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第28話 内偵

 仕事が休みの日の午後、桐谷は岬へ足を運んだ。  桐谷はトレーナーとジャケット、ジーンズと言った服装で、一見さんを装っていたが、店に入った途端、カウンターの中にいるマスター……秋川によるとオオサキという名らしい……が、鋭い一瞥を寄越してきた。  警察組織で幹部まで上り詰めただけあって、眼光鋭く、いかにも勘が働きそうな感じだ。  桐谷が刑事だということにも気づいたかもしれない。  もし、俊と鉢合わせになったらどうしようと、心配していたが、彼の姿は見当たらなかった。  店内はそれほど広くなく、カウンター席が五つと、テーブル席が三つあるだけだ。  窓際にある二人掛けのテーブル席に座ると、ウエイトレスがお水とおしぼりを運んできた。  コーヒーを頼むと、ウエイトレスは桐谷にあからさまな色目を寄越してから立ち去った。  桐谷は小さく溜息をつくと店内を見渡した。  客は桐谷を入れて五人だ。  カウンター席にはサラリーマン風の中年男と、髪を金髪に染め、ピアスを幾つもつけたチャラそうな若い男が座っている。  一番奥の四人掛けのテーブル席では、堅気には見えない男二人が向かい合って座り、なにやら相談中だ。  ベージュで統一された店内は、良く言えば落ち着いた雰囲気だが、絵の一枚も飾られていないし、BGMもない。なんといっても空気がどこか荒んでいる。とてもじゃないが、一息ついてくつろげる空間ではなかった。  ……なにも知らないで普通の喫茶店と思って入ってきた客は引くだろうな。  そんなことを考えながら、なにげなくメニューを開く。  意外にもメニューは豊富で、ピラフなどの軽食から、プリン、チョコレートパフェまである。  プリンとかパフェとかってほんとにあるのかよ? なんか薬でも混ぜ込まれてそうだな。

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