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第34話 先輩命令②

「……桐谷先輩」 「ん?」 「前にも言ったと思いますけど、オレ、刑事って大嫌いなんです」  幸せな夢に流されてしまわないように、俊はそう言って顔をしかめてみせたが、ミラーの中の桐谷の瞳は優しいままだ。 「オレは俊といるときは、刑事である前に、バスケ部の先輩だから」  桐谷の言葉を聞いて、俊の心に中学時代の思い出が一気に押し寄せてくる。  切なさで息が苦しいほどだった。 「俊」 「……なんですか?」 「おまえがどうしても、オレが刑事なのが嫌だって言うのなら、オレは刑事を辞めてもいいって思ってる」 「えっ……」  俊はさすがに驚き、絶句してしまった。  唖然とする俊に、桐谷は話を続ける。 「オレなりにいろいろ思うところがあって、この仕事に就いたわけだけど、崇高な理想に燃えてまではいないし。なによりおまえに嫌われちゃったら、本末転倒って感じもするしな。どんな仕事でも真面目にがんばれば、食っていくくらいはなんとかなると思う。周りからもよくホストのほうが向いてるんじゃないかなんて言われるしね。……っていっても、ホストって仕事はかなりキツイ仕事なんだけどね」 「桐谷先輩、もしかしてホストしていたことあるんですか?」  思わず聞いてしまった俊に、桐谷は笑った。 「ないけど。聞き込みとかでね、ホストの人にはよく会うんだよ。彼らの話を聞いてると、ほんと大変な仕事だと思って……着いたよ、俊。おつかれ」 「ここ、どこですか?」  俊は車から降りると周りを見渡して聞いた。 「オレの自宅マンション。ほら俊、入り口はあっちだから」  桐谷は俊の腕をつかむと、通りに面しているエントランスへと向かった。

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