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第21話 事件の背景

 岬は新弥刀町の繁華街の一角にある。  夜の九時を過ぎると、岬の扉には『CLOSED』のプレートがかけられ、照明も最小限に落とされる。だが、それからの時間こそが岬の本当の顔である。  俊はカウンター席に座り、マスターのオオサキと向かい合っていた。他に客はいない。  注文したコーヒーをブラックで飲むと、俊はその苦さに顔をしかめた。  本当なら砂糖もミルクたっぷり入れたいところだ。  もっと言えば、コーヒーよりもココアやキャラメル・ラテのほうが好きなのだが、ここではそんなことは言いたくもない。 「頼んでおいたことは、どこまで分かった?」  俊はカップをソーサーに戻すと、オオサキに訊ねた。  岬はいつも犯罪者とその予備軍たちの依頼があとを絶たず、俊は三年通い続けてようやくオオサキに依頼をすることができたのだ。  オオサキは鋭い目で俊を一瞥すると、低い声で話し出した。 「おまえの家族を殺したのはプロで、そのプロに殺害を依頼したのは、当時おまえの父親が勤めていた会社の代表と専務だ。父親は会社にとって致命的な秘密を偶然知ってしまったんだろう。それを口外されることを恐れて、あんな凶行に出たわけだ」 「そんな……そんなことで……。それに父さんはそんな重大な秘密を知ってしまったような素振りなんかなかった……」 「あるいは、おまえの父親はそんな秘密など知らなかったのかもしれないな。すべては代表と専務の思い込みで。結局代表たちは小心者で、必要以上に疑心暗鬼になってしまっていたんだろう。その秘密とやらが、会社の存続も危うくするような重大な機密事項だったということだ」 「…………」

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