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第18話 涙
でもね、桐谷先輩、それ以上に僕は怖かったんだ。
あの頃の僕は、自分に降りかかった不幸が先輩にまで及んでしまったらどうしようって、パニックになってしまって……。
だから逃げ出したんだ。先輩が来る前に。
医師と看護師の目をぬすんで、自由にならない体を引きずるようにして病院を抜け出し、タクシーを拾って……。
もしもあのとき、病院から抜け出すことに失敗し、先輩と会っていたなら、そのあとの僕の人生は変わっていたのだろうか。
独りぼっちの復讐鬼になることはなかったのかな……。
俊は涙に濡れた顔を上げると、ゆるゆると頭を横に振った。
……今更そんなことを考えてもしかたがない。時間は絶対に戻らないのだから。
俊は数年前、アンダーグラウンドの世界へ通じている岬という喫茶店を探し当てた。
金さえ出せば、どんなことでも調べてくれ、情報として売ってくれる。
ようやく家族を殺した犯人が分かるかもしれないのだ。
犯人を自らの手で殺そうとしている俊と、刑事の桐谷は、敵対する関係である。
だから……。
『もう二度とオレの前に姿を見せないでください』
ああ言う以外、俊には言葉がなかった。
でも、あの言葉を俊が口にしたとき、彼はひどく傷ついた表情を見せた。
「先輩……桐谷先輩……」
胸が痛い。
俊はもう何年も泣いたことがなかった。涙なんかもう枯れ果てたと思っていた。
それなのに、桐谷と再会した瞬間、俊はあふれる涙を抑えることができなかった。
「先輩……」
そして今も、ワンルームの狭い部屋で、俊は体を小さく丸めて子供のように泣きじゃくっていた。
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