15 / 72
第15話 敵対②
「でもオレは、おまえが危険な場所へ行くのを放ってはおけない。……おまえを守りたいんだよ、俊」
「大きなお世話です。自分の身は自分で守ります」
俊は前髪で顔を隠すようにして、言い捨てると、
「オレ、帰ります」
やにわに立ち上がった。そしてズボンのポケットから財布を出すと、テーブルに千円札を二枚置いた。
「いいよ。オレが強引に連れてきたんだから、奢るよ」
桐谷は俊の出したお金を彼のほうへ押し戻す。
「いりません」
頑ななまでの拒絶はいっそ痛々しいほどだ。
「……じゃ、送って行くよ。今タクシー呼んでもらうから」
「いいです、タクシーくらい自分で拾えますから」
前髪で隠された表情と感情を押し殺した声は、桐谷の心をえぐるように苛む。
「桐谷先輩」
「ん?」
「もう二度とオレの前に姿を見せないでください」
「……それは約束できないな。オレがどれだけおまえのことを捜したと思う?」
「別に捜してなんて欲しくなかった」
「…………」
「二度と姿を見せないでください」
俊はもう一度そう繰り返すと、振り返ることなくその場を去って行った。右脚を少し引きずるようにして……。
一人残された桐谷は、グラスに残っていたウイスキーの水割りを一気に飲み干した。
……さすがにこたえたな。
彼にあからさまな拒絶を突き付けられて。
……俊……。
不意に涙が零れそうになって、桐谷は必死にそれをこらえた。
ともだちにシェアしよう!