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第19話 事件

 同じ頃、スナックに残された形となった桐谷は、しばらく一人で飲んでいたが、ふと思い立ち、新弥刀署の秋川を呼び出した。 「……秋川さん、俊はいったいいつから岬へ通ってるんですか?」 「うーん。そうだねぇ。岬はうちの所轄では有名だからね。何度も内偵はしているんだけど、少なくとも二年前にはもう俊くんの姿は目撃されていたみたいだよ」  秋川はビールに口をつけながら言った。 「岬がアンダーグラウンドの店だと、最初から知ってたんでしょうか?」 「うん。おそらくは、知ってて通い始めたんだと思う」  桐谷は暗澹たる気持ちになった。 「……十三年前の事件のあと、警察は俊に事情聴取できたんですか? 意識が戻ったあと、すぐに俊は病院を抜け出して、そのまま行方が分からなくなってしまいましたよね?」  あのとき結局、桐谷は俊には会えなかった。当時のことを思い出すと、苦い後悔が桐谷を責めたてる。 「うん。一度だけ話を聞いている。……この前、桐谷くんと事件の話をしたあと、オレもなんか気になって当時の資料を調べてみたんだけどね」  当時の俊への事情聴取により、警察は事件当日の安西家の様子を次のようにまとめていた。 (事件が起きた日、俊は風邪で学校を休んでおり、二階の自室のベッドで一日横になっていた。食欲もあまりなく、夕食はおかゆを少し食べただけで、市販の風邪薬を飲み、早々に眠ってしまった。  数時間後、父親の怒声となにかが倒れる音がして目を覚ました。続いて悲鳴と再びなにかが倒れるような音が聞こえてきたため、俊はおそるおそるベッドを抜け出し、階下の様子を見に行った。  すると、リビングで兄と姉が、キッチンで父親と母親が頭から血を流して倒れていた。  パニックに陥った俊は、それでも救急車を呼ぶため、廊下にある固定電話へ向かう。  そのとき背後に気配を感じ振り返ると、黒づくめの服装に帽子とマスクとサングラスで顔を隠した男が銃を構えて立っていた。そして次の瞬間背中にものすごい衝撃を受け、次に気が付いたときには病院のベッドの上だった)

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