…朝だよ?」 「桜二…やだ…抱っこ…」 なんだ…今日はいつもより軽やかに抱っこできてるじゃ無いか! オレが痩せたのか…お前が力持ちになったのか?どっちかだな… 「勇吾…シロかわいい。」 「やめろ!俺の後を追うな!」 目を開けるとオレが抱きついていたのは桜二じゃなくて大男の彼だった…。 「いつも桜二がああやって抱っこするの?めちゃ見たいんだけど…それ、見たいんだけど!」 「勇吾の友達怖い…」 「徹夜してハイになってんのかな…?」 時刻は早朝5:00 朝ごはんを食べながら今日の予定を勇吾が話す。 「ここから空港まで行って、俺はそのままロンドンに戻る。で、桜ちゃんが空港に来てシロを連れて帰る。こんな感じだ。」 オレは鶏の産みたてホヤホヤの卵かけご飯を食べて感動した。桜二にも食べさせてあげたい… 長野の朝は気持ちいい空気でいっぱいだ! ログハウスを出て勇吾と車に向かうオレを呼んで引き留める大男。 足を止めて振り返ると彼は屈んで真剣な顔つきでオレに言った。 「いつまで続くと思う?昨日君は俺に聞いたよね…あの後じっくり考えたんだ。形ある物は必ず壊れる。これは自然の摂理だ。変えられないイデアみたいな物。でも、ここに人間が入ると話が変わる。人間は不条理な判断をする生き物だ。敢えて、わざわざ、どうして?…そんな理解できない行動や判断をする。そしてその行動の原理は大抵、本人の主観からきてる。好きか嫌いか、良いか悪いか、そんな曖昧な物だ。でも人間はその曖昧な物に判断を委ねて生きている。ね?最初の諸行無常のような確たる摂理ではなくこんな曖昧な物で決められるんだ。…はっきり言おう。君が思うほど周りの人間は自然の摂理に則って生きていない。好きや嫌い、良いや悪い…そんな曖昧な物で死んだり生きたりする。だから、君の問いの答えは、君がそれが好きならずっと続く…だ。」 なにそれ… 「難しくてよく分かんない。でも考えてくれてありがとう。またね!今度は桜二と来たいな!」 オレは大男にそう言って手を振ると、勇吾の車に乗ってシートベルトを締めた。 怪訝な顔をして勇吾がオレに聞く。 「何だって?」 「ん、よく分かんない。」 車は元来た道を戻り砂利道から舗装された道へと出た。舗装された道がこんなに安心するとは思わなかったよ…。 「何であの人の彼女と寝たの?」 窓の外の朝日を浴びて朝露が煌めく森を眺めながら勇吾に聞いた。 「え?」 「オレの事もそんな気持ちで寝たの?」 「はは、お前のステージを初めて見た時から、オレはお前に夢中だよ…」 そうだろ?ってオレの方を見て尋ねてくるけどさ…オレが知るわけないじゃん。 「そうだ、シロ後ろの俺の鞄とって。」 勇吾に言われ、オレはシートベルトを外して体を捻って後ろに置いてある勇吾の鞄を取った。チャックくらい閉めておけよ… 「はい。」 「その中にさ、ちいちゃい袋が何個か入ってるだろ?全部出して?」 「ん~待ってね~…… あっ!これ、これって何?」 オレはグチャグチャの勇吾の鞄の中から1枚のチラシを見つけて取り出した。 全部英語で書かれていて読めないけど、その中にローマ字の大きな文字で彼の名前を見つけた。 「勇吾の名前書いてあるよ?ほら、これ何?」 「あぁ、この前の公演のチラシだよ…。ストリップのガラ公演でオケの演奏で踊るんだ。満員御礼の好評で、次の公演も決まってる。…夏頃かな?」 凄い…勇吾…本当にこんな凄い事に携わってるんだ…オレのせいで戻るのが遅れちゃって、きっと大変だっただろうな…。 「これ、ちょうだい!」 「チラシ?」 「うん…欲しいの!」 オレはチラシを胸に当てて興奮した。 「ねぇ、この話もっと聞きたい!どんな人が踊ったの?どんな風にして、どんなに盛り上がったの?」 勇吾に前のめりになって聞く。 オーケストラの演奏なんて…カッコいい!! 「ここの会場、オケとバレエする様な有名な会場でさ…年末にここでストリップをやるなんて前代未聞だったんだよ?」 勇吾の話をオレはワクワクしながら聞いた。 会場には有名人も来てメディアの話題になったらしい。凄い…!ダンサーは有名な人を起用する訳でもなく、地元のストリッパーを勇吾が選んだって…やっぱりお前はかっこいい!! 「シロならセンターで…1番目立つ場所で踊れるよ。絶対…お前が全部持ってくだろうな…拍手も、観客の視線も、関心も、全てさ。」 過剰に褒められて照れる。 向こうのストリッパーにも興味がある。 勇吾はどちらも知ってて、しかもそれを束ねる人なんだ…。 こんな所でお守りする様な人じゃないんだ…。 「オレも見たい。」 「ん?お前は出る側だって。」 「夏にやるの?行きたい!見たい!勇吾、チケットちょうだいよ!オレも行きたい!」 行けるの?桜二に付き添ってもらうの?発作が起きたらどうするの?仕事は? 「行けたら…行きたい…」 トーンダウンして視線を落とし、手元のチラシを眺めた。 「シロ…俺の可愛いシロ。お前ならきっと観客を魅了するだろうな…あっという間に人気が出て、お前の踊るステージの時は満員御礼だ。簡単に分かるよ。お前には魅力がある。一度見たら病みつきになるんだ…。」 「勇吾…そんな風に言ってくれてありがとう…。」 現実問題、オレは1人で飛行機すら乗れない。 少し桜二と離れた今だって…寂しくて震えそうだ。 ダサい… 桜二はオレがお願いしたら付いて来てくれるかな… そんな風に考える自分がダサい… 「袋って…これ?」 ゴチャゴチャの鞄の中身を整理しながら探していくと、奥から4,5個、紙袋が出てきた。 「うん、それ全部出して?」 この水色の紙袋、お姉さんが持ってるの見たことある… 「出したよ?」 「それ全部やる。」 こいつの贈り物って高いんだ。 どれも高いもの。 この紙袋の質から既に高級さが滲み出てる。 「何が入ってるのかな~?」 今も小指に付けてるこのリングは、陽介先生の結婚式で値段を人伝に聞いてビビった覚えがある。 知らない方が良いことってあるよね… 「わぁ!またリングだ!」 全て開けたけど、全て小さなリングだった。 「なんで?なんでこんなに沢山ピンキーリングばっかりくれるの?オレってそんなについてないの?」 どれも華奢で繊細なリング。 勇吾の趣味なのかな… そう思ったら胸がキュンとするのは何でなんだろう… 「好きなの選んで他は売っちゃえば?」 酷いキャバクラ嬢じゃねぇんだよ。 「ありがとう、全部もらう。大事にする。」 大事にしまって紙袋に戻して、手元のチラシを眺める。 良いな…こんな所で踊ってみたい… オレがもっと普通なら…勇吾にくっ付いて行くのかな…。いや、 もっと普通なら、こんなに一生懸命生きて来なかったかもしれない…。 「シロ、ドライブTOP5からまたやって。」 勇吾に言われて思い出す。 「ふふ、良いよ。おはようございます!本日1月2日、お天気は快晴です。これから飛行機に乗ってロンドンまで戻る人も居るかな?と思います。そんな人の為にシロのTOP5!をお送りします。」 オレはまたラジオ風に喋ってUSBを携帯に繋いだ。 何にするかな~と選びながら、ふと助手席から勇吾の写真を撮った。 口元が緩んで穏やかな顔だったから…かっこいいと思って撮った。 「なんで撮ったの?」 「カッコ良かったから…じゃあ、まずはこれにしよう~!」 音楽が流れてオレが歌って、車は空港までグングン進んだ。 「桜二~~!!会いたかったよ~!」 空港の入り口に桜二が居た! 嬉しい!あ!勇吾を殴らないで! オレは桜二に走って向かい抱きついてスリスリして甘えた。 「桜二、楽しかったよ!大ちゃんって人にもあったよ!難しいこと言われて良くわかんなかったけど、なんか良い事言ってくれたよ?あとで教えてあげるね?」 「桜ちゃん、楽しかった~!」 勇吾がそう言って、桜二に抱きつくオレに抱きついた。 煽るなよ、ばかだな。 「…シロ大丈夫?何もされなかった?」 めちゃめちゃされたよ! 桜二は前より大人しくなって勇吾を殴ったりはしなかった。オレは久しぶりの桜二の匂いと温かさを感じて落ち着いた。 「ほら、もうあれに乗って遠くに行け。そして海の上に落ちて死ね!」 酷い事を言う桜二にニヤけて笑う勇吾。 勇吾はチェックインすると言って1人でグングン行ってしまった。 「桜二、チェックインて何?」 「新幹線の改札に入るみたいな感じかな?」 「もうこっちに戻ってこないの?」 「…ん、そうだね。」 何で…そんなの勝手に行っちゃうんだよ…!! オレは桜二の手を解いて勇吾を追いかけた。 ポケットに手を突っ込んで足早に歩く勇吾を見つけて呼び止める。 「ゆ、勇吾!」 オレの声に気づいて振り返るあいつは、やっぱり泣いてて…かわいそうになって抱きしめてあげた。 「何で勝手に帰るの?ちゃんとお別れしてないのに、何で1人で勝手に行っちゃうんだよ…お前はいつもそうだ!勝手に自己完結して!いけないよ!そう言うの!」 オレに抱きしめられてシトシト泣きながら鼻をすする。 勇吾のだらりとする手を掴んで自分の腰に回し、両手でギュッと勇吾を抱きしめた。 「勇吾、会いに来てくれてすごく嬉しかったよ…一緒に踊ってくれて凄く嬉しかった…。ドライブも楽しかったし、富士山でリフトしてくれたの凄くカッコよかった…あと、ジェットコースター、怖かった…。長野まで連れてってくれて嬉しかった!また来て。また会いに来て。オレの為にまた来てよ。」 オレはそう言って勇吾の頬を持ち上げて自分に向かせると、泣いてるあいつに熱いキスをした。 また会えるし。今生の別れじゃない… 分かってるのに、こんなに胸が痛むのは何でだろう… 桜二と離れた時に感じる物とは違う…鈍くて重くてチクチクした痛み… 「シロ…シロ愛してる…俺のシロ!」 オレに回した腕に力を込めて抱きしめてくる。背中頭、お尻をギュッと掴んでまるでオレの体をインプットしていくみたいに抱きしめる。 「オレに連絡して…綺麗な写真送って?」 桜二に聞こえない様に顔を寄せてキスしながら小さい声で伝える。 勇吾は優しく笑ってオレのキスを返しながら頷いた。 そしてオレの美しの君はまた飛行機に乗って遠くへ行ってしまった… 下から手を振る。見えているかな… 涙が溢れて止まらない… 前はこんなにならなかったのに、奥さんに怒られるのに…どんどん好きになって離れたくなくなる。勇吾…勇吾ずっと側にいたいよ… いつか、また一緒に遊ぼうね…オレの初恋の人。 「シロ?ソファ決めたから後で見てね?あとテーブルも決めたし、バスタオルも決めたよ?あと決まってないのは玄関マットなんだけど、これはシロが担当してよ。」 「玄関マット?分かった~。」 桜二の車に乗っていつもの視点で道路を見る。 帰ってシャワー浴びて…ちょっと寝よう。 「その紙袋、貰ったの?」 「ん~なんか、街がクリスマスムードで何となく入ったお店でオレに似合いそうなやつ買ってたんだって…送るの面倒だからって、まとめて持ってきたって言ってた。」 オレは1個、2個…と紙袋を運転席の桜二に見せながら話した。 「質屋による?」 「貰ったやつだよ?売ったりしないよ!」 やだな、本当にセコい!桜二…! オレは大事に抱えて勇吾の飛んでいった大空を車の窓から見上げた。 「桜二~お腹すいた~~!」 そして愛する奥さんに思い切り甘える。 そしていつまでも末長く…一緒に居るんだ。 だってオレがそれが好きならずっと続くってあの人が言ってたから

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