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第20話 目的

 桐谷は秋川に聞いた。 「犯人は銃を五発撃ってますけど、銃声を聞いた住民はいなかったんでしょうか?」 「ああ。言い争うような声や悲鳴を聞いたと証言した人は何人かいたけど、銃声を聞いた人はいなかった。犯人はサイレンサー付きの銃を使用したと思われる」 「プロ、あるいはかなり銃を撃つことになれた人間と思われますね」 「ああ。だけど、俊くんの家族は皆、ごく真面目な一般市民で、どこをどう調べても、アンダーグラウンドの世界との繋がりは見つからなかった」  つまみの枝豆を食べながら、秋川が溜息をついた。しばし二人の刑事のあいだに陰鬱な沈黙が漂う。  その沈黙を破って、桐谷は訊ねた。 「秋川さん、岬で情報を買うにはそれなりのお金が必要なんでしょう?」 「そりゃまあ、売っている情報が後ろ暗いものだからな。少ない額の取引ではないだろうな」 「だとしたら、俊はそのお金をどうやって用意するんでしょう? 彼は今定職についていないでしょう?」  訪れたマンションも質素なところだった。俊は今、どうやって生計を立てているんだろう? 「……事件後、俊くんにはかなりの額の保険金がおりたようでね」 「生命保険……」  桐谷はなんともやりきれない気持ちになった。 「亡くなった御家族も、俊くんが危険が場所へ足を踏み入れることなんて、望んでいないだろうに」 「あいつは……俊は、岬で情報を買って犯人を突き止めて、どうするつもりなんでしょうね……」 「それは……」  秋川が言いかけて詰まる。答は分かっていても、きっと口にだして言いたくないのだろう。  桐谷が秋川の代わりに答を口にした。 「俊は自分の手で犯人に復讐するつもりなんでしょうね」  ……犯人を自らの手で殺すため、俊は岬へ出入りしている……、桐谷はそう確信していた。

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