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第6話
「心配しなくても達樹に会わせられない人じゃないよ。でも日本にいないから」
「あ、出張中か? 通訳って言ってたっけ?」
「うん。2年間の海外赴任中。2日前に日本を発ったばかり」
「はあ? 2年? え、じゃあ遠距離?」
「うん、でもいまだけね。1か月後におれが合流する」
「ええ? どういうことだよ。ちゃんとわかるように説明しろ」
祐樹は3週間の中国出張中に孝弘とつき合うようになったこと、香港出張と合流して旅行したこと、祐樹の会社と専属契約を結んで大連の新規プロジェクトのメインスタッフとして、2日前に赴任したことをさらりと話した。
祐樹がゲイだと知っている達樹が相手とはいえ、身内に自分の恋愛の詳細を知られるのはやはり恥ずかしくて、かなり端折った内容になった。
「ふーん。大丈夫か、そいつ。出張中にクライアントを口説くとか。祐樹もさ、出張で3週間一緒だったくらいでつき合おうって決めていいのか?」
達樹は黙って祐樹の話を聞いていたが、出張中に口説かれたと知って、すこしばかり孝弘に社会人として不信感を持ったらしい。
嫌悪感とまではいわないが、ちょっと眉をひそめている。
最初のなれそめから話すとかなり長くなるし、いろいろとややこしいので5年前のいきさつを省略したのがよくなかったようだ。
「いや、その3週間だけで決めたってわけじゃ…。あー、なんていうか…」
祐樹はもごもごと口ごもる。
やっぱこれは最初っから話さなきゃダメだよな?
「いやべつに、知り合ってからの時間の長さは関係ないし、好きになったら立場だって乗り越えちゃうもんなんだろうけど」
祐樹のどこまで話したものだかと迷った表情を、悪いほうに誤解したらしい。達樹があわてて、お前の相手に文句言ってるわけじゃないけど、と言い訳めいたことを口走る。
「あー、うん。わかってる、心配してくれてるんだよね」
達樹のその気持ちはありがたいが、家族のなかで唯一の理解者ともいうべき達樹に孝弘を誤解されるのはこまる。
「あのさ、すこし長くなるんだけど、最初から聞いてくれる?」
「最初から?」
達樹が首をかしげた。
「うん、さっきは話が長くなると思って話さなかったんだけど、初めて孝弘に会ったのは5年前の北京研修のときだったんだ」
祐樹の言葉を聞いて、5年前に?と達樹はつぶやいた。
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