4 / 10

第2話-2

欽史に声を掛けて撤退する。 こんな事にナルちゃんを利用するのか… 禍々しい呪いや祟りの始末に、ナルちゃんを利用するんだ… 最低だな… 文二の所に戻って、新子に声を掛けて、欽史を連れて、ナルちゃんと玄関に向かう。 「力になれない。」 そう時任さんに行って、靴を履こうとしたその時。 「あーーーー!!みなみ~!だめぇ!」 ナルちゃんが叫んで、元来た廊下を走って戻った。 「開けたんだ…」 欽史がそう言って俯く。 「来たくなかったらここで待っててくれ」 みんなにそう告げて俺はナルちゃんの後を追いかけた。 「なんでそこまでするんだよ…」 ナルちゃんに何をさせたいんだよ…!! 客間に戻ると箱を手に持ったまま上を見て固まる南が居た。 ナルちゃんが南の顔を覗き込むようにして静止している。 南の放心したその顔から、まるで魂が抜けたように見えて震える。 「男は平気なんじゃ…?」 時任さんが状況を見て動揺して言う。 「新子!来るな!」 後ろで足音が聞こえて、俺は全力で叫んで新子に来るなと言った。 「ナルちゃんは?」 欽史が俺に聞く。 「知るかよ!」 そう言い放ってナルちゃんに、南に、開いてしまった箱に近づく。 なんの能力も持ち合わせていない自分にも感じる圧迫感。 ナルちゃんに手を伸ばして、触れる。 「ナルちゃん!ナルちゃん!」 叫んで呼んでも、じっと南の顔…目を見つめて顔を動かさない。 「みなみ…戻っておいで。こっちだよ…ナルちゃんの所に来て…」 傍によるとナルちゃんが小さく呟いていることが分かった。 13人なんて…箱の制限は8人なのに… かなりオーバーしてる…この箱はハッキリ言って狂気だ… そんなものにルールなんて存在しなくて…女、子供だけなんて、そんな保証なんて無い。そんな事分かってる筈なのに…!! 何でお前は箱を開けたんだよ!! 「ごめんね、ナルちゃんは救えないよ…神様も救えない…君たちは地獄に行くしかない。そんなに憎悪を溜めて…もう死ぬしかないよ…何も悪くないのに…残酷だ…間違っているよね…でもこの人を連れて行かないで。」 南の目の奥の誰かに話しかける様に優しく呟いている。 落ち着いた声とは裏腹に、ナルちゃんの体はずっと震えてる。 怖いんだ… 「圭吾…どうする?」 文二の声がして、俺はとっさに言った。 「音叉…音叉を持ってきて…!」 ナルちゃんでも南を引き戻せるか分からない状況… 「新子、ナルちゃんを守って!!」 ナルちゃんから目を離さないで、遠くの部屋にいる新子に大声で叫ぶ。 真言が聞こえて部屋の空気が振動して震えた。 「圭吾、これ!」 文二が持ってきた音叉を指でなぞる。 528… 俺はナルちゃんの元に近づいて音叉を叩くと、彼の耳に近づけて聞かせる。 もし、ヘッドフォンで聞いているのが、これなら…。 少しはナルちゃんの足しになるのか…!? 確証は何もない…ただ、この人を助けたかった。 「あぁ…綺麗だ…」 ナルちゃんがそう言って音叉の音に耳を澄ませる。 「何も悪くない君たちは、ナルちゃんに消されなくても行く先は地獄だ…。もう楽になりたいよね…巡りたくないよね…可哀想だ…圭ちゃん…」 俺はナルちゃんの背中に寄り添うようにくっ付いて耳元で言う。 「ナルちゃん、楽にしてあげよう。俺も一緒に居るから。怖くない。助けてあげよう…」 こんなの詭弁だと分かってる。 でも、そうでも言わないと、ナルちゃんはこの哀れな魂に寄り添って、共倒れするに違いない…それは俺が嫌だ。 詭弁でもいい。きれいごとでもいい。救いようのない魂にとどめを刺さなくてはいけないのだから…自分の良心を守るための大義が必要だった。 ナルちゃん…どうか傷つかないで… ナルちゃんは南の見開いた目に手を当てて塞ぐと、開いたままの口にキスした。 行き場を失った箱の中の怒りが部屋の中に駆け巡ってナルちゃんの体を傷つけていく。 かまいたちのようにナルちゃんの肌と服を切り付けていく。 ナルちゃんはひるまずに南にキスを続ける。 南の喉が異常に太くなって、それがどんどん上に上がっていく。 これが…それなのか… ナルちゃんの合わせた口元まで来ると、南の口からボワッと大きな黒い塊が出てきた。それはグロテスクで血がしたたり落ちた異形の赤ん坊。 耳をつんざく泣き声をあげて赤ん坊が泣く。 ナルちゃんはそれを片手でつかむと首を絞めた。 「あっ…ああ…うっ、…ああ…神様…こんな事…酷い…」 …助けを乞う様に、涙を流して上を見上げるナルちゃんに心が締め付けられる。 「ナルちゃん。大丈夫。助けてあげよう。俺も一緒に居る。ここに居るから。」 俺はそう言って、赤ん坊の首を絞めるナルちゃんの手に、自分の手を添わせた。感じた事のない異質の赤ん坊の首を一緒に絞める。 泣き声が頭の中に響いて脳が破裂しそうなくらい震えてるけど、ナルちゃんの背中を守って片手で抱き寄せる。 俺が死んでもナルちゃんが守れれば、それでいい… 絞めた赤ん坊の感触が薄れてきて、白い光になる。 ナルちゃんが息を吸いながらその光を飲み込む。 細い糸のようになって、どんどんナルちゃんに吸い込まれていく。 こんなものを吸ったら…死んでしまわないか不安になる。 沢山の子供の泣き声が耳の中に響く。 地獄に行くな。 ナルちゃんと一緒になろう… そんなナルちゃんの声が聞こえて、俺は力尽きて倒れた。 まだ意識のある中、最後まで見届ける。 目の前の光景は…事実で、 あの子は救われない魂にとどめを刺して、救った… 「圭ちゃん、圭ちゃん、お元気ですか?」 柔らかい… ナルちゃんの声に目を覚ますと、目の前に知った中庭が目に映った。 正午過ぎの真上からの日差しが、12月なのに熱いくらいに俺をポカポカにさせる。 あぁ…俺、南の家に来てたんだっけ… それで…あの箱を… 「圭ちゃん、頑張ったね!」 上から落ちてくる声の主に目をやる。 「ナルちゃん…!」 俺はナルちゃんの背中に手を回してしがみ付いて泣いた。 体のあちこちに切り傷を作って、絆創膏を付けてもらったのか、数の多さにめまいがする。可愛いほっぺにまで付いていて絶望した。 俺に抱きつかれて後ろに倒れながら、ナルちゃんが泣く俺の頭を優しく撫でた。 「圭ちゃん、怖かったね…。守ってくれたの?嬉しい…圭ちゃん…ありがとう」 俺の頭をナデナデしながらトロンとした瞳で言ってくる。 「ナルちゃん…良かった…無事で良かった…!!」 「お!圭吾、目覚めて早々にナルを襲うな!」 背後から欽司の声がして俺の足を蹴飛ばした。 うるさい!めっちゃくちゃ怖かったんだぞ! 思い出したくもないのに、頭にまだあの赤ん坊の声が残る。 一瞬、声を思い出して強張り、ナルちゃんを抱く腕に力が入って彼を締め付ける。 「圭ちゃん…追いかけない…追いかけないで」 俺の髪を撫でながら、ナルちゃんが静かに言う。 追いかけるな… あの声を追いかけるな… 俺は体を起こして、再度ナルちゃんを抱きしめた。 何なんだ、この人は…まるで俺の思いを汲むように…諭すように話す。 畏れたりしない。 ただ愛しくて、抱きしめた。 「圭吾…よかった!」 新子が文二と隣の襖から現れて、俺を見て安堵した表情を見せた。 「ナルちゃんがずっと傍に居てナデナデしてくれてたから、いい夢見ただろ?」 文二がそう言って俺に笑いかける。 ずっと…膝枕…ナデナデ… 寝てたから分からないけど、シチュエーション的には激しく燃えるな… 「ナルちゃん、またやって!」 俺はナルちゃんの膝を引き出して、頭を乗せて寝転がった。 俺を見下ろすナルちゃんを見上げる。 彼のほっぺの絆創膏を、上から撫でて涙を落とすとナルちゃんが言った。 「えへへ、圭ちゃんは甘えん坊さんだ。」 俺はナルちゃんの膝枕に激しくバブみを感じてオギャッた。 「あ、気付かれましたか?」 新子と文二が出てきた襖から、時任さんが出てきて笑いかける。 あの奥に、南が居るのか… 俺はナルちゃの膝から起き上がって、みんなが出てきた襖の中に入っていった。 「圭吾…」 髪の毛が綺麗に真っ白になった南が疲れた様子で布団に体を起こして座っていた。 こんな時に酷とは思うが、すまんな… 俺はお前が許せない!! 思いっきりぶん殴って、馬乗りになると激しくあいつを揺すった。 「何であんな事した!何であんな事した!!」 「圭ちゃん!ダメ!」 後ろからナルちゃんが俺を抱きしめる。 「ダメ…。みなみはめちゃくちゃ怖い思いした…、許してあげて。」 お前を実験したのに? お前を禍々しい物の処理に利用して、力を試したのに? 「嫌だ!許せない!!こんな事して…!絶対許さない!」 「だめ、圭ちゃん…許すの。」 「嫌だっ!!許せないッ!!」 俺が叫ぶと、ナルちゃんが俺をヨイショ、ヨイショと、南から引き剥がした。 そして俺の膝に跨って頬を掴むと自分に向けて言った。 「許しは人の為にするものじゃない。自分の為に相手を許すんだ。圭ちゃん、みなみを許して…圭ちゃんの為に。」 俺を見るナルちゃんの顔が、今まで見たことない…真剣な顔で…美しくて。 俺はこの人がわざと赤ちゃんになってると気付いた。 「ナルちゃん…」 怒りを忘れて彼を抱きしめて項垂れた。 この人は…一体何者なんだろう… あったかくて…大きい… きっと俺よりも大人で、悟ってる… もっと上の存在だ… 「圭吾…ごめん…」 南がそう言って項垂れる… 怖い思いって…なんだよ… 南…お前はあれにどこに連れてかれそうになってたんだよ… 「箱を開けると…無数の子供の手が出てきて、俺を掴んで床の下に沈めた…目を開けているのに、泥が付いたみたいに何も見えなくなって、恐怖で叫んだ…その後、ナルちゃんの声が聞こえて、その声の方をずっと見ていたけど、気付くと周りに…沢山の蠢く塊が居て。俺を圧し潰そうとした。」 淡々と語る南の髪を解かして束にすると、ナルちゃんはそれを器用に3つに分けて結んで遊ぶ。 「何で開けたか…教えてくれよ…」 南の顔を覗いて静かに尋ねる。 「無性に開けたくなって…、開けた…」 「嘘だろ!兄貴に…兄貴に言われたんだろ?」 ナルちゃんが手を止めて俺の方を見る。 その目は悲しそうで、辛そうだった。 「確かに、俺は今日、慎の所に行っていたけど、それは頼まれごとをしただけで…今回の件とは関係ない。ナルちゃんに…これを渡してくれって…頼まれたんだ。」 そう言って、時任さんに何かを頼んで持ってきてもらう。 「わぁ!喜多方ラーメンだ!」 ナルちゃんの大好物だ… ナルちゃんは喜多方ラーメンを受け取ると、嬉しそうにクンクン匂いを嗅いだ。 「忙しくて、行けないから…渡してくれって頼まれた…本当にそれだけだ。」 南はそう言って俺を見る。 「今まで、除霊だの呪術だの…人よりもやって来た方だと思っていた。多少の事は耐えられると、自負していた…。なのに、怖かった…本当に怖かったんだ…。死ぬことの恐怖じゃない…底なし沼にずっと落ちるような…、宇宙に1人投げ出されたような…いつ終わるかも分からない恐怖に包まれて、俺は自分の底を知った…」 傍らのナルちゃんに手を伸ばして触る。 「ナルちゃん…ありがとう…俺を助けてくれた…」 涙がポロポロ落ちてナルちゃんの握った彼の手は震えていた。 「みなみ、追いかけちゃダメだよ。みなみは一度つながってるから…決して追いかけちゃダメだよ?戻ってこれなくなるよ。ナルちゃんは何も出来ないよ。良いね?」 そう言って、南の頬を撫でて髪にキスすると、ナルちゃんは喜多方ラーメンを傍らに置いて、また南の髪の毛を結いだした。 「ふふ、ナルちゃんは不思議だ…何者かも分からないけど…俺を助けてくれた。それで良い。それだけで十分だ…。本当にありがとう…ございました。」 そう言って手を合わせるとナルちゃんに一礼した。 まるで、神様にする様に… ナルちゃんは南の頭に手をポンと置いて、よし!と言った。 後ろに居た欽史がそれを見て笑って、新子が萌え死んだ。 「白髪の南さんも素敵…」 あぁ、そうかい…全くよ。 「箱の中の云々は、ナルちゃんが吸い込んでしまった…その後、この箱からは何も感じなくなった…て事はナルちゃんがまた解決したって事なの?」 文二が新子に聞いてる。 「私は遠くに居たから分からないけど、吐き気がするくらい重い空気が一瞬流れて、頭が割れそうなくらい震えた後、スッと空気が軽くなっていった…ちょうど、ナルちゃんがその光を吸い込んだ時と一致しているなら…そういう事なんじゃない?」 そうだ、新子は現場に居なかった。 あの恐怖の現場に… 圧倒的な力を持つナルちゃんでさえ、震えた憎悪… 本当に…危険な状態だった… 「ナルちゃんは…震えてた。怖かったんだ…あれに対峙するのが怖かった…南を助けるために、怖いのに…仕方なくやったんだ…」 悔しくて手を握る。爪が食い込んで痛みが走る。 許しは人の為にするんじゃない… 自分のために…人を許すんだ… ナルちゃんの言葉を思い出して、握った手から力を抜く。 「南さん、髪の毛全部真っ白になっちゃったな…」 縁側に座って夕陽のあたる庭を、ぼんやりと眺めていると、欽史がそう話しかけてきた。 「お前もみた?南から出てきたあの塊…」 俺は視線を外さないで欽史に尋ねる。 「何の事だ?俺には、黒い靄にしか見えなかった。ナルとお前がそれに手を入れていると、だんだんと靄の内側から白く変わって行って、ナルが息を吸いながらそれを吸い込んでいった。その後、お前が崩れる様に倒れて…ナルが白い光を全部吸った後、俺がお前を引きずって、さっきの場所まで運んだんだよ。」 俺の見ていたのと違うんだ。 新子ならあれが見えたのかな… 後ろの部屋で眠る南をナデナデするナルちゃんが虚ろに見える。 あなたは誰なの… 俺の心の問いが聞こえたみたいに、顔を上げてじっとこちらを見る。 その目の奥はやっぱり空虚で、悲しそうで空しそうにしている。 「ナルちゃん…」 俺がそう呼ぶと、トロんとした目に戻り笑いかけてくる。 「圭ちゃん」 そう言って、南の髪を三つ編みにした部分を持ち上げて俺に見せてくる。 俺が彼の嘘に気付いたことを気付いたに違いない… でも、俺はナルちゃんが… 俺を欺いていたとしても、構わない。 それが身を隠す術だとしても…気付かないフリをしよう。 ナルちゃんがそうしたいのなら、俺はいつまでも気付かないフリをしよう。 「こっちにおいで」 手を伸ばしてナルちゃんを呼ぶと、嬉しそうに俺の方に来る。 俺の背中におんぶするみたいに、おぶさって揺すってくるから。 俺はナルちゃんをそのままおぶって庭を歩いた。 「ほら、ナルちゃん。魚がいるね、落としちゃおうかな?」 「やだ、やだ、魚に食べられる!」 可愛いナルちゃん… 俺の背中に顔を置いてくったりと身をゆだねてる。 このまま爺さんになって死ぬまでナルちゃんと居たいな… 美しくて、可愛い、怖くて強いナルちゃんと一緒に居たいな… 「圭吾~帰るぞ~」 文二の声に振り返って答える。 「おう、今行く~」 車に乗って隣のナルちゃんを見る。 ヘッドフォンを付けて目を瞑ってる。 兄貴のそばを通るからそうしているの? 心がざわつかない様に、そうしてるの? 目の前の文二の車の後を追いながら、見慣れた道を走る。 ウィンカーを出して、文二の車が右に…俺の実家に入って行く。 「…なんで曲がるの」 小さく呟いて通り過ぎる。 「日菜子ちゃんに会わせたいんだよ。」 目を瞑りながらナルちゃんが言う。 「この前会ったら怖かったから、今日は会わない~。」 俺がそう言うと、ナルちゃんは目を瞑ったまま、ふふっと笑った。 大人みたいに笑うナルちゃんを見て 俺はまた愛しいと思った。 ナルちゃんの存在が界隈に広まって物議を醸していたある日。 兄貴は南とまたナルちゃんを利用して実験をした。 「ナル、お前にはこの人がどう見える?」 兄貴と南がナルちゃんを連れて部屋に入って行ったのを見た。 一緒に居た人は、憑り殺される寸前の宿主。 昨日から家で預かっていて、後は死ぬのを待つだけの人だ。 「慎…ナルちゃん…どうするの?」 戸惑ったナルちゃんの声が聞こえる。 「助けてナルちゃん」 南の声がする。 「ん~~~、慎、怖いい!」 怯えるナルちゃんの声がして俺は動悸がした。 「ナル…大丈夫だから、傍に居るから。ね?」 聞いたこともない甘い声で兄貴がナルちゃんに話しかけてる。 居てもたってもいられなくなり 襖を開けて中に入った。 そこにはナルちゃんを抱きしめる兄貴と、狂った宿主をナルちゃんに向き合わせている南が居た。 「何…何してんだよ…」 「圭吾…」 ナルちゃんは狂った宿主の口から黒い靄を吸い込んでいた。 苦しそうに目から涙を流して、兄貴にしがみ付いて必死に吸い込んでいる。 「何してんだよ…」 黒い靄を全て吸い込むと、ナルちゃんは嘔吐して激しく震えた。 「ナル…」 兄貴がナルちゃんの体を支えて吐しゃ物が髪に着かない様にする。 ナルちゃんが吐いたものの中に蠢く翡翠の勾玉が見える。 真ん中に穴のない勾玉… 「南、早く…」 兄貴がそう言って、南にその勾玉を拾わせた。 南はそれを小さな白い骨の入った桐箱に入れて札を貼った。 何枚も何枚も札を貼って、真言を唱える。 兄貴の腕の中で唇を白くして震えるナルちゃんが居た。 後は死ぬのを待つだけだった宿主は顔色を取り戻して起き上がる。 俺はナルちゃんから目を離さないで見ている。 小さく兄貴の名前を呼んで、兄貴の体に顔を寄せて泣く、ナルちゃん… なんでこんな事するの… 可哀想だ… ナルちゃんは翡翠の勾玉に呪われた宿主を助けるために利用された。 兄貴と、南の為に利用された… 「ナルちゃん、帰ったらラーメン作ってあげるね」 「わ~い」 文二や欽史、新子が俺の実家で何をしてるかどうでもよかった。 ただ、ナルちゃんを兄貴に会わせたくなかった。 どうせ、また利用するだけなんだ… 家に着いて喜多方ラーメンを作ってあげる。 「わ~い、キタキタラーメンすき~!」 可愛い… 「ナルちゃん、ネギ入れる?」 「入れる~!ネギ好き!」 そう言って冷蔵庫からネギを出して俺に渡した。 「偉いね?ナルちゃん、分かってるなぁ~」 俺がそう言うと、えへへ~。と言ってモジモジする。 お湯を沸かしてラーメンを入れる。 電気ケトルでもお湯を沸かす。 スープを作って茹で上がったラーメンを中に入れる。 上にネギをかけてダイニングテーブルで待ってるナルちゃんの前に置く。 「わ~い。いただきま~す!」 そう言ってラーメンを美味しそうに食べるナルちゃんを見つめる。 頬の絆創膏に手を伸ばして外す。 傷はすっかり治っていた。 「ナルちゃんは何者なのかな…気になるのに、どうでもよくて…。もう、このまま死ぬまで一緒に居たいよ…」 俺がそう呟くと、ナルちゃんはにっこり笑って、俺にネギをくれる。 「圭ちゃん、ネギだよ?あ~ん!」 「ふふ、あ~ん」 俺とナルちゃんがイチャラブしていると文二達が帰ってきた。 「何で帰ってくるんだよ!」 俺が怒って言うと、逆に頭を叩かれて怒られた。 「日菜子ちゃん、泣いてたぞ!」 俺はナルちゃんにうつつを抜かしている。 許嫁の存在も忘れて、人間じゃないこの子に執着している。 「圭吾はもうダメだ~。許嫁の日菜子ちゃんはお前以外と結婚出来ないのに…」 最低だ~!と喚きながら新子がナルちゃんの隣に腰かけた。 「ナルちゃん、美味しい?」 「美味しい!」 満面の笑顔で答えるナルちゃんを見つめて口元が緩む。 新子はそんな俺を見て、ため息をついて言った。 「明日。実家に戻って、日菜子ちゃんに会いなさい。」 「何でだよ!」 「日菜子ちゃんが悲しいからだよ?」 ナルちゃんがそう言って俺を見つめる。 「圭ちゃんの事、待ってるんだよ。行ってあげな?」 ナルちゃん… 俺は頷いて言う事を聞いた。 「ナルちゃん、もう怪我治ったの?すごい~!」 そう言って体に張った絆創膏をはがしていく新子。 はがされる度に痛い!と言って笑うナルちゃん… 「俺はナルちゃんの方が好きだよ…」 小さく言って席を立った。 報告書を書いて、昨日の分とまとめる。 明日持っていこう…貯まった報告書… 「ナルちゃん…お休み」 控えめにお風呂に入れて寝かせてあげる。 今日は疲れたよね…あんな怖い目にあって… 後ろからナルちゃんを抱きしめて、一緒に寝る。 体の細さ、柔らかさ、暖かさを感じながら、ナルちゃんの髪の匂いを嗅ぐ。 このまま2人きりになりたい… 静かに目を閉じて、俺は眠った。

ともだちにシェアしよう!