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第11話
「孝弘は企業の駒で仕事するより、じぶんで考えて動くほうがいいんだろ。フリーで仕事するのに向いてると思ったから、俺だって声掛けたんだし」
「え、そうなのか? たんに気が合うからだと思ってた」
「そんな簡単な理由じゃねーよ。けっこう賭けみたいな仕事に引っ張り込むんだし、じぶんでじぶんの責任負えそうにない奴は誘えねえよ」
ぞぞむがそんなふうにじぶんを評価していたとは知らなくて、孝弘はちょっと驚いた。
孝弘の表情に、ぞぞむはにやりと笑って見せる。
「全然知らなかった」
ぞぞむに誘われたときのことを思い返してみても、そんなことを考慮して声を掛けてきたとは思えない気軽さだったと思う。
「孝弘さあ、俺と一緒に会社やってみねえ?」
串焼屋で炭火のうえに何本も羊肉の串を並べながら、何の気負いもなさそうな気楽な声でぞぞむは言ったのだ。
春先の風が気持ちい夜のことだった。
並べた羊肉にクミンと花椒(ホァジャオ)をたっぷり振りかけて、孝弘は顔をあげた。
「なんの会社?」
「中国雑貨の卸って感じかな。こっちで仕入れて、日本の雑貨店とかに販売する」
「へえ…。出資しろってこと? 金はそんなに持ってないけど」
「いや、出資もだけど、実際に買付けとか交渉とか。中国の地方に行って工芸品の買付すんの、お前、そういうの向いてると思うんだよな。それともどっか企業に就職したい?」
留学も3年目になり祐樹の会社でのアルバイトも長くなったし、駐在員たちからのアテンド依頼やその口コミで通訳だのちょっとしたコーディネートだの、なんだかんだと仕事は入ってきていた。
そのうちのいくつかの会社からは、現地採用の社員はどうだと打診も受けている。中国事情に詳しい通訳は日中関係が深まるにつれて引っ張りだこになっていた。
コネも実績もある孝弘は、就職したければいつでもできる状況だった。
「正社員の話はあるけど、正直迷うな。安藤さんからもお誘い受けてるけど、なんか駐在員見てるとああいう働き方って俺にはどうなんだって思ったりもしてて。親としては日本企業に入れば安心するんだろうけど」
正直な気持ちをぞぞむに言うと、にやりと笑ってビールを注がれた。
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