13 / 72
第13話 仮初めの幸せ②
俊は桐谷を見て、眩しそうに目を細める。
「桐谷先輩、昔からかっこよかったけど、今はもうモデルとか、芸能人レベルですね」
「俊もかわいさに磨きがかかったな」
「先輩、オレもう二十八ですよ? かわいいはないでしょう?」
……自分のこと『僕』じゃなく、『オレ』っていうようになったんだな……。
桐谷は頭の片隅でそんなことを思いながら、言葉を続けた。
「幾つになっても、おまえはかわいいままだよ。瞳が大きくて、肌も綺麗だし」
桐谷は細く長い指を伸ばすと、そっと俊の肌に触れる。
ようやく桐谷に対する人見知りも解けてきたのか、俊も抵抗はしなかった。
「うわ。ほっぺた柔らかいなー。プニプニしてるじゃん」
「桐谷先輩っ……、くすぐったい……」
俊が口元をほころばせる。
……こんなふうにしていると、なんだか中学生のあの頃に戻ったような気がしてくる。
十三年という年月も、凄惨な事件が俊を襲ったことも、なにもかもなかったかのような……。
俊のほうも、この時間が仮初めの平和であると知っていながら、今は桐谷と過ごすことを純粋に楽しんでいるみたいだ。
……おまえのひどく傷ついた心をオレが癒せるものなら……。
笑うと途端に幼くなり、青年というよりも少年というほうが似合う、そんな彼を見つめながら、桐谷は心からそう願っていた。
ともだちにシェアしよう!