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第23話 復讐心と恋心の狭間で

 コンビニでインスタントラーメンやカップめん、おにぎりなど数日分の食料を調達すると、俊は自宅マンションへと続く緩やかな坂道を、右脚を引きずって歩く。  リハビリにはかなり時間をかけたが、結局、右脚はもとには戻らなかった。それでもこうして歩けるだけ、幸せと思うべきだろう。  今日の昼、オオコシから電話があり、俊の家族の殺害を依頼した代表と専務の現住所とスケジュールの調べがついたと言われたが、俊はあえてまだ聞かなかった。  実行犯の正体もつかめたとき、すべてのことを聞こうと思っている。……さもなければ、自分が先走った行動に出てしまいそうだったからだ。  失敗は許されない。犯行を依頼した奴ら、実際に犯行を行った奴、全員の居所が分かったあとに綿密な計画を立てる必要がある。  オオコシに忠告されるまでもなく、俊一人でプロを含む三人の男に復讐をしようなどというのは、とてつもなく無謀なことと分かっている。  それでも一夜で俊から家族を奪った人間たちを、どうしても許すことはできなかった。    緩やかな坂道が階段へ変わるところまで来たとき、少し離れた場所に立つ人物が俊の目に入った。  長身のスリムなシルエット。……俊にはそれが誰か一瞬で分かった。  その人物へ向かい歩いていく俊の気持ちは、ひどくざわめき、胸の鼓動はどんどん速くなっていく。  この前、自分から彼を拒絶する言葉を言っておきながら、俊は彼がそこにいることに……自分に会いに来てくれたことに、確かにうれしさを感じていた。  心が甘く疼く。  十三年の月日で俊が失くしてしまった感情を、彼はいとも簡単に思い出させてしまう。

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