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第27話 手作りの料理
十三年前、病院から抜け出した俊は、東京から遠く離れた土地で、リハビリをしながら通信制の高校教育を学んだ。そしてその後、某国立大学法学部に合格した。
大学在学中、いつもひと気のない教室や、裏庭のベンチで、一人コンビニで買ったパンやおにぎりばかり食べていたら、何人かの女の子たちが手作りのお弁当を作って持ってきてくれた。
でも俊は決してそれを受け取りはしなかったし、強引に押し付けられたものは、中を見ることもなく、ゴミ箱へ捨てた。
そんなことを繰り返しているうちに、俊がお弁当をゴミ箱へ捨てているのを目撃した人間がいたのだろう。女子学生たちからあからさまな非難を受けた。
もともと友だちさえ作ろうとしなかった俊は、大学の四年間、完全に孤立した。それでも何の痛痒も感じなかった。……そもそもが楽しいキャンパスライフを送ろうなどとは微塵も思っていなかったからだ。
大学というのは縦の繋がり、横の繋がりと、人脈が広がっている。
俊が欲しかったのは、アンダーグラウンドに通じている場所を探しだすために必要な情報とツテだけだった。……そして岬という店の存在を知ったのだ。
大学時代、たくさんの手作りのお弁当を捨てた。なんの躊躇いもなく。
……でも。
パタパタッと大粒の涙がタッパーの上に落ちる。
桐谷が作ってくれた料理の数々を捨てることは、どうしてもできない。
俊は卵焼きとウインナーが入ったタッパーを開け、紙袋の中に一緒に入っていた割り箸で一口食べてみた。
……おいしい。それに懐かしい……。
桐谷が作った料理は、俊がずいぶん長いあいだ忘れていた幸せの味がした。
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