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第13話 仮初めの幸せ②

 俊は桐谷を見て、眩しそうに目を細める。 「桐谷先輩、昔からかっこよかったけど、今はもうモデルとか、芸能人レベルですね」 「俊もかわいさに磨きがかかったな」 「先輩、オレもう二十八ですよ? かわいいはないでしょう?」  ……自分のこと『僕』じゃなく、『オレ』っていうようになったんだな……。  桐谷は頭の片隅でそんなことを思いながら、言葉を続けた。 「幾つになっても、おまえはかわいいままだよ。瞳が大きくて、肌も綺麗だし」  桐谷は細く長い指を伸ばすと、そっと俊の肌に触れる。  ようやく桐谷に対する人見知りも解けてきたのか、俊も抵抗はしなかった。 「うわ。ほっぺた柔らかいなー。プニプニしてるじゃん」 「桐谷先輩っ……、くすぐったい……」  俊が口元をほころばせる。  ……こんなふうにしていると、なんだか中学生のあの頃に戻ったような気がしてくる。  十三年という年月も、凄惨な事件が俊を襲ったことも、なにもかもなかったかのような……。  俊のほうも、この時間が仮初めの平和であると知っていながら、今は桐谷と過ごすことを純粋に楽しんでいるみたいだ。  ……おまえのひどく傷ついた心をオレが癒せるものなら……。  笑うと途端に幼くなり、青年というよりも少年というほうが似合う、そんな彼を見つめながら、桐谷は心からそう願っていた。

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