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第5話

「だからさ、幸せそうだって言ってるんだよ」  ばか、と小突かれて祐樹は絶句した。  よもや実家に来てそんなことを兄から言われるとは。かあっと一気に体が熱くなり、みるみる顔が真っ赤になった。ほんとにどーすんの、これ。  そんな祐樹を見て、達樹はからかうわけでもなく、やさしい口調になる。 「気になるに決まってるだろ。大事な弟なんだから。どんな奴とつき合ってるのか、ちゃんとしたいい相手なのかって」  達樹のいう「ちゃんとしたいい相手」がどういう人物を指すのかさっぱりわからないが、達樹なりに祐樹を心配していることは理解できた。  思い返してみれば10年前、祐樹が男性としか恋愛できないと告白したときも、達樹は嫌悪感などは見せずただひたすら祐樹を心配した。  高校時代には女の子と付き合っていたことを知っているから、恋愛相手は男に限らないんじゃないのか、いまがたまたま男性に魅かれているだけ、また女性と恋愛する可能性もあるんじゃないのかと諭すように問われた。  それに対して祐樹が返せたのは、高校時代の3年間ずっと抱きつづけた違和感と、恋愛相手だった女の子たちへの罪悪感の告白だった。  相手に不自由しないと思われていた3年間、祐樹は必死に気持ちを向けてくれる相手に応えようと頑張った。女の子たちはみんな祐樹がとても好きで、やさしい気持ちやあたたかい心を差し出してくれた。  それなのに、祐樹は彼女たちに何も返すことができなかった。努力はしたけれどとても苦しくて、自分が情けなかった。もうこんな思いはしたくないし、相手にもさせたくない。  女性は恋愛相手として好きになれないのだと、それを事実として自分自身に許したいと達樹に告げた。今後はもう女性とはつき合うつもりはないと。  達樹はそうか、と心配そうに祐樹を見つめた。その表情に嫌悪感や拒否感は浮かんでおらず、へたりこみそうなくらいほっとしたのを今でも覚えている。  あのとき、お前はそれで大丈夫なのかと訊かれたから、正直にわからないと答えた。でも今なら、大丈夫だよと答えられる。 「えーと、その…心配してくれてありがとう」 「どういたしまして。で?」  どうやら会わせるまで納得する気はないようだ。祐樹はちょっと困った顔になる。 「あのさ、悪いけど会わせることはできないんだ」 「なんでだよ?」  達樹の声がとげとげしくなった。

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