25 / 72
第25話 傷心
傷つけてしまった……桐谷先輩を、こんなに優しい人を……。
桐谷を遠ざけようとして、わざとぶつけた言葉だったのに、俊はもう後悔していた。
俊の放った凶器のような言葉は、桐谷の心を砕き、その破片が俊に跳ね返って、俊自身の心をも傷つける結果となった。
「……ごめんな、俊。でも、オレは……」
そう言ったまま桐谷は黙ってしまった。切れ長の綺麗な瞳に悲しい色が浮かんでいる。
重苦しい空気と気まずい沈黙が二人を包む。
そのとき、桐谷のスマートホンが沈黙を破るように鳴り響いた。彼はスーツの胸ポケットからスマートホンを取り出すと、
「――はい。はい、分かりました。すぐに向かいます」
短く応答し、通話を終える。
桐谷は俊を見つめて、言葉を紡いだ。
「仕事が入ったから、今夜はこれで帰るよ。……でもまた会いに来るから。俊にとっては迷惑なだけかもしれないけど、オレはおまえが大切だから」
ひどい言葉を投げつけたというのに、桐谷はまだ優しい微笑みと言葉を俊に与えてくれる。
そして、彼は一つの紙袋を俊のほうへ差し出した。
「一人暮らしを始めてから、けっこう料理とかするようになってさ」
そんなふうに言うと、俊の持っているコンビニの袋に目をやる。
「インスタントやカップめんが悪いとは一概には言わないけど、そういうのばっかりだとやっぱり栄養が偏ってしまうよ。そんな壊れそうな細い体をして……心配だよ。……それじゃ」
桐谷は少し強引に俊の手に紙袋を握らせると、足早に去って行った。
ポツンと一人取り残された俊は、桐谷の後ろ姿が闇にまぎれて見えなくなっても、その場に立ち尽くしていた。
ともだちにシェアしよう!