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第8話

 日本でひきこもり生活をしているというぞぞむの弟からの提案で、2年前に彼にホームページを作らせて個人向けのインターネット販売を始めたところ、そちらもかなり順調に売上を伸ばしてきている。  今後も確実に伸びていくだろうから、ネット販売は彼をメインに任せて今後も拡大していこうという計画がある。こちらのメインターゲットは日本人だ。  日本と違い、中国ではまだインターネットができるエリアは都市部のごく一部だし、ネット利用者も限られている。社会主義ならではの情報統制もあり、まだ個人がインターネットを利用して買い物をすることは難しい。  だが今後はどんどん利用者が増えていくだろうから、そうなると中国国内向けの商品もそろえていく必要があるだろう。  現在、会社の事務所兼倉庫は北京市内に構えていて、留学時代から付き合いのある中国人スタッフ2名が商品管理や発送を行っている。  いままでの仕入れや商品の交渉はぞぞむと孝弘が担当していて中国各地を飛び回っていたが、今回、孝弘は祐樹の会社と専属契約を結んだため、2年間その仕事を離れることになった。  契約のなかに副業禁止の規定があるためだ。  それについて、ふたりは一切文句を言わず孝弘を応援してくれた。5年越しの恋が実ったと知っていたからだ。  そのうえで、孝弘がいずれ本気で祐樹を引き抜きたいと考えていると、先日ふたりに相談したのだ。  恋人をじぶんの会社にスカウトすることに孝弘も多少、公私混同かと考えるところはあったものの、将来を考えてあえてそんな選択肢を入れてみることにしたのだ。  もちろん祐樹の希望が最優先だから、無理やり押しつけるつもりはない。 ただ、ふたりには先に話を通しておくべきだろうとひとまず話しておいた。  話を聞いたふたりは「べつにありなんじゃない」と軽くうなずいた。 「ねえ、俺が思うのはね、販売や仕入れのほうを手伝ってもらうのもいいけど、それより祐樹さんは接客はどうなのかなって」 「接客?」 「それこそ、カフェで」 「ええ? あー、まあ似合いそうではあるけど」  カフェエプロンをつけてにっこり笑う祐樹を想像して、悪くないと孝弘も思う。

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