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第48話 思い人

「今日も俊からの連絡はなしか……」  桐谷はスマートホンをリビングのテーブルに放り投げると、ソファに体を投げ出した。  桐谷が俊を抱いた夜から一週間が経っていた。明らかに避けられているとしか考えられない。  ……まあ、しかたないと言えばしかたないんだけど。強姦の一歩手前のようなことを俊にしたのだから。  初めて結ばれた夜、俊が気を失うようにして眠ってしまったあと、桐谷は彼の体の汗や飛び散った愛液を暖かいタオルで拭ってやり、奥深くに放った自分の精液もきれいに拭った。  抱いているときには気づかなかったけれども、俊の背中には十三年前に受けた銃弾の手術の跡が残っていた。  シミひとつない綺麗な肌に残された傷跡は、とても痛々しかった。  一生消えることのない傷跡とともに俊は、復讐だけを心に誓って生きてきたんだろう。  十三年のときを経てようやく俊を見つけ出すことができた。……でもやっと再会できた思い人は、自らの手で犯人を捜しだし、殺そうとまで思い詰めていて……。  彼をそんな破滅へと続く道へ進ませるわけにはいかない。復讐鬼となることは、とりもなおさず俊自身が犯罪者となってしまうということだ。いや、それ以前に復讐が成功するとは思えない。   結局どう転んでも待っているのは破滅であり、地獄だ。  だからなんとしても俊の心を事件の呪縛から解きたかったのだ。そのために強引に彼の体を奪った。……でもそれだけが理由ではない。  桐谷はネクタイを緩めながら思う。  オレは俊が好きで……誰よりも愛しているから……あいつが欲しかったんだ……。

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