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第11話 恋人
まだ5才児だから。
親として見守っていくことが大切。
「おとーさん、友だち連れてきた〜。」
今日は俺の仕事は、平日だけどシフトの都合でお休み。なので家の片付けなどなどをこなしていた。
帰りの時間になっていたのを、すっかり忘れていたが、もう独りでも帰ってこれるようになっているので、俺はそこまで過保護になっていない、んだろうな。
「こんにちは〜」
と、息子の声ではない声が響いていた。隣の子でもない。誰だろう?
「ミカちゃんも一緒だよ。」
と、同じ園の女の子が顔を出した。
「おぉっ?こんにちは。久しぶりだね。」
どうも亮と気が合う子らしく、このごろよく一緒になっているらしい。そっかぁ、彼女かあ。
「もうカノジョになったんだもんね。ねえ。」
「ほぉ〜、そうなんだぁ。いいねぇ。あとでジュースとお菓子持っていこうかな。」
「あたしたちの邪魔をしなければ、入ってきてもいいわよ。」
手をぎゅっと握られた亮は、ミカちゃんを抱き寄せていた。マセてるな、この歳で。
「ふふっ、じゃあ、ちょっとだけ行くね。ごゆっくり〜。」
と手を振った。亮の腕に絡みついて、家の奥に入っていった。うん、マセてるな。
そのミカちゃんのご両親は、何度か会ったことはあった。だから、顔は覚えていた。
「あら、佐々木さんですね。」
お菓子をなんか揃えてこようと、スーパーに行ったところ、たまたま偶然、そのお母さんに会った。
たしか俺の1つ年上だそうで、ミカちゃんも次女で子ども3人いるとか。
ちなみにこれは保護者連絡会議のメンバーの情報網から入手したデータだ。
「あ、どうも。ミカちゃん、ちょうど今、ウチに来てますよ。」
「あらあらぁ。いつもすみません。あの子も積極的で。」
お母さん似ですねと心の中で思っていた。実際、このお母さんも押しが強い性格なので、正直、俺は2歩くらい離れていたいくらいだ。
「早いですよねえ。もう5歳になったんですから。恋人も出来て、俺はちょっと安心かな。」
なんて牽制球を投げてみると、
「ミカも将来を考えてるなんて、ちょっと早い気もしますけどねえ。でもこれくらいしないと、世間に置いてけぼりになっちゃいますからねえ。」
と、ちょっと的外れ?なセリフを言ってくる。うーん、なんか、ここのご家庭は大丈夫なんだろうか?
「あ、佐々木先輩。どうしました?」
幼稚園の中を覗き込んでいると、渡辺先生が声を掛けてきた。
「あ、いや、仕事してるなーって思って。」
「ふふっ。先輩、今日も行っていいですか?ちょっと遅くなりそうですけど。」
実は、渡辺先生は、ここ最近、うちに寄ってきているのだ。きっかけはなんだったか忘れたけど、秋以降あたりから、鍋料理のタイミングから来ることが多くなっていた。
今までの話には、打ち明けないように秘密にしていたんだけど、こんなタイミングになっちゃったけど、実はそうなのだ。
「おう。なんかおかず作っておくから。簡単な野菜炒めでもいいかな。最近は人参が安くなったからな。」
「いいですねえ。それじゃ、お願いしますね。」
あぁ、と振り返ったタイミングで振り返った時、正門から数人の奥さんたちが入ってきた。
「あら、佐々木さーん」
と、これまた大きな声で叫んでくるものだから、中に入った渡辺先生も、また顔を出したくらいだった。
で、井戸端会議の話題となると、やっぱり、
「佐々木さんの意中の方ってどなたなのかしら?」
というコイバナになってくる。こういうことになるもんだから、さっさと切り上げたいんだがなあ。
「はははっ。先輩もモテるから。羨ましいくらいですよ。」
ご飯を装って食卓の用意が出来たところで、俺と亮と渡辺先生とで、席に着いた。
「俺は、そういう話は苦手なんだよ。奥さん連中に喋るのなんて、無理無理。」
BL本にあるような、あんだけ喋ったり考えたり勘違いするのなんて、俺には考えられない。
だって、実際の男に、あんなことやってるヤツなんて、そうそういないぞ。
「あーぼくニンジンいく〜」
いろんな形にした人参の塊を、亮がレンゲで取り出している。
「人参ばっかり取ってないで、肉も食え。ほら。」
箸でひょいひょい取皿に突っ込んでいく。お汁が溢れそうになって、そーっと持っていく。
「亮くんも、いっぱい食べるんだねえ。お昼はいっぱい勉強したかな?」
「今日の勉強は簡単だったよ。全部できたもん。」
「んん?今日は何やったんだい?」
「えっとねえっとね、オルガンとね、パズルとね、紙芝居とね、飾り付けの折り紙とね…」
箸を動かさずにいろいろ話してくる。先生と一緒に聞いて、話して、答えていく。
食器も片付け終わって、ゆったりのんびりでいる。亮はまたおもちゃを出してきて、独りで遊んでいる。
「もう、ウチで過ごしてみるか?」
ぼそっと呟いた。先生は頭をこっちに向けた。
「大人が1人で子どもを見るのは、ハッキリ、厳しい。どの家庭でもそうだろうからな。だからという訳じゃないけど、二人で居たほうが、その後もなにかと良いと思うんだ。」
って言ってる傍から、じーっと、なんだかニヤニヤしながら見つめてきてる。
「先輩、…らしくないですね。ちゃんと話してるなんてw。」
「お、俺だって、たまには言うぞ。」
「先生も、もうずっとウチにいればいいのにー。もういいでしょ?」
と、亮も加勢して誘い込む。
「そうですね。はい、僕で良ければ。」
先生の返事も、簡単素っ気ないものだった。
甘い言葉なんて無い、ムードなど関係ない、これくらいサラッと話す、俺はこれくらいしか出来ないヤツだからな。って言ってみたんだけど、
「不器用なところが、先輩がモテるところなんですよ。妙に器用な人が出てきてるみたいな世の中だけど、先輩みたいなこんなところが男っぽいって、奥さんたちは感じてるんじゃないですかねえ。」
なんて言ってくる。
「俺は、こういうところで終わらせるタイプだからな。」
先生と亮は二人並んで、俺を覗き込んだ。
「不器用ですよね。でも、そのままで良いと思いますよ。」
「そのままでいいよ〜」
二人の意見も、一致していた。
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