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第12話 仮初めの幸せ
さっき俊の自宅マンションへ続く道で、彼を抱きしめキスをしたあと、桐谷は半ば俊をさらうようにして、この店へ連れてきたのだった。
桐谷はメニューを閉じると、ウエイターを呼んだ。
「ダブルチョコレートフロートと、ウイスキーの水割りをシングルで。あとはサンドイッチでももらおうかな」
「かしこまりました」
ウエイターが立ち去ると、二人の上に沈黙が降りてくる。
俊はまだ十三年という月日の壁を超えることができないのか、桐谷に対して今更ながらの人見知りをしているみたいだ。
桐谷は沈黙を破って問いかけた。
「俊、あれからずっとどうしていたんだ?」
昔の話に言及した途端、ピリッと鋭いオーラが俊から発せられた。
「憶えていません。過去のことはなにも」
俊は短くそう答えると、唇を噛みしめてうつむいてしまった。
桐谷としては事件のことを聞いたつもりはなかったのだが、俊にしてみれば過去の話といえば、嫌でも事件と結びついてしまうのだろう。……失言だった。
「そうだよな……ごめん……」
「…………」
気まずい空気に包まれそうになったとき、ウエイターがダブルチョコレートフロートとウイスキーの水割りを持ってきてくれ、救われた。
チョコレートドリンクの上に盛大に乗ったアイスクリームと生クリームを前にして、俊の表情が少し和らぐ。
大好きな甘いものを前にした反応は、昔とほとんど変わらない。
俊はアイスクリームと生クリームをスプーンですくい、口に運びながら。小さく呟いた。
「……でも、びっくりしました。まさか桐谷先輩があんなところにいるなんて」
「オレもびっくりしたよ。まさか俊がこんな近くに住んでるなんて、思っても見なかったから」
桐谷もウイスキーを一口飲んでから応えた。
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