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第53話 愛する人の元へ②
「俊、今どの辺りにいるんだ? 迎えに行くから。近くになにがある?」
落ち着こうとしても声が焦ってしまう桐谷。
《えっと、道の左側に小さなコーポがあります。コーポ・オオトラだって。すごいネーミングセンスですね》
俊がくすぐったそうな笑い声を上げる。
《右側には外国の映画に出てきそうな真っ白な一戸建てがあって……あれ? ここ喫茶店かな? ……あ、喫茶店です。フラワーっていう……》
「ああわかった。その道を真っ直ぐ進むと、小さな公園に出ると思うんだけど……」
桐谷が言うと、俊が歩いている気配がし、ほどなく弾んだ声が返ってきた。
《あ、ありました。象の滑り台がある……あそこですね》
「そう。その公園のベンチにでも座って待ってて。すぐに行くから」
桐谷はいったん通話を終えると、スマートホンをズボンのポケットに突っ込み、急いで部屋を飛び出した。
公園は、象の滑り台が真ん中に配置され、それを囲むようにしてカラフルな色のブランコや小型のジャングルジムなどの遊具が置かれていた。
ブランコの傍にベンチがあったので、俊はそちらへ向かって歩きだす。
少し離れたところに街灯があり、その暖かな光は充分にベンチにまで届いている。桐谷が来たら、すぐに俊を見つけてくれるだろう。
象の滑り台の横を通り抜けたとき、一瞬、強い風が吹いた。
静寂を破るように公園の木々がざわめく。俊の長めの前髪がサラサラと風に流される。
不意に背後に人の気配を感じた。
俊が振り向くと、いつの間にそこいたのか、見知らぬ若い男が立っていた。
金色に染めた髪に、濁った目、唇と耳につけたたくさんのピアスが街灯の光を受けて鈍く光っている。
「よお、安西俊」
その男がニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて俊の名前を呼んだ。
「なんで、オレの名前を……? おまえいったい誰だよ!?」
俊の警戒心が一気に高まり、きつい瞳で男を睨みつけた。
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