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第11話 再会の口づけ

「会いたかった……」  桐谷がそう口にしたとき、俊の瞳に涙が浮かんだ。  懸命にこらえようとしているが、涙は今にも大きな瞳から零れ落ちそうで……。  俊の瞳からキツさが消える。 「……っ……」  とうとう涙が溢れ、頬を伝うが、彼は涙を見られまいとうつむき、少し長めの前髪で顔を隠してしまった。 「俊……」  桐谷が顔を覗き込んでも、彼は視線を合わせようとしない。  大粒の涙が幾筋も頬を伝っていく様子に、桐谷の胸がどうしようもなく痛んだ。  不可抗力だったとはいえ、俊が悲しみと苦しみの只中にいたとき、彼の傍にいてあげられなかった。……桐谷はそんな自分を責めた。  理由も分からずに突然奪われた平和な日常。俊はずっとたった独りで、絶望と闘ってきたのだろう。  桐谷は俊の細い手首をつかむと、強引に引き寄せ、腕の中に抱きしめた。 「せんぱ――」  俊の言葉が途中で消える。桐谷が彼に口づけをしたから……。  スナックではクラシック音楽が静かに流れていた。  桐谷と俊は、一番奥にある二人掛けのテーブル席に向かい合って座っていた。 「なににする? 俊」  桐谷は俊へメニューを渡した。  彼はしばらくいろいろなカクテル類に目をやっていたが、 「ダブルチョコレートフロート……」  結局はアルコールではなく、いかにも甘ったるそうな飲み物を注文した。  桐谷の口元が自然とほころぶ。 「相変わらず甘党なんだな。この店でダブルチョコレートフロートを頼むのって、かなり珍しいと思うぞ。なに? 俊はアルコールはダメなのか?」 「そんなことはないけど……、強いほうではないかな」  俊がどこかぎこちない微笑みを浮かべる。泣いたせいでまだ少し目が赤い。

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