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第10話
「ま、とりあえず店だよな。スタッフの仕上がりはどう?」
「前日にかるくシュミレーションはするよ」
孝弘の質問にレオンが答えた。
櫻花珈琲は4日後にテストオープンとして、友人知人と雑誌などの記者を招いてかるく店のお披露目パーティをすることになっている。そこでどんな評価を得られるか。
「ああ。高原さんが指導に来てくれるってさ。ありがたいよ」
ぞぞむが煙草に火をつけ、ふーっと煙を吐く。
北京店のカフェスタッフ3名は先月から市内のホテルのカフェで接客とドリンクの作り方の研修中だ。ひとまず日本のコーヒーチェーンレベルの味を目標にしている。
パーティには孝弘も招待されているのだが、現在の立場上、ホスト側ではなく客として参加するのが変な感じだ。
この先の2年間は会社にとっても孝弘にとっても、けっこうな分岐点になるだろうと予感がしていた。
祐樹とともに孝弘は大連で結果を出すために奮闘しなければならないし、その間、櫻花公司のほうは2年間で10店舗の出店計画を立てている。
店舗をもてば今までの卸販売とは違って、スタッフも扱う商品数もアイテム数も増える。それをカバーする経営体制に持っていかなければならない。
広州で祐樹を見かけた後、相談を持ち掛けたぞぞむは孝弘が抜けるのは痛いなと言いはしたものの、絶対に祐樹を捕まえろと発破をかけただけで、仕事の件では一言も不満を言わなかった。
だから孝弘は遠慮しないことにした。
会社のことは気になるし、できる範囲でやれることはするつもりだが、まずは祐樹と大連の仕事を優先すると決めた。
「まあ、いいじゃない。大連はこれから2年間のプロジェクトなんでしょ。そのあいだにゆっくり考えて決めれば。孝弘だって気が変わってあっちに入社するとか言うかもしれないし」
「いやー、ないだろ、それは」
いくつもの会社の通訳やアテンドを引き受けているうちに、正社員にというスカウトは何度か受けた。けれども孝弘はそれらをすべて断っている。
収入的にはいまより安定するのかもしれないが、金銭よりも自由に仕事を選べる気楽さのほうが重要だった。
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