22 / 72
第22話 事件の背景②
確かに俊の父親は人一倍正義感が強い人だったから、例えば会社の不正などの秘密を知ってしまったら、なんらかの行動は起こしていたかもしれない。
でも、当時の父親にはそんな屈託があったようには思えなかった。
だとしたら、俊の家族はまったくの見当違いで殺されたことになる。
……そんなの……あんまりだ……。
「……その代表と専務とやらは今どこでなにをしてるんだ?」
俊は声を振り絞って聞いた。
「秘密が守られたおかげか、会社はその後、何度か名前を変え、現在はかなりの成長をとげていて、そこの重役におさまっている」
「…………」
俊は強く唇を噛みしめた。
オオサキが感情のない目で俊を見おろす。
「で、あとはなにが知りたいんだ? 会社の秘密とやらか?」
「会社の秘密なんかには興味はない。……殺しを依頼した二人の自宅と大まかな一日のスケジュール、それから、そいつらが雇ったプロ。そいつを突き止めてくれ」
「代表と専務の自宅やスケジュールはすぐに調べがつくが、プロを特定するのは少し時間がかかるぞ」
「いいさ。十三年も待ったんだ。とにかく突き止めてくれ」
俊は愛らしい唇に不似合いな、自嘲めいた笑みを浮かべる。
「……余計なお世話かもしれないが、おまえに代表、専務、殺しのプロ。三人の男を殺せるとは思えないがな」
ピクリとも表情を動かすことなく、オオコシが言い放った。
俊は目の前の男を睨みつけた。
「確かに余計なお世話だよ。オレは何年かかっても、たとえ自分が死ぬことになっても絶対にそいつらを殺す……!」
「…………」
オオコシは俊のその言葉にはなにも返さず、カウンターテーブルの上に小さなメモを置いた。
「金さえ出せば、銃でも違法ナイフでも売ってくれる闇サイトのアドレスだ。……また情報が入ったら連絡する」
そう言うとオオコシは奥へと引っ込んだ。
俊はメモをポケットに入れると、結局一口しか飲まなかったコーヒーを残して岬をあとにした。
ともだちにシェアしよう!