11 / 72
第11話 再会の口づけ
「会いたかった……」
桐谷がそう口にしたとき、俊の瞳に涙が浮かんだ。
懸命にこらえようとしているが、涙は今にも大きな瞳から零れ落ちそうで……。
俊の瞳からキツさが消える。
「……っ……」
とうとう涙が溢れ、頬を伝うが、彼は涙を見られまいとうつむき、少し長めの前髪で顔を隠してしまった。
「俊……」
桐谷が顔を覗き込んでも、彼は視線を合わせようとしない。
大粒の涙が幾筋も頬を伝っていく様子に、桐谷の胸がどうしようもなく痛んだ。
不可抗力だったとはいえ、俊が悲しみと苦しみの只中にいたとき、彼の傍にいてあげられなかった。……桐谷はそんな自分を責めた。
理由も分からずに突然奪われた平和な日常。俊はずっとたった独りで、絶望と闘ってきたのだろう。
桐谷は俊の細い手首をつかむと、強引に引き寄せ、腕の中に抱きしめた。
「せんぱ――」
俊の言葉が途中で消える。桐谷が彼に口づけをしたから……。
スナックではクラシック音楽が静かに流れていた。
桐谷と俊は、一番奥にある二人掛けのテーブル席に向かい合って座っていた。
「なににする? 俊」
桐谷は俊へメニューを渡した。
彼はしばらくいろいろなカクテル類に目をやっていたが、
「ダブルチョコレートフロート……」
結局はアルコールではなく、いかにも甘ったるそうな飲み物を注文した。
桐谷の口元が自然とほころぶ。
「相変わらず甘党なんだな。この店でダブルチョコレートフロートを頼むのって、かなり珍しいと思うぞ。なに? 俊はアルコールはダメなのか?」
「そんなことはないけど……、強いほうではないかな」
俊がどこかぎこちない微笑みを浮かべる。泣いたせいでまだ少し目が赤い。
ともだちにシェアしよう!