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第25話 傷心

 傷つけてしまった……桐谷先輩を、こんなに優しい人を……。  桐谷を遠ざけようとして、わざとぶつけた言葉だったのに、俊はもう後悔していた。  俊の放った凶器のような言葉は、桐谷の心を砕き、その破片が俊に跳ね返って、俊自身の心をも傷つける結果となった。 「……ごめんな、俊。でも、オレは……」  そう言ったまま桐谷は黙ってしまった。切れ長の綺麗な瞳に悲しい色が浮かんでいる。  重苦しい空気と気まずい沈黙が二人を包む。  そのとき、桐谷のスマートホンが沈黙を破るように鳴り響いた。彼はスーツの胸ポケットからスマートホンを取り出すと、 「――はい。はい、分かりました。すぐに向かいます」  短く応答し、通話を終える。  桐谷は俊を見つめて、言葉を紡いだ。 「仕事が入ったから、今夜はこれで帰るよ。……でもまた会いに来るから。俊にとっては迷惑なだけかもしれないけど、オレはおまえが大切だから」  ひどい言葉を投げつけたというのに、桐谷はまだ優しい微笑みと言葉を俊に与えてくれる。  そして、彼は一つの紙袋を俊のほうへ差し出した。 「一人暮らしを始めてから、けっこう料理とかするようになってさ」  そんなふうに言うと、俊の持っているコンビニの袋に目をやる。 「インスタントやカップめんが悪いとは一概には言わないけど、そういうのばっかりだとやっぱり栄養が偏ってしまうよ。そんな壊れそうな細い体をして……心配だよ。……それじゃ」  桐谷は少し強引に俊の手に紙袋を握らせると、足早に去って行った。  ポツンと一人取り残された俊は、桐谷の後ろ姿が闇にまぎれて見えなくなっても、その場に立ち尽くしていた。

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