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第50話 躊躇
同じ頃、俊は眠ってはおらず、岬の扉の前に立っていた。
オオサキからまた電話があったのだ。
この前はドタキャンしてしまったので、もしまたキャンセルすれば、オオサキはもう二度と俊のために時間をとってはくれないだろう。それはすなわち、俊の家族を殺害した犯人たちの詳細を知る機会が失われてしまうことを意味する。
……しかし、俊は岬の中へ入るのを躊躇っていた。理由は勿論、桐谷の存在である。
彼に抱かれた翌日、俊は結局、自分のマンションへ戻った。
桐谷が俊に待っていて欲しいと願っていることは、伝わってきたし、俊もそのまま彼の帰りを待っていたかった……本当は。
でもやはりできなかった。気持ちが激しく揺れ動き、整理できていない状態に陥ってしまっていたから。
復讐鬼として生きる。例え自分が犯罪者になろうとも。こちらの命が奪われる可能性が大きくても。
桐谷に再会するまではその気持ちが揺らいだことなど決してなかった。なのに。
……初めて桐谷と結ばれてから一週間が過ぎたが、俊は彼に連絡をしていない。
桐谷のほうは俊の電話番号を知らないから、向こうからは連絡の取りようがないだろう。
彼が俊の自宅マンションへ訪ねてくることもなかった。
仕事が忙しいか、俊からの連絡を待っているかのどちらかだろう。
たとえ訪ねてきても、今度ばかりは会うつもりはなかった。
桐谷の顔を見て、声を聞いたら、もうだめだと思う。
彼とずっと一緒にいたい……そんな思いが止められなくなってしまうから。
長い長い時間をかけて見つけ出した、復讐への足掛かりとなる岬……ようやく巡ってきた機会を逃すことは、できない。
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