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第29話 内偵②

 本当、胡散臭いなと心の中でぼやいていると、先ほどのウエイトレスがコーヒーを運んできた。  ウエイトレスは去り際に桐谷の太腿を撫でて行き、またもや媚をたっぷり含んだ流し目を送られた。  げんなりとした気持ちにさせられたが、意外にもコーヒーは香りも良くおいしい。  桐谷がコーヒーを半分ほど飲み終えたとき、カウンターに座っていたサラリーマン風の中年男が、「ごちそうさん」と言って、テーブルに金を置いて出て行った。  ウエイトレスが男の背中に、「ありがとうございましたー」となおざりに声をかける。  カウンター席に一人残ったチャラ男は、桐谷の席からだとやや斜めの横顔しか見えないが、耳は勿論、唇にもピアスをしていた。  チャラ男の地声が大きいのか、店内が静かすぎるせいか、オオサキと話をしている内容がはっきりと聞こえてくる。  家が超金持ちで、車は外車ばかり三台持っていると滔々と話している。  それを聞くともなしに聞きながら桐谷は残ったコーヒーに口をつけた。  チャラ男は自慢話を終えると、今度はオオサキへ頼みごとを始めた。 「なー、マスターさー。あのかわいこちゃんの個人情報、オレに売ってくれよー」 「……あれは男だぞ。おまえはそっちの気があったのか?」  オオサキの低い声はそれほど大きな声ではないのに、桐谷のほうまではっきりと聞こえた。 「あれだけの容姿端麗なら、もう性別なんか関係ないよ。あの子に目をつけている野郎、他にもたくさんいるって聞いてるし。金ならいくらでも出すから、あの子の個人情報はオレに売ってくれよな。頼むよ、マスター」  チャラ男はオオサキに向かって拝むように手を合わせている。  桐谷はすごく厭な気持ちがした。不吉な胸騒ぎを感じる。

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