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第47話 優しさ
時計の傍にメモと鍵が置いてあるのに気づいた。
メモには、桐谷の筆跡で、俊へのメッセージが書かれていた。
〈おはよう。俊。
体は大丈夫? オレは仕事に出かけます。
キッチンのテーブルにオムライスを作って置いてあるので、食欲がなくても食べること。
バスとトイレは、ダイニングの左側にあるから。
ずっとここにいて欲しいのが本音なんだけど、もしいったん自宅へ戻るのなら、この鍵を使って戸締りを頼みます。
この鍵は俊用に作ったものなので、そのまま持っていて。
あと、タクシー会社の電話番号も一応、記しときます。
03-3XXX-XXXX 桐谷 〉
鍵には小さな猫のキーホルダーがついていた。
メモの言葉にも鍵にも、桐谷の優しさが溢れている。
「桐谷先輩……」
胸が甘い切なさに締め付けられるようだった。
ふらつく足でベッドから降りると、カーペットの上にきれいにたたまれたクリーム色のトレーナーが置いてあった。昨夜、桐谷が引き裂いてしまったシャツの代わりに用意してくれたのだろう。
桐谷のものだろうトレーナーは、俊には大きくて、まるで彼に包まれているような気持ちになった。
ダイニングキッチンへ行くと、メモにあった通り、ラップで包まれたオムライスがテーブルに乗っていた。
そこにもメモがあり、
〈電子レンジで温めて食べて。飲み物は冷蔵庫にあるものを適当に選んでください〉
そう書かれてあった。
俊はオムライスを温め、冷蔵庫からミネラルウオーターをもらうと、一緒に置いてあったスプーンで一口食べる。
桐谷が作ってくれたオムライスは、やはりとてもおいしくて、ずっとこらえていた涙がとうとうパタパタッとテーブルに落ちた。
「……っ……」
涙を手の甲で拭う。
先輩の料理はずるいと思う。
だって、幸せの味がするから……。
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