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第4話
「やっぱ一緒に行ったんじゃん」
「いや飛行機にはひとりで乗ったし。その、相手とは香港で合流して」
「あ、あれか。まえに広州か深圳に赴任してたときにつき合ってた相手とか?」
祐樹はちょっと和室を気にした。
達樹に知られるのはかまわないが、両親には聞かせられない。
ためらう祐樹の顔色を読んだ達樹は、さっさと食器を流しに下げるとごちそうさまと声をかけてから2階に上がっていった。祐樹も後を追う。
4畳半の狭い部屋だったが、兄弟4人分の個室を用意してくれた両親はえらいと今になって祐樹は思う。
いまだに実家を出たときのまま残されている祐樹の部屋に入って、達樹はデスクチェアに座った。向かい合うベッドに祐樹も座る。
「で?」
「わかってると思うけど、恋人は男だよ。中国語の通訳とかコーディネーターをしてる人で、たまたま出張で香港に行くっていうから仕事終わりで合流したんだ」
相手のことを聞くまであきらめないらしいと悟って、祐樹は正直に告げた。達樹には大学生のときに祐樹の性癖について知られてしまっていたから下手に隠す必要もない。
「ふーん。じゃあ、日本人?」
「うん」
「いつからつき合ってるんだ?」
「え、と。1か月ちょっとまえから」
「は? そのころ中国に出張してなかった? え、なに、取引先?それとも同僚?」
「うーん。まあ同僚、かな」
「なんだ、そのあいまいな返事」
達樹の眉間にしわが寄る。
今回の契約から一緒に仕事をするからそうなったのだが、そんな事情を知らない達樹には不信感を与えたらしい。
「なあ、会わせろよ」
「え、なんで?」
「会ってみたいから」
「やだよ、そんなの」
「なんだよ、身内に紹介できないような相手なのか?」
「えー。や、そうじゃないけど、なんで急に?」
いままで達樹に恋人を紹介しろなんて言われたことはなかった。たまたま見られた大学時代の恋人以外、達樹はだれも知らないはずだ。
「そんなこと、いままで一度も言ったことないのに」
「いや、なんていうか。祐樹がなんだかすごくやわらかく笑ってるからさ、どんな相手かなって思っただけ」
「…なにそれ」
「お前にそんな顔させるやつなんだろ。気になるじゃん」
「そんな顔って、なに? ふつうだよ」
「自覚ないのか。お前、なんか安心した顔してる」
意外なことを言われて祐樹は黙りこんだ。
なんかちょっといたたまれない感じがする。もぞもぞするような、うわーと叫びたいような。
どうすんの、この空気。
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