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第17話 忘れられない
復讐鬼として生きると決めてからも、俊は一日足りとて桐谷のことを忘れたことはなかった。
常に神経を張りつめさせ、絶望感に苛まれる日々の中で、唯一、桐谷との思い出の中でだけ安らぎを感じていた。
彼と過ごした幸せな時間の記憶だけが、心のよりどころだったのだ。
けれども、それはあくまで思い出の中、夢の中だけのものであるはずだった。
なのに……。
運命はいつも俊を苦しめる。
よりによって刑事になった桐谷先輩と再会することになるなんて……。
「桐谷先輩……」
狭い、殺風景な部屋で俊は独り呟いた。
優しい笑顔も切れ長の綺麗な瞳も、中学の頃と変わっていなくて、俊の胸は切なく痛んだ。……長いあいだ忘れていた類の痛みだった。
『憶えていません、過去のことは』
『そうだよな……、ごめん……』
辛そうに目を伏せた桐谷の表情を思い出す。
……違う……、本当は違うのに……。
俊は両手で顔を覆い、かぶりを振った。
本当は憶えている。
事件のあと昏睡状態から目覚めた俊に、医師が教えてくれた。
『君が意識不明だったとき、毎日病院に通い詰めていた友だちがいたよ。北海道からきたとか言ってた、……桐谷くんだったかな。でも君はいつ意識を取り戻すか分からないし、彼のほうこそどんどん憔悴していくんで、とにかく君の意識が戻って面会が可能になったら連絡する約束をして、いったん帰ってもらったんだ。君の意識が戻ったことを知ったら、すごく喜ぶよ』
あのとき、俊は本当は桐谷に会いたくてたまらなかった。彼に縋りついて思いきり泣きたかった。
……すごく、会いたかったんだよ、僕。本当は。先輩。
俊の大きな瞳から涙が零れ落ちた。
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