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第4話
これらの計画が進行する中で、孝弘はじょじょに会社の仕事から離れるようになっていた。昨年から祐樹の会社の短期の通訳やアテンドを何度も引き受けていたからだ。
「なんかごめんな。こんな新規事業立ち上げの時期に抜けちゃって」
「気にしなくていいんだよ、孝弘。2年後に思う存分こき使ってあげるから」
翡翠色の皮がきれいな餃子を頬張って、レオンがにっこり笑う。
「こわ…。こっちに正式に就職しようかな」
「あー、それもあり得る? そしたら祐樹さんとずっと一緒にいられるから?」
レオンの質問に孝弘はあっさり首を横に振る。
「そんなわけないだろ」
「なんで? 大連では一緒なんでしょ。ずっと通訳につくんじゃないの?」
「いや、まじめな話、それはないな。正社員採用の話はあったけど、その場合、大連の次の赴任先はどこになるかわからないし、たぶん祐樹とは別のエリアになる可能性も高いと思う。どのプロジェクトに配属されるかは選べないし、掛け持ちもあるんじゃないかな」
今は新規立ち上げだから張り付きになっているが、プロジェクトの進行次第で今後はわからない。
「そういうもんなの?」
「たぶん、日本の企業はね」
レオンには理解しにくい感覚のようだ。実際には日本企業で正社員として仕事をした経験のない孝弘にもよくわかっていないが。
「どっちにしても俺は櫻花公司が好きだし愛着あるし、この先も育てていきたいから、やめる気なんかこれっぽっちもないから。ほんと言うとこの2年離れるのも不本意だし、いまもできるだけ手伝いたいと思ってる。契約違反にならない範囲で」
「うん、それ聞いて安心した。祐樹さんがいるから、ひょっとしたら、もうこっちに戻らないってこともあるかなって、ちょっと考えてたんだよね」
「なんだよ、言えよ。そんな心配しなくていいから。はっきり言っとくけど、祐樹がこっちに来ないって言っても2年後、俺は戻るからな」
「そうなんだ」
レオンが意外そうに、大きな丸い目をさらに見開く。
「当たり前だろ。俺はこの仕事が好きなんだ。それに祐樹の任地がどこになっても、俺がフリーに動けるほうが何かといいだろ」
「ああ、そういうこと。ていうか、副業禁止とかダブルワーク禁止とか日本の企業ってほんとめんどくさいよねー」
稼ぐ手段をつねに複数持っているのが当たり前の香港社会で育ったレオンには、日本企業の規則は息苦しく思えるようだ。
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