2 / 10
第1話-2
「ありがとうございました。」
すっかり毒気の抜けた夫婦はそう言うとカーテンを開けて窓を開ける。
「綺麗に分離して居なくなった。跡形もなく。」
目を虚ろに開けて奥さんに微笑む長男を見ながら新子が言う。
「普通こんな風に出来ない…こんなに跡形もなく痕跡を消せない…」
怖いね。怖いだろ。
あそこまで侵食された宿主は普通無事には回復しない。
自我が無くなったり、しゃべれなくなったり、目が合わない、会話が出来ない…など、身体的なダメージを必ず受けて解放される。
空っぽになってしまう人だってザラなんだよ。
それをナルちゃんはノーダメージで解放させて、取りついたものの痕跡をすべて消し去る。
そんな人知を超えた力を持ってる。
この子が敵だった場合を、考えただけで恐ろしいよ。
「圭ちゃん、ラーメン食べたい!」
助手席でそう言って俺に甘えるナルちゃん。
一体お前は何者なんだよ…
「あの奥さん、もう宗教やめるかな?」
助手席のナルちゃんに聞くと瞑っていた目を開けて言う。
「圭ちゃん、ここで止まって。ナルちゃん用がある。」
お?なんだ?
俺は前を走る文二の車にパッシングして停まると、ナルちゃんを下ろした。
「ナルちゃん、圭ちゃんと手、繋いで。」
また一人で勝手に行かないように手を繋ぐ。
ガーデニングの荒れた一軒のお宅の前に来る。
「ナルちゃん?」
ナルちゃんはいつも俺が押してるようにチャイムのボタンを押した。
ピンポーン
家の中に響く音が外にも漏れる。
「誰も住んでないみたいだよ?」
俺の後ろに新子と欽史が追い付いて事態の状況を聞いて来る。
「ナルちゃんが、用があるっていうから…」
俺がそう2人に説明していると、ナルちゃんと繋いだ手がグイッと引っ張られる。
「ナルちゃん、勝手に入ったらダメだよ!」
荒れたガーデニングの庭にズカズカ入っていくと、繋がれたまま死んでいる犬の死骸を見つけた。
「お水あげて」
俺の方を向いてそう言って死骸を撫でる。
後ろに居た新子が、ペットボトルの水を空のエサ入れに入れた。
「どちら様ですか?」
庭に面した大きな窓を開けて白髪の男性が出てきた。
「すみません、勝手に…。今、出て行きます。」
俺はナルちゃんの手を引いて外に連れ出そうとした。
「おじちゃん、おばちゃんが死んじゃったのは、あのおばちゃんのせいじゃないよ。神様はちゃんとおばちゃんを守ってくれたよ。もうやめよう。そんな事しなくて良い。」
ナルちゃんが突然そう話しかけて、迷いなく白髪の男性に近づいていく。
俺は慌ててナルちゃんを守る様に二人の間に立った。
「なんだい、君は、可愛いお坊ちゃん。何が分かるんだい?」
怒る訳でもなく、笑うわけでもなく、抑揚のない声で白髪の男性はナルちゃんを見下ろして言う。様子がおかしいと気付いて緊張感が走る。
「全部わかるよ。おじちゃんが何をしたのか、どういう気持ちだったのか…全部わかるよ。悲しいね。悲しかったね。でも、おばちゃんは神様の所に行った。今はもう安全で、苦しくないんだ。」
そう言って白髪の男性のすぐそばに行って手を出した。
「ナルちゃん…おいで…」
刺激しないように小さくナルちゃんを呼ぶ。
何をされるか分かったものじゃない、危ないから早く連れて逃げたい。
「おじちゃん、ナルちゃんに触って…?綺麗にしてあげるよ…放っておけない。」
「あの人は…いつも親切そうに近づいて来ては、家内に物を売りつけたり、怪しい宗教に誘ったりしてきた。家内は余命あとわずかだったのに…夫婦、2人で穏やかに最期を看取ってあげたかったのに…あんな…あんな知らない場所で…亡くなるなんて…可哀想だ…」
ナルちゃんの手を見つめながら、白髪の男性は表情も変えずに涙をポロポロ落として泣く。
「おばちゃんが…なんで私の庭を放っておくのって怒ってる。今の時期だと鉢を変えないといけないのに、お父さんは何もしてくれない。ウインターコスモスも植えるって言ったのに、植えてないって怒ってる。」
突然白髪の男性の目つきが変わり、そう言ったナルちゃんをギロリと睨んだ。
あまりの恐ろしさに一瞬ひるむと、ナルちゃんが白髪の男性を抱きしめて言った。
「人は必ず死ぬんだ。死んだ後で、どう過ごしたかなんて、後悔してももう遅いんだ。また会える時の為におじちゃんがする事は、あのおばちゃんを呪う事じゃない。庭にウインターコスモスを埋めて、ペロのお墓を作ってあげることだ!」
その言葉に白髪の男性が顔を歪めていく。
「ナルちゃん…」
心配で…俺は彼の服の裾を掴んで、いつでも彼を引き寄せられる場所に移動して、静かに様子を見た。
泣き声を上げて膝から崩れ落ちる白髪の男性を、支える様にナルちゃんが一緒に座って頭を撫でている。
「もう大丈夫。大丈夫。この家も温かくなるよ。ペロも喜んでる。おじちゃんが戻ってくれて安心して神様の所に行けるよ。」
ナルちゃんの言った通り、その瞬間から場の空気が変わって、傾きかけたお日様がこの家を照らした。
あまりの情景に言葉を失ってナルちゃんの背中を見つめた。
この子はいったい何者なんだ…!!
「また…また、会いたい!!」
「大丈夫、また会えるから…」
そう言って白髪の男性が落ち着くまでナルちゃんは彼を抱きしめていた。
「あの…あのおじさんが、さっきのおばさんを呪ってたの?」
車に戻る途中、ナルちゃんに話しかけた。
「思いってすごいよ。強ければ強いほど。呪いの儀式なんて要らない。思えば良いだけだ。儀式なんかは、補助的にやってるだけで、実際はそんなものなんて要らない。」
「ナルちゃん、ナルちゃんは誰なの?」
繋いだ手を強く握って、車の前まで連れてくる。
ドアを開ける前にナルちゃんを見て俺は尋ねた。
彼は俺をじっと見つめると、あおーん!と吠えて言った。
「ナルちゃんは、ナルちゃんだよ?」
そう言って笑う顔は、いつもの赤ちゃんナルちゃんだった。
鳥肌が立った…お日様があの家を照らした瞬間…俺はナルちゃんの言う“神様”を信じた。新子は泣きじゃくっていた。いったい何が起こったというんだ…
興奮してるのか…怖いのか…分からないけど、体が奥から震える。
ナルちゃんはこういう事をする。
諸刃の剣であり、俺たちの強力な武器なんだ。
「圭ちゃん!ラーメン3つも通り越した!」
助手席でラーメンの看板を通り越すたびに、怒って俺を見るこの子がたまに怖くなるよ。こんなに可愛いのに…
「携帯で文二に電話して?ラーメン食べるって言って」
俺はナルちゃんに携帯電話を渡して、目の前の車の車内を見た。
「もしもし?慎しん?今どこに居るか当ててみて?」
「なんで、ナルちゃん、兄貴に電話してるんだよ…!」
俺は電話を取り返そうと手を伸ばす。
「うふふ。うん。まだ食べてないよ。ラーメン食べたいのに…。お腹空いた…」
「ナルちゃん、電話返して!」
怒って言うとシュンとして電話を返した。
そのまま通話ボタンを切って携帯をしまった。
「お腹空いた…。」
そう言って窓の外を眺めるナルちゃんに飴を渡して言った。
「高速のサービスエリアに寄る予定だから、そこで食べよう?ね、」
不満そうに飴を口に入れて、ナルちゃんは窓の外に映っては消えるラーメンの看板を数えた。
「ん?別に?滞りなく終わりましたよ。ん~、ナルちゃんは、今、ラーメン食べてる。これから帰るよ。ん?変わったこと?まぁ、ナルちゃんが居れば変わったことも普通になるから、どんなことが聞きたいのか分からないよ。うん。じゃあ。」
兄貴に電話して報告を済ませる。
全く、勝手に電話して、いけない子だ!
文二の隣でラーメンを食べてるこの美少年は得体が知れないな。
「ナルちゃん、ラーメン美味しいの?」
正面に座って聞くと、うん。と言ってラーメンをすする。
「新子は?」
「車でちょっと休みたいって…」
「ふぅん、大丈夫?」
「後で話して」
何だろう。文二の奴、やけに匂わすな…
「ナルちゃん、圭ちゃんもあ~ん!」
「うふふ、やだよ~」
可愛い…
「ナルちゃんにはいろんなものが見えてるんだね…不思議だよ。あんな光景。見た事ない…映画やアニメ、そんな領域だよ…。親父の言う通り、神様の使いなのかな…」
頬杖をついて、目の前の美少年を眺める。
ナルちゃんを拾った時の事を思い出す。
あれは、13年前。まだ高校に通う17歳の時だ。11月の冬の寒い夕方、兄貴と2人で初穂料を頂きに行った帰り、境内の中に全裸で座り込むナルちゃんが居た。
俺はてっきり見た目の美しさから、悪戯された少年が逃げてきたんだと思った。
「大丈夫?どうしたの?」
駆けよって声を掛けるとフルフルと唇を震わせて震えていた。
寒さのせいか、唇に色が無くて白かった。
「うぅ~、うう、うぅ~…」
目を潤ませて唇を閉めながら唸る様に喉を鳴らす。
「しゃべれないのかな…」
兄貴がそう言って彼の体に触れて髪を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らして兄貴に頭を寄せた。
「俺、毛布取ってくる!」
慌てて体を覆う毛布を取りに家に向かい、少年のもとに戻ろうと玄関に向かうと、兄貴が自分のコートを着せて彼を抱きかかえて玄関から入ってきた。
「圭吾、お父さん呼んで!」
そう言った兄貴の顔は血の気が引いていた。
俺は家の中をバタバタと走って親父を見つけると、急いで事の次第を告げた。
父親から指定されたのは、神職以外立ち入り禁止の部屋で、俺は奥まで入ることが許されなかった。兄貴は祝詞も知ってるし、階位を持っていたのでそのまま彼を抱いて中に入って行く。
「兄貴、警察は呼ばないの?良いの?」
俺が慌てて聞くと、兄貴の耳には届いていない様子で、腕の中の彼を見ながら急いで駆けこんで行く。
その後ろをわらわらと親父含めた神職者が入って行く。
それを俺は見送るしかできなかった。
祭壇の前、兄貴の背中から細くて白い足が微かに動いているのが見えて、安心したところで目の前のふすまが閉じられた。
「圭ちゃん、ラーメン美味しかった!」
「そう、良かったね。」
口の端に着いた食べかすを手で拭って取ると、嬉しそうに笑う。
「もう行こうか…」
俺がそう言って席を立つと、手を繋いできたので繋ぎ返した。
「ナルちゃん、お腹いっぱいになった?」
「うん。美味しかった。」
ナルちゃんの好物は納豆とラーメンだ。
朝の納豆は欠かせない。
あの食べ方だけ、やめてくれたらいいのに…
車のドアを開けて座らせてシートベルトを付ける。
ナルちゃんからラーメンの匂いがした。
さぁ、家に帰って報告書を書いて、ナルちゃんをお風呂に入れよう。
そして、暖かい布団で寝よう…
「ナルちゃん、ちゃんとあったまってね。後でまた来るから。」
「は~い」
ナルちゃんを湯船に入れて、俺は彼の着替えを取りに部屋に戻った。
「圭吾、後でちょっといい?」
新子から声を掛けられた。
家に帰ってからも彼女は元気がなく心配していたところだ。
「良いよ。ナルちゃんを寝かせたら、で良い?」
俺がそう聞くと、うん。と頷いて、リビングのソファに腰かけてテレビを見た。
落ち着いたのかな…
人知を超えた能力を持っている人は力を使うと酷く疲れると聞いた。
感受性が強く、普通の人の何倍も受ける情報が多い分、浮き沈みも激しい印象だ。
それでも、その力を使って生きていく新子は凄いと思っている。
「圭ちゃん、ふやけた。」
風呂に戻るとナルちゃんが手のひらを見せてそう言った。
「あったまった?」
腕まくりしながら聞くと、うん。と言って笑う。
頬が紅潮して確かにあったまっていそうだ。
「じゃあ、こっちにおいで」
今日のサービスタイムだ。
風呂から上がらせて目の前の椅子に座らせる。
白くて柔らかい肌から湯気が立って舐めてしまいたい。
「圭ちゃん、おちんちんまた触るの?」
「綺麗にしないとダメだからね~」
ナルちゃんにはちゃんと付いていて、そしてそれはちゃんと機能する。
泡立てた泡を体につけていく。
まずは綺麗な足につけて太ももまで乗せていく。
ナルちゃんがそれを自分の手で伸ばしていく。
次は背中につけて腰まで伸ばす。
腕の先まで伸ばして、首から胸元、お股のあたりと太ももに乗せて伸ばす。
ナルちゃんを立たせてお尻に泡を付けて手のひらで撫でる。
可愛い…。
泡だらけのナルちゃん…
後ろからナルちゃんのおちんちんを持って洗ってあげる。
「ん…おちんちん…気持ちよくなる…」
分かってる。分かってる…
そのままお尻の方に手を滑らせて綺麗に洗っていく。
「んん…」
短く呻いて体を仰け反らせていくのが可愛くて、しつこく洗って攻める。
「あぁ…ん、圭ちゃん…お尻やだぁ…」
分かってる…分かってる…
そのまま今度は両手でナルちゃんの胸元の泡を手のひらで撫でる。
ツンと立った乳首の上を何度も何度も往復して撫でると、ナルちゃんのおちんちんは大きくなって反応する。
分かってる、分かってるんだ…
スケベ親父みたいだろ…
分かってるのに、毎日毎日やってしまう。
これが楽しいんだ。
可愛くて…
それ以上しないんだから、良いじゃないか…
ナルちゃんというデンジャラスを育てるポイントは適度な息抜きをすることだ。
「圭ちゃんはえっちだね」
あながち間違っていない。
「体を拭いて、パジャマを着ようね~」
綺麗な白い肌にタオルを乗せて体を拭く。
そのまましゃがんでナルちゃんのを目の前にしながら足を拭く。
このまま咥えたら、どうなるのかな…
つるつるの肌に生えたこれはナルちゃんの物なの?
ナルちゃんはこれ、要らないんじゃないの?
この子の体に不似合いなこれが逆にエロくて興奮させる。
散々堪能してパンツを履かせて、また明日までナルちゃんのおちんちんとしばしの別れをする。Tシャツを被せて着せると頬を赤くした可愛いナルちゃんが出てくる。
そのままキスしたくなってやめる。
この自制心が試されるナルちゃんのお世話を俺は10年も続けている。
今まで一度たりともナルちゃんに直接的な悪戯はしていない、この俺の自制心。
これは評価されるべきだと思う。
お気に入りのパジャマを着せて、髪の毛をドライヤーで乾かす。
おでこの上、髪の毛の中に隠れる突起を撫でる。
角なのかな…牛頭族みたいだ…
ドライヤーを受けるナルちゃんは目をつむって可愛い。
「はい、終わったよ。」
俺がそう言うと、わ~いと言って浴室から出て行く。
今日も楽しかった…
浴室を出て新子を見るとまだテレビを見ていた。
そのままナルちゃんが先に行った俺の部屋に向かう。
「圭ちゃん、一緒に寝て?」
可愛いな…
日菜子はこんなに甘えてこない…
あまりにも接触が無くなってしまい、今ではナルちゃんの方が恋人の様だ。
ナルちゃんの隣に寝転がって布団をかけると俺の胸に顔を埋める。
「圭ちゃん…今日の、ニイちゃん、怖かったのかな…」
そんな可愛い事を言って俺の胸を指で撫でる。
抱いちゃいそう…抱いちゃいそう…
「大丈夫だよ…新子は疲れただけだよ。」
そう言って髪にキスする。
「ナルちゃん、おやすみ」
「ん」
まるで号令か何かなの?
俺がそう言うと、スーッとあっという間に眠りにつく。
可愛い頬を撫でて首筋を手で撫でる。
今日感じたこの子への気持ちなど忘れてしまうくらいに、可愛くて愛しい。
守ってるのか、守られてるのか…
頬を持ち上げて軽く開いた唇にキスする。
俺しか知らないナルちゃんの唇。
興奮する。
舌で少し舐めて我慢する。
可愛いナルちゃん。俺の可愛いナルちゃん、おやすみ。
ナルちゃんを堪能して部屋から出る。
新子と目が合って、よっと手を上げる。
「コーヒーでも入れる?」
頷く新子を見ながら話す。
「疲れちゃったの?」
「違う。」
「ナルちゃんが心配してた。ニイちゃん、怖かったのかなって…」
マグカップを2つ手に取ってカウンターに置く。
電子ポットに水を入れてカチッと電気を入れる。
「怖い…?確かに怖いかも。…あんたもみたでしょ?あの時、神様が来た。」
レトルトのコーヒーをスプーンで掬ってマグカップに入れる。
どういうこと…?
「神様が来たの?」
顔を上げて新子に尋ねると、彼女は目を潤ませて頷く。
どういうことだ…
俺のナルちゃんは神様を召喚できるの?
神様…その定義が漠然としすぎだよ。
「どんな神様だったの?それは神様じゃないかもしれないじゃない。」
「見た目じゃない。その時感じた。神様が来たって…、それはそういう事なの。見るんじゃない。感じたまま。それが真実だよ。私はあの瞬間、神様を感じた。」
カチッとお湯が沸けて、ポットの中に沸騰したお湯がグツグツ言ってる。
「神様…そんな漠然としたもの。いる訳ない。」
俺はそう言ってマグカップにお湯を注いでティースプーンで混ぜた。
そして新子の傍に行って手渡した。
「それが怖かったの?」
「畏れた。ナルちゃんはとんでもない存在なのかもしれない。畏敬の念とでも言うべきか…。恐れ多くて、話せなかった。」
俺はそんなナルちゃんに悪戯しまくっているが…
やりすぎると怒った神様に雷でも落とされるのだろうか…
「彼は神の使いだと思う。」
新子はそう言ってコーヒーを飲んだ。
その表情は確信を得た自信を持ったもので、俺を見て何度も頷く。
「そう…」
神の使いか…
もっと刺激の少ない容姿に何でしなかったんだろう…
神のまにまに、か…
「なら兄貴に任せた方が良いのかもしれないな。」
「どうして?」
「神主だぞ?」
「ナルちゃんはあんたに懐いてるじゃない。」
コンプレックスなのか、兄貴に劣等感が少なからずある。
特にナルちゃんの事に関しては、出会った時もそうだが、事あるごとに兄貴は俺より、ナルちゃんの事を知っていて、俺よりもナルちゃんに特別視されていた…
しかし、兄貴はナルちゃんと仲良くなることより、神職として得体の知れない訪問者の身元特定を急いでいた。
あの時もそうだ…
「うぅ~、う~、ううぅ~」
唸り声と表情で何となく意思疎通が出来るようになった。
俺は学校から帰るとナルちゃんと遊んだ。
ボールを投げると嬉しそうに追いかけて、手に持って帰ってくる。
「ナルちゃん、ボールはキャッチするの。」
こうだよ?と言ってボールを空に上げて両手でバシンと掴んで見せる。
「分かった?」
「うぅ~あお~ん」
オオカミに育てられたのかな…
俺は軽くボールを投げる。
ナルちゃんはそれを手でバチンと叩く。
痛かったみたいに悲しい顔して固まるから、抱きしめて手を撫でてあげる。
「痛かった?痛かったの?可哀想。こうやって、両手で挟むんだよ?」
もっと軽くナルちゃんの手の上からボールを落としてあげる。
「両手で!」
俺が言うとナルちゃんは両手でボールを挟んで捕まえて笑う。
可愛い…好きだ。
「あお~ん」
嬉しそうに俺に抱きついて頬ずりする。
俺はそれが気持ちよくて、ナルちゃんの体を抱きしめた。
縁側から兄貴がナルちゃんを呼んだ。
「ナル、おいで」
まるでしっぽを振るみたいに、ナルちゃんは兄貴の方へ走って駆け寄って行く。
俺はボールを持ったままナルちゃんの背中を見送る。
「どこに連れて行くの?」
俺が聞くと、うん。とだけ言ってナルちゃんを連れて行った。
後ろから真言部隊がぞろぞろ付いていく。
また実験されるのかな…
正体不明のナルちゃんを探るために親父や兄貴たちは色々実験をしていた。
まずは悪い物の可能性を考慮して、ナルちゃんに特殊な祝詞を上げて、真言を唱えて、お札を付けて、護摩を焚いて、鏡を向けて、悪霊退散した。
その次に良い物の可能性を考慮して、処女の女の子を用意して、お供え物を用意して、動物の生き血を用意して、敬う祝詞を上げて、神様万歳をした。
何をしてもなんのリアクションも示さないナルちゃんに親父がキレて、小さな檻に閉じ込めた。その周囲に真言集団を置いて護摩を焚いた。炎の熱さと、周囲の雰囲気に怖くなったナルちゃんが泣いて兄貴に縋った。
そう、俺も居たのに…兄貴に縋った…
檻から白い手を伸ばして兄貴に触れようとめいっぱい伸ばした。
目に沢山涙を流して、止めてって言うみたいに…
兄貴はそれを無視して見つめながら、ずっと同じ真言を唱えている。
見かねて俺がナルちゃんの手を取った。
「ナルちゃん、今出してあげるからね。」
その瞬間、俺の体が飛んで壁にたたきつけられた。
親父が俺を蹴飛ばした。
「圭吾、邪魔だ!出ていけ!」
そう言うと親父はまた護摩に向かって座り、真言を唱えた。
火花がパチパチ鳴って天井を黒く燻す。
俺は腹をけられて苦しくてうずくまって咳込んだ。
「うう~~っ!!」
それを見たナルちゃんが怒って髪の毛を逆立てる。
檻の中でナルちゃんが低く呻くと、あんなに燃え盛っていた護摩が一瞬で消えた。
真言を唱える声が一段と強くなっても、暗闇の中、ナルちゃんの低く唸る声が地面を揺らす。
「ナル!」
兄貴の声が聞こえたかと思ったら、すごい音を立てて、檻が壊れた。
静まった部屋の中ですすり泣く声だけ響く。
しばらくして誰かが電気をつけた。
そこには粉々に粉砕した檻と、兄貴に抱きついて泣くナルちゃんが居た。
破壊された檻を見た親父は、2度とナルちゃんで実験することはなかった。紙切れみたいにボロボロになった破片があちこちに散らばって、天井や壁に幾つも突き刺さっていた。
それが、その場所に居る誰にも刺さっていなかったんだ…。
「神の御使いだ…」
そう言って親父はナルちゃんを受け入れ畏れた。
「ナルちゃんはあんたに懐いてる。今のところ私はあの子は神の御使いだと思ってる。でも、違うかもしれない。そうなった時に、お兄さんの所にナルちゃんが居るのはあまりにも危険だわ。今、大変な時期でしょ?もう少し、傍で見ていたいし、見極めたい。」
そう言って新子は俺を見る。
「審神者をしなくてはいけない。圭吾、なんでナルちゃんが来たのか、なんであんたに懐くのか…あんたが審神者になって、見極めなくてはならない。」
真剣な顔で言う新子から目を反らす。
俺は今の状態で構わない…毎日ナルちゃんのお世話をしていたい。
年を取らない、いつまでも可愛いナルちゃんのお世話をして爺になりたい。
審神者なんてしたくない。
神の意図など知りたくもない…
「うん…神のまにまに」
そう呟いて手元のコーヒーを覗き込む。
黒くて苦い…ドブ水の様だ…
話が済むと新子は自分の部屋に戻って行った。
俺は今日の出来事を報告書にまとめた。
因果応報…か
親の因果が子に報う…なんて言うからな。
ナルちゃん、何でそんな事知ってるんだろう…
人間でもないのに…
「圭ちゃん…」
俺の部屋から目をこすりながらナルちゃんが起きてきた。
「どうしたの?」
椅子から降りてナルちゃんのもとに行く。
「圭ちゃん、抱っこして…」
可愛い…
「起きたら居ないから来ちゃったの?」
ナルちゃんを抱きしめて優しく頭を撫でてそう言うと頷いて言った。
「ずっと抱っこしてて…」
胸がキュンとなって堪らなくなる。
「良いよ。ずっと抱っこしててあげる。」
そう言ってナルちゃんを抱っこして、また俺の部屋に連れていく。
そのままベッドに押し倒すように降ろして、彼を上から見つめる。
「ナルちゃん、可愛い…大好きだよ」
「圭ちゃん…抱っこして…」
上から抱きしめて顔にキスする。
柔らかくて滑らかな肌に止まらなくなって、そのまま彼の首に舌を這わせる。
「ん、圭ちゃん。こしょぐったい!ふふ、」
ナルちゃんの笑った息が俺の耳に当たって興奮する。
そのまま彼のパジャマをまくり上げて胸にキスをする。
「圭ちゃん…えっちだよ」
神の御使いをレイプしたら天罰が当たりますか…
「ナルちゃん…ごめん、大好きなの…」
そう言ってナルちゃんの可愛い乳首を舌で舐めた。
「んん…!圭ちゃん…ナルちゃんのおっぱい…なんで舐めるの…?」
両手で自分の捲られたパジャマを掴んで、ナルちゃんが聞いて来るから教えてあげる。
「こうすると、ナルちゃんのここが大きくなってね、気持ちよくなるからだよ?」
ほら。と言ってナルちゃんの股間に手をやる。
あぁ…こんなにもう反応してる…
「可愛い…ナルちゃん、気持ちいいんだね。」
「だめ…だめ…!だめぇ…!!」
堪んない!!
俺はそのままナルちゃんを本格的に犯そうと姿勢を変えた。
その時、突然の睡魔に襲われて体の力が抜ける。
「ナルちゃんが…したの…?」
そう言いながら彼の勃った股間に顔を埋めて眠りについた。
なんて事だ…
10年間の我慢の結果、未遂に終わるなんて…
なんて事だ…
ともだちにシェアしよう!