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第26話 優しい人……
『もう会いたくないって言ってるでしょう!? 迷惑なんです!』
あの言葉を投げつけた瞬間の、桐谷のひどく傷ついた表情が忘れらなかった。
……先輩のあんな悲しそうな顔、初めて見た。
大好きだった先輩を……本当は今でも大好きな先輩を……傷つけてしまった。
俊の瞳から涙が零れ落ちた。
桐谷と再会してから俊の涙腺はおかしくなってしまったようで、涙は止まることを知らぬように頬を伝い続ける。
マンションへと向かう階段の途中で、俊は声を殺して泣き続けた。
すっかり泣き疲れてマンションの自室に帰りついた俊は、桐谷が持たせてくれた紙袋を見た。
紙袋の中には、十五センチくらいの正方形のタッパーが五つ入っていた。
それぞれのタッパーには桐谷の手作りと思われる料理が、ぎっしりと詰まっていた。
野菜をたくさん入れた肉じゃが、鶏の唐揚げ、卵焼きとウインナー、野菜炒め、ビーフシチュー、どれも俊の好きなものばかりだ。
もうずいぶん長いあいだ、こういったものは口にしていない。
必要最低限の家具しかない殺風景な部屋で、俊はぺたんと床に座り込み、おいしそうな料理の数々を見おろしていた。
「桐谷先輩……」
ようやく止まった涙がまた溢れてくる。
「先輩……」
胸が痛んだ。
切なくて、たまらなかった。
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